2014年 06月 10日
「外国人旅行者が日本で使ったお金から、日本人旅行者が外国で使ったお金を差し引いた4月の『旅行収支』が黒字になった。大阪万博が開かれた1970年7月以来、約44年ぶりの黒字だ」 (朝日新聞2014年6月10日)との報道がありました。これはどういうことなのか。記事にもあるように、今年4月、訪日外国人数が出国日本人数を上回ったためです。 アセアン・インドトラベルマートの最終日の夜に行われたAISO(一般社団法人アジアインバウンド観光振興会)総会の冒頭、王一仁会長もこう語りました。 「今年の4月は特別な月となりました。40数年ぶりに日本の出入国においてOUTとINが逆転したのです。これは我々インバウンド事業者にとってもそうですが、日本にとっても画期的なことです。 しかし、日本は訪日外客の受け皿ができていません。4月にインバウンドの現場で起きたことは、それを物語っています」 AISOはアジアからの訪日客の旅行手配を扱う観光業者の団体です。国内ツアー手配を行う旅行会社(ランドオペレーター)をはじめ、ホテルやレジャー施設、自治体関係者らが会員で、アジアインバウンド市場の拡大に伴い、会員数は年々増えています。 AISO http://shadanaiso.net 会員同士の情報交換のため、年に数回行われるAISO総会は、訪日旅行市場の現場の生々しい話が聞かれるのが常です。どんな業界でもきれいことだけではすまない裏の事情があるものです。それはその後の市場動向に確実に影響を及ぼします。早めにキャッチしておくことに如くはありません。 以下、総会で繰り広げられたさまざまな事業者のコメントを紹介したいと思います。 まずAISO理事の石井一夫氏(株式会社ジェイテック)から2013年度の活動報告がありました。 「昨年度、日本政府観光局(JNTO)との会合を数回行いました。テーマは、観光バスやホテルの需給ひっ迫問題です。昨夏北海道で起きた訪日客向けの観光バス不足問題は、今春も起こってしまいました。立川アルペンルート行きツアーに参加するはずだった台湾客の多くが、バス手配ができないため催行中止となり、お客様にツアー代金を返金するという事態が起きたのです。また3月下旬に国土交通省から通達された貸切バスの新運賃制度の施行で、現場は混乱しています。こうした現場の声をいかに行政の施策とすり合わせるか。これまで以上にAISOの果たすべき役割が重要になってきています」 河村弘之理事(株式会社トライアングル)は本年度の取り組みとして、以下の話題を提供しました。 「我々が抱えるインバウンドの問題点は、これまでもずっとそうでしたが、改善されていません。ホテルとバス不足、そしてガイド問題の3点です。訪日外客2000万人を目指すのはいいですが、いったいどこに泊めるんですか? ということです。ガイドの問題も深刻です。 先日もこんな話がありました。シンガポールから団体客を連れてひとりのガイドが成田に着いたところ、ガイドのみ入国拒否になりました。シンガポール人は日本の観光ビザが免除されていることから、そのガイドはツアー客を連れて日本への出入国を何度も繰り返していたため、出入国管理法に抵触してしまったのです。入国後、空港に残されてしまったツアー客はどうなったと思いますか? アジア客の増加とともに、こういうことが起こり始めています。AISOとしては、今後全国でインバウンド事業者を対象にしたセミナーを始めるつもりです。またホテルやバス不足問題については、会員同士がホテルやバスの確保情報を共有し、手配を都合しあう協力体制をつくっていきたいと考えています」 続いて「インバウンドの現状と課題について」と題された討論会がありました。出席者からの質問や意見にAISO理事が答えるという形式でした。いろんな声がありました。 「訪日外客は急増し、手配不能な状況になっているといいますが、東北はどうでしょう。置き去りにされていると思わざるを得ません。AISOとして東北の外客回復のために何ができないのか」 これに対して、「確かにインバウンド事業者全体に、東北を盛り上げる気迫が欠けている。各事業者がバラバラで取り組んでも回復にはつながらない」「東京・大阪5泊6日と東京・東北5泊6日のツアーでは、どちらが高いか? 現状は後者である以上、選ぶのはお客さんであり、難しい面も」(ミッキー・ガン常務・AISC)「日本政府観光局のジャカルタ事務所が開設され、そこでは東北をプッシュし、ツアー募集は始まっている」(須田理事・株式会社フリープラス)「東北単独の商品が難しいなら、たとえばソウル青森線を使って、函館などを周遊するツアーを企画したらどうかと考えている」(鄭理事・株式会社四季の旅)「上海で祭りをテーマにしたツアー企画を1本募集しているが、中国からの集客はできていないのが現状」(清水理事・アメガジャパン株式会社)などのコメントがありました。 貸切バスを運行する株式会社平成エンタープライズの田倉貴弥社長のコメントも印象的でした。 「4月に施行された貸切バスの新運賃制度の特徴は、運行距離と時間制の併用だが、実際に1台あたりの運賃を計算してみると、旧運賃と比べてそんなに変わらないようだ。しかし、新制度施行後、バス会社に直接監査が入り、罰則規定もあることが、大きな違い。これまでランドオペレーターなどの手配業者は、バスやホテルなどが包括されているため、バス運賃の中身が見えなかった。それが過剰なダンピングにつながった面がある。問題は、運転手にきちんと給料が支払われているかどうか、にある。新運賃制度は、それを改善するためのものだ。だが、バス業界には問題は山積みだ。運転手が高齢化し、若い人が少ない。今後、運転手不足が顕在化してくるだろう」 ホテル関係者の次のコメントも気になりました。 「訪日外客のためのホテル不足が懸案となっていますが、現在、国内マーケットが堅調で、料金も上がっている。現場レベルでは、安く叩かれる海外の団体客には売り控えたいというのが本音だ。これでは、ホテル不足が起こるも当然だろう。せめて早い時期に、どの程度の客室数が必要か投げてもらえれば、検討する余地があるのだが、間際に数字を出されても対応が難しいケースが増えている」 今秋から導入される免税制度の見直しへの期待を語る理事もいました。 「今年10月から始まる新制度の下では、これまで消耗品とみなされていた商品に対しても免税扱いとなります。外客に対する免税品の幅が大きく広げられるため、免税処理手続きの認可をとることで、訪日客受け入れの入り口に立つことができる」 こうして関係者はそれぞれの立場から、日本のインバウンドの課題について率直に意見を表明したわけですが、この場にいると、いま訪日旅行の現場で何が起きているのか、よくわかってきます。そこには構造的な問題があり、徐々に顕在化してきていることも。 王会長は言います。「しかし、状況は我々を後押ししていることには変わりない。実際に訪日客を手配しているのは、他でもない、我々なのだから。この好機を逃さないよう頑張りましょう」 訪日外客に携わる事業者は業種もさまざまで、各自が個別の利益を追求してばかりいては収拾がつきません。それを強く自覚した人たちの集まりであるAISOの今後の連携に向けた取り組みを期待したいと思います。
by sanyo-kansatu
| 2014-06-10 12:33
| “参与観察”日誌
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