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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 07月 15日

ラブホテル? いえ、レジャーホテルで、いま外客の取り込みひそかに進行中

ここ数年、訪日客の増加で東京や大阪などの大都市圏のホテルの需給がひっ迫しています。とりわけ大阪は客室不足が深刻なため、市は外客向けに市内のラブホテルの活用をまじめに検討したそうです。「交通の要所である京橋や天王寺などのラブホテル街を対象拡幅などの設備更新に補助金を出して業態転換を促せないか模索」(朝日新聞2014年8月4日 大阪版)したと報じられています。

ところが、関係者によると「進展はなかった」ようです。ラブホテルは個人経営者が多く、新規施設の投資や多言語化の対応などに難があるためです。

こうしたなか、いわゆるラブホテルではなく、清潔でくつろげる客室やカラオケ、ジャグジーバスなどのエンターテインメント設備を備えたレジャーホテル(ファッションホテル、ブティックホテルともいう)の中に、外国客の受入に取り組む施設が現れています。もともとこの種のホテルでは、カップル利用だけでなく、ファミリーやビジネスマン、さらには女子会といったシティホテル的な使われ方もしていました。

関西を中心に47軒のチェーンを展開する「ホテルファイン」(株式会社レジャー計画・大阪市)では、ここ数年順調に外客の取り込みに成功し、宿泊客数を倍々ゲームで伸ばしています。

ホテルファイン
http://www.hotels-fine.com/

今年1月、ぼくは同社を訪ね、以下のレポートの中で一部紹介しました。

訪日客増加で客室も足りない!?  多様化する宿泊ニーズに対応した新サービスや業態転換はどこまで進むか
http://www.yamatogokoro.jp/report/2015/report_11.html

そして先月、同社を再訪し、関則之会長にあらためて話を聞くことができました。

ここでひとつの誤解を解いておく必要があります。同社が展開する「レジャーホテル」という業態は、一般にラブホテルが風俗営業法の管轄にあるのとは違い、一般のシティホテルと同じ旅館業法の管轄の施設です。ただし、立地はたいていラブホテル街などの歓楽地や郊外のロードサイドにあるため、世間は両者を同じジャンルの業態とみなしがちです。これはやむを得ないことだと思いますが、興味深いことに、外国客にはその種の誤解や先入観がないため、受入に際しても影響はまったくなかったといいます。

以下、会長とのやりとりです。

―ホテルファインの外国客取り込みのきっかけや経緯を教えてください。

「弊社はレジャーホテル以外にリゾートホテルの運営もやっている。2008年頃、すでにリゾートホテルではネットで海外のお客様がぽつぽつとお見えになっていた。この年、政府が観光庁を設立させ、これからは海外のお客様を取り込む機運が盛り上がると思った。

そこで、2011年ホテルファインでも自社HPを立ち上げ、一部の客室のネット予約を開始した。当時、この業界では予約を取るという発想はなかった。ウォークインで来るお客様を1日何回転かさせるというのがビジネスモデル。いったん予約を取ってしまうと、部屋を押さえておかなければならない。これは機会損失につながるのではないか、という危惧もあった。だから、全室ではなく、まずは1割程度からネット予約に対応してみようかということでスタートした。

多くの方に誤解されていると思うが、レジャーホテルはラブホテルのように風俗営業の届出をしている施設ではない。ところが、国内の旅行会社やオンライン旅行会社は我々との商談に乗ってくれない(一部取引は始まっている)。関西では「ホテルファイン」という名前が広く知られているのも問題なのだと思う。

その点、海外のホテル予約サイトは理解があった。自社サイトを立ち上げると、エクスペディアやBooking.comなどの営業担当者がすぐに訪ねてきて、登録した。その結果、外国客の予約が入ってくるようになったというわけだ」。

―外客の受入を始めるにあたってどんなご苦労がありましたか。

「最初は外国客のフロントや電話応対が難しかった。外国客は予約を入れた後、よく問い合わせてくる。もちろん、外国語でだ。たとえば、荷物を事前にホテルに送っていいか、ホテルへの行き方など。最初のうちはもたもたしていたが、2年前くらいからようやく対応できるようになった。

海外からどんどん予約が入るが、決済は旅行会社経由の場合もあれば、フロントの場合もある。当然、為替のことを知る必要が出てくる。支払いは事前決済とカードの現地決済があるが、決済トラブルはゼロに近い。海外のサイトでは予約時にクレジットカードを入力する必要があるからだと思うが、むしろ国内客のほうがノーショーがある。

これまでのように、毎日同じ価格で出せなくなった。シーズンや曜日によって価格調整しなければならない。こういった受入態勢づくりはスケールメリットがないとできるものではない。従業員教育やシステム構築には時間とコストがかかるからだ。幸いうちは本社機能があるので、専属でインバウンド担当、予約担当などを配置できた。

こうしたことから、一般のラブホテルやレジャーホテルで外客受入ができるのは一部に限られるだろう。この業界は大半が個人企業。受入には初期コストがかかるし、社員教育が大変。宿泊客が病気になって、病院の手配をしなければならないとき、フロントで外国語対応ができるか。外国客はフロントにいろいろ聞いてくる。近くにおいしいレストランはないか。松坂牛の食べられる店はどこか…。そういうコンシェルジュ機能も求められる」。

