人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2020年 07月 01日

街並みのリズムを刻む都市の構造物を切り撮る(ウラジオストクの写真家展 その13)

ウラジオストクの「ザリャー(фабрика ЗАРЯ)」で開催された企画展「FARFOCUS. PHOTOGRAPHERS OF VLADIVOSTOK(極東フォーカス、ウラジオストクの写真家たち)」の第2のテーマ「自然の写真と写真の自然:ゾウと星」の最後の作品群は、テーマで掲げられる「自然」とはおよそ関係のなさそうな、ウラジオストクのモノクロ風景写真です。

ふたりの写真家の作品で、最初は今回初登場のセルゲイ・キャリノフです。


まず左の写真から。スタジアムらしき座席が並んでいるので、最初はディモナスタジアム(日本人抑留者が建設に従事したサッカー場)かと思いましたが、背後に高層マンションが写っているので、別の場所のようです。現地の知人によると、アジムトホテルのある高台からスポーツ湾を見下ろす場所につくられた観客席で、毎年
7
月の最終日曜に開催される「海軍の日」の海上での軍艦によるショーを見物するときに使われる場所のようです。

街並みのリズムを刻む都市の構造物を切り撮る(ウラジオストクの写真家展 その13)_b0235153_13522841.jpg

この写真の特徴は、プラスティックのイスとマンションのバルコニーというそれぞれ同じ形状の構造物が細胞壁のように上下左右に並んでいるさまを視覚的に訴えているという点か。類似した特徴を持つ構造物の連なりが視界に同時に入ってきたので、直感的に切り撮ってみたという印象です。


右の写真は、冬の氷結する海辺に置かれた
2
層の船の船首部分のみを切り撮ったもの。右手のヨットの船首は白くきれいなのに対し、左の船首にはおびただしい数のフジツボや貝が付着し、干からびて凍りついています。その生々しさがいかにも対照的です。夏は海水浴できるのに、冬は凍ってしまうというウラジオストクの海ならではの光景でもあります。


これらの
2
点に共通するのは、都市空間に存在する何の変哲もない構造物の一部を組み合わせて切り撮ることで、本来そのものの持つ機能と視覚的なイメージがまったく切り離されてしまう、その面白さに注目したことでしょうか。


Сергей
Кирьянов

Из серии ≪Город ЧБ≫. 2018

セルゲイ・キャリノフ

シリーズ「都市 ЧБ」より 2018


撮影したのは、
ロシアの飛び地として知られるカリーニングラード出身で1966年生まれセルゲイ・キャリノフで、ウラジオストクに来たのは88年から。ウラジオストクの芸術アカデミーでグラフィックデザインを学んだそうです。好きな写真家は、「日常をアートに変えた」と評されるフランスのアンリ・カルティエ=ブレッソンや、シュールレアリズム的な作風で知られるアメリカのジョエル・ピーター・ウィトキンなど。彼の好みの作風との共通点がうかがわれるような気もします。


彼はアカデミー卒業後、プロの写真家として活動しながら、一時ゴーリキー劇場で小道具制作や撮影を務め、現在はアートギャラリーで働いているそうです。


次は、<その10>でチュクチ自治管区と国後島のノスタルジックな光景
を撮ったグレブ・テレショフです。今回彼はウラジオストク周辺で撮っていますが、どれもどこか寒々しく虚ろな光景ばかりです。


まず左から。この階段は港側から見た中央広場に至るもので、革命戦士の像の頭の部分だけが見えています。この像はロシア革命で活躍したウラジオストクの兵士を称えたもので、
1961
年に建てられたものです。近くで見ると、とても勇ましい像なのですが、こうして見ると、薄ぼんやりとした影のようでなんだか寂しげです。

街並みのリズムを刻む都市の構造物を切り撮る(ウラジオストクの写真家展 その13)_b0235153_13523274.jpg

右の写真は、ルースキー島が軍事地区として一般人の入域が禁じられていた時代の軍事施設の廃墟でしょうか。


Глеб
Телешов

Владивосток. 2005

ウラジオストク 2005

Остров Русский. Владивосток. 2017

ルースキー島 2017

街並みのリズムを刻む都市の構造物を切り撮る(ウラジオストクの写真家展 その13)_b0235153_13523514.jpg

これらの3点もルースキー島で、左は2012年のAPEC開催時に市内から移転された極東連邦大学のキャンパスで、真ん中は海辺に放置され、用なしとなったトーチカの跡? 右は2017年にオープンした沿海地方水族館の建設中の外観のようです。

街並みのリズムを刻む都市の構造物を切り撮る(ウラジオストクの写真家展 その13)_b0235153_13523844.jpg

この3点は、左と右がスポーツ湾にも近いブールヌィ岬で、ハイアットグループなど海外ブランドの開業の話もあったものの、結局実現できず、高級リゾートホテルの建物だけが残っている場所です。2007年に撮られていますから、まだホテルの誘致も決まっていなかった時期なのか、建設もまだのようです。

真ん中の写真はシーズンオフのシャモラビーチのパラソルの骨だけが並んだものです。


Владивосток
, мыс Бурный. 2007

ブールヌィ岬 2007

Владивосток, бухта Шамора. 2016

シャモラビーチ 2016


会場に展示されたこれらの作品群に対する解説に「街並みのリズム」というキーワードが使われていました。これらの写真を収めながら、
テレショフは何を感じていたのか。それは彼がチュクチ自治管区や国後島で感じたノスタルジーに近い感情なのか。それとも別物なのか。ぜひ話を聞いてみたいものです。



by sanyo-kansatu | 2020-07-01 13:55 | 極東ロシアはここが面白い


<< サーカスという職場はとってもフ...      1985年のウラジオストク、戦... >>