人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2013年 11月 17日

これが本場中国の「文革レストラン」です

東京・池袋に10月下旬、オープンした「文革レストラン」を訪ねたことを前回報告したので、今回は本場中国の「文革レストラン」を紹介することにしましょう。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10162247.jpg

とはいっても、前回説明したように、そもそも中国における「文革レストラン」の流行はすでに終わっており、閉店した店も多いのです。最盛期は、場所にもよりますが、北京や上海で2000年代前半、地方に行くと2000年代後半だったと思います。

今回紹介するのは、大連にかつてあった『東方紅風味酒楼』です。2007年12月にオープンしましたが、現在は閉店しています。ぼくがその店を訪ねたのは、08年5月下旬のことです。何よりそこで観た「文革歌謡ショー」が印象に残っています。以下、レストランの内装や一連のショーをお見せしようと思います。

写真は佐藤憲一さんです。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10171336.jpg

まずレストランの外観はこんな感じです。場所は、大連市中山区中山広場万達大廈の西側にありました。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10173510.jpg

店内です。客は中高年がほとんど。白酒とノスタルジーがこの店の売りです。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10175114.jpg

壁には文革時代のポスターがたくさん貼られています。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_1018741.jpg

厨房も一部公開していて、そこには東北地方の料理(東北菜)が並んでいます。煮物が多いです。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10182224.jpg

毛沢東の好物だった紅焼肉もあります。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10183920.jpg

料理はざっとこんな感じ。おそらく当時はこんなにふんだんに肉を使った料理なんて口にできなかったのでしょうが、中国も飽食の時代です。いまこうして豊かさを手にしているのですから、当時はどんなに貧しくても、それは思い出というものです。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10185888.jpg

彼はこれから観る「文革歌謡ショー」の広報係です。日本人が来店したというので、ちょっと緊張した面持ちです。きびきびとした動きで、当時の紅衛兵を演じているのでしょうが、もちろんその時代に彼は生まれていません。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10192524.jpg

さて、ショーが始まりました。舞台の中央には毛沢東の肖像画が飾られています。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_1019438.jpg
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10195998.jpg

前半は、歌と舞踊のショーです。いまや懐かしい紅衛兵の姿に扮した劇団員たちは、大音量のスピーカーから流れる当時の流行歌に合わせて熱唱します。

※【動画あり】中国文革レストラン(大連)のショーにて(歌と踊りと文革世代の観客たち 2008年5月
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10202247.jpg

ドラムやシンセサイザー、そして横笛や胡弓の演奏者もいます。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_1021777.jpg

客にマイクを向けて一緒に歌おうとステージを降りて、呼びかけます。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10204295.jpg

大きな紅旗を翻しながら、派手なパフォーマンスを繰り広げます。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10213483.jpg
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10214534.jpg

前半のショーが終了すると、劇団員たちは観客の座るテーブルを周回し始めます。客の中には、劇団員に握手を求める人もいます。当時を知らない若者がこのように演じていることに対して、中高年の観客たちはどんな思いを抱いているのか。それとも、今日ではまったく否定されてしまった文革時代にこうして光を当ててくれたことに感激しているとでもいうのか。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_1022455.jpg
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10221284.jpg

幕間には、中国絵画のオークションなども行われます。50元払って花輪を買って、劇団員の首にかけるのもお約束です。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10223352.jpg

後半は、いわゆる「抗日」寸劇です。抗日ドラマでおなじみの日本軍兵士(左)と漢奸=売国奴(右)が登場します。日本兵はちょびひげと丸眼鏡というのもお約束です。
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_10224765.jpg

その後、人民解放軍の活躍で漢奸は取り押さえられ、日本兵はつるし上げられます。ひたすら滑稽に演じてみせるのも日本兵の役割です。

※【動画あり】中国文革レストラン(大連)のショーにて(日本兵を成敗するシーン 2008年5月)
これが本場中国の「文革レストラン」です_b0235153_102332.jpg

最後は、勝利の歌でしめくくられます。

一連のショーを観ながらいろんなことを感じたものですが、舞台の迫力はなかなかのもので、いま中国で「文革歌謡ショー」を演じることの意味は何か? という文脈を無視すれば、いかにも中国らしいエンターテインメントだと思ったものです。そこには、一種の様式美すらあります。劇団員の青年、女子の皆さんに対して、聞いてみたいことは山ほどありましたが、あの場で話を聞いてもしかたがないと考えて、店をあとにしました。

最初に書いたように、この店は現在存在しません。このショーに出演していた青年たちは、いまどうしていて、何を考えているのか。反日デモのとき、毛沢東の肖像画を掲げた一連のグループとはなんらかの精神的なつながりがあるのか?

上海のある文化研究者によると、2000年代前半に中国各地の都市部にオープンした「文革レストラン(当時は「北大荒菜館」とも呼ばれました)」は、所詮消費社会の中のひとつの流行現象にすぎないとの見立てです。一般に中国の研究者は、こういうすました言い方を好んでしますが、そう簡単に割り切れる話なのか、ぼくにはちょっと疑問です。

突如池袋に出現した「文革レストラン」の話題はともかく、中国における昨今の「毛沢東」現象について考えてみるのは面白いと思います。

【追記】
なぜ中国の東北三省(遼寧省、吉林省、黒龍江省)に「文革レストラン」(実際には、文革のイメージというより、1970年代の中国の社会風俗をノスタルジー化したレストランであるのがほとんど)が多く開店したかについては、こんな推測も成り立ちます。

新中国成立以降、満州国の近代インフラを有する東北三省は、最も先進的な工業地域でした。ですから、建国後の混乱も収まる1950年代以降、東北三省の人たちは先進地域に住む住民としてのそれなりの自負を持っていたはずです。それが変わったのは、80年代の改革開放以降です。広東省を中心にした華南地方に集中的に投資が進むことで、東北三省は地盤沈下していきます。とくに90年代は失業者のあふれる後進地域となってしまいます。

つまり、大連などの「文革レストラン」に足を運んだ中高年世代の人たちは、文革という悲惨な時代とともに、東北三省の栄光の時代を懐かしんでいるのかもしれないのです。2000年代に入り、中国政府の東北振興策で、再び発展モードに転換した東北三省の人たちが“古きよき時代”の思い出を手軽に体験できる「文革レストラン」を愛好したたのも、わかる気がしないではありません。

by sanyo-kansatu | 2013-11-17 10:25 | のんしゃらん中国論


<< 高麗航空の乗り心地はいかに?      池袋にできた「文革レストラン」... >>