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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 05月 29日

いまの上海には「自由」や「民主」があふれてる!?

中国に行くと、街で見かけるいろんなものが気になって、つい路上写真を撮るのが習慣になっています。2月に上海を訪ねたとき、いちばん気になったのが、地元政府が作成した広報ポスター&グッズの数々でした。
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というのも、上海の街角に「自由」や「民主」ということばがあふれていたからです。

市政府だけでなく、各区がそれぞれ趣向を凝らした広報ポスターをつくって、街に貼り出しているのです。

まず黄浦区から。
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興味深いのは、「自由」「平等」「公正」「「法治」などのことばについて、すべて中国の古典からの出典先を添えて説明していることです。これらはもともと中国出自の概念であると言いたいのでしょう。
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中国の切り絵をデザイン化したしゃれたものもあります。ただし、メッセージは「愛国」。いくらデザイン性が高くても、この手のストレートなナショナリズムの表出に対しては心理的抵抗を感じざるを得ません。
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たいてい再開発から取り残された古い住宅街に貼られています。現代的な高層マンションやショッピングモール、インテリジェントビルの多い地区にはあまり見られません。
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これは人民公園の中に置かれていたものです。公園を散歩していて、いきなり「法治」といわれても…。
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これは外灘でいま再開発が進む円明園通りで見かけたポスターです。メッセージはおなじみの「中国夢」。場所は元英国大使館の跡地にできたザ・ペニンシュラ上海の裏手で、1930年代当時の租界建築を再生し、高級なショッピングストリートにつくり変えようとしています。

オリジナル度の高い黄浦区に対して、徐匯区は中国政府がつくった天津名物の泥人形を使ったポスターを適当にアレンジして使っているようです。
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紅口区では、「自由」「平等」「公正」「「法治」という文字の踊るこのポスターが印象的でした。
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これは中央宣伝部が制作したもののようで、いろんなパターンがあります。版画や彩墨画(水墨画のタッチで描く水彩画)を使っているのが特徴です。
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これは市内の工事現場に残っていた古いタイプのポスターですが、数年前までは中央宣伝部がつくるポスターはこうした革命イメージを喚起するものが主流でした。習近平政権になって「中国夢」を謳い出したとたん、ビジュアルイメージが大きく変わっています。
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これは豫園近くの住宅地の広報ポスターで、上海市反邪教協会による法輪功に代表される宗教団体の活動の禁止を呼び掛ける内容になっています。
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いろいろ見てきましたが、今回ぼくがいちばん驚いたのが、冒頭に挙げた崇明県(島)のフェリー乗り場で見かけた投票による選挙をイラスト化したポスターです。崇明県(島)は上海の北、長江の中州にあたる中国で2番目に大きな島です。いまは橋が架かっていますが、市内との交通は現在もフェリーがよく使われます。

もともと「富強」「民主」「文明」「和諧」などのキーワードごとに子供を使ったイラストがあしらわれたポスターでした。
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でも、外国人がこれを見たら、いつから中国では投票による選挙が始まったのか? そう思うでしょう。もちろん、地方自治レベルでは一部で始まっているという話は聞きますが、投票風景の様子が広くメディアで紹介されたのを見たことがないせいか、いったいこれは何を言わんとしているのか。未来はこうなる、ということなのか?

ふつうに考えたら、この図柄は選挙による投票を推進する目的のように思われるからです。日本でいうところの「選挙に行きましょう」というメッセージが込められていると理解したくなります。上海市内の広報ポスターでは「民主」ということばは盛んに使われていますが、伝えようとしているのは、ここまで明確なものではありません。それとも、崇明県(島)ではすでに地方自治の選挙が実施されているということなのでしょうか(あとで調べてみたいと思います)。

いずれにせよ、いまの上海でこれらのことばが街にあふれていることをどう理解したらいいのか。こういう質問を上海人にするとたいてい嫌がるので、無理に聞こうとは思いませんでしたが、明らかに胡錦濤政権時代に比べると、一般的な意味での「自由」や「民主」は後退していることが周知されているなかで、なんともいじましい気がしてなりませんでした。汚職退治による権力闘争を終わらせ、政権運営が安定するまでは、「自由」や「民主」は待てというのなら、わかるのですが。まあそんな正直な姿勢を中国の為政者が見せるわけもないか。

でも、なんでこんなことするのかなあ……。

by sanyo-kansatu | 2015-05-29 13:57 | のんしゃらん中国論


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