2013年 12月 30日
今年3月、日本初の富裕層旅行に特化した商談会「ジャパン・ラグジュアリー・トラベルマーケット(ILTM Japan)」が京都で開催されたことで、海外からの「富裕層旅行市場」がひそかに注目されています。 ※関連記事 京都で日本初のラグジュアリー・トラベル商談会「ILTM JAPAN2013」開催 http://inbound.exblog.jp/21590385/ ジャパン・ラグジュアリー・トラベル・フォーラム 2013 セミナー報告 http://inbound.exblog.jp/21681992/ では、「富裕層旅行市場」というのはどんな世界なのか。日本の旅行最大手であるJTBでは、ブティックJTBという富裕層旅行に特化したセクションを設け、市場の取り込みを進めています。以下、今月中旬に刊行された産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」に掲載した同室長へのインタビュー記事を採録します。 日本の旅行業は長い間、パッケージツアーというマスツーリズムを前提にしたビジネスモデルに依存してきた。だが、旅行市場を取り巻く環境が変わり、グローバル化するなかで商品・チャネルが多様化し、富裕層市場も注目されている。その実態は? JTBグローバルマーケティング&トラベルの「ブティックJTB」室長、遠藤由理子さんに富裕層ビジネスの仕事の中身をうかがった。 富裕層マーケットは地上費100万円の顧客 訪日旅行事業のプロフェッショナルカンパニーとして知られる同社に、海外の富裕層向けブランド「ブティックJTB」事業が社内プロジェクトとして立ち上がったのが2007年。それまで国・地域別に訪日客に対応していた同社では、富裕層というセグメントを分ける認識はなかった。だが、同年12月にフランス・カンヌで開かれた「インターナショナル・ラグジュアリー・トラベル・マーケット(ILTM2007 )」に出展。「海外には富裕層だけを専門に扱う業態があることを知り、日本を売る我々もその市場に正対した組織体制でやっていくべきと判断。08 年にグループとして発足した」と遠藤さんはいう。 では、富裕層とはどんなマーケットなのか? 「明確な定義はないのですが、我々が目指す顧客像は、航空機を除く日本滞在の費用(地上費)として100万円くらい落とすお客様と定義しています。10日間の滞在で、1日おひとり様10万円程度使う計算です。その内訳は、宿泊は5つ星級ホテルで1泊5万円が相場。車とガイドを1日プライベートで手配すると10万円。さらに、食事や体験プランで5万円。おふたりでトータル20万円になります。ここでいう食事や体験とは、一般的なツーリスティックな内容ではなく、特別なプランになります」。 自分だけしか体験できない“本物”の旅 世界の富裕層は日本に何を求めているのだろうか? 「国によって、お客様によって求めるものが違います。アメリカのお客様は比較的インテリの方が多く、リゾートには飽き飽きしているといいます。だから体験プランの場合も、一般に茶道や着付け、料理体験などが人気ですが、通常のパッケージコースに組み込まれるような場所でやるのは面白くないということで、たとえば、ミシュランの2つ星を取っているシェフのサロンを訪ね、個人レッスンを受けていただく。京都のお寺の一般公開の終わった後、VIPルームで住職さんから寺の歴史を説明していただき、本堂をご案内。篠笛と尺八の演奏と庭園を見ながら、茶会席のお食事をしていただく。日本の伝統芸能のバックステージを理解していただくために、歌舞伎役者の方にお願いして、お化粧や着付けのシーンを見せていただき、最後に簡単な演目を演じていただく。もちろん、そのお客様のためだけに、です」。 彼らが求めているのは、自分だけしか体験できないこと。「あなただけのための旅行をつくりました」というオーダーメイドのプランである。 だからといって、すべてが綿密につくり込まれたプランでなければならないというわけではない。たとえば、最近全米でヒットした映画『二郎は鮨の夢を見る』を観たアメリカ人から「すきやばし次郎に行きたいが、ブッキングはできるか?」といった問い合わせがくるそうだ。ミシュランの3つ星が付いたお寿司屋の主人の物語。飛行機に乗ってでも、それだけを食べに行きたいという。 14室のスィートしかない豪華列車、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」も話題である。鉄道旅行は海外でも人気が高く、今後の海外富裕層の動向が注目される。石川県にあるかよう亭という温泉旅館は、わずか10室の宿だが、ご主人が外国人客を近所の焼き物の工房や合鴨農法の農家に案内するなど心のこもった接遇をすることから、送客すると必ず「パーフェクト!」といわれるそうだ。 重要なのは“本物”であること。ストーリー性があることが大切で、なぜそれが素晴らしいかという物語=ヒストリーがあるものでなければ、彼らは納得しない。 「難しいのは、どんなスペシャルな提案をしても、そのお客様の心に刺さらないと意味がないこと。また中国では万里の長城でパーティができるじゃないか。ドイツでは古城でできるのに、なぜ日本ではできないのかと、他国と比較されることもしばしば」。 公平を重んじる日本の社会は、VIPに対する特別な接待の提供が難しい面も多く、対応してくれるコネクションとの関係構築を日々進めているという。 海外のバイヤーとのネットワークが不可欠 日本に富裕層を呼び込むためには、海外の富裕層専門のバイヤーとのネットワークが不可欠だ。北米や中南米、オセアニアの富裕層バイヤーを束ねるエージェント組織「VIRTUOSO」の関係者との商談会のため、先日遠藤さんはラスベガスを訪ねた。そこは、ひとりでも多くのバイヤーに会い、その場で顔を売っていくことでビジネスを広げていく世界だ。 「日本の旅行会社は規模が大きく安心安全なイメージがありますが、富裕層マーケットの場合、海外のバイヤーは個人で年間10名程度のお客様を扱うような世界。その代わり、一人ひとりのお客様とは友人のような親密な関係になる。だから、誰に頼むのか、顔が大事になる。組織はむしろ小さくて、あなただけのためにやりますよ、というのでなければ、仕事は来ないのです」 それは、これまでのマスツーリズムに注力することで成長してきた日本の旅行業のビジネスモデルとは、ある意味真逆の世界といえるかもしれない。 遠藤さんは「ブティックJTB」の目指すべきビジョンとして次のように語る。 「世界の富裕層が求める本物の和を伝えるプロフェッショナルとして、世界と日本の心を結び、訪日インバウンド富裕層事業の牽引役として日本ブランド価値向上とインバウンドビジネスの活性化に貢献する」。 残念ながら世界の富裕層市場での日本の認知度はまだ低い。もっとアピールすべきだし、伸びしろもあるはずだ。富裕層マーケットは、取り扱い人数は少なくても、世界の旅行業界に与える影響は大きい。世界の旅行シーンに新しいトレンドをつくり出すのは、実は富裕層なのだ。日本のブランド価値向上のため、「ブティックJTB」に与えられたミッションは大きいのである。 遠藤由理子(えんどう・ゆりこ) 1986年日本交通公社(現JTB )入社。2000年、国際旅行事業部。04年からエージェンシー営業部で米国マーケットを担当。08年よりJTBグローバルマーケティング&トラベルで「ブティックJTB」室長として現在にいたる。「富裕層ビジネスは、日本の価値の伝道師であるという気概を持つことが大事です」 ※産学社刊「産業と会社研究シリーズ トラベル・航空2015年版」p74~P77より抜粋http://sangakusha.jp/ISBN978-4-7825-3376-5.html
by sanyo-kansatu
| 2013-12-30 09:18
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