人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2020年 06月 18日

色丹島のうら若き漁村の女性、サハリン島の先住民族ウデゲ人(ウラジオストクの写真家展 その3)

ウラジオストク郊外にある「ザリャー(фабрика ЗАРЯ)」というアートコンプレックスで開催されていた企画展「FAR FOCUS. PHOTOGRAPHERS OF VLADIVOSTOK(極東フォーカス、ウラジオストクの写真家たち)」の解説を続けます。

1のテーマ「アイデンティティ:ポートレイトとアンチ肖像画」の3番目の作品群は、ウラジオストクから離れた小さな村の住人や極東ロシアの先住民族であるウデゲ人のポートレイト群です。前者を撮影したのは、<その1>で登場した元企業内撮影師のゲオルギイ・フルシチョフであり、後者はグレブ・テレショフという写真家です。

以下の4点はフルシチョフが撮ったもので、右の老人の写真は「ウラジオストクの桟橋で」とキャプションにあります。年齢的に退職者のようで、1980年撮影。左は、農家の裏庭のような場所に立つウエディングドレスを着た花嫁です。背後に大きな切り株が置かれているのが見えます。1975年に撮られたもので、場所はシチジ村(Поселок Сидими)とあります。シチジ村をGoogleで検索すると、ウラジオストクのあるムラヴィヨフ・アムールスキー半島の西側に広がるアムール湾の対岸に位置し、現在は小さな入江のある休暇村で、宿泊用のコテージが並んでいました。

色丹島のうら若き漁村の女性、サハリン島の先住民族ウデゲ人(ウラジオストクの写真家展 その3)_b0235153_10420763.jpg

次の2点のうち、左は同じくシチジ村の住人で、恥じらい気味の表情を浮かべた髪の長い女性です。彼女がどのような人物なのかはわかりません。

色丹島のうら若き漁村の女性、サハリン島の先住民族ウデゲ人(ウラジオストクの写真家展 その3)_b0235153_10421135.jpg



興味深いのは、右のしっかりとカメラを見つめ、愛嬌のある笑みを浮かべる若い女性労働者です。背後に漁船が写っていて、彼女は大きなゴム手袋をしています。水揚げされた海産物を加工する仕事をしているものと思われます。

何が興味深いかといえば、この写真は1970年に色丹島で撮られたものだからです。北海道根室沖に位置する北方四島のひとつなのですから。フルシチョフはこの年、北方四島を訪ねたことがわかりますが、もっと多くの住民たちのポートレイトを撮り収めているに違いありません。ぜひ見てみたいですね。


これら被写体となった人たちは、何も特別な人物というわけではありませんが、1970年代にウラジオストクから遠く離れた小さな海辺の村や日本との国境のわずか先に位置する北方四島で、ロシア人が普通に暮らしていたという事実をあらためて知らされます。


一方、後半の写真は、グレブ・テレショフが2003年に撮った先住民族のウデゲ人たちのポートレイトです。


最初の老人は、ウラジオストク郊外のКрасныйЯр.で撮られているようですが、それ以外はサハリン在住のウデゲ人たちです。

色丹島のうら若き漁村の女性、サハリン島の先住民族ウデゲ人(ウラジオストクの写真家展 その3)_b0235153_10421519.jpg

色丹島のうら若き漁村の女性、サハリン島の先住民族ウデゲ人(ウラジオストクの写真家展 その3)_b0235153_10421842.jpg

Глеб Телешов

Сахалин 2003

サハリン 2003

左のおばあさんの親しみがわく表情は印象的です。下のおばあさんも民族的に我々に近いものを感じさせます。背後には、サハリンの海(あるいは湖?)と小船が写っています。サングラスをした男性はおばあさんの息子でしょうか。彼らは漁労で生計を立てていることがわかります。


ちょっと面白いのは、真ん中上の写真の丸太小屋の前に置かれた、おそらく魚の皮を紐で引っ張って伸ばしているのだと思われますが、これは民芸インテリアだそうです。


テレショフは1966年、カザフスタンのアルマトイ生まれ。フルシチョフや、前回の「はたらくおじさん」の写真を撮ったジャーナリストのアレクサンドル・キトロフとはタイプが違い、写真家としての固有の自意識を持つ人物のようです。


もともと1980年代にソビエト時代の小型一眼レフの名品「ゼニット19」で撮影を始め、現在はソニーやペンタックス、そしてアイフォンを使い分けるそうです。好きな写真家として、ファッション写真家のアーウィング・ペンや杉本博司などの名を挙げています。確かに、人物に対する意図的なクローズアップや構図の妙は、ジャーナリスト系の写真家に比べると断然面白いと感じます。被写体たちが語りかけてくるような効果を生んでいると思います。


ところで、彼の被写体となったウデゲ人は、ロシア沿海地方ではウスリー川の支流のビギン川流域のタイガの森で暮らす人たちとして知られ、現在この地域はエコツーリズムを体験できる場所としてウラジオストクの観光局は売り出しています。もともと漁労の民ですが、森でとれる薬用ニンジンやハチミツ、ベリーを採集して生計を立てているといわれています。

色丹島のうら若き漁村の女性、サハリン島の先住民族ウデゲ人(ウラジオストクの写真家展 その3)_b0235153_10424092.jpg

ウラジオストクのアルセーニエフ記念沿海地方博物館には、ウデゲ人の顔を彫ったマスクの常設展示もありますし、以前特別展として彼らの生活文化を伝える木彫りの人形が展示されていたこともあります。

色丹島のうら若き漁村の女性、サハリン島の先住民族ウデゲ人(ウラジオストクの写真家展 その3)_b0235153_10425598.jpg
色丹島のうら若き漁村の女性、サハリン島の先住民族ウデゲ人(ウラジオストクの写真家展 その3)_b0235153_10424602.jpg

彼らもまた極東ロシアの愛すべき住人なのです。



by sanyo-kansatu | 2020-06-18 10:46 | 極東ロシアはここが面白い


<< 「カメラを持つ男」要塞の跡地に...      「はたらくおじさん」の肖像から... >>