2017年 12月 24日
昨日、テレビ朝日が以下の中国シェアサイクルの路上廃棄問題を伝えました。 人気の「シェア自転車」 路上に放置で「歩けない」(テレ朝ニュース2017/12/23) http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000117350.html (一部抜粋)町で気軽に自転車を借りたり、乗り捨てたりできるサービス「シェアサイクル」。日本でも無料通信アプリの「ライン」が、来年前半をめどにこのサービスを始めると発表しました。しかし、発祥の地とされている中国では、マナーの悪さなどが社会問題となってきています。 このニュース、いまごろ?という感じの新鮮味のない情報であることもそうですが、同局のアナウンサーがやたらと中国人の「マナーの悪さ」を強調しているのは大いに疑問です。そもそも「どこでも乗れて乗り捨て自由」という中国のシェアサイクルのルール自体に問題があったというべきで、こうなることは最初からわかっていたと思います。物事の本質を隠し、固定化したイメージを視聴者に植えつけようとする偏向報道といってもいいのではないでしょうか。 そもそも日本ではこんなルール考えられませんが、もし仮にそうなったとしたら、同じことは日本でも起こるでしょう。すでに駅前の駐輪問題が起きているわけですから。 テレ朝のアナウンサーが煽るべきは中国人の「マナー問題」ではなく、なぜこのようなことが起きているのか、その背景を伝えることでしょう。 今月に入ってようやく日本のメディアも、中国ではすでに報道されていたシェアサイクル企業倒産のニュースを報じています。 中国のシェア自転車、廃棄車両の山 破綻や経営悪化続く(朝日新聞2017年12月5日) https://www.asahi.com/articles/ASKD141DZKD1UHBI00T.html 中国で爆発的にヒットしたシェア自転車の運営が曲がり角を迎えている。一部は日本など海外にも進出を果たすほどだが、現地では過当競争で利益が上がらず、破綻(はたん)や経営悪化が相次ぐ事態に。大手も例外でなく合併が話題に上る。無秩序な駐輪に頭を痛める地方政府が規制を始め利便性も減少。交通の邪魔になる車両は「墓場」と呼ばれる保管場に運び込まれている。 「大変申し訳ない。終始薄氷を踏むようだった」 青色の車体で親しまれた小藍単車(ブルー・ゴー・ゴー)の創業者李剛氏は11月半ば、公開書簡で倒産を表明した。外国進出も果たしたが、サービス開始から1年での退場。競争の厳しさを切々とつづった。 業者の倒産が相次ぐようになったのは、今年半ばからだ。背景には、収益性の構造的な低さがある。 シェア自転車は利用料と利用データの販売という二つの収益源がある。だが利用料は、草分けで大手の摩拝単車(モバイク)でさえ30分0・5元(約8・5円)からと格安。競争力の低い他社では無料をうたうケースもある。そのうえ、データも地方政府の都市計画に使える程度といい、収益力は強くない。経営悪化で、登録時に払った保証金がユーザーに返らない問題が頻発している。 経営の難しさは大手も例外ではない。モバイクともう1社の大手ofoの合併説が根強く流れている。中国イノベーションの旗手として投資を集めた両社が収益を上げる手っ取り早い手段が合併というわけだ。 地方政府による自転車の駐輪規制も影を落とす。急速な広がりと過当競争で自転車が街角にあふれ、通行の妨げになった問題を重く見た。だが、どこでも止められる利便性が普及に大きな役割を果たしたため、規制が厳しければ魅力を損なうことになる。 「環境にいい」という印象に傷がつく事態も起きている。交通の邪魔になる車両を地方政府が回収し、保管場に次々と運び込んでいる。その結果、各地の保管場は、シェア自転車の「墓場」と呼ばれている。 日本でも広がりつつあるシェア自転車。だが一大市場となった中国での持続性には今、大きな疑問が投げかけられている。(北京=福田直之) 実際、シェアサイクル大量放棄問題は、今年夏くらいから中国のネット上では問題提起されていました。日本ではようやく中国のシェアサイクルの先進性が広く話題になり始めていた頃の話です。 こんなネット記事もありました。 厦门出现壮观“共享单车”山丘:ofo亮了(アモイに出現した壮観なシェアサイクルの山) https://mbd.baidu.com/newspage/data/landingsuper?context=%7B%22nid%22%3A%22news_9780158454380636161%22%7D&n_type=0&p_from=1 これは中国福建省アモイのシェアサイクル廃棄場をドローンかなにかで撮ったものでしょう。すごいことになっていますね。 ここまでに至る背景には中国人の「マナー問題」があったというより、このシェアサイクル事業のビジネスモデルとともに、中国政府の姿勢(あるいは読みの甘さ)があったというべきでしょう。 その点について、ぼくは以下のForbesJapanの記事で少し解説しています。 日本のシェアサイクルはツーリスト向けに徹するべき?(ForbesJapan2017/11/08) https://forbesjapan.com/articles/detail/18335 最初に言っておくと、この記事は「盛況が伝えられる中国のシェアサイクルを日本はどう受けとめればいいだろうか」という観点から書いたものです。 (一部抜粋)では、この画期的な中国式シェアサイクル事業は日本で支持されるだろうか。 