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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 05月 22日

日本の家庭薬が“爆買い”される理由~台湾のドラッグストア研究家が書いた購入ガイドがスゴイ!

今年2月、上海で著作を手にして以来、台湾のドラッグストア研究家の鄭世彬さんのことをあれこれ書いてきましたが、昨日やまとごころ.jpで記事にまとめたので、転載します。

http://www.yamatogokoro.jp/report/2015/report_13.html

日本の家庭薬が“爆買い”される理由
台湾のドラッグストア研究家が書いた購入ガイドがスゴイ!


今年の春節や桜シーズンに、中国客が最も熱心に購入したのは、ドラッグストアで販売される市販薬や化粧品だったという。その背後には、台湾のドラッグストア研究家の書いた購入ガイド書があった。同書は中国本土でも刊行され、それを持って来店する中国客も現れている。著者の鄭世彬氏が語る「台湾で日本のクスリが愛される理由」とは。

財務省が今月13日に発表した2014年度の国際収支によると、日本と海外のお金の出入りを示す経常収支の黒字幅が4年ぶりに増加。その要因のひとつが、訪日外国人旅行者の消費(朝日新聞2015年5月14日)だとメディアは報じている。

一方、春節や桜のシーズンの中国“爆買い”報道はもはや恒例だが、今年彼らが最も熱心に購入したのは、ドラッグストアで販売される市販薬や化粧品だったと中国メディア(レコードチャイナ2015年3月25日)は指摘している。

その時期、都心のドラッグストアに連日大挙して押しかける外国人観光客の姿が見られた。彼らの“爆買い”ぶりはどれほどのものなのか。どんな商品が人気なのか。まずは関係者の話から始めよう。
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人気は日本の定番家庭薬

東京と関西を中心に店舗を展開するOSドラッグチェーンの國米実支社長によると、外国客が目立って増えてきたのは去年からという。

―昨年10月からの免税改正の影響でしょうか。増えたのは秋からですか。

「いや、どっと増えたのは去年の春先から。消費税導入前に3月特需があって、4月以降はドスンと売上が落ちるかと思っていたら、そうでもなかった。これは外国客のおかげ」。

―だとすれば、外客効果は本物ですね。どこの国の客が多いですか。

「うちの場合は、売上でいうと、いちばんは中国。全体の4割。次いで台湾客が2~3割、そして韓国、マレーシア、シンガポール、タイという順。欧米客も多いが、彼らはそんなに買わない。必要なものをちょこっと買う感じ。やっぱり買い物はアジア客。

最近ではキットカットが1日100ケース(12個入り)売れる。マレーシアの人に聞くと、向こうでは1個700円らしい。抹茶味やわさび味など、日本にしかないものを買っていく」。

―中国客はやはり“爆買い”?

「彼らは値段も聞かないで買っていく。たとえば、『救心』(救心製薬)。一度に2、3箱、お一人様お買い上げ3~4万円はよくある」。

―他にはどんな商品が人気ですか。

「肝油のドロップ。中国は一人っ子政策だから、子供が大事。風邪薬やかゆみ止めなど、子供用のクスリを買っていく。ベビー用品も多い。

大人向けなら、胃腸薬の『強力わかもと』(わかもと製薬)や『エビオス錠』(アサヒフードアンドヘルスケア)、疲労回復薬の『アリナミン』(武田薬品)など。人気は日本の定番家庭薬。みなさん商品の写真をコピーして何枚も束にして持ってくる。欲しい商品の画像をスマホで見せられることも多い」。

日本チェーンドラッグストア協会によると、全国のドラッグストアの総店舗数は1万7953店(2014年)。前年より390店舗増加し、総売上高も6兆679億円(前年比101.0%)と伸びは鈍化しつつも成長している。一方、1店舗当たりの売上高は3億3799万円(前年比98.7%)と微減傾向にある。それだけに、売上に貢献してくれる外国客の消費が注目されるのは当然だろう。

