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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 06月 22日

1996年生まれの女性写真家が始めたプロジェクト「ego」は友達撮りから(ウラジオストクの写真家展 その6)

ウラジオストク郊外にある「ザリャー(фабрика ЗАРЯ)」というアートコンプレックスで開催されていた企画展「FAR FOCUS. PHOTOGRAPHERS OF VLADIVOSTOK(極東フォーカス、ウラジオストクの写真家たち)」の解説を続けています。

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1のテーマ「アイデンティティ:ポートレイトとアンチ肖像画」の最後の作品群は、イヴァン・スペランスキーという若い女性写真家によるものでした。

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Кто я? 私は誰?


1996年ウラジオストク生まれで、法学を学んだ彼女ですが、3年前、すなわち20歳の頃から撮影を始めたようです。彼女にとって写真はコミュニケーションの手段で、自分の考えを表現する言語の一種だといいます。


彼女の企画展のタイトルは、プロジェクト「ego」。同年代の友達を被写体としたポートレイト撮影には違いないのですが、ただ撮って終わりではなく、インスタ映えを気にするこの世代らしく、撮影後に加工を施します。いまどきスマホ写真でも簡単にいろんな加工ができますが、その手法が独特です。

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Иван Сперанский

Из проекта «Ego». 2019

イヴァン・スペランスキー 

プロジェクト「エゴ(自我)」2019


※イヴァン本人のポートレイトの顔もクレヨンでかき消されています。

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彼女は自分の部屋の壁に白いシートを貼って、それを背景に彼らを撮影。その後、彼らに木炭クレヨンを渡し、プリントアウトしたモノクロの自分のポートレイトに好きに描き込ませることにしました。彼らは視覚的に切り撮られた自らのポートレイトに不満があれば、非難したり、美化したり、落書きしたりして描き換える自由を与えられたのです。これは「アンチ」の試みというより、人格の一部を自らの表現として加えることで、肖像画の延長線にあるものだというわけです。


ウラジオストクに住む20代前半と思われる彼ら、彼女たちの「自画像」が何を伝えようとしているのか、ぼくにはうまく表現することができませんが、あらためて思うのは、ソ連邦解体直後に初めてこの地を訪ねてから約30年が経ついま、このようなナイーブで、どこか内省的な若者たちが、いつの間にか生まれていたのだなという感慨です。自国の社会の崩壊で辛酸をなめた、ぼくと同世代から40代くらいまでの極東ロシア人たちには、若者たちの傷つきやすい「自我」なるものを素直に受けとめられないかもしれません。


でも、実をいえば、日本では自分のような1960年代生まれの世代は、彼らに似ているところがあるように思わないではありません。「自分探し」などという言葉が広く流通していた時代を思い出すのです。


ロシアのユースカルチャーについて、ぼくはほとんど知りませんが、何人かのロシア人コスプレイヤーたちにウラジオストクや東京で会ったことがあります。ハバロフスク出身のひとりのコスプレイヤーの女の子は、日本のアニメを動画で見ながら日本語を覚えたといいます。同じような中国人にもたくさん会ったことがあるので、当然のことかもしれませんが、国籍によらず、この世代には共通するものがあるなと感じました。

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ウラジオストクでは毎年5月に「Animate it!」というコスプレフェスティバルがあります。今年は新型コロナウイルスの影響で、7月に順延されましたが、すでに13回目を数えるイベントです。地元ウラジオストクはもちろん、ハバロフスクやアムール州、永久凍土で知られるサハ共和国からも参加者があるそうです。


ロシアのコスプレフェスは、日本と少し違い、それぞれシナリオを用意し、セリフも自作自演の寸劇を始めたり、自ら選曲した音楽に合わせ、身につけたコスプレ衣装をファッションショーのように披露したりするスタイルがあります。

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コスプレは自分のイメージする別の次元の存在になりきる、演じきることだとしたら、ポートレイト撮影とは目指すところが違うのでしょうが、その境界線は意外に曖昧かもしれません。

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極東ロシアをいま訪ねることの面白さは、このようなユースカルチャーに触れることにもあるのです。



by sanyo-kansatu | 2020-06-22 14:37 | 極東ロシアはここが面白い


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