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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 07月 20日

群集たちは当時、広場で何を想っていたのか(ウラジオストクの写真家展 その26)

ウラジオストクの「ザリャー(фабрика ЗАРЯ)」で開催された企画展「FARFOCUS.PHOTOGRAPHERSOF VLADIVOSTOK(極東フォーカス、ウラジオストクの写真家たち)」の解説も、ついに5のテーマ「古い祝日と新しい儀式。群衆からサブカルチャーへ(Старыепраздники и новые ритуалы. От толпы к субкультуре)」に入ります。


恒例のエピグラフは、ドイツのワイマール時代の社会学者ジークフリート・クラカウアーの著作『大衆の装飾』(1927年)の中の一節を取り上げています。難解なので直訳は控えますが、20世紀前半のドイツの大衆文化(旅行や興行エンターテインメントなど)、特に映画を分析することで、当時の社会心理やイデオロギーを読み解こうとしたジークフリート・クラカウアーですから、大衆の好む装飾デザインが匿名性と非合理的なカルト性を有していることを指摘しています。

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この部屋では、社会とコミュニティ、群衆とサブカルチャーがテーマです。以下、写真展の解説を簡単に記しておきます。


今日、ウラジオストクで繰り広げられる大衆のイベントや祭りは、ソ連時代から受け継いだ様式と新しいカタチが共存しています。


都市の公共スペースである広場と大通りがその舞台です。市民はメーデーの51日と戦勝記念日の同月9日、9月下旬の「トラの日」、十月革命記念日の117日などに街に繰り出します。軍事パレードや共産主義者の集会もありますが、バイカーたちが集結するイベントもあります。


宗教的な祝日もあります。多くの群衆が広場に集まり、喜びを分かち合います。ここで紹介される広場の群衆たちの一瞬を捉えた歴史的な、そして現代の写真は、過去数十年にわたってウラジオストクの祝日がどのように変化したかを明確に示しています。


前口上が長くなりましたが、さっそく写真をみていきましょう。今回の写真は、<その1><その3><その7><その15><その16><その17>と、この企画展で最多出品写真家のひとり、ゲオルギイ・フルシチョフです。


時代は1970年代。月(ロシア)革命を記念するプラカードを掲げた男性と背後に群衆のパレードする姿が見えます。とはいえ、群衆たちはギターやアコーディオンを奏でながら歩き、子供を肩車しているお父さんもいます。とても和やかで、人々は笑顔であふれています。

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フルシチョフは当時、地元の大手企業ダルプリボル社の企業内撮影師でしたから、社員とその家族が参加するパレードの様子を撮影したのだと思われます。そこには社内広報的な意味合いがあるのだとしても、同じ時期、中国では文化大革命が起きていて、人々は闘争的かつ残忍で、「造反有理」の名のもとに多くの命が失われたことを思うと、同じ社会主義の国でもこれほど雰囲気が違ったのかと驚きをおぼえます。人々の身なりも、当時の中国とは違います。


最後の3点は、59日の戦勝記念日の軍事パレードの様子です。中央広場やスヴェトランスカヤ通りを兵士だけではなく、むしろ華やかな衣装を身につけた女性や子供たちまでが練り歩いています。

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Георгий Хрущев

Труженики ПАО ≪Дальприбор≫ участвуютвпраздниках 1 мая и 7 ноября. 19751980

ゲオルギイ・フルシチョフ

51日と117日の祝日のイベントに参加するダルプリボル社の労働者 1975-1980


この3点は197659日の戦勝記念日の軍事パレードです。左の写真は若い水兵たちですが、真ん中の写真は胸にたくさんの勲章をつけた退役軍人だと思われます。舞台は中央広場です。

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Праздник Дня Победы, 9 мая. Владивосток.1976

戦勝記念日59日 ウラジオストク 1976


こちらは、ダルプリボル社の創立記念日に開かれたコンサートの様子です。ロシアの民族衣装サファランと頭飾りのココシュニックで着飾った女性ダンサーたちが手を広げて笑顔を振りまいています。時代はすでに新生ロシアの1997年。とはいえ、ソ連時代とそんなに違いは感じられません。

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Юбилей ПАО ≪Дальприбор≫. Концерт в честь праздника. Владивосток. 1997

ダルプリボル社の創立記念日。記念コンサート ウラジオストク 1997


これらは2000年代以降のウラジオストク港の様子と戦勝記念日や7月下旬に毎年行われる「海軍の日」に撮ったものです。かつての軍港は今日様変わりしています。

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Два парусника у причала с военнымикораблями. Владивосток. 2005

軍艦と2隻の帆船 ウラジオストク 2005

9 мая День Победы. Владивосток. 2008

59日 戦勝記念日 ウラジオストク 2008

День военно-морского флота. Владивосток.2017

海軍の日 ウラジオストク 2017年


解説によると、フルシチョフは群衆たちの表情をクローズアップすることで、社会主義時代の終わりに繰り広げられた“義務的な”パレードにおいて、当時のソ連市民たちが歌い、笑顔で参加していたことを記録したとあります。確かに、当時のイベントは社会主義の名のもとに行われたには違いありませんが、被写体となった市民たちはつくられた笑顔であるようには見えません。当時の広場の群衆たちは何を想っていたのか。フルシチョフ氏に話を聞いてみたいです。



by sanyo-kansatu | 2020-07-20 13:06 | 極東ロシアはここが面白い


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