中国ネットに現れた「神薬」リスト

昨年秋、中国のネットに以下の記事が掲載されたという。

日本観光、この「神薬」は買うべし!中国人の心をつかんだ日本の優れもの―中国ネット(レコードチャイナ2014年9月5日)
http://www.recordchina.co.jp/a93733.html

そこには、頭痛薬の『EVE』(エスエス製薬)や『口内炎パッチ』(大正製薬)など、日本で購入すべき12種類のクスリが紹介されていた。ドラッグストアで販売されている市販薬である。でも、いったいこの情報元はどこから来たものなのか。

そのひとつの手がかりとなるのが、昨年刊行された『東京コスメショッピング全書』という中国書だ。日本の優れた医薬品や健康・美容商品、化粧品をジャンル別に選んでカタログ風に分類し、解説した案内書である。まさにいま訪日する中国人観光客が最も知りたい情報が一冊にまとめられているというのだから、驚きだ。

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『東京コスメショッピング全書(东京美妆品购物全书)』(中国軽工業出版社 2014年)

著者は台湾出身のドラッグストア研究家の鄭世彬氏。彼が台湾で書いた本が、中国の出版社の目にとまり、簡体字版として刊行されたものだ。ドラッグストア関係者の話では、同書を手にして来店する中国客の姿も見られるという。

「フリーの翻訳家だった私のもとへ日本で買ったクスリを持ってきて何が書いてあるか教えてほしいという問い合わせがよくあった。知り合いの出版社と相談し、2012年2月、日本のOTC医薬品を解説する購入ガイドを出版した」(鄭氏)。

その後、読者から化粧品のガイドもほしいとの声があり、同年11月に刊行したのが、中国版の原本である『東京藥妝美研購』だ。これが好評で、日本の5分の1以下の人口の台湾で約1万部売れた。
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『東京藥妝美研購』(晶冠出版社 2012年)

日本のクスリはよく効き見た目もおしゃれ

3月上旬、訪日していた鄭世彬氏に話を聞いた。

―この本の読者はどのような人たちですか。

「OTC医薬品の本は20~60代までの男女で、コスメガイドは20~40代の日本好きな女性たち。台湾では読者を集めて日本のコスメセミナーも開いている」。

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鄭氏が主催する台湾のコスメセミナー会場は若い女性であふれる

―本を書いたきっかけは、知り合いから日本のクスリに関する質問が多かったからだそうですが…。

「私が日本に行くというと、家族や知り合いから必ずクスリを買ってきてと頼まれる。台湾では、日本のクスリをお土産として配る習慣がある」。

―台湾の人たちは、どんなクスリをお土産に買うのですか?

「たとえば、かゆみ止めの『ムヒ』(池田模範堂)や『ウナクール』(興和)。台湾は日本に比べて暑いから、虫が多い。胃腸薬では『キャベジンコーワ』(興和)が人気。私の母は胃腸が悪いので、いつも買ってきてほしいと頼まれる。台湾のおばさんたちの間では『キャベジン』はすごい薬だという噂が口コミで広がっている」。

―なぜ日本のクスリは人気なのでしょうか。

「効き目もそうだが、日本のクスリはパッケージがおしゃれなこと。一見クスリに見えないのがいい。それに台湾で買うより断然安い。たとえば、目薬『サンテFX』(参天製薬)は台湾では350台湾元(約1000円)くらいだが、日本のドラッグストアなら300円前後で買える」。

―そんなに値段が違うのですか。まとめ買いにしてお土産としてみんなに渡せば、喜ばれそうですね。

「化粧品も日本では台湾の半額に近い気がする。もうひとつの理由は、台湾の薬事法の関係で、同じ日本のメーカーの商品でも、台湾製では一部の成分が添加されていないケースがけっこうある。

