2013年 10月 17日
8月にタイの国際トラベルフェア(TITF)を視察した話を以前書きましたが、そのときぼくはHISバンコクの支店長にインタビューしています。 その内容については、後日刊行される書籍の中で記事にしている関係で、まだブログには出せないのですが、同社の企業戦略に関わらない、タイの消費者の特性に関する部分については、興味深い指摘が多く含まれていたので、ここに公開したいと思います。 お話いただいたのは、中村謙志支店長です。日々ローカル客と向き合いながら営業活動に取り組んでいる方の貴重な提言です。 ――先日、バンコクの旗艦店であるトラベルワンダーランドを訪ねましたが、日本と同じような店舗で、旅行商品のパンフレットがたくさん置かれていましたね。 「タイでは、日本のような旅行パンフレットやチラシはそれほど流通していません。しかし、タイ人はパンフレットを読むのが大好きです」 ――市内を走る高架鉄道のBTSでも地下鉄でも、東京と同じように乗客はみんなスマホに夢中。いまさら紙のパンフレットなんですか。 「確かに、いまの時代、電子化すべきだと思いがちですが、やはり紙は有効なんです。日本と違ってタイは海外旅行の情報が紙の時代を経ずに、いきなり電子化から始まった。だから、ツアーの内容がぎっしり書き込まれたパンフレットをみると、手に取りたくなるところがあるようです。なにしろこちらでつくるツアーパンフレットのアイテナリー(旅行日程の説明)はすごく細かい。日本のパンフレットより詳しいくらいです」 ――どんなことが書かれているのですか。 「どこに行って、何を観て、何を食べて、すべて書いてあります。観光地についても、バスを降りて歩くのか、車窓から眺めるだけなのか。とくに食事の内容は重要です。どんな料理が食べられるのか、詳しく書かないとタイのお客さまは納得しないんです」 この話を聞きながら、紙に書かれた内容を信用せず、口コミに頼ろうとする中国の消費者との違いにあらためて気が付きました。中国の消費者は、いまや過去となった社会主義時代の経験からくるのか、もともと他人を信じない社会なのか、紙に書かれたものは最初から疑ってかかるところがあります(出版物は基本的にお上が検閲したもので、情報管理されている社会だったからです。これが彼らの著作権意識の低さにもつながっています)。 だから、日本の旅行会社がつくりあげてきたパッケージツアーを軸としたビジネスモデル(そのベースは年2回改訂され、新商品が掲載されるパンフレットです)がまったく通用しません。紙(情報誌)の時代を経ずに、いきなりネット時代に突入したところは、タイも中国も同じですが、基本的に(いい意味で)パンフレットに書かれた内容を疑うことを知らない(考えてもみない)のが、日本とタイの消費者に共通するところだといえそうです。だから、タイではビジネスがやりやすいといわれるのでしょう。 ――タイのお客さんは日本旅行に何を望んでいるのでしょうか? 「これについては、私は日本人ですから、どんなに話を聞いても本当のところはわかりません。所詮推測にすぎない。だから、実際のツアーにもなるべく同行するようにしています。タイのお客さまが日本に来て、何を観て喜んでいるのか。何をおいしいというのか。どんな景色をバックに写真を撮りたがるのか……。勘が鈍るのがいちばんまずい。お客さまにも自分のことを明かすんです。お客さまもトップの人間が一緒だということで、安心なさるみたいです」 ――ツアー客の方とどんなお話をされるのですか。 「何か感じたこと、困ったことがあったら話してくださいね、というと、これがよかった。これが気に入らない。けっこう話してくださいます。 なかでも、日本の関係者にいちばんわかってほしいのは、タイ人はタバコが嫌いということです。意外に知られていないことかもしれませんが、彼らは基本的にタバコを吸いません。一部の上流階級が吸うことはありますが。ところが、日本のホテルの部屋はとにかくタバコ臭い。タイ人はそう感じています。 だから、ホテルのアサイン(予約手配)は禁煙ルームがmustです。タバコが吸えるレストランも選びません。隣にいる日本人にタバコを吸われるのが嫌でしょうがない。お酒もあまり飲みません。夕食でビールを飲む人も、そんなにいません。皆さん、おとなしく食事をする。大声を出したりしない。中国や韓国の人たちとは違うんです。海外に出かけてまで、飲んで騒いでコミュニケーションするということはないんです。 