―大阪市からラブホテル業界で外国客の受入ができないか相談があったそうですね。

「うちにも大阪観光局の人が来た。そのとき、私はこう説明した。ラブホテルやレジャーホテル業界の経営は、1室月額いくらの売上で組み立ている。それには1日2回転させることも計算に入れている。これらのホテルは初期投資がビジネスホテルより圧倒的にかかる。部屋の広さやお風呂、エンターテインメントの設備などが充実しているからだ。ビジネスホテルの売上額ではとうてい成り立たない。いくら市が施設投資に補助金を出したところで赤字になる。

しかも、うちがいまやっているような運営ができるラブホテルがどれだけあるか。社員教育はどうするのか。

外客受入を始めるとなると、館内案内も多言語化のため全部新しく揃えなければならない。うちもあらゆる表示物を英語と中国語に多言語化した。「トイレは紙を流してください」といったこれまで必要のなかった表示も用意した。食事の問題もある。ベジタリアンやハラル対応だ。外国客は食に対するリクエストが多い。そこで、食事メニューも変更した。うちでは24時間ルームサービスをやっているし、宿泊客には朝食がつく。メニューの種類を増やすことになった。

24時間電話の通訳サービスも始めた。通訳と3者通話ができるシステムだ。フロントにはタブレットも用意した。

外客受入のためには、我々自身が変わらなければならない。経営者が率先して受入態勢をつくっていかないと。海外からお客様がどんどん来るから、なんでもいいから客を取るではいずれしっぺ返しが来る」。

―取り組みを始めて4年、成果は出ているようですね。

「4年前に比べスタッフの語学力が格段に上がっている。最初はクレームも多かったが、最近は店長に宿泊客からお礼の手紙が来るようになった。これまで礼状をもらうなんてことなかった。外国客のリピーターも増えている。

2012年から今年にかけてのネット経由の月ごとの売上、販売客室数をみると、倍々ゲームで伸びている。特に今年3月は単月で約7000室、1室単価も上がり、1万7000円を超えている。
 
ネット予約の8割が外国客だ。やはり桜と紅葉シーズンの売上が高い。特に京都の桜のシーズンは1室単価が4~5万円でも満室になる。というのも、いまの京都の桜シーズンはシティホテルでも1泊10万円がざらになる。それに比べればうちはリーズナブルだからだ。鈴鹿サーキットのときも、ほぼ外国客で埋まる。1週間連泊する客もいる。

これからは限られた部屋をどれだけ高く売れるかが課題だ。レベニューマネジメントの専門スタッフがいて、日々細かく価格調整している」。

―ホテルファインが外国客に人気の理由は何だと思いますか。

「Booking.comでは顧客評価8点以上(10点満点)の施設にアワードを与えているが、うちは多くの施設でいただいている。チェーン47軒のうち外客受入は現在25軒のみ。大阪や京都、滋賀、奈良などだが、少しずつ増やしている。
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考えてみれば、外国客の評価が高いのは当たり前かもしれない。彼らには日本人のような固定観念や先入観はない。スペックそのもので評価するわけだから。なにしろお風呂はジャグジー、室内の音響施設はスピーカー6台装備、100インチのプロジェクタースクリーンがあり、カラオケ、マッサージチェアなど、至れり尽くせりだ。ルームサービスの飲食代も安い。冷蔵庫のドリンクもコンビニ価格。外国客の飲食の利用は多い。

外国客の特徴は連泊が多いこと。たいてい3~4日だが、なかには30日連泊の人もいる。ビジネス出張で利用されているようだ」。

―最近の外国客に新しい傾向は見られますか。また新たなサービスは何かありますか。

「レンタカー利用が増えている。レジャーホテルの特性のひとつが郊外のロードサイド型店舗があること。関西国際空港に14社のレンタカー会社があり、そのうち13社は外国客対応を始めている。そのため、空港からレンタカーに乗ってチェックインされるアジア客が現れるようになった。

日本の交通マナーは世界一。運転しやすい。日本の新車を運転したいというニーズもあるようだ。とにかくレンタカーは安い。関西の場合、大阪を中心に京都や神戸、奈良など各方面に観光地があるが、車で移動すると便利だし、2、3人が乗って移動すると、交通費はかからない。ナビゲーションも多言語化しているので、問題ない。市内に比べ、郊外立地のレジャーホテルは客室料金も安い。駐車場も広くて無料。買い物好きのアジア客は荷物が増えるが、車だと困らない。あとはLCCで来れば、日本の旅行がとことん安くなる。

これからLCCで大阪に来て、レンタカー利用でホテルファインに泊まろうというセットの旅行商品をPRしたいと思う。

また今年に入って中国からのカップルツアーを受け入れている。いわゆるハネムーン旅行で、中国のオンライン旅行会社のC-trip経由で毎月250~300組も予約が入る。中国でも個人旅行が動き出しているのを感じる。

