2016年 06月 23日
今年1月16日、台湾総統選挙が投開票され、民進党の蔡英文主席が当選しました。 数日後、台湾では以下のような報道がありました。中国政府は選挙結果を見て、訪台中国人観光客を減らすと通達してきたのです。 訪台中国人ツアー客3割削減か 、観光産業に打撃 (ys-consulting2016年1月22日) https://www.ys-consulting.com.tw/news/61660.html 観光業界の対中窓口機関、台湾海峡両岸観光旅遊協会(台旅会)は、中国人の訪台ツアー客を3月20日から6月30日までの間、3分の1削減するという通知が、総統選後の18日以降、台湾の旅行会社に中国同業から相次いで伝えられていると明らかにした。住民に台湾自由旅行を許可する対象都市も現在の47都市から4都市へと大幅に減らすとみられ、事実となれば台湾の航空会社やホテルなど観光業界が打撃を受けることになる。22日付経済日報が報じた。 2008年に中国人による台湾観光が解禁されて以降、訪台中国人客は同年の延べ約33万人から昨年の430万人へと13倍に増加。うち自由旅行者は130万人だった。馬英九政権が「1992年の共通認識(92共識)」を基盤に中国と経済交流を進めてきた成果と言えるが、92共識を認めない民進党の蔡英文主席が総統選で当選すれば、中国が民進党政権を締め付けるために訪台中国人客を削減するとの観測は早くから浮上していた。 台旅会によると、中国は訪台中国人ツアー客に開放している1日当たり5,000人の割り当て枠を3分の1減らすほか、住民に台湾自由旅行を認める開放都市も北京、上海、広州、アモイの4都市のみとする方針を一方的に決めたとされる。 台旅会上海弁事処の李嘉斌主任は、同会も関連業者も正式な通知は受け取っていないと指摘し、中国側の海峡両岸旅遊交流協会(海旅会)を通じて確認中だと説明した。 中国では訪台ツアーや自由旅行の割り当て枠は中国国際旅行社など国営の大手旅行会社が握っており、中国や台湾の旅行会社が業務を請け負っている。上海錦江旅遊などは、上海や周辺都市での訪台ツアー客の出境申請は現在正常だが、問題の政策が実施されれば、それに合わせて訪台ツアー客数を調整することになると説明した。 ■「過度の動揺は不利」 旅行業界団体、台北市旅行商業同業公会(TATA)の柯牧洲副理事長は、訪台中国人が減少すれば、台湾のホテル、飲食店、ギフトショップなどが比較的大きな打撃を受けると指摘。一方で旅行関連業者に対し、過度の動揺を見せれば蔡新政権が中国人旅客に対する依存度を下げようとする上で不利になるとして、冷静な対応を呼び掛けた。 ■ホテルの供給過剰悪化も なお交通部観光局が21日発表した統計によると、台湾の観光ホテル全体の昨年の客室稼働率は69.3%で前年比3ポイント下落した。1日1室当たり客室売上高(RevPAR)は2,641台湾元(約9,200円)で、32元の減少となった。減少は10年以降で初めて。経営効率悪化の背景にはホテルの供給過剰がある。昨年の訪台外国人旅行者は前年比1%増加して延べ1,000万人を突破したが、宿泊業の総客室数は昨年末に20万5,000室へと7.3%増えており、増加ペースは供給が需要を大きく上回っている。こうした中で訪台中国人客が減少すれば、ホテルの供給過剰はさらに深刻さを増し、業績への悪影響が懸念される。 まったく身もふたもない話です。相手が気に入らないので観光客を減らし、経済的なダメージを与えてやろうというわけです。 中国人観光客の“台湾離れ”が顕著に、総統選の“報復”か?―台湾紙(レコードチャイナ2016年3月25日) http://www.recordchina.co.jp/a131693.html 訪台中国人旅行市場の解禁は、国民党政権になった2008年から。この数年で急増し、10年にそれまでトップだった日本を抜き、15年は約400万人になりました。日本に比べ国土の小さい台湾に400万人の中国客が来襲したというのは、受入面でさぞ大変だったことでしょう。 一般に中国人の台湾旅行は7泊8日をかけて島を一周するそうです。 これはある台湾の雑誌による少し古いデータ(2011年)ですが、日本客と中国客の台湾での費目別消費額を比較していて、ホテルや食費、交通、娯楽などは日本が多いのに、買い物だけ中国は2倍になっています。 それゆえ、台湾でも日本と同様、いやそれ以上に徹底した免税店のコミッションに頼る激安ツアーモデルが横行しています。 中国客が増えても大歓迎といえないのは韓国、台湾でも同じらしい http://inbound.exblog.jp/23872141/ そのせいか、台湾では次のような声も聞かれるそうです。 中国人客減少、ネット世論は大歓迎 (2016年6月17日) https://www.ys-consulting.com.tw/news/64767.html 蔡英文政権への交代が決まって以降、台北市内の観光スポットでは中国人観光客を目にする機会は明らかに減った。今後夏休みの7~8月には中国人の訪台観光ツアーはさらに大きく減少し、自由旅行客も減ると報道されている。中国寄りの中国時報などのメディアは「ホテルが休業した」「観光バス会社が損失で悲鳴」といった影響を相次いで伝え、危機感をあおっている。 ところが、インターネットでの台湾市民の反応はほぼ歓迎一色だ。関連ニュースへのコメントは「よかった。もう1人も来なくていい」、「やっときれいな阿里山や日月潭に行ける」、「中国人観光客は増える方がよほど迷惑だ」といったものが続々と並ぶ。 台湾では、日本よりはるかに中国に対する政治的な緊張や反感があるでしょうから、そうでも言ってやりたい気持ちはわかります。しかし、今年4月、中国政府はそれまで「事実上免税だった個人輸入扱いの荷物に一般貿易並みの税金」を課したことで、日本での爆買いは下火になりつつあります。これは日本に縁がない話ではないのです。 こうした中国政府の子供じみたふるまいによって被害を受けるのは近隣諸国ですが、実のところ、自国民もそうです。こんなことばかりやっていては、中国客の受入国が彼らを尊重しようとする意欲がなくなってしまうかもしれないからです。なにごとも為政者の面子が優先で、自国民の利益は二の次ですむと考えているからでしょう。 このように日本のインバウンド振興にとって、政治に影響されやすい中国市場は最大の不確定要因といえます。
by sanyo-kansatu
| 2016-06-23 11:10
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