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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 07月 18日

ストリートフォトから見えるウラジオストクのフツーの感じ(ウラジオストクの写真家展 その24)

海こそ凍っていませんが、冬のウラジオストクです。この寒空の下、寒中水泳をすませたばかりの裸の男が雪の積もった波打ち際に上がってきました。一方、目の前の鉄棒の上に3羽の鳩が凍えるようにとまっています。


これも海辺の光景ですが、コンクリートの堤防が壊れて瓦礫となって放置されているのでしょうか。遠く波打ち際には男性が犬と散歩しています。手前には自転車が乗り捨てられ、コンクリートの上に女性が立って海を眺めています。


背後に金閣湾大橋が見えるので、ここはスヴェトランスカヤ通りの歩道でしょう。黒いビニールのゴミ袋を引きずった清掃人のおじさんが歩くその先を犬が先導しているかのように見えます。

ストリートフォトから見えるウラジオストクのフツーの感じ(ウラジオストクの写真家展 その24)_b0235153_11472018.jpg

この3枚に共通しているのは、遠近それぞれに気になる被写体を置いて、偶然出くわしたであろう、これら奇妙とも思える構図を瞬間的にカメラに収めていること。そして、撮影の舞台は街角のありふれた場所であり、基本的にストリートフォトであることです。


ウラジオストクの「ザリャー(фабрикаЗАРЯ)」で開催された企画展「FARFOCUS.PHOTOGRAPHERS OFVLADIVOSTOK(極東フォーカス、ウラジオストクの写真家たち)」の第4のテーマ「『黄金の都市』パノラマとストリート(«Город золотой». Панорама и улица)」の部屋の、いよいよストリートフォトの世界に誘うことにしましょう。


これらを撮ったのは、1990年生まれのレオニード・スヴェギンツェフです。出身は触れられていませんが、のちほど出てくる写真のキャプションに「人生の4分の1はウラジオストク」との文言があります。コンピュータサイエンスを学び、写真は独学だそうです。


好きな写真家として、シドニーのストリートシーンを魅力的なモノクロ写真で表現したトレント・パークや、ヴィム・ヴェンダース監督が惹かれたブラジルの報道写真家セバスチャン・サルガド、モスクワ生まれで、ロシア映画界の巨匠アンドレイ・タルコフスキーに見いだされたゲオルギイ・ピナソフ、サンクトペテルブルク生まれのストリート写真家イリヤ・シトゥツア、そしてウクライナ出身のタラス・ビチコなどを挙げています。


もちろん、彼の好きなジャンルはストリートです。彼のインスタグラムには、今回紹介する以外のたくさんのウラジオストクのストリートフォトがあります。


スヴェギンツェフは、ミノルタがかつて開発したライカMマウントのレンジファインダーカメラのミノルタCLEとギャラクシーのスマホを使って撮影しているそうです。題材はこれから紹介するようなストリートの断片で、街角で出会った一瞬をインスタグラムにアップしています。


彼は自分の撮ったワンシーンにつぶやきのような詩的なキャプションを書くクセがあるようです。たとえば、以下は上記3点のキャプションです。なぜこの写真にこのつぶやきなのか、解読は難しいです。


Леонид Звегинцев

Но это естественно.Окружениесебя другими искажает ваше восприятие жизни.Окружите себя собой.

レオニード・スヴェギンツェフ

「しかし、それは自然です。他人と自分自身を取り巻くあなたの人生の認識を歪めます」。


Итак, Владивосток.Четверть моей жизни была посвящена этому месту. Это чувство довольно сложно описать.

「だから、ウラジオストク。私の人生の4分の1はこの場所に捧げられています。この気持ちを説明するのは難しいです」


Я всегдамогу научить старую собаку новым трюкам на этих землях. Мы победители, в некоторомсмысле.

「私はいつも老犬に新しいトリックを教えることができます。こうして私たちは勝者になります」。


以下、スヴェギンツェフのストリートフォトをみていきましょう。

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マンションの谷間に積もる雪。一瞬ベビーカーに見えるが、よく見ると、スーパーでの買い物を運ぶ手押し車と日本製と思われる白い軽自動車、その間に立つ人物は動いたせいでボケています。う~ん、これは何を撮ろうとしたのか? 以下は彼のつぶやきです。


Мое настроениеменяется с течением моря. Разбитые небоскребами, заложники в еще одной пробке вчас пик и в то же время столь благодарные за очередной порыв сурового соленого ветра...

