2017年 09月 13日
ホルムスクにある旧真岡王子製紙工場の廃墟に潜入し、撮影をしていると、ふたりのロシア人の少年がぼくらの前に現れました。どうやらふたりは、怪しげな外国人が廃墟の中にいる様子を見て、何事だろうと近づいてきのでした。 というのも、あとで聞いた話では、彼らにとってここは小さな頃から慣れ親しんだ遊び場だったからです。 旧真岡王子製紙工場は大正8年(1919年)に樺太工業が操業を開始し、昭和8年(33年)に同社を吸収合併した王子製紙に受け継がれたそうです。戦後もしばらく操業していましたが、1990年代半ばに停止しています。 製紙工場だけに、構内には広い通路や水路が張りめぐらされています。そのため、地面が露出している部分にはフキなどの植物が少しずつ侵食しています。 工場本体の格子状の壁面はほぼ破れるように穴が開いています。トライポフォビア(集合体恐怖症)の傾向のある人は、この光景に嫌悪感を抱くかもしれません。実は、ぼくはその傾向があり、この光景を直視するのに抵抗があります。 6階建ての工場の中は吹き抜けで、巨大な丸い穴が空いています。製紙工程として必要な、木材チップを高温・高圧で煮て、繊維分を取り出すための蒸解釜が置かれていたのでしょうか。 建物の中に蒸解釜がいくつか並んでいたことがわかります。すでに操業を停止して20年以上たっていますが、構内は朽ち果てるままに残されているのです。 工場の隣に立つ煙突も独特の存在感を放っています。建物の上部は草が生え、自分たちがどこにいるのかわからなくなります。 海に向かって工場を正面から見たカットです。手前に鉄道の線路があり、ネヴェリスク方面につながっています。 再び少年たちのスナップです。ふたりは慣れ親しんだ構内をあちこち案内してくれました。中学生と小学生というふたりは簡単な英語を話しました。「きみたちのお父さんやお母さんはここで遊ぶのは危ないからと、ここに来るのを禁じたりしなかったの?」。そんなことを聞いたところ(つもり?)、彼らは首を横に振りました。 工場廃墟の周辺には団地が並んでいました。かつてこの工場の労働者が多く住んでいたはずです。操業停止後、彼らはどうしたのでしょう。ふたりの少年も、この丘の上の団地に住んでいるといいます。 大正、昭和の時代に建てられた樺太の王子製紙工場は、操業を停止してもなお、堅牢すぎて、壊して更地にするのにコストがかかりすぎるという理由で、そのまま放置され、廃墟となっています。 言葉にするとつまらないのですが、往時は多くの労働者がうごめいていた近代的な大工場がただ朽ち果てるのを待っている無残な光景を前に、ただ息を潜めて凝視せざるを得ません。以前長崎の軍艦島の撮影もしたことのある佐藤憲一さんにとっても、サハリンで出合った廃墟の光景は特別のものだったようです。 今回、ぼくらはサハリンに残る5つの廃墟(ユジノサハリンスク、ホルムスク、ドリンスク、ポロナイスク、コルサコフ)をを訪ねています。佐藤さんは「こんな光景は、マニアでなくても見てみたいと思うだろう」と言います。 廃墟探索には危険がないとはいえないので、個人責任の世界となりますが、上記5カ所にはユジノサハリンスクから鉄道やバスなどの公共交通を使って誰でも行くことができます。 ホルムスクの場合、ユジノサハリンスク駅前から郊外バスで約2時間。ホルムスクのバスターミナルから海を右手にとことこ町外れまで20分ほど歩くと、この驚くべき世界に出合うことができます。
by sanyo-kansatu
| 2017-09-13 20:22
| 日本に一番近いヨーロッパの話
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