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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2013年 12月 05日

大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国(トラベルマート2013報告 その3)

トラベルマート会期中の11月28日の夜、一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)の総会がありました。

一般社団法人ASIO(アジアインバウンド観光振興会)
http://www.shadanaiso.net/index.html

そこでは恒例のセミナーがあります。アジア各国・地域にそれぞれ強いランドオペレーター関係者による「アジアインバウンドの最新動向」の報告です。

※今年6月上旬のセミナーについては「今年の夏、日本はアジア客でにぎわいそうです(社団法人AISO第1回総会報告)」)を参照。
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まず理事長の日本ワールドエンタープライズ株式会社の王一仁社長による開会の挨拶から始まりました。

「AISO創立から今年で7年目。震災から2年たち、今年はアジアインバウンドの流れが大きく変わった年といえるでしょう。円安効果も大きいですが、東京オリンピック開催決定や富士山の世界文化遺産登録など、さまざまな追い風が吹いています。

AISOの加盟企業は現在約160社。半分はランドオペレーターで、残りはホテルやテーマパーク、レストラン、運輸業者などの方々です。お互い協力して日本のインバウンドを盛り上げていきましょう」。

次に株式会社ジェイテックの石井一夫常務理事による今年の総括です。

「今年のアジアインバウンドに弾みをつけたのは、7月のアセアン諸国に対するビザ緩和が大きかったといえます。このままいけば、今年は初の訪日外客1000万人を達成することでしょう。なかでも大きな伸びを見せたのは、台湾やタイといった親日国だったように思います。

それでも、訪日外客の6割を占めるのは、韓国、台湾、中国本土です。韓国はいったん回復してきたかに見えましたが、秋口から伸び悩んでいます。一方、中国市場は概ね回復基調にあると思います。

今後は、アジアの個人客向けの商品、特に来日してから各自が参加する「着地型」のツアー商品の開発などに力を入れていくべきでしょう。ここにいらっしゃる関係者の皆様には、ぜひ我々ランドオペレーターに新しいコンテンツをご提案いただきたいと思います。それを海外の旅行会社につなげていくのが我々の仕事ですから」。

株式会社トライアングルの河村弘之常務理事からは、以下の3つの話題提供がありました。
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①ツアーオペレーター品質認証制度について

同制度は、「事業者(ツアーオペレーター)の品質を保証することにより、訪日旅行の品質向上と、訪日旅行者が安全、安心で良質な旅行を楽しんで頂くことを目的として作られ国からも推奨された品質認証制度」です。

ツアーオペレーター品質認証制度 http://www.tour-quality.jp/

株式会社トライアングルは最近、同制度の認証登録をすませたばかりですが、河村理事によると、中小企業の多いインバウンド業者にはかなりハードルが高いのが実感だといいます。認証の条件として、①旅行業登録していること、はともかく、②訪日ツアーにインバウンド旅行保険をかけること、そして何より③プライバシーマークの取得済み(1年以内に取得予定であること)が経営にとって大きな負担となるからです。

※プライバシーマーク(Pマーク)は、個人情報保護に関して一定の要件を満たした事業者(基本的には法人単位。ただし、医療関連については病院ごとなど例外あり)に対し、一般財団法人日本情報経済社会推進協会 (JIPDEC) により使用を認められる登録商標。

プライバシーマーク制度
http://privacymark.jp/

現在、AISO加盟企業の中で、認証登録をすませているのは、農協観光とアサヒホリディサービスの3社だそうです。

②タイからの訪日客の動向

「今年のタイ市場は、北海道が人気。ビザ免除で市場は活気づいています。ただし、募集ツアーは今後価格競争が激しくなることが予想されます。ですから、弊社はタイではインセンティブツアーを専門に営業しています。企業の社員旅行としての訪日ツアーの取り込みです。現在、タイに進出している日系企業は約3000社。そのうち、従業員数100名以上の企業は約半数。みなさん、現地の日本企業に営業に行かれたことはありますか。旅行博に行くのもいいですが、タイの場合、インセンティブ市場が大きいことを知っていただきたいと思います」。

※JETROによると、タイに進出した日系企業数:1,458社(2013年4月現在のバンコク日本人商工会議所会員数)ですが、実際は約3000社といわれます。

③シンガポールからの訪日客の動向

「震災後に韓国に次いで訪日客の戻りが遅かったシンガポール市場ですが、今年は北海道行きが7割を占めるほどの人気でした。もっと行きたいが、エアが取れないという話です。シンガポールの旅行業者は、中国などとは違い、日本のランドオペレーターとの関係を大切にしてくれます。シンガポール市場に商材を売りたいなら、AISOのランドオペレーターにまず声をかけていただきたいと思います。それが早道です」。

