2014年 05月 28日
海外の旅行博覧会の視察で見逃せないのは、展示会場とは別のステージで行われるフォーラムです。今回の上海旅游博覧会(WTF)のフォーラムのテーマは「海外旅行のリスクマネジメント」でした。5月9日午後1時半から行われました。 昨年10月中国では「新旅游法」が施行され、旅行業界では消費者に対する旅行サービスの質の確保や安全面での保障が強く求められる時代になったといわれています。 もっとも今回のフォーラムで目立ったのは、むしろ(相変わらずというべきか)いかに中国の海外旅行市場が躍進しているかを伝える報告だったと思います。 冒頭の「中国出境旅游三大区域市场报告(中国の主要3地区の海外旅行市場レポート)」はまさにそうした内容でした。報告者は、国連世界観光機関(UNWTO)の中国代表の徐汎女史です。以下、簡単に彼女の報告を整理してみたいと思います。 ここでいう「主要3地区」とは、華中(上海、浙江省、江蘇省)と北京、広東(広州と深圳)を指しています。つまり、ここに挙げた地域が中国の海外旅行市場をけん引しているのです。 まず徐女史は、ヨーロッパ旅行について話を始めます。これまでの中国人のヨーロッパツアーは、英仏独伊あたりを団体で周遊するのが一般的(日本の1970年代のロンパリローマの旅と同じ)でしたが、これからは特定の一国を訪ねる旅が主流になりつつあるといいます。ヨーロッパは国によって個性が違うため、一人ひとりの旅行者が何を求めるかによってどの国を訪ねるか選ぶべきだといいます。 ※中国人のヨーロッパ各国のイメージの違いは、旅行会社のつくるちらしによく表れています。統計と合わせてみると面白いと思います→「春秋旅行社のチラシに見る上海人の海外ツアーの中身(上海WTF2014報告その4)」 次に、旅行スタイルの話題です。中国の海外旅行市場が年々進化していて、そのプロセスは「普及游」→「深度游」→「自由行」という流れにあるといいます。目的地も最初はヨーロッパの主要国だったが、現在では中南欧、東欧、北欧へ広がっているといいます。 なかでも「自由行」が進んでいるとし、その特徴は「個性化」だといいます。まあこれはどこの国でも起こることなのですが、中国人にとって(あとで触れることになりますが)「自由行」の障害となっているのがビザ問題です。 2013年、348万人の中国人がヨーロッパを訪れたそうです(前年度比11.16%増)。そのため、ヨーロッパの旅行業界はいかに中国客を受け入れるか検討しているといいます。思うにいまのヨーロッパは、日本の2008年頃の感じに似ているのではないでしょうか。大挙して訪れる中国客の購買力に驚き、これまでの受け入れ態勢を再考する必要を考え始めたというわけです。 中国客の質的変化は次のように表現されています。 「不再是逛景点(もう名所を巡るだけではない)」 「购物,而是一种生活方式和体验(ショッピングも一種の生活様式と体験となっている)」 「团队越来越少,很多情侶和小团体,喜欢体验式旅游(団体はますます減り、カップルや小団体が多い。体験旅行を好む)」 「新一代旅客;比较年轻,受教育程度良好,旅游经验丰富,喜欢按自己的兴趣和需求规划行程;把旅游当做一种自我投资,乐于在微博社交媒体上展示(新世代の旅行社は比較的若く、教育程度も高い。旅行経験も豊富。個人的な趣味を追求した計画を立て、旅行を一種の自己投資とみなしている。微博(SNS)を通じて社交を楽しむ)」 これもとりたてて新しい指摘ではありませんが、いわんとするところは、中国人も先進国の人たちと同じように海外旅行をしていますよ、という話です。 次に、注目ディスティネーションが紹介されます。たとえば、アメリカですが、先に挙げた主要3地区のうち、北京が圧倒的トップで、次が広東。最も増えているのは江蘇省で前年度比25.22%増。上海はなぜか前年度比14.9%減となっています。こういうところにも、物見遊山だけでは気がすまない北京人の気質がわかります。教育熱の高い中国らしく、アメリカ東海岸の名門大学を訪ねて回るツアー商品もあるほどです。 さらに最近渡航者が増えているのはニュージーランドです。特に広東省の伸びが高い。