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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2019年 07月 30日

そろそろブログを再開します

これまで1年半くらい、ブログの執筆をお休みしていました。理由はいろいろありましたが、そろそろ再開しようと思います。

今年の4月頃でしょうか、あるネットメディアに以下のような取材をうけました。そのインタビュー記事が最近公開されたので、転載します。この間、インバウンドをめぐる問題について考えていたことをかなり率直に話すことができました。
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銀座や新宿、横浜や大阪、京都や札幌や福岡……。今日本中の主要な都市に行くと、外国人観光客でごった返しています。


先日京都に行った時は、日本人よりも圧倒的に多くの外国人が駅のホームに溢れていました。


「インバウンド」の恩恵を受け、観光業やサービス業、飲食業やお土産やさんが儲かっている、という話を聞きます。


ここでみなさんに質問です。


「インバウンド」って一体何でしょうか?


これからずっと続くのでしょうか?


今回はインバウンドについての著書も手がける、インバウンド評論家の中村正人さんにお話をうかがいました。


「インバウンド」が一般的になったのは21世紀


中村正人氏(以下、中村):
「唐突ですが、まず私のほうからご質問したいと思います『インバウンド』とは何だと思っていますか?」

――「外国人が来て、いっぱいモノが売れる」ということでしょうか。

数年前にやたら免税店が増えました。それをきっかけに中国や韓国の人が日本でたくさんモノを買うようになった。『爆買い』ですね。


それが私の中のインバウンドです。


中村:
「たぶんそれが、インバウンドに対する世間一般のイメージだと思います。まちがいではありません。しかし、それは『インバウンド』の中のほんの一部分にすぎません。


では次の質問に移ります。インバウンドはこれからどうなると思いますか?」


―― 一時ほどの勢いはないように思います。一巡して飽きたというか。とくに、中国人観光客の買い物熱が下火になってきたように感じているのですが。


中村:
「たしかに『爆買い』という話はあまり聞かれなくなりましたね。それでも、一般的な認識としては、2020年の東京オリンピックまでは訪日外国人は増えていくと考えられているようです。


しかし私は、オリンピックはインバウンドに、ほぼ関係がないと考えています」


――それはなぜですか?


中村:
「考えてみてください。オリンピックは、たしかに開催地にとっては一大イベントです。


しかし海外旅行を考えている人の意思決定に、数週間しか開催しないスポーツイベントがそれほど寄与するものでしょうか。関係があったとしても限定的でしょう」


――そういう視点はありませんでした。


中村:
「逆に言えば、東京オリンピックまではインバウンドが拡大するという思い込みも、あまり根拠のないことです。


それを鵜呑みにしているのだとしたら、相手(外国人観光客)の立場に立って、物事を考えていないといえる。この問題には後でもう一度触れましょう」


――そもそも「インバウンド」が言われるようになったのはいつ頃からになるのでしょうか?


中村:
「きっかけは中国人観光客の存在が大きいですね。2000年に中国人の日本への団体旅行が解禁になったんです。


日本政府もインバウンドを明確に奨励するようになりました。2003年の小泉政権時に国土交通省が音頭をとった『ビジット・ジャパン・キャンペーン』(Visit Japan Campaign:VJC)です。


私はVJC以前からインバウンドの動向を取材していましたが、少なくとも20世紀の終わりまでは、一般の日本人には外国人観光客を呼び込もうという発想はありませんでした。


外国旅行とは行くもので、来るものではなかったんです。


しかし一部の先見の明をもつ人たちが、今後、日本社会が向き合わざるを得ない人口減少など、さまざまな課題を乗り越えるためのひとつの手段として海外の人を呼び込むことを思いついたんです。


そして、それでもたらされる経済的な恩恵を、社会インフラの再構築や文化の保護育成などに活用するべく検討・準備していたんです。そのモデルはヨーロッパにありました。


それが表に出たのは、たまたま小泉政権時だったわけですが、発表後、ほとんど反響がありませんでした。民間は本気にしていなかったのです。


そして、ようやく一般の人々が気づき始めたのが2008年頃です。


『爆買い』という言葉もこの頃に生まれました。北京オリンピックの映像を通じて、それまで日本人より貧しいと考えられていた中国人が、実はたいへんな購買力をもつ存在となっていた――。


そのことに気づいたのが2008年だったというわけです」


「爆買い」の本当の理由は「面子」


――バブル期の日本人も、海外へ行ってはブランド品を買い漁っていました。当時の中国人もあの感覚だったのでしょうか?


