2016年 12月 10日
2016年8月29日~31日にかけて、北朝鮮北東部を襲った台風は、中朝国境を流れる豆満江(中国名:図們江)流域に大雨を降らせ、大洪水を引き起こしました。 多くの被災者や住居を失った北朝鮮住民が出たことは、洪水から数日後、北朝鮮の通信社が伝え、政府が「異例」の支援要請をしたことも報じられました。 北朝鮮北東部で「史上最悪」の洪水、4万4000人が避難(AFP2016年09月03日) http://www.afpbb.com/articles/-/3099671 北朝鮮で深刻な洪水被害、政府が異例の支援要請(CNN2016.09.13) http://www.cnn.co.jp/world/35088955.html もっとも、事態の深刻さは、豆満江の対岸に住む吉林省延辺朝鮮族自治州の住民の目にはすでに明らかでした。とりわけ、北朝鮮との国境ゲートのある図們市からは、川向かいの咸鏡北道・南陽のまちが丸見えだったからです。 実は、北朝鮮北東部を大雨による洪水が襲ったのは、2015年夏に続くことだったのですが、昨年の場合、被災したのは、豆満江流域ではなく、羅先市などの日本海側に面した地域で、中国から見える場所ではありませんでした。今年4月に現地を訪ねた人の話では、中国国境から経済特区の羅先にある羅津港まで結んでいた舗装道路(中国側が羅津港の利用と引き換えに建設した)が、樹木をほとんど伐採してしまったはげ山からの鉄砲水で寸断され、多くの民家が流され、被災者が続出したそうです。それでも、彼の訪ねた8ヵ月後、被災地には仮設住居が建てられていたといいます。 高級車を連ねて経済特区を爆走 中国の観光客と北朝鮮に行ってみた(「週刊東洋経済」2012.9.29号) http://inbound.exblog.jp/19750680/ 今年の洪水後の南陽での復旧作業と住宅建設もまた、かなりのスピードで行われたようです。中国から(つまりは、世界から)丸見えの場所である以上、朝鮮側としては「見られている」ことを意識し、果断な処置を行ったことも考えられます。 その復旧の様子は、朝日新聞瀋陽支局の記者が定期的にウォッチングしていました。 (@図們)北朝鮮の洪水被災地はいま(朝日新聞2016年10月29日) http://www.asahi.com/articles/ASJBT5W3MJBTUHBI029.html この記事では、被災前の今年3月10日の南陽の写真から、大雨で豆満江があふれんばかりに増水している8月末、被災直後の9月10日、集合住宅の建設が進む9月24日の写真が掲載されていて、興味深いです。 北朝鮮、過酷な「200日戦闘」手作業で集合住宅建設(朝日新聞2016年11月1日) http://www.asahi.com/articles/ASJBX7WZQJBXUHBI04Y.html 百年に一度といわれた洪水で被災した南陽は、11月中旬に入ると、約2カ月半の復旧作業によって、この写真のように、集合住宅の並ぶ町並みに一変しました。この写真は、現地在住の知り合いが送ってくれたものです。 ちなみに、こちらは10月中旬の写真です。この時期には、まだ住宅の工事が続いていました。 これらの写真を見て、ぼくはかなり驚きました。というのは、今年7月中旬、図們を訪ねていたからです。そのとき、撮った南陽の写真がこれです。 大水によって荒々しく削り取られた川沿いも、1ヵ月半前はこのように緑で覆われていたのです。 以下、南陽のまちが見渡せる小高い丘から撮った当時の写真を並べてみましょう。 集落の中に学校が見えます。 高校生くらいの男子生徒がサッカーをして遊んでいます。 中朝を結ぶ鉄道国境の朝鮮側です。 撮影したのは、日光山森林公園の展望台です。 同じ場所には、2014年夏にも訪ねていて、そのとき撮った写真はここにアップしていますが、今夏までとはほぼ変わっていませんでした。 図們から対岸の南陽(北朝鮮)の町を眺める(2014年夏) http://inbound.exblog.jp/23906840/ しかも、1ヵ月半後には大水となる豆満江を遊覧ボートに乗って、今回ものんきに中朝国境体験を楽しんだりしていたのでした。 図們江で遊覧ボート乗船。草むらからこちらを覗く北朝鮮兵にドキリ http://inbound.exblog.jp/23907143/ こうしてのどかなまちの景観は、大雨による洪水で大きく変わってしまいました。もうすぐ豆満江も氷結することでしょう。 【追記】 この記事をアップした3日後、前述の朝日新聞瀋陽支局の記者が図們を訪ね、南陽の写真を配信しました。延辺の友人が送ってくれた写真が撮られてから半月後(12月1日撮影)の様子といえます。 洪水被災地、50日でアパート群完成 北朝鮮、ほぼ手作業で(朝日新聞2016年12月13日) http://www.asahi.com/articles/DA3S12702547.html 今夏に台風被害を受けた北朝鮮の咸鏡北道南陽で、新たに建設されていたアパート群が完成した。北朝鮮の朝鮮中央通信によると、咸鏡北道の被災地では先月11日までに、約1万1900戸分の住宅の建設が終わったという。 国連人道問題調整事務所によると、北朝鮮北東部を8月末から9月初めにかけて襲った台風による洪水被害の死者・不明者は500人を超え、約6万9千人が住まいを失った。南陽でも軍部隊や住民が動員され、5階建てアパートなどの建設が始まった。毎日早朝から深夜までほぼ手作業で建設にあたり、50日ほどで完成させた。 中朝国境を流れる図們江(北朝鮮名・豆満江)の対岸にある中国・吉林省延辺朝鮮族自治州図們の高台からは、入居したとみられる住民の姿が確認できた。図們の住民は「電気が不足しているのか、部屋の明かりは少ない」と話した。
by sanyo-kansatu
| 2016-12-10 09:35
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