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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2014年 12月 13日

中国客が増えても大歓迎といえないのは韓国、台湾でも同じらしい

今年、韓国を訪問する中国人旅行者が600万人を超えるそうです。

中国政府にとって自国の旅行者をある特定の国に大量に送り込み、多額の消費をさせることには、きわめて政治的な意味があります。端的に言えば、中国客の訪問が経済的な恩恵をもたらすことで、当該国・地域に政治的な譲歩を要求できると考えているのです。これは社会主義国の国策としての観光の位置付けからいって当然の考え方です(いまさら、中国を社会主義国なんていうのもなんですが、すべてを国家が管理しようとする体制ではそれがふつうの認識なのです。それがどれだけ可能かどうかはともかく)。同じことは、中国と微妙な関係にある香港や台湾、そして日本に対してもいえます。

ところが、中国と蜜月関係にあると思われていた韓国でも、中国客が増えても必ずしも大歓迎とはいえないようです。最近、ネットでこんな記事を見つけました。

韓国の旅行業界が苦境を訴える「中国人観光客を受け入れても儲けが出ない」FOCUS-ASIA.COM 12月2日
http://www.focus-asia.com/socioeconomy/economy/403056/

「韓国旅遊発展局によると、今年9月末現在の中国人観光客数は約468万人に達し、前年同期比36.5%増となった。だが、中国人客が支払う旅行代金はすべて中国の旅行会社に吸い取られ、韓国でも華僑や朝鮮族の経営する旅行会社がほぼ独占。儲けが少ないことを理由に、東南アジア客向けに切り替える韓国人経営の旅行会社もあるという。1日付で韓国紙・中央日報の中国語サイトの情報として、中国旅行新聞網が伝えた。

韓国人が経営する旅行会社は、中国人観光客増加の恩恵をほとんど受けていないのが現状だ。10数年前から外国人向けの旅行会社を経営する鄭さんもその1人。周りからは「中国人客が増えて、大儲けでしょう」と言われるが、実態は全く違う。「華僑や中国の朝鮮族が経営する旅行会社が大幅に増加している。とてもかなわないので、中国人客を取り扱うのを止めざるを得ない状況だ」という。

鄭さんによると、中国現地で中国人観光客を集める旅行会社は、客を送り出すだけで旅行費用を支払わない。こうしたスタイルがすでに定着している。中国人観光客が増えても、儲けはほとんどないため、鄭さんは「東南アジア客向けに切り替えようと思っている」と話している。

韓国旅行業協会(KATA)によると、韓国で中国人客の受け入れが最も多い旅行会社10社のうち、韓国人が経営するのは3社のみ。残りはすべて華僑と朝鮮族が占める。韓国企業は言葉の面で、華僑や朝鮮族にはかなわない。朝鮮族の旅行会社代表は「中国人客を受け入れるには、中国現地の旅行会社との協力が必要。お客様と接する際も、冗談を交えながらコミュニケーションをとることが大切だ。韓国人が中国語を使ってここまでやるのは大変だと思う」と指摘している」。

これを読んで、韓国でも事情は日本と変わらないことがわかりました。韓国で華僑や中国朝鮮族が中国客の手配を仕切っているように、日本でも中国団体客の手配を行っているのは、在日中国人を中心にしたアジア系外国人の業者だからです。彼らは薄利多売をものともせず、自国の観光客を受け入れていますが、日本の旅行会社は採算が合わないため、放棄しているのです。

同じことは、台湾でもいえるようです。

台湾では民進党から国民党に政権が移った08年7月から中国人観光客の受け入れが始まっていますが、10年以降、中国客の数はそれまで不動のトップだった日本客を上回り、12年には延べ259万人に達したそうです。

ところが、台湾の観光地はどこも中国人観光客で混み合ってはいるものの、彼らの手配を扱う旅行会社からすると「中国人観光客ビジネスは、やるほどに赤字」だそうです。

この点について、ジェトロの研究員が以下のレポートを書いています。

「中国人団体観光客ビジネス」の歪んだ構図
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/1307_kawakami.html

なぜ中国客が増えても大歓迎とはならないのか? こう述べられています。

「台湾のメディアでは、中国人観光客の急増とともに、極端な低価格で団体ツアーを受け入れ、観光客を店から店へと連れ回す低品質のツアーが増加していること、商店から旅行業者へのリベート率が4-6割にも達していることが報じられている。また「中国からの観光客を受け入れるほど赤字になる」と嘆く旅行社の声や、「観光客にむりやり買い物をさせている」と悩む旅行ガイドの声も紹介されている」。

その理由に「超低価格のツアー」があるとして、以下のように説明されています。

【超低価格ツアーの “事業モデル”】
中国人団体客の台湾観光の標準旅程は、7泊8日での台湾一周旅行である。報道から得られる情報を整理すると、台湾向けツアーを扱う業者間の取引構造は以下の通りである。

中国側では、各市・省ごとに、中国旅游局から指定された旅行業者が台湾向けのツアーを組織する。この送り出し業務を行っているのは、いずれも国営系の旅行業者である。他方、台湾では、民間の旅行業者が、ツアーの受け入れを行う。

送り出し側(「組団社」)と受け入れ側(「接待社」)の交渉力は、圧倒的に後者に不利である。送り出し側が、各地域の旅行需要を寡占的に支配しているのに対して、台湾では約400社の旅行業者がツアー客の受け入れをめぐって激しい競争を行っている(林哲良[2013b])。「接待社」間での激しい競争により、中国の「組団社」が台湾の「接待社」に支払う費用は、かつてのツアー客一人当たり約1800元から、最近では300~700元にまで下がっているという(林倖妃[2012])。

だが、このような低予算で旅行者の宿泊費・食費・交通費等をまかなうことはほぼ不可能である。多くの「接待社」は、コスト割れを覚悟で中国側「組団社」に低価格を提示し、中国からの観光客の受け入れにしのぎを削っているのである。

※実は、この点については、2013年中国で「新旅游法」が施行され、若干の改善がされたことになっています。ただし、中国全域での実態はどうなっているかについては大いに疑問です。

ここで考えなければならないのは、中国客の訪問で誰にお金が落ちているか、ということです。

確かに、日本でも中国客がバスで訪れたり、個人客が足を運ぶ大都市圏の百貨店や量販店、ショッピングモールなどの小売業者の一部には落ちていることでしょう。ところが、中国客の宿泊や交通、観光の手配を担っている事業者たちにはそれほど利益をもたらしていない。そのため、韓国や台湾では中国客を敬遠する声が出てくるのです。面倒で手のかかる手配業務を一手に担わされているのに、おいしいところは一部の小売業者にみんな持っていかれているというわけです。

ここ数年、上海を中心に日本国内の旅行業者の手配を必要としない個人旅行客が増えており、その傾向はいいことだと思うのですが、中国の本当のポテンシャルは巨大な内陸にあるわけで、団体客が増えることはあっても減ることはないのです。団体客の存在がある限り、この問題は解決しないでしょう。

中国の台頭と東アジアの経済のグローバル化がもたらすひとつの典型的な現象として、日本や韓国、台湾は中国の業者と消費者に直接向き合わなければならない。そういう意味で、我々周辺国は同じ環境にあることを理解しなければならないようです。

by sanyo-kansatu | 2014-12-13 14:51 | 気まぐれインバウンドNews


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