モーリシャスも増えています。特に2012年からの伸びが顕著です。 アフリカも中国人の人気ディスティネーションになりつつあります。やはりトップは北京。約12万人の渡航者数で、前年度比65.1%増です。ディスティネーション選びに関しても、実質や享楽を重視する華中や広東の人たちと比べ、北京の人たちはロマンある「個性的」な旅を好む傾向が強そうです。 興味深いのは、主要目的地の渡航者数の前年度比を示すグラフによると、ことさら触れられることはありませんでしたが、トップは日本47.7%増。次いでベトナム40.4%増、インドネシア39.5%増、韓国33.2%増、フランス31.9%増です。大きく減らしているのがカンボジア50.1%減で、タイやマレーシアも減少傾向にあるようです。おそらく新旅游法(タイの場合)や航空機事故(マレーシアの場合)などが考えられます。きっと今後はベトナムも減少するでしょう。日本の場合は、尖閣諸島沖事件で2012年秋以降激減した反動が出ていると思われます。 さて、話題は展示ブースでも目立っていたクルーズの話に移ります。徐女史によると、2012年は「大型船時代」、13年は「戦国時代」だといいます。つまり、2010年前後から本格化した上海発のクルーズ旅行(一部天津発もある)も、12年には客船の大型化が進み、13年にはさまざまなクルーズ会社が競うように参入してきたというわけです(詳しくは「上海WTF2014報告その2」参照)。 中国のクルーズ市場は以下の3つに分けられるそうです。 ①大衆消費層向け…中国発、4泊5日、5000元相当(初めてのクルーズ体験) ②ミドルクラス消費層向け…「フライ&クルーズ」、5~10万元(クルーズライフを楽しむ) ③富裕層向け…「フライ&クルーズ」、10万元以上、極地クルーズ(特別な体験を求める) 特に③の北極&南極クルーズが今年の目玉だそうです。前者は6万5000元から、後者は12万元からです。これが実際の南極クルーズの旅行チラシです。 他にもさまざまな富裕層向けの旅が紹介されていました。特に珍しいものはありませんが、いまの中国人にとって強い憧れの対象となっていることがわかります。 最後に触れられるのがショッピング行動です。以下の3つの変化を示しているそうです。 ①他需 → 自需(知人へのお土産から自分のために) ②从众 → 个性(大衆的なものから個性的なものへ) ③欧州 → 亜州(ヨーロッパからアジアへ) ①と②はわかりますが、③はどういう意味なのか。昨年、中国客がパリのルイヴィトン本店に大挙して押し寄せ、床や階段に座るやら大声で話すやら、みっともない姿が中国メディアでさんざん批判的に報じられたこともあったせいか、これからのショッピングはアジアでスマートに、ということでしょうか。その本丸は韓国のようです。きっとこれも中韓の蜜月時代を象徴しているのでしょう。「韓国はショッピング天国」だそうです。 こうして中国の海外旅行市場にまつわるさまざまなトピックスが紹介された報告でしたから、2014年現在の中国人の海外旅行の内実がそれなりにつかみやすい内容だったと思います。ただし、前述したように、中国人にとって世界各国のビザ緩和の状況は不満であり、大きな関心事となっています。ちょうど今年は中仏国交50周年だそうで、フランスの中国公民に対するさらなるビザ緩和が進むことが期待されていました。 同フォーラムのパンフレットには、こう書かれていました。 「2013年中国公民の出境総数は9819万人で前年度比18%増、今年14年には1億1000万人に達するであろう。現在、中国公民に対するビザ免除待遇を実施している国家は45となった」 ただし、その中には先進国はほぼ含まれていません。中国のビザ免除を実施している国については別の回で。 ※なぜ世界は我々に対してこんなに厳しいのか?~中国の最大の関心事はビザ緩和 http://inbound.exblog.jp/22733072/
by sanyo-kansatu
| 2014-05-28 13:37
| “参与観察”日誌
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