「私の気分は海で切り替わります。高層ビルに遮断され、ラッシュアワーによる交通渋滞の人質になったのと同時に吹いてくる荒く、塩辛い突風に感謝しています」。.


次は氷結したウラジオストクの海を歩く人たちです。


Одиночество... Какое модное слово.Я предпочитаю одиночество. Этопросто точнее.

「孤独……なんてバズってるんだ。それは正しいです」。

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今度は中央広場で馬に乗る女の子とそれを引く年上の女の子です。これはウラジオストクに限らず、ロシアの地方都市でよく見かける光景です。ぼくはハバロフスクのディナモ公園やユジノサハリンスク駅前のレーニン広場で見かけたことがあります。日本の子供だって、馬乗りは楽しいでしょう。それが遊園地の中ではなく、公共の場である広場にあるのが面白いです。


Трудно сказать, отличаются ли вещи здесь от похожих где-то еще.Я не думаю, что это лошади. Или дети. Я видел это по телевизору.

「ここで見たこと、そして子供たちの様子が他の場所とは異なっているとは言い難いです。私はこんな光景をテレビで見たことがあります」。


次は破れたフェンスとノートで日差しから顔を隠す男の子。


Будущееможет быть слишком светлым, чтобы справиться с ним. Кто знает?

「未来は明るすぎてうまく処理できないかもしれません」。


そして、通りに置かれた口を広げたダンボールの空箱。


Честно говоря,я не чувствую, что должен.

「正直なところ、私はこれを片付ける必要はないと感じています」。

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左は金角湾大橋のたもとで、2018年2月といえば、開通してからずいぶん経つのですが、この時期まだこんな状態だったのでしょうか。いまは整備され、公園になっているはずです。


右は中央広場の地下道を上がった場所から見た沿海地方政府庁舎。手前にバイクに乗った男がいます。


Февраль2018

2018年2月

Июнь2017

2017年6月


最後の2点。まず雨上がりで道路に水が溢れて、サンダル履きの女の子が気の毒そうなカット。なぜかキャプションは「牧場」だそうです。

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そして、鷲の巣展望台の手すりの間から見える金角湾大橋。手すりにたくさんの鍵がかかっているのは、カップルがここに来て鍵をかけると幸せになれるという都市伝説が流行し、とりわけ韓国から来た観光客が盛んにかけていったからです。現在は市当局がすべて撤去して、すっきりしています。


Луговая.Сентябрь 2017

牧場 2017年9月

Июнь2018 

2018年6月


なぜスヴェギンツェフはこれまで撮り貯めてきた数々のストリートフォトのうち、これらの写真を選んで展示したのでしょうか。彼のインスタグラムをみるかぎり、もう少しわかりやすいストーリー性を感じさせる作品がたくさんあるからです。今回の出品作は、外国人である我々にはもうひとつピンとこない感じがあります。もしかしたら、地元の人たちには伝わる何かがあるのでしょうか。


でも、あらためて考えてみると、この写真展で先輩諸氏たちが出品している作品の多くがある種の時代性や極東という地域の特徴を際出せるに足る固有の世界を切り撮って作品化しているのに対し、彼はむしろウラジオストクが世界のどこにでもあるフツーの町と変わりないんだよと言っているようにも思えてきます。


彼が好きな写真家として挙げていた人物にイリヤ・シトゥツアというストリート写真家がいます。1972年サンクトペテルブルク生まれの彼は、2010年~11年にハバロフスクの新聞社で専属カメラマンとして過ごしていますが、当地をはじめロシア各地でストリートフォトをたくさん撮り、以下のウエブサイトで一部公開しています。


500streetphoto.net

http://500streetphoto.net/интервью/илья-штуца/


シトゥツアのストリートフォトは、スヴェギンツェフの写真に比べ、とても饒舌でざわめきに満ちています。こんなことが日常に起きているのかと驚き、笑いもさせられ、エンターテインメントとしても成立しています。日常を捉えながら、きわめて演劇的な世界を切り撮っているからです。


とはいえ、スヴェギンツェフの繊細な感性が捉えるストリートの世界もいいですよ。彼のインスタグラムをぜひご覧になってみてください。


レオニード・スヴェギンツェフ

https://www.instagram.com/streetphotos.vl/




by sanyo-kansatu | 2020-07-18 11:52 | 極東ロシアはここが面白い


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