2015年 07月 09日
エクスペディアやBooking.comなどの海外ホテル予約サイトの参入によって、日本の国内宿泊マーケットは変わりつつあります。それは単に外国客の利用が増える(国内客の減少を補てんしてくれる)というだけではなく、これまでの宿泊サービスのありように新しい刺激を与えてくれていると思います。 ホテルが外国客を受け入れるメリットは何か(エクスペディアの取材から) http://inbound.exblog.jp/24669753/ もっとも、外資が参入する以前に、日本にもオンライン旅行会社は存在しました。楽天トラベルやじゃらん、一休などは広く普及しています。 なかでも楽天トラベルは、2001年3月に楽天の旅行部門として立ち上がり、02年に独立。05年には旅行業一種を取得し、本格的なオンライン総合旅行サイトとなりますが、早くとも10年にはJTBに次ぐ国内旅行市場取扱額2位にまで成長しました(その後、近畿日本ツーリストに再び2位の座を明け渡したり、取り戻したりといった状況が続いています。同社が急速に取扱額を拡大できたのは、店舗を持たず、ユーザーと宿泊施設の双方の便宜を追求するオンライン旅行会社の特性を消費者が支持したからでしょう)。 先日、楽天トラベルの関係者に話を聞くことができました。 訪日外客が増えるなか、楽天トラベルはインバウンドに対してどんな取り組みを始めているのか。海外客に人気の宿泊施設にはどんな特徴があるのか。以下、関係者とのやりとりです。 ―楽天トラベルでは、訪日外客の取り込みに向けてどんな取り組みを始めているのですか。 「2014年7月、楽天トラベルは多言語化サイトの大幅なリニューアルを行いました。10ドメイン、7言語(英語、フランス語、中国繁体字、中国簡体字、タイ語、韓国語、インドネシア語)のサイトとなり、2020年の東京オリンピックに向けて海外訪日客を取りにいきます」 ―利用者の伸びはどうですか。どこの国が多いですか。 「おかげさまで前年度比60~70%増です。米国、香港、台湾などが多いです。利用者は基本的にFITですから、日本に興味があって、リピーターの多い国や地域が多くなると思います。また楽天グループでは海外拠点づくりを進めていて、特に台湾では楽天のECサイトがあり、台湾楽天カードも発行しています。弊社の場合、トラベル単体ではなく、グループのシナジーを活かしてプロモーションしていくというのが基本の考え方です」。 ―確かに、旅行もショッピングも同じプラットフォームで商取引されるのですから、結局、日本のファンを増やしていくことがシナジー効果を生むということですね。日本が好きで旅行に行きたい人たちと、日本の商品をショッピングしたい人たちを分けて考える必要はない。 ところで、御社は海外客の予約件数の多いホテルの情報を有しておられると思います。海外客に人気のホテルを教えていただけますか。 「楽天トラベルでは、全国約2万9500施設の中から、毎年顕著な宿泊実績や高い顧客評価を得られた宿泊施設に対して『楽天トラベルアワード』を表彰しています。いくつかのジャンルに分かれるのですが、海外客に人気という意味では、『インバウンド賞』を受賞されたホテルがそれに当たります」。 楽天トラベルアワード2014 http://travel.rakuten.co.jp/award/2014/ ―ここ数年の「インバウンド賞」受賞の施設をみると、エリア的には関東・甲信越が多いようですが、やはり全体でみると、外国客の楽天経由の予約件数はやはりこのエリアが多いといえますか。 「『インバウンド賞』は宿泊施設単位で受賞しているものですが、エリア単位で見た場合は、上記エリア以外でもご予約は多数いただいております。実際、楽天トラベルが全国を約300のエリアに分けているなか、すでに95%のエリアで外国客の予約が入っています」。 ―そうですか。楽天経由でほぼ全国の宿泊施設に予約が入っているのですね。 「もちろん、実際に多いのはゴールデンルートとなる東京→富士山→関西エリアと、沖縄県、北海道です。しかし、楽天トラベルはFIT、特にリピーターとなって日本に複数回こられているだろうお客様の予約も多いため、九州エリアの福岡県・大分県・熊本県・鹿児島県や、中部の岐阜県・愛知県・長野県、北陸の石川県、中国四国の広島県や香川県などさまざまなエリアの予約が増えており、全国への分散化が見られます」。 ―個別の施設でいうと、上野のノンスモーカーズホテル(元キューブホテル)はここ数年連続して受賞しているようですね。この圧倒的な強さはどこにあるとお考えですか。禁煙は外客受入にとって重要なファクターといえるのでしょうか。 「日本に比べて海外では禁煙文化が浸透しているため、「禁煙」「喫煙」の区別に関しては日本よりも敏感になっているようです。 (参考) http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_smoking_bans_in_the_United_States http://www2u.biglobe.ne.jp/~MCFW-jm/tobacco.htm ノンスモーカーズホテル(元キューブホテル)は、インバウンドだけではなく、国内のお客様も含めて「非喫煙ポリシー」を徹底しています。これが圧倒的な強さにつながっていると考えられます。また、浴室はシャワールームにして外国人の方も満足のいく最低限の設備にすることで、その他のスペースを広げた点や価格帯がマッチしていることも選ばれる理由になっているかと思います」。 ノンスモーカーズホテル(元キューブホテル) http://www.nonsmokers.jp/nosmoking/ ―アパホテルグループの受賞も多いですね。渋谷道玄坂店と京都駅前堀川通店。これらの人気の理由は何でしょうか。 「アパホテルはビジネスホテルのカテゴリーに入りますが、シングルでも横120cmの広いベッドやシャワー、アメニティなどゲストのための細かいサービスが行き届いていて、中級ホテルとしてはサービスレベルが高いと評価されていることが考えられます。また駅に近いことも外国客にとってはホテル選びをするうえでのポイントになっていると思います」。 ―受賞施設以外にも、最近外国客に人気が出ているホテルはありますか。 「たとえば、「休暇村 大久野島」(香川県)や「高野山の宿坊」(和歌山県)でしょうか。 全国の休暇村でいま積極的に外国客の受け入れに力を入れています。なかでも集客に成功しているのが大久野島です。 休暇村 大久野島 http://www.qkamura.or.jp/en/ohkuno/rooms/ 魅力は大自然を満喫できる宿で、瀬戸内海の離島にあることでしょうか。ネットを通じて予約されるFITのお客様はリピーターも多く、東京や大阪のような大都市圏ではなく、自然の豊かなローカルなエリアへの宿泊が増えています。 同じく、高野山の宿坊も、日本の自然と文化を体験できることで人気が上がっています」。 高野山の宿坊 http://www.shukubo.net/contents/stay/ ―これら西日本のローカルな人気宿はどこの国の人たちが多いのですか。 「香港や台湾に加え、欧米の比率が高いです。大阪や広島などの都市部を拠点にしながら、1泊の予約をピンポイントで取り、これらの宿に泊まって地元をゆっくり観光されている傾向が見られます」。 ―ところで、ここで少し話を変えますが、現在海外のホテル予約サイトが続々参入し、訪日客の国内予約の取り込みが急ピッチで進んでいます。それに対し、国内オンライン旅行会社(OTA)の雄である楽天トラベルは、どう立ち向かおうとしているのでしょうか。海外サイトに負けないサービスは何でしょうか。 「現在、海外のお客様を受け入れることに同意いただいた1万8000施設が外国語ページを持っています。日付を指定した検索結果には、海外のお客様向けに宿泊プランを作成され、在庫のご登録を頂いた施設が表示されます。 エリア的な偏りは、多少は見られるものの、全国津々浦々までカバーできているのが楽天トラベルの大きな特徴だといえると思います。 例えば、東京、大阪、京都などのインバウンドのメジャーエリアで検索をした際に、他のOTAさんとくらべ楽天は少し多いくらいですが、四国、東北、前述の高野山を含む和歌山などのローカルエリアを検索すると、大きな差が出ます。検索結果が数件では、ユーザーはそのエリアでの宿泊を選べませんので、ある一定以上の施設の数を各エリアで持つことが、インバウンド需要を伸ばすうえで重要なことだと考えています。 全エリアをしっかりカバーできていることが、楽天トラベルの強みであると同時に、日本のOTAとして担っていくべきところである。そうした結果が、先の高野山や大久野島での予約に繋がっていると考えています」。 ―確かに「宿泊プラン」というサービスは日本オリジナルなもので、海外サイトにはあまりないですね。しかし、国内客には好評の「宿泊プラン」も、海外客には少し複雑に見えるかもしれません。こういうサービスを知らない海外客に支持してもらうには、少しわかりやすく打ち出す必要があるように思います。 「おしゃるとおりで、外国語サイトでは、なるべく簡単でわかりやすい選択肢を付けることにしています。たとえば。『(客室から)富士山が見える』『世界遺産のまち』『しゃぶしゃぶが食べられる』などです。 (例)[ Features ] - Wonderful cuisine - Mt. Fuji-viewing - Nice view room - Japanese-style room たとえば、『富士山』の例はこれです。 