2015年 05月 14日
昨日(5月13日)、東京プリンスタワーホテルで「2015年北京旅游推介会(北京観光資源説明会)」というイベントがありました。主催したのは、中国国家旅游局と北京市旅游発展委員会で、日本の業界やメディア関係者を集めて「もっと中国へ観光を!」とアピールすることが目的です。 ここ数年、日本を訪れる中国人旅行者が増加しているのに対し、日本から中国を訪れる旅行者は大幅に数を減らしています。ピークだった2007年には400万人近い日本人が中国を訪れたものの、2014年は271万7,600人(前年度比5.6%減)で4年連続減少しているようです。 日本人の訪中客6%減、昨年=4年連続マイナス(NNA.ASIA) http://news.nna.jp.edgesuite.net/free/news/20150206cny008A.html ここではその理由はおくとして、先月11日に日中韓観光大臣会合が東京で開かれるなど、今年に入って両国の民間交流を促進するための動きもみられるなか、北京市による説明会がほぼ5年ぶりに実現したというわけです。 「最大の問題は、日本人が中韓両国に行かなくなったこと」なのだろうか?(第7回日中韓観光大臣会合) http://inbound.exblog.jp/24367145/ ところが、その説明会の中身ときたら…。ちょっとひどいものでした。 その日のメインコンテンツであるはずの北京の最新観光事情をパワポで紹介するくだりは、30年前のやり方と基本的にはほとんど変わっていない、といっても言い過ぎではないものでした。 北京とその郊外の有名スポットの写真をただ順番に見せてありきたりの説明をするだけのものだったからです。確かに、30年前にはなかったオリンピックスタジアムや劇場、スキー場なども含まれているわけですが、いまどき海外の人間の誰がそんなものに魅力を感じることでしょう。地方からの国内旅行者向けの発想です。 ホテルの玄関でばったり日本政府観光局の知り合いの方に会ったので、会場では一緒に説明を聞いていたのですが、彼はこう言っていました。 「全然マーケティングをやっていないようですね。ただ美しいもの、いいものを並べるだけで、相手が何を望んでいるか検証しているとは思えません」。 まったくです。 確かに、北京は世界でも有数の歴史遺産の宝庫です。新旧ともども文化的な施設の集積度も圧巻です。今年は故宮博物院の公開(1925年)が始まってから90周年にあたるといいますし、文化観光という観点では、上海など足元にも及びません。何回訪ねても、次にまた行きたい場所がいくつも見つかります。 北京の故宮博物院90周年、初めて夜間開放試みる http://j.people.com.cn/n/2015/0302/c206603-8855891.html だからこそ、これまで特に工夫をしなくても、世界から多くの人たちが北京には訪れたのです。 ところが、最近の中国の統計によると、「香港・マカオ、台湾を含む14年の入境者数は0.5%減の1億2,849万人。減少幅は前年の2.5%から縮小したものの、マイナスは3年連続」(上記NNA.ASIA)。グローバル観光人口の拡大する今日のアジアにおいて、中国は外国人観光客数が伸び悩んでいる珍しい国といえなくもありません(ただし、香港・マカオ、台湾を除く外国人の入国者数は0.3%増の2,636万800人ということです。都合によって香港・マカオ、台湾の数字を入れたり、はずしたり、なんだか微妙な話ですね)。北京市も実は、入域外国人数は減っています。それでも日本人は約25万人で第3位なんだそうです。 ぼくは中国の旅行書を制作している人間なので、中国を訪れる日本人がこれほど減ってしまうことの影響は日々感じています。両国の政治関係がどうであろうと、中国というのは面白い国であるという認識は変わりませんから、それなりに努力しているつもりなのですが、中国側がこの体たらくではどうしようもないという気がしてきます。自分からいうのもなんですが、中国に対する貢献を考えれば、ぼくは立場上怒ってもいいんじゃないでしょうか…(冗談ですよ)。 北京市の関係者は、今年中国は「シルクロード観光年」だといいます。