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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2013年 12月 03日

「普遍的な日本の魅力」って何だろう?(トラベルマート2013報告 その1)

11月27日~29日、みなとみらいのパシフィコ横浜で「Visit Japan Travel Mart 2013」が開かれました。海外の旅行会社やメディアを招聘して行う観光庁主催のトラベルマート(B2B商談会)です。

観光庁の資料によると、今回海外から304社(21カ国・地域)のいわゆる「バイヤー」が来日。彼らに日本を売り込む国内の観光業者や自治体などの312社・団体が出展したそうです。

※2011年のトラベルマートについては、「インバウンド商談会って何?(トラベルマート2011 その1)」
他を参照。
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28日の9時半から開会式がありました。今年8月に就任したばかりの久保成人観光庁長官やJNTO理事長、横浜市長、海外からの来賓がスピーチし、東京オリンピック開催決定や訪日客が今年初めて1000万人を達成しそうだと報告しました。

ちなみに久保成人観光庁長官はこの方です。
http://www.mlit.go.jp/kankocho/about/message.html

開会を告げるテープカットの後、質疑応答がありました。まず、日本人記者が来年、開催される「ツーリズムEXPOジャパン」の狙いについて質問しました。

実は、「Visit Japan Travel Mart」は今年で最後の単独開催だったのです。来年からは、元海外旅行博の「JATA旅博」と国内旅行博にあたる「旅フェア日本」が統合され、「ツーリズムEXPOジャパン」(2014年9月25日~28日/東京ビッグサイト)となり、これにB2B商談会の「Visit Japan Travel Mart」も同時開催として加わることになるそうです。

ツーリズムEXPOジャパン
http://www.t-expo.jp

観光庁長官は、これら3つの旅行イベントをひとつに統合する理由について「世界を代表する旅行博覧会であるITBベルリンやWTMロンドンに負けないよう、アウト/イン/ドメスティックの日本の旅行市場のさらなる発信力アップを図りたい」とコメントしています。

もうひとつの質問は、韓国のキム記者です。彼は毎年トラベルマートに招聘されているベテラン記者です。彼は尋ねました。「来年4月、再来年と日本では消費増税が続きますが、外客への免税措置など、どんな優遇対応を考えているか」というものです。いい質問ですね。

長官のコメントは、現在検討中で、すでに決めた化粧品などに加え、免税品目の枠を広げるよう観光庁も政府に要求しているとのこと。

この点については、本ブログでも以前書いた「韓国政府は来年から外国客のホテル増値税10%を返還するそうです」からもわかるように、韓国の外客に対する免税措置は徹底しており、日本より進んでいるといえます。あとでキム記者に聞いたのですが、ホテル増値税の返還はこれまで韓国では何度かやってきたことで、来年の施策も期間限定だと思うという話でした。

さて、10時20分からは場所を移して外国人記者会見です。まず観光庁参事官から「日本のインバウンドツーリズム促進のための対応」という報告がありました。
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そこでは、2020年の東京オリンピック開催が日本の観光立国の推進に追い風となるという話から始まり、今年10月の段階で訪日外客数が過去最高だった2010年を超えたこと。今年、訪日客が増加した理由として以下の4つを挙げました。
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①ASEAN諸国を対象としたビザ緩和
②円高是正
③オープンスカイにともなう国際線フライトの増加
④日本の景気回復

さらに、観光立国を実現するための4つのアクション・プログラムとして以下を挙げています。

①日本ブランドの作り上げと発信
②ビザ要件の緩和等による訪日旅行の促進
③外国人旅行者の受入の改善
④国際会議等(MICE)の誘致や投資の促進
詳しくは、http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kankorikkoku/dai2/siryou1.pdf

そして、最後がビジットジャパンキャンペーン10周年を機に、海外プロモーションの抜本的転換を図るとして展開された「DISCOVER the SPIRIT of JAPAN」の紹介でした。詳しくは、観光庁の以下のリリースを参照していただくとわかりますが、要するに、日本の新しい売り方に対するひとつの方向性を観光庁が打ち出したということでしょう。

「震災から2年、ビジット・ジャパン事業10周年の新展開『DISCOVER the SPIRIT of JAPAN』」
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news08_000163.html

そこには「6カ国8人の外国人を含む11人の委員で構成する『普遍的な日本の魅力の再構築・発信に関する検討会』がまとめた、『訪日観光3つの価値』を踏まえ、PR映像、ウェブサイト、ガイドブックについて、震災時に世界から称賛を浴びた『日本人』を切り口に一新した」と書かれています。ここでいう「3つの価値」とは、Character、Creation、Common lifeだそうです。

日本の魅力とは何か。外国人も含む有識者の委員会で話し合ったところ、「それは日本人そのものだろう」というわけです。委員会というのは、「「普遍的な日本の魅力」の再構築・発信に関する検討会」(座長:西村幸男東京大学副学長)というもので、そこに出席した委員や議論については、以下、簡単にまとめられています。
http://www.mlit.go.jp/common/000991842.pdf

これらの議論を経た成果として、新設された160本以上の動画を配信するサイト「DISCOVER the SPIRIT of JAPAN」がこれです。
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DISCOVER the SPIRIT of JAPAN
http://www.visitjapan.jp

次に、JNTO海外マーケティング部長による「2014年、日本のツーリズムのトピックス」という報告がありました。そこでは現在、今年の訪日プロモーションのラストスパートの段階にあり、その目玉として、12月1日~2月28日まで開催される「ジャパン・ショッピング・フェスティバル」の概要が話されました。
http://www.mlit.go.jp/kankocho/news08_000187.html
「ジャパン・ショッピング・フェスティバル」公式Facebook
https://www.facebook.com/pages/Meet-The-New-JAPAN/422616404469024

