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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2014年 02月 05日

外国人ツーリストにとって居心地のいい町の必要十分条件とは?

昨年8月、インドシナ北辺の国境地帯を1週間ほど旅しました。タイの首都バンコクから夜行列車でラオス国境の町ノーンカーイに向かい、国境の橋を渡ってラオスの首都ビエンチャンへ。そこからラオ航空の国内線でルアンナムターという少数民族のトレッキングの拠点として知られる町を訪ねました。中国国境(雲南省)からも近い町です。

ひとりの外国人ツーリストにとって、ルアンナムターはとても居心地のいい町でした。

なぜなら、この小さな町にはツ-リストに必要なすべてのインフラがコンパクトに揃っているからです。

では、ツーリストにとって必要なものとは何か。居心地のいいツーリストタウンの条件について、あらためて考えてみたいと思います。その意味では、このラオスの片田舎にある小さな町は格好のケーススタディの対象といえるでしょう。

ルアンナムターの空港を降り立ったツーリストの動線に沿って、この町を紹介します。
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空港は市街地から7kmほど南にあり、乗り合いトラックで10分ほど。市街地の南にあるバスターミナルで降ろされますが、そこから100mほどの場所にホテルやレストラン、トラベルエージェンシー、ツーリストオフィス(観光案内所)などの施設が並んでいます。市街地は、南北2 ㎞、東西1kmの範囲にほぼ収まっています。1時間もあれば散策できるこの町の適度な大きさが、ツーリストにとっての居心地のよさを生んでいる条件のひとつです。
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まずはホテル探し。ほとんどのホテルがメイン通りに沿って並んでいるので、歩きながら気に入った宿を値段と客室の快適度などを比較して選ぶだけです。町の規模にしてはホテルの数が多く、選り取り見取り。選択肢の自由が多いことは、ホテル選び自体が旅の楽しみにつながります。そういうのが面倒くさい、またホテルの予約なしで旅行するのは不安という人も、心配ご無用。いまの時代、こんな山奥の町のホテルにもたいていHPがあって、ネットでも予約ができます。ホテルのスタッフは簡単な英語は話しますから、予約なしでも問題ありません。

ツーリストにとってホテル選びは旅をエンジョイするうえで最も重要な“仕事”のひとつです。ストレスなく快適なホテルが見つかれば、その町の滞在は半分以上成功したといってもいいほどでしょう。
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外国人ツーリストのホテル選びの条件としてWi-Fiが使えるかはとても重要です。その点、このラオスの片田舎のゲストハウスではたいていどこでもWi-Fiが完備しています。実際、ぼくはこの町から東京の友人にラインを使って通話したのですが、音声はクリアでまったく問題がありませんでした。Wi-Fiはチェックインのときゲストハウスのオーナーに渡されたカードに書いてあるパスワードを入れるだけ。無料です。いまどき、アジア諸国では、ツーリストが訪れるような町ではどこでもこの程度には普及しているといっていいでしょう。こんなこと、あまり言いたくはないのですが、東京よりもずっとアジアの片田舎のほうが通信環境は進んでいるといえるのです。

さて、部屋で荷を解き、シャワーを浴びたら、町を歩いてみたくなるものです。食事をどこで取ろうか、ミネラルウォーターや軽食はどこで買えばいいか、少数民族の村へのトレッキングツアーに参加するにはどのトラベルエージェンシーに頼むのか、近郊の町に移動するためのバスチケットはどこで買えばいいか……。ツーリストには、しなければならないいくつかの“仕事”があるからです。
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でも、ルアンナムターにはそれらのすべてが徒歩1分以内の範囲で段取りできてしまうのです。こんなに便利なことはないでしょう。上記のすべてのことが30分以内に終わってしまうほど。こうしたストレスレスな環境こそ、居心地のいいツーリストタウンの条件だといえます。

