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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2015年 10月 04日

平壌には「消費者」と呼びうる人たちがいるらしい(第11回平壌秋季国際商品展覧会にて)

2年ぶりに平壌に来て、気がついたことがふたつあります。

いずれも表面的な見聞にすぎませんが、ひとつは市内を走る車が増え、一部の交差点で長い信号待ちの車列ができていること。もうひとつは、どうやら平壌に「消費者」と呼びうる人たちがいるらしいことです。

これまで咸鏡北道や羅先特別市などの地方都市ばかり訪ねていたのと、以前に平壌に来たときも、この国特有の「見せたいものだけ見せ、見せたくないものは見せない」管理された観光で、市民生活に触れるチャンスなどなかったせいか、今回あらためて平壌は北朝鮮国内ではきわめて特殊な場所だと感じました。

それを実感したのが、9月21日~24日に三大革命展示館で開かれた第11回平壌秋季国際商品展覧会(The 11th Pyongyang Autumn International Trade Fair)でした。

この展覧会は、朝鮮貿易省所属の朝鮮貿易国際展覧社が主催する商品展示即売会で、春と秋の年2回開催されます。最初の開催は1998年春で、2005年から春秋年2回の開催となりました。出展しているのは、地元朝鮮企業や中国をはじめイタリア、ポーランド、タイ、マレーシア、シンガポール、台湾などの海外企業です。ジャンルは幅広く、工作機械や設備、自動車、電子・電気製品、アパレル関連やバッグ、靴、調理器具などの軽工業日用品、食品、医薬品、健康食品などさまざまです。

詳細については、これまで開催された展覧会の各種メディアの報告や中国の旅行会社による視察ツアーの告知などがネットでも見られるので、参考になると思います。

北朝鮮でカップルに人気の「意外な商品」
なぜ平壌で「消費ブーム」が起きているのか(東洋経済オンライン2015年6月2日)
http://toyokeizai.net/articles/-/71575
北朝鮮に消費ブームがやって来た
副業で外貨稼ぎ、乗馬から自動車購入まで(東洋経済オンライン2014年11月5日)
http://toyokeizai.net/articles/-/51829
春の平壌国際貿易商品展示会観覧ツアー(大連富麗華国際旅行社)
http://www.dllocal.com/travel/item157.html

何より面白かったのは、平壌市民が大挙して買い物のために訪れていたことです。この展覧会は商品即売会場でもあるからです。

以下、会場と平壌市民の様子を見ていきましょう。

この巨大な地球儀が三大革命展示館のランドマークですが、展示即売会場はその奥にあります。
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これが展示即売会場です。
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中に入ると、それはものすごい人ごみです。
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2階に上がって、展示ブースを眺めると会場全体はこんな感じです。
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各種ブースに群がる女性の姿が目につきます。
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そこで、会場内の女性客を中心に見ていきましょう。彼女たちはアパレル関連やバッグ、キッチン、日用品などのブースを中心に押しかけています。

派手な柄物や色鮮やかなプリントのブラウス、ワンピースなどを身に付け、手にはバッグを抱える女性が多いです。これらはおそらく中国製でしょう。ここでの熱気は、市民が食べるためだけでなく、おしゃれや生活を快適で豊かにするための消費に目覚めたという意味で、日本の昭和30年代に近い感じでしょうか。
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彼女たちのファッションセンスは、いま日本を訪れている中国内陸出身の観光客のおばさんに近い気がします。
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炊飯器を手にしたお母さんに連れられた娘はこぎれいな白いシャツを着て、頭に飾りを付け、黒い靴を履いています。
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なかにはこんなホットパンツ姿の女性もいます。
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館内で床に座って“戦利品”を広げ、仲間と物色しているおばちゃんたちもいます。訪日中国人観光客がドンキホーテの前でやってるのと同じ構図に見えます。
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こうしてみると、どんな企業が出展していたのか気になりますよね。出展企業のリストは入場料40元を支払った際、手渡されたので、今度時間があったら分析してみようと思います。

