2017年 05月 23日
一般の日本人が知らないうちに、これほど広範囲に中国人観光客を乗せた「越境白タク」が広がっていた。では、この何が問題だと考えるべきでしょうか。 成田空港で中国系白タクの摘発が始まる!? http://inbound.exblog.jp/26867015/ 日本の近隣諸国の国際空港に比べ、成田空港から都心部へのアクセスは極端なコスト高といえます。京急やバス会社など民間による格安な交通手段も登場し、LCC客などを中心に利用者は増えていますが、タクシーで2000~3000円も出せば市内に行ける中国をはじめとしたアジアからの観光客にすれば、10倍近いことにまず驚くでしょう。 最近のアジアからの旅行者は、家族や小グループが多い。1台のタクシーでは乗り切れず、ワゴンタイプの車が最適。こうしたなか、海外からスマホアプリで簡単に予約できて、適度な価格帯で利用できるワゴン車が支持されるのは、顧客のニーズに正対するという意味でも、当然のことだったのです。 そもそも成田空港は、日本人が利用する白タクの温床としても知られていました。こんな記事がネットにあります。 [成田空港アクセス2010]白タクの温床!? https://response.jp/article/2010/01/11/134609.html 記事によると、 成田空港の白タクドライバーの逮捕事例は、年に数回ある程度。地元警察は「空港周辺に白タクが存在することは認めているが、通報や苦情がない限りは警察も動けない」ともらす。 成田空港で客を待つタクシー運転手は彼らを見て「白タクは今も多い。客引き自体が違反なのに堂々とやっていて、我々の仕事にも影響受ける。万が一事故にあっても何の保障もない。最後に損害こうむるのは客」「東京方面への客がほとんどだから、1人乗せれば確実に2万円が入る。終電を逃した人たちを乗せる白タクと違い、空港が動いている時間帯すべてが“営業時間”となる」という。 ここであらためて、なぜ白タクは違法となるのか整理しておきましょう。 ある法律事務所のサイトに、こんな説明があったので紹介します。 「白タク」はなぜ法律で禁止されてきたのか? 解禁のメリットとデメリットとは(シェアしたくなる法律相談所2015年11月20日) https://lmedia.jp/2015/11/20/68379/ ポイントは以下のとおりです。 ・タクシー事業の許可を受けた場合、緑地に白のナンバーを付けて運送するが、許可がない場合、一般の白地ナンバーを付けてタクシー営業をすることになるため、「白タク」という。 ・白タクが違法である法令上の根拠は「道路運送法」にある。国土交通大臣の許可なくタクシー事業を行うと、「三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科」。 ・この規制にはメリットとデメリットがある。メリットは、許可制により運転手に高い技能が求められることや過当競争が抑制され、一定のサービスレベルが確保されること。 ・一方、規制をなくすことで、タクシー事業が行き届いていない過疎地域でサービスが供給されたり、従前よりも安価にサービスが提供される可能性が高い。 こうしたことから、昨年春、安倍首相は「白タク解禁」の意向を表明。ただし「過疎地での観光客の交通手段に、自家用車の活用を拡大する」との趣旨だといいます。一方、これを受けて、タクシー業界は「安全性に問題がある」とすかさず反対しました。 「ライドシェア」 “白タク合法化”に業界猛反発(テレ朝news2016/03/08) http://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000069848.html とはいえ、過疎地の交通問題などを抱える日本では、ライドシェアの推進に対する期待もあります。その代表格のひとり、UberJapan社長はこう訴えます。 Uber、日本でも攻勢へ ライドシェア(相乗り)で地域を変える 髙橋 正巳(Uber Japan 執行役員社長) https://www.projectdesign.jp/201602/logistics/002681.php (以下、記事の一部抜粋)「白タクは運転手の素性が不明で、料金も不透明な営業形態で、何かあっても連絡先がわからない。きちんとした保険に入っているかも不明で、大変危険なもの。一方でUberは、ドライバーのバックグラウンド・チェックや評価システムが存在し、リアルタイムで走行データを記録しています。過去に問題があるドライバーは参加できませんし、ユーザーは事前にドライバーを知り、評価が低いときは乗車をやめることもできます。リアルタイムで運行を管理しているので、万が一の事故やクレームにも対応でき、保険も完備しています」 ポイントとなるのは、Uberのようなライドシェアは「白タク」とは別物という主張です。ただし、これは民泊のAirbnbと同様、ホストやドライバーとマッチング会社の関係性や社会的位置付けをどう了解するかによって見方が変わるでしょう。 あるシェアリングエコノミーの研究機関は、次のようなまとめ記事を配信しています。 