たとえば、台湾製の『キャベジンコーワ』には脂肪を分解する酵素のリパーゼが添加されていない。いちばん肝心な成分なのに、台湾では市販品に添加してはいけない。

頭痛薬の『EVE』に含まれているイブプロフェンも、ようやく今は台湾でも解禁されたが、少し前まで禁止だった。この成分はよく効くので、『EVE』は台湾の20代~30代の若いオフィスワーカーに人気がある。男女関係なく、オフィスのデスクの引き出しに入っていると思う」。

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『EVE』(エスエス製薬)は台湾の若い世代に人気

―クスリ以外ではどんなものがありますか。

「たとえば、『休足時間』。台湾人はバイクに乗る人が多く、ふだんあまり歩かない。でも日本に行くと地下鉄に乗るので、いつもの倍以上歩くから、足が疲れる。そんなとき、ホテルでひんやりしたシートを貼ると気持ちいい」。

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ドラッグストアの店頭に置かれる『休足時間』(ライオン)

台湾の都市部に暮らす人たちは、日本と同じような現代的な生活を送りながら、気候や風土、習慣が違うため、さまざまなニーズがあるようだ。パッケージがおしゃれなことのポイントが高いというのも、なるほどである。

台湾客が中国客を先導する

―鄭さんの本は中国でも刊行されましたが、日本のクスリに対する関心は中国でも高まっているようです。昨年中国のネット上に現れた「神薬」リストの商品の多くは、鄭さんの本で紹介されたものでした。

「中国のネットに広まる日本の商品情報の大半は、台湾や香港経由のもの。たいてい数年遅れで突然広まることが多い。しかし、いったん広まると、波及するスピードは速いので、彼らは都心の量販店に殺到し、まとめ買いする。それが“爆買い”の真相だ。

でも、団体客の多い中国人と台湾人では、日本に来ても足を運ぶエリアや購入商品が違う。台湾人は日本をよく理解しているので、私の本でもなるべく中国客が行かないスポットを紹介している。たとえば、吉祥寺や自由が丘などだ。台湾人は一般の日本人が買物をするのと同じ場所に行って買物したいと考えている」。

この話は、前述したOSドラッグチェーンの國米実支店長の以下の指摘と符合する。

「店の立地によって売上は違う。都内で売上が多いのは観光客の多い上野や新宿、渋谷、原宿など、大阪なら心斎橋、難波、黒門市場、船場くらいで、郊外店は必ずしも売上が伸びているわけではない」。

日本の事情をよく知る台湾客たちが、中国本土の旅行者の一歩先を訪れていることが見えてくる。しかし、結局中国客もそれに気づき、後追いする。鄭氏の発信する情報の影響力は計り知れないといえるだろう。

5月中旬、今年4回目となる鄭氏の訪日は「東京コスメガイド」の第3弾の執筆のための取材が目的だ。どんな企画を考えているのだろうか。

「現在制作中の第3弾では、リピーターの多い台湾人読者のために、東京以外のご当地コスメの企画を考えた。台湾人にも人気のある金沢の地元コスメを紹介する予定。また都内のスーパーの取材も進めている」。

鄭氏はいまや中華圏の訪日旅行者が見せる旺盛な購買シーンの先導役といえるだろう。だが、彼がスゴイのはそれだけではない。毎月のように日本を訪れ、ドラッグストアを自分の足で視察し、医薬品や化粧品のメーカーを直接取材するという地道な積み重ねの成果が、今年1月に台湾で上梓された最新刊『日本家庭藥』に結実しているからだ。
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『日本家庭藥』(帕斯頓出版)と著者の鄭世彬氏(1980年生まれ。台南市在住)