また、外客による写真コンテストやSNSを活用したキャンペーンの強化、ムスリム客対応の新たな取り組み、今年年末から来年にかけて世界的なブランド力を持つホテルが次々に開業する話もありました(関連する話題として「東京・大阪のホテル稼働率は震災前を大きく上回る水準に【2013年上半期①ホテル】」)。

質疑応答では、前述の韓国キム記者が「今年、ASEAN客が増加した理由は?」「韓国FITにも人気のある白川郷へのアクセスをもっと便利にできないか」と質問しています。

それに対し、観光庁参事官は「今年、『東南アジア横断プロモーション』がスタートし、ビザ緩和が進んだため」「国内観光地のアクセス向上に今後も努める」と回答。

またカナダ記者から「『DISCOVER the SPIRIT of JAPAN』というが、日本ブランドをどうプロモーションするのか? カナダマーケットへの取り組みは?」という素朴な質問がありました。彼ら外国人記者の立場としては、当然の疑問だと思われます。そもそもネット配信と連動したどんな取り組みがあるのか、これだけではよくわからないからです。

ロシア記者からは「ロシア人にとって日本ビザの取得は大きな障害。東京よりNYのほうが行きやすい」という指摘もありました。

気持ちはよくわかりますが、こればかりは日露両国が相互に緩和していく必要があると思います。この記者はそのあたりの事情をどの程度理解しているのでしょうか。実際、日本人にとっても、ロシアはビザ取得のために宿泊先のバウチャーを必要とするなど、自由旅行をするのはとても面倒な国のひとつです。

とはいえ、ロシア人の海外旅行市場は想像する以上に規模が大きいことから、今後訪日旅行のターゲットとして重要になっていくと思います。相互理解を深めたいものです。
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さて、開会式と外国人記者会見の概要はざっとこんなところですが、いくつか気になったことを書き出します。まず、相変わらずの開会式の登壇者のうつ向きがちの英語スピーチ。これもう少しなんとかならないでしょうか。せっかくの開会式がお通夜のようだ、とまではいいませんけど、まったく盛り上がらないのです。これは毎回そうです。

韓国キム記者が質問した外客に対する消費税対応が今後どこまで進展していくか、というのも気になります。海外で我々も経験することですが、免税分の払い戻し手続きというのは面倒です。このあたり、韓国はけっこううまくやっているように思いますが、日本でこれを円滑かつシステマティックに進めていくのは、そんなに簡単ではない気がします。きっとキム記者からみると、日本の外客受入の整備はあらゆる面でまだまだと感じられるのでしょうね。

ある中国の旅行関係者にこんな話を聞いたことがあります。近年、パリのルイヴィトン本店に中国客がわんさか押しかけているのですが、問題は買い物をしたあと、VAT(ヨーロッパの付加価値税)払い戻しの手続きをするため、大勢の中国客が店内で大行列をなし、なかには床や階段に座って、ついにはおやつを食べ始めてしまうので問題になっているそうです。払い戻しのためのスタッフが2名しかいなくて、時間がかかるせいだとか。その様子が、中国のテレビニュースで流され、「こんなみっともないことはやめよう」と国民に対する啓蒙として報じられたそうです。

この悪夢のような光景は、日本でも起こる可能性がないとはいえません。

さて、今回の外国人記者会見は、以前に比べ、わかりやすくなったと思いました。なにしろ訪日旅行市場は好調ですし、ポイントも絞られていたからでしょう。ただし、ここは観光庁の業績をアピールする場といえなくもありません。どれだけ外国人記者にメッセージが届いたかについては少し疑問ですが、会見終了後、今回の参事官は会見場に長く留まり、記者たちと交流していた姿が印象的でした。

いろいろ考えさせられたのが、観光庁の新しいプロモーションのテーマである「DISCOVER the SPIRIT of JAPAN」です。観光庁が制作したプロモーションDVD「DISCOVER the SPIRIT of JAPAN 感受日本之心 领略东瀛之美」にはこんなメッセージが書かれています。

「日本観光の魅力とは『日本人』そのものではないでしょうか。
そのしぐさにこめた心配りに、
作品の細部に宿る職人の技に。
ささやかなこと『a little thing』のなかにある楽しみに。
『日本人』という切り口で眺めると
これまで観光資源になるとは思いもしなかった日常が
幾千もの魅力を持った、美しい輝きを纏うものであることに気付きます」

そもそも「普遍的な日本の魅力」って何だろう? そのひとつの回答として「日本の魅力は日本人そのものにある」というのは、同じ日本人として悪い気はしないのですが、はたして外国の人たちにそれがまっすぐ伝わるものだろうか、と思ってしまいます。日本に長く暮らしてきた在日外国人の方々が日本人に好感を持っていただけているというのはうれしいことですが、海外の日本を知らない人たちに同じレベルの理解を期待することはとても難しいと思うからです。ちょっと先走り気味という気がしないではありません。

少々皮肉めいていうと、昨今これだけ近隣諸国による日本に対する国際的なネガティブキャンペーンが続くと、「日本の魅力」を正当に評価してもらいたくなる気分はわからないではない。日本人は自分の良さをアピールするのが苦手だとさんざん言われてきたわけですし。

ただし、VJC事業10周年にともなう海外プロモーションの抜本的転換というわりには、この話、今年の春に始まったようですが、国内外でどこまで知られているのでしょうか。これはけっこう気がかりです。

by sanyo-kansatu | 2013-12-03 12:42 | “参与観察”日誌


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