人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2017年 09月 27日

通訳案内士&ランドオペレーター制度の規制緩和の話より事態はもっと進んでしまっている!

先週終わったツーリズムexpoジャパンですが、22日(金)の業界日にもうひとつのセミナーがありました。

対馬を訪れる韓国客40万人。理由はexpected unfamiliarity(似てるけどどっか違う)という国境特有の体験
http://inbound.exblog.jp/27141258/

訪日外国人の増加にともなう制度変更が懸案となっていた、来年から施行される新しい通訳案内士制度やランドオペレーター登録制度に関する観光庁からの説明です。
通訳案内士&ランドオペレーター制度の規制緩和の話より事態はもっと進んでしまっている!_b0235153_944234.jpg

膨大なパワポの資料が提示されたので、面白そうなものだけ挙げてみましょう。

まず「言語別通訳案内士登録者数」です。圧倒的に英語に偏っています。
通訳案内士&ランドオペレーター制度の規制緩和の話より事態はもっと進んでしまっている!_b0235153_944953.jpg

次に「都道府県別通訳案内士登録者数」。東京、神奈川などの首都圏の一極集中です。
通訳案内士&ランドオペレーター制度の規制緩和の話より事態はもっと進んでしまっている!_b0235153_9444415.jpg

その結果、「言語別通訳案内士1人あたりの訪日外国客数」では、中国語、韓国語、タイ語の通訳が著しく少ないことが示されます。
通訳案内士&ランドオペレーター制度の規制緩和の話より事態はもっと進んでしまっている!_b0235153_9445635.jpg

こうした現状は10年以上前から変わっていないのですが、その対策として「地域限定通訳案内士制度」を立ち上げています。
通訳案内士&ランドオペレーター制度の規制緩和の話より事態はもっと進んでしまっている!_b0235153_9451174.jpg

そして、今回の規制緩和のキモは、いわゆる「業務独占の廃止」。すなはち、国家資格の通訳案内士でなくても、有償で通訳ガイドの仕事ができるようになったということです。ただし、国家資格を持たない通訳ガイドとの差別化のために「名称独占規制」は存続します。まだ仮称ですが、「全国通訳案内士」と呼ばれることになるそうです。
通訳案内士&ランドオペレーター制度の規制緩和の話より事態はもっと進んでしまっている!_b0235153_9453368.jpg

この問題については、すでに関係者らの間で何年も議論してきたことですし、市場の大きな変化に対応した規制緩和だといわれれば、そうなんだろうなあという感じしかありません。結局のところ、フリーランスの職業である通訳ガイドの場合、語学能力だけでなく、さまざまな営業能力もあってこそ、続けられるものであるのは、いまも昔も変わりません。

問題なのは、むしろ「ランドオペレータ登録制度」の実効性でしょう。

なぜなら、「訪日旅行の手配構図の例」「ランドオペレーターに関する外国人のクレーム」で観光庁も説明するように、「ブラック免税店」と「闇ガイド」が結託した法外な値段の買い物強要が、外国客のいちばんのクレームとなっているからです。
通訳案内士&ランドオペレーター制度の規制緩和の話より事態はもっと進んでしまっている!_b0235153_946820.jpg

通訳案内士&ランドオペレーター制度の規制緩和の話より事態はもっと進んでしまっている!_b0235153_9462015.jpg

で、その解決策について、新制度ではこれまで誰がやっていたかすら把握していなかったランドオペレーターの登録を進め、ツアーパンフに通訳案内士同行の有無を記載することを義務付けることなどが挙げられています。同行の有無は、そのツアーの品質を保証することになるという理屈でしょうけれど、う~ん。
通訳案内士&ランドオペレーター制度の規制緩和の話より事態はもっと進んでしまっている!_b0235153_9463684.jpg

実態から言えば、この程度のことで問題解決とは気の遠くなるような話です。

しかし、現在における訪日外国人の受け入れに関する問題の焦点はもっと別の次元に移っているというべきでしょう。なぜなら、訪日外国人における団体客の比率はだんだん下がり、個人客に移行しているからです。

では、どこに新たな問題が生まれているかというと、たとえば、中国事情に詳しいライターの高口康太さんが書いた中国の「白タク」の実態です。通訳案内士やランドオペレーター制度の規制緩和の話より、事態はもっと進んでしまっているのです。

日本各地で暗躍する中国版白タク「皇包車」の実態(Wedge2017.9.25)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10613

この問題は本ブログでも何度も指摘していますし、ぼく自身も以下の記事を書いています。

日本人が知らない、中国人観光客受け入れの黒い歴史(Newsweek2017年09月02日)
http://www.newsweekjapan.jp/nippon/season2/2017/09/198804.php

高口さんの記事が面白いのは、彼が実際に羽田空港や成田空港の現場を訪ね、中国の配車アプリサービスを利用して、日本国内で「白タク」に乗ってみるという体験取材をしていることです。利用者の立場に立てば、とても優れたサービスだと彼は書いています。

記事では「政府は、その実態や規模を全く把握できていない」と書かれていますが、実際はそんなことはないでしょう。日本より中国のシェアエコノミーの進化が早いため、対応できないだけのこと。じゃあしょうがない? でも、これじゃ日本のライドシェアをまじめに育てる意欲はなくなってしまいませんか。過疎地域の足など、いろんなニーズがあるはずなのに。

さらにいえば、「経済効果のリーケージ(漏出)」という問題があります。つまり、こんなに外国客が増えても、営業実態だけはあって、日本にお金が落ちず、経済効果を持ち去られてしまう。もちろん、これは規模の問題でもあるのですが、今日シェアエコノミーを軽んじるのは間違いでしょう。

だから、「知らなかった」ではすまないと思うのですが、とぼけてたほうが楽なのか。なんだかこの話、「ブラック免税店」や「闇ガイド」の存在を知りながら、ずっとやり過ごしてきた観光行政の姿勢と似ている気がします。

by sanyo-kansatu | 2017-09-27 10:00 | “参与観察”日誌


<< 077 現在の満洲里駅      076 ハルビン発満洲里行き夜行列車 >>