同書は100年以上の歴史を持つ日本の老舗家庭常備薬メーカー34社を紹介したムック本だ。

「日本の家庭薬がなぜ台湾の人たちに人気があるかというと、実際に使ってみてよく効くと実感しているからだが、その背景には古くは400年もの歴史をもつ日本の老舗医薬品メーカーの存在があることに気がついた。そこで各メーカーにご協力いただき、それぞれの定番商品の誕生秘話や創業者の努力、企業の発展の歴史を紹介した。いま日本で花開いているドラッグストア文化は、これら老舗企業の歴史があってこそだと私は思う。その素晴らしさを台湾の読者に伝えたかった」。

台湾出身の鄭氏は、我々日本人が当たり前と思ってそのありがたみを忘れていた家庭薬の価値を解き明かしてくれたのである。

おかしな中国語表示が氾濫している

そんな鄭氏は最近、日本に来て気になることがあるという。

全国の観光地や家電量販店、ドラッグストアも含めて、おかしな中国語の使われ方をした表示や商品コピーが氾濫していることだ。かつて日本人は海外、特にアジアの国でおかしな日本語表示を見つけ、脱力感を味わいつつ面白がっていたものだが、同じことがいまや日本でも起きているというのである。

鄭氏が見つけたおかしな中国語表示をいくつか紹介しよう。
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「从清晨到深夜 你可以购买便利店 上午7:00~2300(全年无休)」

この表示を見たとき、鄭氏は思わず声を上げたという。なぜなら、ここには「早朝から深夜まで、あなたはコンビニ店を購入できます」と書かれているからだ。購入できるのは商品であって、コンビニ店舗そのものではない。正しくは「可以在便利店买东西 7:00~2300(全年无休息日)」だろう。

次は某量販店の告知。「万引きは犯罪です。発見次第、警察に通報します」と日本語では書かれているが、中国語簡体字の表記はこうだ。
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「高是犯罪・找到在次序和警察通」

これでは中国人にはまったく意味がわからないという。こうした不可解な中国語表示が中国客の脱力感を誘い、好意的に解釈してもらえればいいのだが、鄭氏はこのままではいろいろ支障もあるのではないか、という。

「たとえば、高額なブランド品や化粧品のコーナーでこうした間違い中国語表示を見かけると、なかには品質を疑いたくなる人も出てくるのではないか」。

でも、そんなに難しく考えることではないと鄭氏は言う。

「最近では外国客がよく利用するショッピング施設に中国人スタッフを置くことが多くなった。まずは彼らにチェックさせるといい。ただし、中国人は出身地によって方言もあり、言葉の使い方が異なるので、本当を言えば二重のチェックも必要。台湾人には中国人の使う中国語はかなり違和感がある。そうした両岸や地方による違いも理解している正式な中国語翻訳会社に発注するのがベストだと思う」。

安易に翻訳ソフトに頼るのは間違いのもとだという。もっとも、逆によく事情を理解していると感心したケースもあったそうだ。

「いま台湾では日本のオーブンレンジが人気だが、中国本土ではまだブームになっていない。先日、新宿のビックロに行ったとき、オーブンレンジのコーナーの商品表示に繁体字が使われていた。これを買うのは台湾客だけだから繁体字が使われていたわけで、この店はよくわかっているな、と思った」。

実際に、ビックロの免税品コーナーに行くと、オーブンレンジの表示は「過熱水蒸氣水波爐」と繁体字表記されていた。同店の販売スタッフは、中国本土客と台湾客の売れ筋商品の違いを理解したうえで、簡体字と繁体字を使い分けていたのだ。

外国客が増えると、これまで考えてもみなかったことが起こるものだ。彼らといかにフレンドリーなコミュニケーションを築いていけるかは販促の基本。そのためにも、こうした指摘には謙虚に耳を傾けていきたいものだ。

※鄭氏が指摘してくれたおかしな中国語表示のその他の実例については、中村の個人blogの以下の記事を参照してほしい。
「これはやばい!? 日本にはおかしな中国語表示があふれている」
http://inbound.exblog.jp/24370756/

by sanyo-kansatu | 2015-05-22 07:58 | 最新インバウンド・レポート


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