中村:
「同じ点と違う点があると思います。同じなのは、やはり豊かになったから買い物に走ったという点。


違うのは、中国人の民族性にあると思っています。私の専門領域は中華圏を中心に東アジアの旅行市場なのですが、中国人には『運び屋』のDNAがあると常々感じています」


――「運び屋」のDNAですか!?なにやら怪しげです。


中村:
「いえいえ、あの運び屋ではありません。いい意味での運び屋です。私が先のように考える理由はふたつあります。


まずは経済活動としての『運び屋』です。中国人というのは『生きること、すなはち商いである』と無意識に思っているふしがあります。


どこかへ出向くと、かならず何かを手に入れ、それを自国へ持ち帰って転売する。それが当たり前と考える。『爆買い』=『転売』なんです。


だから、当時信じられないほど大量の買い物をしたのです。自分が使うためのものであるはずありません」


――爆買いしたものは、全部売り払っていたわけですね。


中村:
「しかし、すべてを売ってしまうわけでもありません。ここからがもうひとつの理由です。


日本人が友人知人におみやげを配るのと同じように、中国人も買ってきたものを人に配るのですが、理由が少し異なるのです。


おみやげをあげることによって、あげた人から『面子をもらった』と彼らは考えるんですね。日本人の義理みやげとは違い、具体的な利益があるのです」


――おみやげと「面子」は交換できるものなんですね?


中村:
「そうです。中国人の感覚では、面子は『あげたり、もらったり』できるものなんです。


だから、海外旅行から帰国し、友人知人におみやげを配れば配るほど、面子をたくさんもらえることになる」


――中国人は面子を重んじると聞いたことがあります。


中村:
「そうです。『面子』はお金には換算できないけれど、彼らの人生にとってとても重要なことです。


そのために『運び屋』をやっているという側面があり、『爆買い』という現象が生まれたのです。


転売をしてもうけることにも熱心ですが、面子の側面もよく見なければなりません。日本人にはない概念だからか、その点について、日本ではほとんど語られません。


マーケティング関係者は、ソーシャルバイヤーなどと呼んだりしますが、事実上運び屋にほかなりません。でも、中国人であれば誰でも普通にやることなので、彼らにとってネガティブなイメージはありません」


――「転売」までは知っていましたが……。


中村:
「ところがこの数年、中国人観光客は爆買いをしなくなりました。


これは彼らが日本に飽きたからというより、中国政府が自国に持ち込むみやげの関税を強化したからです。そうなるとまた、面子の事情も変わるんです」


――どう変わるのでしょう?


中村:
「関税がかかると、転売するにも利益が減ります。

たとえおみやげをもらっても、利益が減ったことが知れると、逆に『あいつは商売下手だ』という評価が下る。


面子には『賢さ』も含まれているのです。だから、中国人は突然『爆買い』をやめたのです。2016年春のことでした」


――なかなか面子の概念が理解できません。


中村:
「『信用』に近いですが、同じではありません。プライドや見栄などとも似て非なる、中国文化独特の概念です。


これは長く中国人の行動原理を見ていなければ、よくわからないかもしれません」


中国の方々が、激安ショップで大量に様々な物を購入している理由は、自分で消費するためでなくて「面子」のためだったとは驚きです。


まだまだインバウンドには知られていないお話がありそうです。次回に続きます。
(つづく)

取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

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by sanyo-kansatu | 2019-07-30 16:07 | “参与観察”日誌


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