会場の外も見てみましょう。

皆さん、いろんな“戦利品”を手にしています。これが他の国であれば、おばさんたちに「何買ったんですか?」とガイドに通訳させて聞くところですが、そんな当初からの予定のない市民との接触は許されるものではないのが残念です。彼らは我々の行動を逐一上部に報告しなければならないからです。
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ベビーカーを押して買い物に来たお母さんなど、子連れもけっこういます。
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これは家庭用マッサージ器でしょうか。両手に荷物をぶらさげた女性の姿は、どこか“爆買い”中国人観光客の姿を連想させます。とはいえ、実際には大半の市民はそれほどの懐具合であるはずはなく、ささやかな買い物を楽しんでいるように見えました。
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現地ガイドの女性の話では、「この展覧会で売られる商品にはニセモノが少ない」と平壌では言われていて、それが人気の理由となっているそうです。彼女も春の展覧会でバッグを買ったとか。つまりは、市場経済化が進む北朝鮮国内でも「ニセモノ」が氾濫している実態があるようです。

会場の周辺は、車でいっぱいです。
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とはいえ、多くの市民はさすがに自家用車で来るというわけにはいかないようで、タクシーやバスを貸し切って来場している人たちもいました。
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これだけの光景を見せられたら、平壌に「消費者」と呼びうる人たちがいることを認めざるを得ません。いったい彼らはどんな人たちなのでしょうか。このような市民の姿は、平壌以外の地方では(一部の特権階層を除き)まず見かけることはないからです。

改革開放に舵を切った1980年代の中国が、最初広東省から経済自由化と外資の導入を進めたことで、他の地方とはまったく異なる都市空間をいち早く現出させたのと似て(その後、上海、北京などの沿海都市、さらには内陸都市も時間差を経て変容していきました)、この国ではまず平壌の都市空間とそこで暮らす人々の生活を変えようとしています。首都を真っ先に変えようという発想は中国にもなかったことを思うと、見かけに比べ北朝鮮は中国より市場経済の誘惑やそれがもたらすであろう影響に対して用心深くないといえるのかもしれません。

いずれにせよ、いまの平壌で起きていることは、北朝鮮のような国にとってだけでなく、アセアンの経済後進国であるラオスやカンボジア、そしてアフリカや南米などの国々と同様、結果的に中国経済の発展が後押ししているといえそうです。

結局、これまで先進国はこれらの国々を相手に援助はできても、同じ土俵で対等に経済関係を取り結び、市場とすることは難しかった。利益が釣り合わないからです。しかし、中国の場合、地方の中小企業の存在があり、彼らは北朝鮮の地元企業と対等とはいえないにせよ、かなり釣り合う形で合弁や投資が行える関係にあるように見えます(本当のところはよくわかりません。以前、丹東で「朝鮮でビジネスして利益を上げるのは簡単ではない」と語る中国人に会ったことがあるからです。彼は売上金の代わりに膨大な数の朝鮮絵画を受け取るほかなく、地元で北朝鮮美術専門の画廊を開いていました)。

実際、出展している中国企業は、東北三省、特に遼寧省や吉林省のローカル企業が多いようです。中国の国有企業や大手がこの国で中小企業と同じことをするのは無理でしょう。中朝の特殊な政治関係もありますし、そもそも経済関係では釣り合わないからです。中国からみれば、北朝鮮一国でもひとつの省より小さな経済体でしかないのです。人口300万人という平壌程度の都市は中国には地方にいくらでもあります。

それでも、これだけの日用品を求める「消費者」がいるわけです。その規模をあまり大きく見積もるのはどうかと思いますが、今後もこうして北朝鮮国内に中国商品があふれることになるのでしょう。地方に行ってもそうですが、この国の人たちの身なりが以前に比べ大きく変わったのは、安価な中国衣料が流通したからです。特に都市部に住む子供たちの身に着けているものは、中国の子供たちとそんなに変わらないスポーツシャツやパンツなど、一見貧困など感じさせません(ただし、足元を見ると、中国の子供はたいていスポーツシューズを履いていますが、こちらの子供はまだ布靴が多いなど、違いがないわけではありませんけれど)。
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こうしてみると、中国の影響力が、これまで援助対象としかみなされていなかった国々の経済を変えていくことに貢献しているという事実は否定できないように思います。

by sanyo-kansatu | 2015-10-04 14:43 | 朝鮮観光のしおり


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