まず中国企業はどうやって収益を得ているのか。中国の友人によると「最初に利用者から預かる保証金の金利ビジネスですよ」とのこと。これほど安価でサービスを提供するビジネスが超スピードで拡大したのも、どれだけ利用者を集められるかに事業の成敗がかかっていたからだという。昨今の中国では投資規模が破格だからこそ実現できたわけだが、低金利の日本ではちょっと考えにくい。 さらにいえば、いまの中国の経営者の考え方も強く反映されている。新興企業の経営者は新しい市場が生まれると、いち早く参入し、そこそこのシェアを獲得しておけば、どこかの時点で大企業に買収してもらえると考えているふしがある。そうすれば、事業自体に利益が出ていなくても、売り抜けてひと財産築ける。 一方、資金力のある大企業も、最初は利益度外視で市場拡大にひた走る。そのうち大半の中小企業はふるい落とされ、結局は大手の寡占状態となるから、利益を取るのはそれからでいい……。このように中国のビジネスシーンが展開していくさまは、一時は群雄割拠だった配車アプリも「滴滴出行」が一強になったことからわかるだろう。 要するに、昨今の金余り中国での投資依存のビジネス手法が背景にあること。さらにいえば、世界に自らの先進性を誇りたい中国政府が、今年3月上旬に開かれていた全国人民代表大会の記者会見で「共享単車(シェアサイクル)」の支持を強く表明していたように国家の後押しがあったことも、もし批判されるとすればされるべきでしょう。 それからもうひとつ、このテレ朝のニュースを見て思ったことがあります。確かに上海などの大都市圏では過剰な自転車の配給によって日常的に路上駐輪問題が起きているのですが、地方のもっと小さな都市ではどうかというと、たとえば吉林省朝鮮自治区延吉では、ようやく10月下旬にシェアサイクルが始まったと聞きます。そのような地方都市も多いのです。ですから、「中国では」とひと括りにすることは偏向報道になりやすいのです。 中国の国土は広く、投資マネーが集まりやすい大都市では問題が起きていますが、地方ではほどほどの感じでシェアサイクルが進んでいく可能性もあります。つまり、ビジュアル的にインパクトの強い、野放図な廃棄自転車問題が中国の大都市で起きているからといってシェアサイクルビジネス自体が頓挫してしまうかというと、そうとはいえないのです。 前述のForbesJapanの記事で、ぼくは以下のように書いています。 今年7月までに中国全土で1600万台もの自転車が街に投入されたというから、街頭での自転車の氾濫を引き起こしていることも確か。だが、中国はかつての「自転車大国」。通りも広く、自転車専用道路もそこそこあり、歩道上に駐輪用スペースも多く設けられている。我々に比べ「小さなことは気にしない」彼らの感覚ではそれほど深刻な問題でもなさそうだ。 我々に比べて「小さなことは気にしない」彼らの感覚とあえて書いたのは、ためしに身近な中国の知人にこの件について尋ねてみてはどうでしょう。おそらく彼らの多くは「でも、どこでもそうではありません。シェアサイクルは便利ですよ」と答えるかもしれません。そして、心の中で「また日本のメディアは中国の悪いところばかり報道している」と感じているに違いないでしょう。 さて、以上のことをふまえたうえで、考えたいのは、日本においてシェアサイクルをどう進めていけばいいかということです。 以下の記事は、日中のシェアサイクルの現状の違いをとてもわかりやすく説明しています。 シェア自転車、なぜ中国は急増、日本は停滞?(サステナブル・ブランド ジャパン2017.11.16) http://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1189521_1534.html この記事が指摘する中国シェアサイクル盛況のポイントは「料金と使いやすさ」「SNSで利益度外視のキャンペーン」「自治体が積極的に後押し」「中国の投資ブームと『走りながら考える』メンタリティ」です。 それをふまえ、ぼくが思うのは、日本のシェアサイクルは中国のような住民向けではなく、国内外のツーリスト向けに特化した方が動き出すのではないか、ということです。 今年、中国のシェアサイクル大手が鳴り物入りで日本に参入しましたが、彼らは中国式のビジネス手法を持ち込むだけで、法律も都市環境も異なる日本で、誰のためにサービスを提供しようとしているのかよくわからないところがあります。でも、もし国内の観光地にあるホテルや(場合によっては)民泊先で、中国式のシェアルサイクルが気軽に使えたら、外国人観光客にとってもそうですし、日本人にとっても便利です。要は、訪日外国人の数が世界でいちばん増えているというインバウンド成長大国である日本の事情に合わせたルールづくりをしたうえで、中国式の“いいとこ取り”だけするのが賢いやり方です。 そんな国内外のツーリストをターゲットに絞り、全国の宿泊施設に導入できるシェアサイクルサービスをはじめたのが、ツアーバイク社です。 ツアーバイク http://www.tourbike.jp/ 先日、同社の営業担当者と会う機会があったのですが、彼らは中国大手とは違い、国内の宿泊施設や民泊オーナーを対象にシェアサイクルを提供しようとしています。今後の彼らの動きに注目しています。
by sanyo-kansatu
| 2017-12-24 11:55
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