アメガジャパン株式会社の清水和彦理事からは、中国本土市場の話がありました。

「今年の弊社の中国本土客の取扱は、1~3月が前年比マイナス60%、4~6月がマイナス30%、7~9月でほぼ前年度の水準に戻り、9月はおそらく新旅游法の駆け込み需要で過去最高になりました。10月以降は、去年が尖閣問題でボロボロでしたから、前年度比ではプラスになると思います。そういう意味では、団体ツアーはほぼ回復したと考えています。

中国の訪日市場の動向は地域によって一様ではありません。広東省はすでに回復し、北京でもだいぶ戻ってきたようですが、最大のマーケットである上海の遅れが目立ちます。

新旅游法の背景には、中国の原価割れしたツアー商品の横行があります。オプショナルツアーや土産物店への連れ込み、ホテルの変更はすべてNGとなりました。その結果、弊社が多く扱う広東省の旅行会社のツアー料金の推移を見ていると、韓国や台湾、タイなどが軒並み2~3倍にアップしている一方、日本ツアーの価格上昇はそれほどでもないため、日本の割安感が出てきたと感じます。来年の春節がどうなるか、大いに期待したいと思いますが、依然日中間の政治問題が解決していないのが気がかりです」。

株式会社アサヒホリディサービスの和田敏男理事からは、マレーシア市場の話がありました。

「マレーシアの旅行業界は、タイなどと違い、大手数社が独占しているという市場です。東南アジアの中では訪日旅行市場は後発ですが、LCCも今後ますます就航するという話ですから、期待の持てるマーケットだと思います。最近、小グループの団体が増えてきました。以前なら30~40名の団体が多かったのですが、6~8名くらいのプライベートなツアーが多いのです。求められているのは、すでに定番のツアーコースではなく、個性的な旅です。

イスラム国ですから、ハラルを気にする方が多いと思いますが、一部の方を除くと、そこまで厳格に考えることはまだないのではと感じています。最近、六本木にハラル専門レストランができたと聞きますし、また東京大学にはハラル専門の学生食堂があるそうです。ハラル認証を取得するための協会も国内にいくつかできていますので、そこで研修を受けられることをおすすめします」。

最後に再び王理事長による香港とフィリピンの話がありました。

「今年は香港や台湾からの訪日客が激増しました。香港客の大半はリピーターです。航空券さえ安いものが出れば、必ず日本を訪れます。日本人のアジア旅行と一緒です。11月から香港エクスプレスの羽田便がデイリーとなりました。片道1万円と安いので、これからのクリスマスシーズン、たくさんの香港客が東京を訪れることと思います。
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フィリピンからの訪日客も増えてきています。12月からフィリピン航空が大幅に増便します。どうしてこんなに増便するのかというと、最近のフィリピンの台風被災地に対する日本の支援も影響があると思います。フィリピンから日本の自衛隊の視察ツアーもあると聞いています。フィリピンの人口は9000万人です。これからがチャンスです」

※フィリピン航空(PR)は12月15日から、成田発着のマニラ線とセブ線を増便。マニラ線は現在1日1便だが、これを1日3便に変更。セブ線は週6便のPR433便/434便に月曜日を加えてデイリー運航にした上で、さらに1日1便を追加しています。

関係者のみなさんの報告を聞きながら、今年は「アジアインバウンドの流れが変わった」ことをあらためて実感しました。何より市場の分散化が進んでいることがいい流れだと思います。

その一方で、こうした手放しの喜びようで、はたして来年本当にアジアインバウンドは順調に進展するのだろうか。中国政府の不穏な動きが続くなか、ひとたび何か起こればすべて吹き飛んでしまうのではないか、というあやうさもはらんでいるように思えてなりません。

また、今年は台湾やタイほかの東南アジアの国々のように、日本の文化的影響力が強い国々からの訪日客増加に大いに救われたところがありましたが、そうでない国々に対してどう訪日旅行をPRするべきか、という課題が印象付けられた年でもあったと思います。たとえば、インドやロシアといった未知の大市場に対してどう取り組むか。来年に向けて新しいチャレンジが必要ではないかと思った次第です。
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トラベルマート会場から桜木町駅に向かうみなろみらいの夜景はとてもきれいでした。

by sanyo-kansatu | 2013-12-05 10:58 | “参与観察”日誌


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