Fuji New Kawaguchiko Onsen Hotel New Century http://travel.rakuten.com/hotel/info/49256/ こちらの施設は、施設紹介やプランの詳細で、富士山へのアクセスや客室から富士山が見られることをしっかりPRしており、予約が増えています。 また『しゃぶしゃぶ』については、以下のプランがひとつの例です。 Ryori Ryokan Karaku http://travel.rakuten.com/hotel/Japan-Kyoto-Kyoto_Ryori_Ryokan_Karaku/1849/ Yufuin Onsen Yufu no Irodori Yadoya Ohashi http://travel.rakuten.com/hotel/Japan-Oita-Yufu_Yufuin_Onsen_Yufu_no_Irodori_Yadoya_Ohashi/78074/ 外国語版では、このようにプラン名に入れて紹介しています。詳しく画像や料理について説明することで、予約に繋がっていると考えています」。 ―他にも、日本のOTAならではの仕掛けはありますか。 「たとえば、『楽天朝ごはんフェスティバル』です。旅における「朝ごはん」の大切さに注目し、日本全国のホテル・旅館で提供している美味しい「朝ごはん」を旅のきっかけにしていただきたい! という願いを込め、2010年からスタートしました。2014年には過去最大の宿泊施設様にご参加をいただき、約1000の朝ごはんの中からから日本一の朝ごはんを決定いたしました。 朝ごはんフェスティバルとは? http://travel.rakuten.co.jp/special/asafesta/about.html 楽天トラベルとして、さまざまなベネフィットをオプションとして付け加えることによってより、宿泊施設の単価や価値を上げることができるのではないかと考えております。その付加価値となるものとして、宿が最大限のおもてなしをもって提供している「朝ごはん」を宿泊施設様ご自身にも再認識(おもてなしのこもった朝ごはんの価値を認識)してもらうきっかけにできればと考えています。実際、お客様の声を見ていると、「夕食よりも朝ごはんが楽しみ」や「朝ごはんが良かった」というお声も見受けられました。 また、お客様に対しては朝ごはんをきっかけに旅に出るという新たな旅行需要の創出やより満足度の高い旅行につなげていきたいと考えております。 なかでも2014年、西日本大会で準優勝した京都センチュリーホテルについては、実際に朝ごはん会場にて朝ごはんフェスティバル受賞を大々的に打ち出していただいています。 京都センチュリーホテル http://www.kyoto-centuryhotel.co.jp 同朝ごはんページ http://www.kyoto-centuryhotel.co.jp/restaurant/lajyho/post_95.php 同ホテルには、海外メディアからの取材も来ています。 SUGOI JAPAN - สุโก้ยเจแปน ตอนที่30 "เทศกาลอาหารเช้า" Japanese breakfast (Tokyo) https://www.youtube.com/watch?v=Yrz6z2x713Q SUGOI JAPAN - สุโก้ยเจแปน ตอนที่31 "เทศกาลอาหารเช้า 2" Japanese Breakfast (Tokyo) https://www.youtube.com/watch?v=uAzxjH3StEo この番組はタイのテレビ放送(チャンネル5)やYOUTUBEでの公開が行われています」。 実は、先月ぼくは京都に行く機会があり、噂の朝ごはんを食べに、わざわざ京都センチュリーホテルに早起きして訪ねてみました。2階ロビーにあるビュッフェレストラン「オールデイダイニング ラジョウ」には、アジアからのツアー客であふれていました。朝食に2600円もかけることはめったにありませんでしたが、自家製ローストビーフはわざわざ食べにくる人がいるというのもうなづけました。宿泊客ならこれがフリーというわけですから、前の晩の夕食は軽めにすませておきたいものです。 国内外に限らず、たいていのホテルで朝食を提供しているわけですから、それが美味しいと評判になれば、集客に活かせることは確かでしょう。 こうした日本流のサービスをベースに訪日客の取り込みを図る楽天トラベルのやり方は、エクスペディアなどの海外サイトとはさまざまな点で違うところがあり、これがかえって興味深いといえます。この際、どちらが正しいとかいう必要はなさそうです。訪日客は多様化しており、それに応じたサービスの領域が拡大していくことに意味があると思うからです。
by sanyo-kansatu
| 2015-07-09 11:58
| “参与観察”日誌
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