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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 06月 21日

「アンチ肖像画」? 彼女らが顔を隠すのはなぜなのか(ウラジオストクの写真家展 その5)

カメラを向けられると、室内インテリアらしき観葉植物や路上の電信柱の背後に隠れるモデルたち。椅子に腰掛け、膝の上に置いた鏡に映った自分の顔を手でさえぎる彼女。

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Денис Коробов 2014

デニス・コロボフ 2014

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大きなトナカイの剥製の前に立ち、ブロンドの前髪を左手でつまんで目を覆うロシアンガール。いったい彼女らどうして顔を隠すのでしょうか?


企画展の解説では、彼女らの決して素顔をさらそうとしない姿を「かくれんぼのゲーム」と評していましたが、これらの「アンチ肖像画」を撮ったデニス・コロボフは自らの世代は常にアイデンティティを模索しているといいます。要塞に映した影に自画像を託そうとした1958年生まれのミハイル・パヴィンのいかにもポジティブな姿勢に比べると、ロシアの新しい世代の感受性が伝わってきます。


(隣に真っ赤な口紅の女性がもたれかかる写真の男性)デニス・コロボフはソ連邦が崩壊した1991年、ロシア沿海地方の東岸の港町テルネイで生まれています。写真は独学で、キヤノンで撮影を始めたそうです。


彼が挙げる好きな写真家は、アメリカ人のウィリアム・エグルストンやドイツ人のユルゲン・テラーといった国際的な大御所だけでなく、新世代のファッション写真家として知られるポーランド人のウーカシュ・ウィズボウスキーやイギリス人のジョニー・デュフォート、そしてウクライナ出身の奇抜なユニット、シンクロドッグスだとか。ソ連以後に生まれたロシアの新世代は、たとえ片田舎に生まれたからといって、その情報網は我々と変わらないことがわかります。好きなジャンルは「神秘的なリアリズム」と答えているのも、これらのラインナップからうなずけますね。


さて、今回はもうひとりの写真家、アレクセイ・コロトコフが撮った「アンチ肖像画」も紹介します。


右の「無題」と題された写真は、スウェットシャツを着た若い女性が海に向かって立ち、カメラに背中を向けています。

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Алексей Коротков

Без названия

無題


左の写真のモデルの名はマーシャ・ラムジーナ。実は、彼女はウラジオストク在住の現代アーティストのひとりです。彼女自身が、本人のものか、誰のものか知らない、顔の下半分がプリントされ、デフォルメされた巨大なマスクを着けて自撮りしています。


Маша Ламзина

マシーャ・ラムジーナ

Селфи с маской. 2008

マスクで自撮り


最後の1点は、イギリスのファッションモデル、ケイト・モス(キャサリン・アン・モス)の歪んだマスクを被ったマーシャのモノクロ写真です。

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Алексей Коротков

Маша в маске Кейт Мосс. 2008

ケイト・モスのマスクをしたマーシャ


アレクセイ・コロトコフは1979年モスクワ生まれの写真家です。好きな写真家は、アメリカの女流写真家のサリー・マンや現代アートに近い世界で活躍したアレック・ソス、ハリー・キャラハンを挙げています。アーティスト志向の強い人物のようです。デニス・コロボフが撮ったモデルたちの世界に比べ、マシーャ・ラムジーナというひとりの女性をモデルとしたコロトコフの世界の方が「アンチ肖像画」というスタンスについてはより明確のように感じられます。


ふたりの作風やテーマ設定が、どのようにウラジオストクのローカルな文化、社会事情とつながっているのか、それともワールドワイドな写真界のトレンドの影響が圧倒的に大きいのか、ぼくにはよくわかりませんが、ウラジオストクを訪ねた折には、世代論や写真家としての展望も含めて、彼らの話を聞いてみたいものです。



by sanyo-kansatu | 2020-06-21 13:15 | 極東ロシアのいまをご存知ですか?


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