日本人はアジア人ということで、一括りしてしまいがちですが、もしタイのマーケットを本格的にやりたいなら、それを知って対応していただきたいですね。タバコの問題は、タイ人の受け入れにとってとても大切なことです」 ――それは知りませんでした。確かに、タイのレストランでタバコを吸っている人を見ることはほとんどありませんね。 「彼らは世界における自分たちの国や立場のことをよく自覚しています。世界の中心だなんて思っていない。控えめなんです。しかし、だからといって物事にあまりこだわらない(いい意味で鷹揚な)中国客と同じように扱われると傷つきます。 温泉旅館に泊まりたいというリクエストが多いですが、タイ人はシャイなので、人前で裸になりたがりません。最近は、慣れてきて共同浴場に裸で入る人も増えてきましたが、基本はバス付の部屋を好みます。共同風呂は足だけちょこっと浸かるか、人がいない時間を見計らってこっそり入るとか。タイは中国や韓国のようなサウナがある社会ではないんです」 ――タイの人たちはとても繊細なんですね。食事についてはどうですか。 「これがいちばん重要です。タイ人は日本食が大好きで、滞在中すべて日本食でも構いません。よく日本人の海外ツアーだと日本食を入れたりしますが、タイ料理店に案内することはまずありません。 気をつけないといけないのは、生ものです。タイにも日本の寿司屋は増えていますが、出回っているネタは限られています。せいぜいサーモンやマグロ、イカ、しめ鯖。それ以外の、たとえば生だこや白身の魚は食べたがりません。初めて日本ツアーに参加したグループなどでは、おすしのランチのほとんどを残すということもありました。こちらがいいと思って高級なネタを出しても、それがいいとは限らない」 ――だとしたら、事前に食事の中身はレストランと密に打ち合わせておかないと、お互い嫌な気分になってしまいますね。 「それからタイ人の中には牛肉はダメだという人がまだ多い。タイでは水牛が耕作に使われ、食べるものではないという観念があるようです。そのせいか、おいしい牛肉は市場に出回っていません。ところが、最近『和牛』はおいしい、ということになってきた。ビーフと『和牛』は別物なんです(笑)」 ――観光地ではどんな様子なんですか? 「とにかく写真を撮るのが好きですね。お寺と神社の違いがどこまでわかっているのかわかりませんが、日本は自分たちと同じ仏教の国だと思っているので、熱心にお参りしています。タイの仏像は黄金色で日本とはまったく違いますが、法隆寺のような古い寺院に行くと、歴史の重みを感じるようです。アユタヤやスコタイに比べると、法隆寺はずっと古いことに気づかされますからね。 そして、周辺のお土産屋さんでいろいろ買いまくります。お菓子だけではなく、記念品のようなものも買っていかれます」 ――同じ仏教の国ということで、鎌倉や奈良などが定番の訪問地になるのは理解できますが、それ以外にはどんなところに行きたいのでしょうか。 「テレビの旅番組の影響が大きいと思います。いい例が、白川郷や高山です。あと富良野のラベンダー、岩国の錦帯橋、瀬戸内海のしまなみ街道、指宿温泉の砂蒸し風呂。これらはすべて旅番組で火がつきました。いきなり局地的な人気が起こるんです」 ――だとすれば、タイ人の誘客にとってメディア戦略は有効ですね。ビザも不要となったことで、今後は個人旅行者も増えていくのでしょうね。 「確かに、個人客は増えるでしょう。ただし、ビザの障害がないから好きなところに行けるといっても、自分たちはタイ語しかわからないという人も多いので、ツアー客も増えていくと思います。団体ツアーの需要は、母国語の強い(=英語が通じない)国には残ります。日本はまさにそうですから」 タイの訪日旅行市場について、これまでぼくは多くの方に話を聞いてきましたが、ローカルの消費者にいちばん近い場所にいる方でなければわからないことはたくさんあります。それにしても、タバコの話は盲点でした。 ちなみに、HISタイについては、以下を参照。 「HISタイの訪日旅行の取り組みは要注目です」 「HIS、世界企業へ離陸 東南アジアで消費者開拓」【2013年上半期④HIS】
by sanyo-kansatu
| 2013-10-17 20:18
| “参与観察”日誌
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