【まとめ】ライドシェアリング事業は違法の「白タク行為」にあたるのか? http://sharing-economy-lab.jp/share-ride-illigal-white-taxi (以下、記事の一部抜粋)「素人ドライバーのマッチングサービスが日本で実現するようになると、地方の人口減少により公共交通機関の確保が難しくなった市町村では、住民にとって買い物や通院など日常を支える移動手段となり、新たな収入を得る場にもなり得ると言われています。また交通手段がないために、これまでたどり着くのが難しかったような場所も観光スポットになる、というような利用方法も期待されています」 こちらのポイントは、「素人ドライバーマッチングサービス」の可能性をどう評価できるかでしょうか。 政府による「白タク解禁」表明も、規制緩和に向けて、これらの意見をふまえたものだといえるでしょう。確かに、過疎が進む地方では地元住民の足の問題があるのに加え、たとえ魅力的な観光地があっても、交通機関が圧倒的に不足しているため、外国人観光客を送り込みたくても、できない現状があるのですから。 さて、ここらで冒頭の問いに戻りましょう。 中国配車アプリを利用した「越境白タク」の何が問題なのか? それは、結局、こういうことではないでしょうか。 いま日本国内でライドシェアをめぐる議論や推進に向けた各方面の取り組みが進んでいます。ところが、これらの地道な努力を一切無視して、中国の「越境白タク」は増殖しています。このあまりに無頓着なフライングを見過していては、日本の社会にとって有用なライドシェアの実現をぶち壊しにしてしまうのではないか…。 たとえば、「過疎地での観光客の交通手段に、自家用車の活用を拡大」「人口減少により公共交通機関の確保が難しくなった市町村では、住民にとって買い物や通院など日常を支える移動手段」といった日本のライドシェア推進者たちの主張は、中国配車アプリサービスではほぼ省みられることなく、東京など大都市圏のど真ん中で運用されています。そこに中国客のニーズが集中しているからなのですが、この実態をまったく知らないことにしてまともな議論が進められるものでしょうか。 確かに、中国配車アプリでは、大都市圏から地方の観光地への中国客を乗せたドライブサービスも展開しています。リストに載っている観光地はニーズの多い有名観光地ばかりですが、個別のケースでは、あまり多くの外国人観光客が訪れていない場所へのドライブサービスもありうるでしょう。外国客を地方へ分散させる貴重な足となっていることは否定できない面もあります。彼らが市場のニーズに直結したサービスを提供しているのは間違いないのです。 団体から個人へと移行した外国人観光客の移動のニーズを捕捉することはそんなに簡単ではありません。それゆえ、我々は外国客のニーズに即応したサービスを提供できずにいる。しかし、すでに自国で定着したシステムを持つ中国の配車サービスは、日本でこそ優位性を発揮し、好んで利用されているのです。 日本国内で増殖している中国の配車アプリとはどんなサービスなのか? http://inbound.exblog.jp/26867237/ すでに触れたように、中国配車アプリのドライバーたちの大半は日本在住の中国人で、営業に必要な第2種運転免許を取得しているとは思えませんが、ライドシェアが解禁されると、、「素人ドライバー」自体は違法でなくなります。タクシー業界からの反発が強いのはそのためですが、現状の「越境白タク」は追認されてしまうことになります。 シェアリングエコノミーの信奉者の中には、こうした違法をものともしない果敢な中国のビジネス手法を評価する人もいそうですが、それは中国の特殊な国内事情をよく知らないからではないでしょうか。中国で配車サービスが普及した背景には、同国のそれまでの恵まれない交通事情、さらにアプリ会社の猛烈な競争があり、利用のためのインセンティブが強く働いていたことがあります。日本のIT企業がそこまでのサービス合戦に投資ができるとは思えません。それに、仮に白タクが合法化されたとして、国内にそれを正業にするような日本人がどれほどいるでしょう。 日本と中国では制度や環境があまりに違い、人々のニーズも異なる以上、どんなに優れたサービスでも、その国に合った運用法を見つけるしかないのです。 中国でライドシェア(配車アプリサービス)が一気に普及した理由 http://inbound.exblog.jp/26874125/ 中国の「越境白タク」の問題は、すでに書いたように、このサービスを仕切る事業者は日本国内には存在せず、金銭のやりとりもない。おそらくドライバーへの支払いは、中国の電子決済システムによるのでしょう。ドライバーは日本在住者でありながら、在外華人なので、必要であれば、なんらかの日本円への換金手段があると思われます。そして、顧客へのドライブサービス活動の実態だけが、日本国内で行われる(実際には在日中国人らがすでに事業化しているという話もありますから、実態は別のステージに移りつつあるかもしれません)。この事態を黙認していいかどうか、という判断になるのだと思います。 (参考) なぜ次々と中国人観光客の周辺で違法問題が起こるのか? http://inbound.exblog.jp/26880001/ タクシー運転手に聞く「日本のライドシェアが進まない理由」と今後すべきこと http://inbound.exblog.jp/26891045/
by sanyo-kansatu
| 2017-05-23 16:23
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