2015年 01月 22日
2014年の訪日外国人旅行者数1300万人突破で弾みのつく日本のインバウンド業界。 年末から今年初めにかけて関係者に話を聞いていると、中国、台湾、香港など訪日客の半分近くを占める中華圏への過度の集中ではなく、アセアンやオセアニア、欧米を含めた市場の分散化を期待する声が強いことを実感します。 なかでもここ数年、観光ビザの緩和施策で訪日客の増えているアセアン市場への関心の高さは突出しているようです。規模でいえば訪日客全体の1割強と、中華圏に比べればまだ小さいものの、タイを筆頭にマレーシア、シンガポールといったすでにノービザ化が実現している国々も含め、基本的に「親日的」とされるアセアン市場への関係者の期待は大きいようです。2015年はアセアン統合の年でもありますし、昨年訪日数で高い伸びを見せたベトナムの市場動向や特性について考えてみたいと思います。 1月20日、日本政府観光局(JNTO)が発表したリリースによると、ベトナムの2014年の訪日客数は初めて10万人を突破し、12万4300人(前年度比47.2%)です。 JNTOのリリースでは、ベトナム市場について以下のように解説しています。 「ベトナムの訪日旅行者数は124,300 人で、3 年連続で過去最高を記録し、初めて10 万人を突破した。月別では、2012 年1 月以降、36 カ月連続で各月の過去最高を更新し続けている。査証緩和に加え、円安の進行に伴う訪日旅行の価格低下、羽田便の増便をはじめとした座席供給量の増加、従来よりも手頃な価格での航空券の販売、共同広告、有名人歌手を起用したミュージックビデオの制作およびイベント実施、ベトナム語よる情報発信強化などのプロモーションが、増加要因として挙げられる。また、観光客だけでなく、留学生、技能実習生なども増加傾向にある。なお、9 月30 日より、ベトナム国民に対する数次ビザの大幅緩和が実施された」。 このうち、「羽田便の増便をはじめとした座席供給量の増加」については、昨年7月、羽田空港の国際線枠の拡大に伴い、全日空やベトナム航空のハノイ・羽田線、ベトナム中部都市ダナンから初の成田線も就航するなど、座席数の拡充を指しています。 では、ベトナムの訪日旅行市場の現在の姿はどのようなものなのか。HISホーチミン支店の井口唯さんに話を聞きました。 ――ベトナム人の一般的な日本ツアーのコースや日程、料金を教えてください。 「ツアーコースは9割以上が大阪→京都→名古屋→富士・箱根→東京、またはその逆をたどるゴールデンルートです。 一般的な日本滞在中の日程は以下のとおりです。 1日目 朝大阪着 神戸・大阪観光 大阪泊 2日目 京都観光 観光後名古屋へ 愛知県泊 3日目 富士・箱根観光 河口湖の温泉ホテル泊 4日目 東京観光 東京泊 5日目 早朝便で帰国または東京観光後、午後帰国 ゴールデンルートの料金は2,000ドル程度です。この金額には全日程の宿泊や観光、食事、ホテル、査証、バス、保険などすべてが含まれています」。 ――他のアジア諸国の訪日ツアーと比べてベトナムならではの特徴はありますか。 「いまのところベトナムの訪日ツアーの内容には他の国と比べて特徴は少なく、どこの旅行会社も同じようなツアーを出し、同じような価格設定というのが現状です。社会主義の国であるため、まだ規制が多く、自由な価格競争も難しいのです。たとえば、弊社がすべて5つ星ホテルに泊まるデラックスツアーや、札幌雪祭りやハウステンボスへ行くツアーなどのスペシャル企画を打ち出しても、なかなか売れません。 ちょっと面白いのは、ゴールデンルートでは必ず神戸に立ち寄ります。その目的は、瀬戸大橋を見て神戸牛を食べることです。実際には神戸牛は大阪でも食べられますし、わざわざ往復2時間かけて神戸に行くより、大阪をじっくり時間をかけて観光したほうがいいと思うので、弊社では神戸ではなく、他の旅行社との差別化という意味で、たとえば大阪のインスタントラーメン発明記念館などを組み込んだツアーを企画してみるのですが、ツアーコースに神戸が入っていないと選んでくれません。宿泊についても、東京や大阪にこだわり、八王子や立川ならいいけど、横浜はダメという判断です。このようにベトナム人は先入観が強いというか、ちょっと頑固でミーハーなところがあります」。 ――「神戸牛を食べるなら神戸でなければならない」というような思い込みも、海外旅行が始まって間もない国の人たちに共通することかもしれませんね。そんなに何度も日本に来られるわけではないから、来たからには当初の目的を絶対はずせない、という思いが強いのでしょう。リピーターの多い国の人たちとは感覚が違いますね。ところで、ベトナム人は日本のどんなことに関心があるのでしょうか。それがツアー内容にどう反映されているのか。ベトナム人らしい立ち寄り先はありますか。どんなお土産に人気がありますか。 「日本の伝統的なことより有名なことに関心があるように思えます。たとえば、六本木、歌舞伎町、銀座、道頓堀、富士山、雪、寿司などでしょうか。 一般にブランドものより100円均一やドンキホーテ、ヨドバシカメラなどの量販店での買い物を好みます。そのため、東京や大阪などで必ずショッピングフリータイムを2、3時間設けます。 ベトナム人らしい立ち寄り先というのは特にありません。お土産はお菓子や食品などを買う傾向が強いです。スーツケースや電化製品などを買う方もいますが、他の東南アジアのお客様より少ないように思います」。 ――ベトナム人は日本食に問題ありませんか。またホテルで何かお困りのことはありますか。またそれ以外でお困りのことは。 「日本食に対してはほとんど問題ありません。ただ、ベトナムの食事がそうであるように、あまり手の凝った料理は理解されません。焼く、ゆでる、煮る、揚げる、といったシンプルな料理が喜ばれます。一度、肉じゃがやチラシ寿司、湯葉などをご提供したことがあったのですが、日本食とは理解されず、不人気でした。焼肉やしゃぶしゃぶ、寿司定食、和定食など、日本食としてよく知られているわかりやい料理が好まれます。ひとつ注意しなければならないのは、ベトナムではいま中国との関係が良くないため、中国客が多いレストランにお連れするとクレームを受けることがあります。 ホテルでは特に困ったことはありません。クレームもほとんどないです。ただし、ベトナムではどんなに小さいカフェでも、家庭でもWiFiが当たり前のように普及しています。そのため、WiFiがないホテルに泊まると驚かれます。こういう点に関しては、あらかじめ日本の遅れているところとしてご理解いただくようにしています」。 ベトナム国家旅行局の統計によると、近年のベトナム人の主な出国先とその数は、中国100万人、カンボジア100万人、タイ50万人、シンガポール30万人、マレーシア20万人、韓国11万人だそうです。ただし、中国への渡航はビジネス目的が多いと考えられます。 2014年の訪日ベトナム人数は12万4300人。まだ時間はかかりそうですが、今後の伸びしろは大きいです。
by sanyo-kansatu
| 2015-01-22 10:53
| “参与観察”日誌
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