2017年 12月 28日
ある仕事で2016年の香川県の県外からの観光客入込数を調べたところ、936万8000人(前年比1.8%増)で2年連続で増加しています。これは、香川県にとって過去最大だった瀬戸大橋が開通した昭和63年の1035万人に次ぐ2番目の入込数となっているとか。 一方、入込数ではなく、観光庁が香川県の延べ宿泊者数を調べた宿泊旅行統計調査(平成28年)をみると、興味深いデータがうかがえます。 香川県 2016年延べ宿泊者数 3,779,900人(前年比 -7.3%) 全国37位 同外国人延べ宿泊者数 358,360人(前年比+70.3%) 全国23位 (台湾27% 中国15% 香港12% 韓国11% アメリカ3%) これをみると、2016年に香川県を訪れた観光客全体は増えているのに、延べ宿泊者数は若干減少している一方、外国人の延べ宿泊者数は前年比70.3%と大幅増を見せており、全国23位となっています。国内客を含めた延べ宿泊者数が全国37位と下位にある香川県は、外国人の宿泊者数では全国で中位にいることがわかります。つまり、香川県を訪れる観光客のうち、外国人の比率は全国的にみて高いといえます。 香川県や高松市の関係者によると、2016年の香川県への県外からの入込数増加、特に外国人宿泊者数が大幅に伸びた理由は「瀬戸内国際芸術祭2016」の開催年だったことにあると分析されています。 瀬戸内国際芸術祭 http://setouchi-artfest.jp/ 興味深いことに、外国人観光客の伸びは、芸術祭の開催されていない2017年にも見られます。 以下、2017年の香川県の外国人延べ宿泊者数と国籍比率の6月~10月までの推移です。 2017年6月 38,640人(+69.4%) 全国20位 (台湾32% 香港16% 中国16% 韓国11% アメリカ2%) 2017年7月 39,250人(+19.3%) 全国 17位 (台湾30% 中国18% 香港12% 韓国11% アメリカ3%) 2017年8月 32,470人(-9.5%) 全国24位 (台湾27% 中国17% 香港14% 韓国7% 欧州4%) 2017年9月 39,250人(+19.3%) 全国21位 (台湾30% 中国18% 香港12% 韓国11% アメリカ3%) 2017年10月 51,120人(+2.1%) 全国20位 (台湾29% 中国15% 韓国15% 香港13% アメリカ2%) ここでは8月こそ、昨年芸術祭が開かれた時期(3月2日~4月17日、7月18日~9月4日、10月8日~11月6日)とまるまる重なっていることから前年比マイナスになっていますが、それ以外の月は増加しています。 これは何を意味するのでしょうか。瀬戸内国際芸術祭が香川県のインバウンド市場に大きな影響を与えたことは明らかでしょう。 では、どんな影響を与えたのか。 香川県瀬戸内国際芸術祭推進課の関守侑希さんによると「瀬戸内国際芸術祭2016の総来場者数は約104万人でしたが、アンケート調査によると、外国からの来場者の割合は13.4%。前回開催の13年と比較して大きく伸びています(2013年は、総来場者約107万人の2.6%が外国人)。芸術祭が回を重ねるごとに海外での知名度を向上させたことが考えられます」とのこと。 ※瀬戸内国際芸術祭2016における外国人来場者数は、多い順に台湾(37.2%)、香港(13.8%)、中国(11.4%)、フランス(6.2%)、アメリカ(4.6%)となっている。 この国籍別来場者数は、高松空港の国際路線とほぼ重なっています。2017年12月現在の高松空港への国際路線は以下のとおり。※( )内は就航年。 高松空港国際線(2017年12月) ソウル線(1992年) エアソウル週5便 上海線(2011年7月) 春秋航空週5便 台北線(2013年3月) チャイナエアライン週6便 香港線(2016年7月) 香港エクスプレス週4便 香川県交流推進部観光振興課国際観光推進室の池浦健太郎さんも「香川県の2016年の訪日外国人延べ宿泊者数をみると、国際定期路線の就航先である韓国、中国、台湾、香港からの割合が高くなっており、高松空港の国際定期路線の拡充が大きな要因となっていると考えられます」といいます。 