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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 01月 15日

丹東で唯一ショーを撮影できる北朝鮮レストラン「柳京酒店」

丹東は本ブログでもしばしば登場する中朝国境にある中国最大のまちです。

旅先では誰もがその土地の名物料理を味わってみたいと思うものですが、鴨緑江の下流域に位置するこのまちの名物は、地元産のハマグリBBQと、対岸から渡ってきた女性たちが歌舞音曲で魅了する「北朝鮮レストラン」です。

北朝鮮レストランの多くは、朝鮮戦争時に米軍によって落とされた鴨緑江断橋のたもとの河沿いに並ぶように出店しています。

もう6年以上前のことです。このまちのある北朝鮮レストランでカメラマン氏と現地の友人と3人で食事をしながら、ウエイトレスらによる歌謡ショーを観ていました。店内には韓国人客が多く、場もとても盛り上がっていました。我々日本人客がいることを意識してか、テレサ・テンの曲を歌ってくれたり、歓迎ムードに包まれていました。

カメラマン氏は彼女らの歌い、踊る姿を自由に撮影していました。彼だけでなく、韓国人客も一緒になって、その場は撮影会の会場と化していたのです。

ショーが終わると、ひとりの男性が入店してきて、プルコギを注文しました。ウエイトレスのひとりが、彼に呼ばれ、何事か話をしていたのですが、しばらくすると、ショーに出演していたウエイトレスらが我々のテーブルに集まってきて、中国語で「いま撮った写真のデータを消せ」と言い出したのです。

先ほどまでの様子とうって変った彼女たちの剣呑な態度に驚くとともに、なぜこういう事態になったのか訝しく思っていると、現地の友人が小さな声で「あの男は、北朝鮮の監視員です。気を付けてください」とささやきます。

事態の急変に珍しく強く反応したのが、カメラマン氏です。彼は中国に限らず、世界中どこに行っても同じように地元の人たちのスナップを撮るのを常としてきましたが、写真を見せると、みんな喜んで送ってくれ、となるのが普通です。それを、いきなり「データを消せ」と、先ほどまで笑顔を振りまいていた彼女たちに迫られたものですから、ショックとともに腹にすえかねたのでしょう。カメラマンにとってデータを消せと言われるほどの苦痛はないからです。

こうした様子を遠目に眺めていた先ほどの男が、不意打ちのように日本語で声をかけてきました。「彼女たちは、先ほどあなたたちが撮った写真をすべて見せてくださいと言っています。そして、問題があるものは消してほしいと」。

「なぜですか。彼女たちも喜んでいましたよ。それに問題って何ですか。いきなり消せとは失礼じゃないですか」。そうぼくが応じると、彼は言うのです。

「あなたたちがこの写真を週刊誌に売ったら、彼女たちは国に帰ったあと、どうなると思いますか。彼女たちの立場になって考えてみてください」

ずいぶんな決めつけに一瞬イラっとしましたが、なるほど、そんな言い方をするものなのかと思ったと同時に、この男は日本にいたことのある人間だとわかったので、「あなたは日本のどこから来たのですか」と逆質問してみました。関西方面のようでした。

こういう場面になると、もっとその男を質問攻めにしたくなってしまうのがぼくのたちですが、カメラマン氏がこの場には耐えきれないため、帰ると言い出したので、そこで話は終わりました。店を出ると、鴨緑江断橋の薄暗いネオンがぼんやりと光って、川面に映っていました。ひどく後味の悪い夜の思い出です。

その後、何度も丹東に来ましたが、このまちの北朝鮮レストランでは撮影は行いませんでした。実際、数年前からこのまちでは、何人に限らず、ウエイトレスやショーの撮影は禁止になっていたのです。きっとこの種のトラブルが問題化されたためでしょう。

ところが、昨年7月、2年ぶりに丹東を訪れたとき、現地の友人が「この店だけ撮影OK」と連れてきてくれたのが「柳京酒店」でした。

場所は、鴨緑江断橋のすぐそばです。店内は広く、他の北朝鮮レストランとは違い、内装もそこそこ洗練されています。どうやら中国人経営のレストランのようです。
丹東で唯一ショーを撮影できる北朝鮮レストラン「柳京酒店」_b0235153_10234283.jpg

丹東にある北朝鮮レストランのなかで、唯一歌謡ショーの撮影が許されているのは、そのためでしょう。他店と違い、ショーは1日2回。12時30分と18時30分に始まりますが、早めに予約をしておかないといい席が取れない人気店なのだそうです。

実際、店内は国内外の観光客でいっぱいでした。実は、この近くに北朝鮮の経営する5階建てのレストランがあるのですが(なんでも世界最大の北朝鮮レストランというふれこみです)、そちらは閑古鳥のようです。やはりここは中国。客のニーズに応えられなければ、商売はうまくいかないものです。ここに北朝鮮式ビジネスのジレンマがあります。

さて、演奏が始まりました。最初の「パンガプスムニダ(お会いできて嬉しいです)」こそチマチョゴリ姿でしたが、それ以後はありがちなショーではなく、バンド仕立ての軽快なスタイルがこの店の特徴のようです。これまで中国各地、そして東南アジア方面でも北レスを見つけると足を運んできましたが、ここはショー自体に新しい趣向が感じられて面白いです。
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もうそこらじゅうで彼女たちをバックにした記念撮影が始まっています。
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彼女はもしかしたら中国人かもしれません。ちょっとあか抜け方が他のNKガールたちとは違っていました。こうした共演も中国人経営だからできることなのでしょう。
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料理は中華と朝鮮の折衷です。味は……まあこんなものでしょう。
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ところが、今回もちょっとしたトラブルが発生しました。どうやら写真はOKですが、動画はNGだというのです。それを知らずにデジコンで動画を撮っていたら、いきなりウエイトレスが近づいてきて、カメラを取り上げようとするのです。あまりの強引さに怒るというより、呆れてしまいました。およそ客に接する態度ではありません。まったく、もうひどいんですから……。やれやれ。

あとで聞くと、YOU TUBEにアップされるから動画はNGだとか何とか言っていました。

彼らにとってレストランの経営には、海外から(特に同胞である韓国から)の悪意の視線をめぐる葛藤がつきまとうようです。
丹東で唯一ショーを撮影できる北朝鮮レストラン「柳京酒店」_b0235153_10203654.jpg

柳京酒店
http://www.ddliujing.com

by sanyo-kansatu | 2015-01-15 10:24 | ボーダーツーリズム(国境観光)


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