以上はツーリストタウンの必要条件ですが、実はそれだけでは十分とはいえません。

8月のルアンナムターは雨季にあたるので、日本人の姿は少なかったですが、ぼくの泊まったゲストハウスの隣のカフェレストランには、欧米から来た若い旅行者が大勢いました。そこはこの町でいちばん有名なゲストハウスで、ちょっとにぎやかすぎると思ったので、隣の宿にしました。朝食だけそこでとればいいからです。ハムエッグ付きのイングリッシュ・ブレックファストが食べられます。もちろん、そこらの屋台で地元の麺を食べたっていいです。
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「住(アコモデーション)」と「食(グルメ)」と「足(トランスポーテーション)」の問題が解決されてしまうと、たいてい人は満足してしまうものですが、ツーリストはちょっと違います。「観光(アトラクション)」がなくては、人はなぜ旅に出るのか、という根本の欲望が満たされたとはいえないからです。

その点、ルアンナムターは、少数民族の村へのトレッキングの拠点であり、これがメインアトラクションです。まあそのために海外のツーリストはこの町を訪れるわけですが、サブ的なアトラクションもいろいろあります。
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たとえば、市街地の北にルアンナムター博物館があります。この地域に暮らす少数民族の歴史や風俗を展示しています。そこそこ立派な施設です。誰しも旅に出ると、異文化に対する知的好奇心が刺激されているものです。トレッキングの前後にぜひ足を運んでみたくなるはずです。
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ホテルの周辺には、民家もたくさんあります。朝早く起きて、知らない町を散策するのは楽しいものです。小さなお寺もあって、足を延ばしてみたくなります。こんなささやかなことも、ツーリストにとっては十分魅力的なアトラクションです。

もうひとつが、夜をどう過ごすかです。都会であれば、繁華街に繰り出せばいいのですが、こんな片田舎では何をすればいいのか。
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ルアンナムターには、夜になると屋台が並ぶナイトマーケットがあります。夜の食事はここで地元料理を味わうわけです。もちろん、前述のカフェレストランでは簡単な洋食が食べられますし、町のいたるところにある屋台の麺でしめることもできます。これだけアトラクションが揃えば、まったくいたれりつくせりだと思いませんか。

整理してみましょう。外国人ツーリストにとってストレスレスで居心地のいい町の必要十分条件とは?

①ツーリストにとって快適なホテルがあること。Wi-Fi整備は必須。
②ホテルの周辺で「食(グルメ)」「足(トランスポーテーション)」の手配が可能なこと。
③メインの観光以外に、知的好奇心を満たしたり、ナイトライフを楽しんだりするためのアトラクションがあること。

はたして日本の観光地にはこれらの条件が揃っているといえるでしょうか。

今回ぼくはこの町でいちばん有名なゲストハウスの隣にあるKhamking Guest Houseという宿に泊まりました。オーナーはまだ28歳の若いラオス青年で、地元の観光専門学校で英語やツーリズムを学び、数年前にゲストハウスをオープンしたそうです。
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実はその町に着いた日、ぼくはラオスの通貨を使い果たしていました。とにかく物価の安いラオスです。長い旅でもないので、日本円しか持っていませんでした。1万円分も両替すると余りそうなので、5000円札を両替してくれないか、と彼に頼みました。ゲストハウスの向かいにATMがあるので、いま考えると、ずうずうしい話です。

オーナーの青年は言いました。「ぼくは1万円札なら見たことあるけど、5000円札は見たことありません。これは本当に日本の紙幣なのですか」。そこでぼくは思わず言いました。「ぼくは日本人です。人をだましたりはしませんよ。どうか信じてほしい」。すると、彼は大きくうなづいて、「では待っていてください。これをラオスキップに両替して、明日のバスチケットと宿代を差し引いたぶんをお渡しします」。そう言って、彼はその場を立ち去り、夜にラオスキップでお釣りを手渡してくれたのです。

なんてことのない話のようですが、こういうのを本物のホスピタリティというのではないでしょうか。ツーリストにとって、何がいちばん不便なことなのか、どうしてもらえるとありがたいのか、彼はよく理解しているのです。

よく日本では“おもてなし”といいますが、結局のところ、ツーリストにとって何がストレスになっているか、その理由がわかっていないと、ひとりよがりなもてなしになってしまうおそれがあります。

ぼくにとって、このゲストハウスのオーナーに出会ったことが、この町の印象を好ましいものにした最大の理由だったといえるかもしれません。

by sanyo-kansatu | 2014-02-05 14:05 | ボーダーツーリズム(国境観光)


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