高松空港の国際線の特徴として、台北線を除く3路線がLCCであること。また前回の瀬戸内国際芸術祭が開催された2013年のチャイナエアラインや16年の香港エクスプレスの就航と、台湾や香港の来場者数トップ2になっていることには大きな関係がありそうです。 瀬戸内国際芸術祭の開催は、地元の宿泊事業者にも影響を与えています。とりわけ海外の若い旅行者を香川県に呼び込むことに大きく貢献しており、高松市内に若者向けのリーズナブルな宿泊施設であるゲストハウスが急増しています。 現在、高松市内には10数軒のゲストハウスがあります。 国内のゲストハウス事情に詳しく、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)の著書もある松鳥むうさんによると「私が定宿にしている『ゲストハウスちょっとこま』は2013年の瀬戸内国際芸術祭の年に開業しました。ここは高松で最初にできたゲストハウスです。ある都市に1軒ゲストハウスができると、一斉に同じエリアに開業ラッシュが起こることはよくありますが、高松市内も類にもれず、2014年以降、一気に増えました」と話します。 ゲストハウスちょっとこま http://chottoco-ma.com/ 2016年8月に高松市内にゲストハウス「瓦町ドミトリー」を開業した山本梨沙さんもそのひとり。わずか10室のユニークなカプセルホテル風宿泊施設ですが、「宿泊客の4割が国内客で、同じく4割がアジア客、残り2割が欧米客。圧倒的に若い世代が多い」そう。 瓦町ドミトリー http://kawaramachi-domitory.kuku81.com/ 山本さんによると「台湾人をはじめとする中華圏の若い世代が香川県を訪れるようになった背景に、ひとりの台湾人作家による瀬戸内国際芸術祭を紹介した本の影響があった」そうです。 『小島旅行』(林凱洛著・啟動文化出版社 2013年10月刊) http://www.books.com.tw/products/0010612250 同書は瀬戸内国際芸術祭の主な舞台である香川県の直島を中心とした体験旅行記です。「この本が2013年秋に出版され、台湾で大きな話題となり、香港でも同時発売され、その2年後中国でも簡体字版として発売されたことで、中華圏における香川県の知名度が一気に高まりました」(山本さん)。 こうして台湾や香港の若い世代が香川県を訪れるようになりましたが、彼らの旅行スタイルはとても気軽で自由です。 前述の松鳥むうさんも「この前私が『ゲストハウスちょっとこま』に泊ったときも、香港から仕事で神戸に来ている20代女子(日本語ペラペラ)がいて、自由時間が1日あったので泊りに来たと話していました。翌朝彼女はアートの島(直島)に行くと言って宿を出ていきました」とか。 こうした高松市における若い外国人旅行者の増加をふまえ、新しいトレンドも生まれています。今年3月30日、高松市駅前に自転車王国・台湾の大手自転車メーカーのジャイアントがレンタサイクルサービスを開始しました。 ジャイアントストア高松 http://giant-store.jp/takamatsu/ ジャイアントストアは現在、全国7都市(仙台、前橋、びわ湖守山、松江、尾道、今治、高松)でレンタルサイクルサービスを展開しています。なかでもしまなみ海道のゲートウェイとなる尾道と今治には、多数の自転車が待機していて、夏はすべて出払うほどの人気だそう。しまなみ大橋をサイクリングで渡るのがブームとなっているからです。 ジャイアントストアのレンタサイクルはスポーツ自転車がメインで、今年中国から進出してきたシェアサイクル大手の提供するシティサイクルとはターゲットが違います。今後も全国各地に展開する計画のようです。 今年夏、ジャイアントの関係者一行がPRを兼ねて自転車で四国を一周したそうです。なんでも四国一周は台湾一周とほぼ同じ約1000kmだそうで、「台湾を自転車で一周したら、次は四国を一周しよう」というのがPRのポイントだそうです。
by sanyo-kansatu
| 2017-12-28 10:37
| “参与観察”日誌
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