ちょっと待ってください。習近平政権の意向をくんだつもりかもしれませんが、新疆ウイグル地区は、ここ数年テロが頻発しているため、知り合いの「地球の歩き方 西安・敦煌・ウルムチ(通称「シルクロード編」)の編集担当者は刊行を遅らせざるを得ない状況になっているのです。ところが、北京市の関係者は「シルクロード地域もいまやインフラが整ってきています」と話していました。こういう鈍感さを見せられると、政治的にそう言わねばならないのだとしても、こちらは言葉を失ってしまいます。 それにしても、このやる気のなさについて、どう考えればいいのか。彼らだって政府のお金を使って、訪日しているのでしょうに…。会場ではいろんな意見が聞かれました。 あるガイドブック編集者はこう話していました。 「先方は国内観光客が多すぎて、どこでも入場制限するほどの混雑ですから、日本人が減ったところで痛くも痒くもないのだろうな、と中国に行くたび思うんですよ」。 また日本在住の中国人編集者も「いまの中国の旅游当局はアウトバウンド(中国人の海外旅行)には関心があるけど、インバウンド(外国人の中国旅行)については積極的ではない」と言います。 まあそんなところでしょう。でも、これは日本だけの話でもないようです。 ここ数年、ぼくは台北やバンコクなどの旅行博を視察しましたが、中国の展示ブースのお粗末さは、もうみるも無残な状況で、こんなことならなぜ出展するのだろう? と疑問を持ったほどです。やっても意味がないと思うと、とたんに手を抜いてしまう。まったく、中国人ってわかりやすいなあと思ってしまいます。 台湾で中国本土ブースが不人気な理由(台北ITF報告その2) http://inbound.exblog.jp/21375685/ しかし、その一方で北京や上海で開かれた旅行博を視察していると、彼らがもっと魅せるための企画や趣向を打ち出す能力があることも知っています。アウトバウンドに関しては、見ごたえのある濃い内容のプログラムを用意することができる人たちなのです。 2014年の中国人の海外旅行、調子はどうですか(上海WTF2014報告その3) http://inbound.exblog.jp/22698019/ その話を日本政府観光局の方にしたら「やっぱり官主導ではいけませんね」とひとこと。 実は、来週(22日~23日)日本の旅行業者約3000名の訪中団が北京に行くそうです。久しぶりに人民大会堂に日本人を大勢招き入れて、会食するのだとか。まあいいんですけどね。 街場の旅行会社の店舗の前に並べられるパンフレットやチラシから「中国」「北京」「上海」などの文字がすっかり消えてしまったいま、この状況を変えたいといちばん思っているのが、日本の旅行業者なのでしょう。これは好き嫌いの問題ではありません。やはりツーリズムというのは双方向であるべきだとぼくも思います。 訪中団が戻ってきたら、「中国」行きの旅行パンフレットが並ぶことになると思いますが、さあどれほどの効果があるでしょう。これまで多くの人が知らなかったような中国の斬新な魅力が描かれていなければ、心を動かされないと思います。それが中国の国内旅行者向けの現代的なビルや施設の紹介をメインとした都市観光を強調するようなものだとしたら、ちょっと厳しいでしょうね。外国人、少なくとも先進諸国のツーリストが魅力を感じるのは、そこではないからです。 個人的には、北京の文化観光の質・量両面での奥深さや最新の事情をもっと多くの人に知ってほしいと考えています。現代アートや独立電影といったアンダーグランドなカルチャーシーンも、2000年代ほどの勢いはないものの、やはり北京らしく深くこの地に根づいた世界が見られ、断然面白いです。これからは時間をつくってblogでも紹介していきたいと思います。 【追記】 この当時はこのように書きましたが、その後、日本の旅行会社の店舗に「中国」行きのパンフレットが並ぶことはなかったようです。
by sanyo-kansatu
| 2015-05-14 13:02
| “参与観察”日誌
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