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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2019年 07月 30日

観光客が増えたのは、日本経済の弱体化が原因です

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前回、中国の方々の「面子」についてお話を聞きました。

今回はインバウンドが急激に増えた、その背景について迫りたいと思います。


前回に続き、インバウンド評論家の中村正人さんからお話を聞きました。


訪日外国人数1位2位両国の傾向


――訪日外国人観光客は、やはり中国人が多いのですか?

中村正人氏(以下、中村):
「訪日観光客数最多で、全体の4人に1人が中国人です。消費額は4割を占めると言われています。


先ほど述べたように、中国では2000年に日本への団体旅行、2010年には個人旅行が解禁になりました。現在では、個人旅行の割合が全体の7割を占め、若い世代のリピーターがとても多くなりました。


行動にも変化が見られます。彼らは買い物をするより、日本各地を訪ねる、いわゆる『コト消費』に重きを置くようになりました」


――面子にこだわらなくなったということですか?


中村:
「面子自体は変わらないと思います。しかし今はおみやげだけで面子をもらうのではありません。


SNSの『いいね』の数が面子につながるといってもいいかもしれません。


だから、最近の彼らは、まだ一般の中国人が知らないような風景やマニアックな観光スポットを熱心に探し歩くわけです。


この現象としては、中国人だけでなく、日本人もロシア人も、どこの国の人も同じようなところがありますが、今の中国人のSNSに賭ける思いの強さは尋常ではないものがあります。


やはり面子に関わる問題だからと思います」


――他の国の訪日外国人観光客の動向は?


中村:
「2番目に多いのは韓国人です。ただし韓国人観光客は消費額が少ない。だから観光業関係者もメディアもあまり重視しません」


――消費額が少ないのはなぜでしょう?


中村:
「韓国は、出国率(人口に対する海外渡航者の割合)がとても高い。つまり、海外旅行がたいへん好きなのです。


彼らにとって日本は、最も身近で手軽な海外旅行先なので、お金をかけなくても楽しめることを知っていて、中国人のような消費はしません。


もうひとつ知っておいてほしいのは、日本を訪れる欧米人の数は10人に1人にすぎないことです。見かけですぐにわかる彼らの10倍ほどアジアからの観光客が日本を訪れているのです」


インバウンド急増に貢献した近代日本の歩み


――インバウンドが急激に増えた理由を、もう少しくわしく教えてください。

中村:
「インバウンドが増えた理由は、国内と海外の両方にあります。


国内としては、先ほど述べた『VJC』です。これは20世紀後半の日本にはなかったことで、海外に向けて正式に「ウエルカム」と宣言したことの意味は大きいといえます。


まず政府が主導し、航空路線の自由化やビザの緩和を推進しました。そして2008年頃にようやく民間も重要性に気づき、流れを追いかけた。


しかし、それより大きいのは国外の要因といっていいでしょう。


海外、とくにアジア各国からの訪日外国人が増えた理由は、経済成長とそれに伴う所得の向上が、1990年代後半から続く日本の長期デフレ傾向と重なり、彼らからすると相対的に日本の物価を高く感じなくなったことです。


つまり、これはちっとも喜ばしい話ではないのですが、日本経済の弱体化が背景にあるのです。


一方、見落としがちなのは、リーマンショックと東日本大震災です。


『VJC』が奏功し、2003年には520万人だった訪日外国人観光客は、2007年に830万人まで伸びました。


しかしこの2つの大きな出来事で、2011年には600万人台まで落ちてしまいました。


ところが香港や台湾、タイといった日本に好意的な国々では、逆に日本を応援する機運が生まれたのです。


日本側もそれに応えるように、2013年にタイなどアセアンの国々の観光ビザ免除を開始しました。それらが呼応して同年、史上初めて1000万人台を突破しました」


――日本中に外国人観光客が目立ち始めたのは、まさにこの頃からです。その後はどのような推移だったのでしょう?


中村:
「2015年には1970万人、2016年には2400万人、そして2018年には3000万人を突破しました。


当初の目標は2020年が2000万人、2030年に3000万人だったので、政府の目標を上回るペースで伸びていきました。


これほどの勢いで伸びている国は、世界中どこを探してもありません。


その証拠に、2017年、世界経済フォーラム(WEF)が発表している『旅行・観光競争力ランキング』で、日本は過去最高の4位(1位からスペイン、フランス、ドイツ)となりました。


官民をあげて観光に力を入れているという点が高く評価されたのです。これを過小評価してはいけません。


上位3か国はもちろん、アジアで観光客の多い香港や中国、あるいはタイなどはみんな、大きなマーケットと陸続きです。


しかし日本は島国。飛行機か船で来るしかありません。しかも欧米から見ると、『Far East』(極東)と呼ばれる最果ての位置にある国です。


条件としては悪いはずなのです。それなのに、上記のような数字になったわけですから」


――外国人観光客の消費額も伸びているんですね?


中村:
「2015年に3兆円を突破し、2018年には4兆5000億円に達しました。


これは製品別輸出額と比較すると、自動車(11兆3000億円)、化学製品(7兆1000億円)に次いで、第3位です」


――もう主要産業じゃないですか!こんなにすばらしい成果を得ているのに、私たちには伝わっていない気がします。


中村:
「ただし、この消費額には単に観光産業だけでなく、製造業や通信業、金融業、不動産業など、訪日外国人が関わるあらゆる領域に裾野が広がっていることからすれば、まだ十分とはいえないと思います」


――もっと正確な情報が知りたいです。


中村:
「本当にそうです。先ほど経済的な側面から、国内外の条件が重なってインバウンドが急増したと述べました。


しかし通貨安や、周辺国の経済状況がよくなった国はいくらでもあります。別の要因があるのだと思います」


――それは何でしょうか?


中村:
「やはり、近代以降のアジアにおける日本の評判が影響していると見るのが妥当だと思います。


日本がこれまで生み出してきた価値が、アジアの人たちに憧れや親しみを抱かせているのはまちがいないのです。


東日本大震災時に香港と台湾がいち早く訪日旅行を再開したのはひとつの証しです。ありがたいことです」


外国人観光客の方々の消費額が、2018年になんと4.5兆円になってたとは、みなさんご存知でしたか?


これからラグビーW杯、オリンピックが控えている日本は、ますます右肩上がりになるのでしょうか?


これからのインバウンドについて迫っていきたいと思います。
(つづく)

取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)
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by sanyo-kansatu | 2019-07-30 16:18 | “参与観察”日誌


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