Hotel Fine Garden Juso Osaka (大阪十三精品花园情侣酒店)
http://hotels.ctrip.com/international/686502.html?CheckIn=2015-07-29&CheckOut=2015-07-30&Rooms=2&childNum=2&PromotionID=&NoShowSearchBox=T#ctm_ref=hi_0_0_0_0_lst_sr_1_df_ls_11_n_hi_0_0_0

今年から館内で免税販売も始めた。ホテルのアメニティ、シャンプーや化粧品、香水などの商品に限っているが、客室にカタログを置いている。今後は売り方を工夫する必要がある」。

―今後新規開業などの計画はありますか。

「京都と十三に計画中だ。ただし、ここ数年の土地価格の上昇、特に建築コストの高騰を考えると、採算が合うかどうか頭が痛いところがある。五輪スタジアムが話題になっているように、いまゼネコンはすごい強気になっている。きちんとした技術を持った職人さんの数に限りがあることも影響している。この高値水準は2~3年は続くといわれている。

こうしたことから、新たに土地を買ってゼネコンに頼むと、いまの日本のホテル価格では採算が合わない。世界の主要都市に比べると、東京や大阪はいまでもホテル価格が安いほうだ。ニューヨークやパリでは高級ホテルは10万円台が当たり前。5万円では二流ホテルという感じだ」。

―今後の展望についてお聞かせください。

「結局、ホテルの運営は人の問題だ。施設はつくればいいが、維持管理・運営は難しい。いまの日本には投資したい人間は多いが、運営できる人材が少ないことが問題といわれる。

現在、ホテルファインでは85~90%が国内客(カップルやビジネス利用)、10~15%がインバウンドという比率だが、現在は海外サイトだけと契約している。いまだに国内の旅行会社は色眼鏡で見ているからだが、我々の実績をみれば、いずれ変わっていくだろう。今後我々もさらに変わり続けていく必要があると思っている」。
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ホテルファイン十三店は、大阪市淀川区十三のラブホテル街の一画にあります。
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フロントに置かれたメッセージボードに書かれた外国客による手書きのコメントを見ていたとき、ひとりのブロンドの若い女性がチェックインしてきたのを目撃しました。思わず「あっ」と声を上げそうになりましたが、確かにここは外国人ツーリストがふつうに泊まっているのです。

またホテルのスタッフに客室を案内してもらっているときも、大きなザックを背負ったバックパッカー風の欧米青年が廊下を歩いているのを見ました。実は、十三店にはシングルルームもあり、1泊約5000円で泊まれるのです。しかも、館内には外国客専用のラウンジが用意されています。ここでは食事もできるそうです。
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そもそもこの業態のホテルにフロントがあること自体、ちょっと面白い話ですが、フロントの裏にはスーツケースがいくつも並べて置かれていました。外国人ツーリストたちはチェックアウトした後、昼間は観光に出かけるので、荷物を預かってもらうからです。
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客室は広く、関会長が語るように、大型スクリーンやカラオケ設備、ジャグジー付きの風呂など、至れり尽くせりの環境です。大阪で最高級とされるザ・リッツカールトンやインターコンチネンタルなどの客室と比べても広いうえ、各種スペックに関しては凌駕しているといえます。
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ぼくが20代の頃、北欧から来た友人とその仲間たちが日本のラブホテルは面白いと聞いて、地方に旅行したとき、よく利用していたことを思い出します。彼らはラブホテルという空間に用意されたさまざまな設備や遊び心満点のユニークかつおとぼけデザインを楽しんでいました。

ホテルファインに対する外国客たちのコメントを見せてもらいましたが、多くの人が「ラブホテル」だという認識を持っているようでした。中国のCtripでも、ホテル名は「大阪十三精品花园情侣酒店」。日本名にはない「情侣(カップル)」ということばが添えられています。

たとえば、こんなコメントがありました。

「そう、ここはラブホテルです! しかし、不潔なことは全くありません。宮殿のような客室にプロジェクターが付いています。カラオケと完璧なサウンド設備。テレビの隣にはジャグジーがあります。立地は最高。地下出口のすぐ隣にあります」(梅田店)

コメントの書き手は、それこそ多国籍の人たちで、英仏独語に中国語、ハングル、タイ語もありました。一般に日本のホテルの客室は狭いことで知られているせいか、部屋の広さや設備、アメニティなど好評価のコメントが目立ちました。なかには「立地を除くすべてが良かった」(豊中店)というコメントもありましたけれど。これはラブホテル街という立地をうんぬんしているのではなく、最寄り駅からのアクセスがわかりにくいという意味です。

訪日客の増加で客室不足に悩む大都市圏では、レジャーホテルという業態が外客受入に貢献することが期待されています、ただし、いまの時代、海外予約サイトに登録すれば、予約は入るでしょうが、実際の受入態勢をつくっていくのは、並大抵のことではないことが関会長の話から伝わってきます。

だとしても、この業界にはさまざまな可能性が秘められているのでは、とあらためて思います。

by sanyo-kansatu | 2015-07-15 13:43 | “参与観察”日誌


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