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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 08月 11日

伝説のアーティスト、アレクサンドル・キリヤフノのパフォーマンスを撮る(ウラジオストクの写真家展 その32)

かつてそこに建っていたであろうビルが取り除かれ、廃墟となった剥き出しの鉄筋とコンクリートの床に生まれた狭い隙間に身体を滑り込ませて寝そべる男。かと思えば、髪の乱れたブロンドの少女人形を抱きながらリコーダーを吹き、黒いボードに向かって椅子の上から手を広げています。

伝説のアーティスト、アレクサンドル・キリヤフノのパフォーマンスを撮る(ウラジオストクの写真家展 その32)_b0235153_11400529.jpg

布人形を抱いたまま、路上に仰向けに倒れる男。背後に並べられた描きかけのような抽象絵画の前で、スーツケースの上に横になって寝そべろうとしていたり、暗くてよく見えないものの、ボロボロの毛布で身を包み宙を見つめる男が立っています。


伝説のアーティスト、アレクサンドル・キリヤフノのパフォーマンスを撮る(ウラジオストクの写真家展 その32)_b0235153_11400976.jpg


Сергей Дробноход

Из проекта ≪Исповедь художника≫. 2017

セルゲイ・ドロブノホド

プロジェクト「アーティストの告白」より 2017


いったい彼は何者で、何をしようとしているのか。

解説によると、被写体となっているのは、ウラジオストクが生んだ伝説のアーティスト、アレクサンドル・キリヤフノです。彼は無頼のコンセプチュアルアーティストとしてこれまで激しい作風の作品を送り出してきましたが、これは
2017
9月に開催された国際ビジュアルアートフェス「ウラジオストク・ビエンナーレ」におけるワークショップとパフォーマンスの一幕でした。撮ったのは、写真家のセルゲイ・ドロブノホドです。


1998
年に始まった「ウラジオストク・ビエンナーレ」は、実際には隔年ごとに行われたわけではないのですが、2017年で9回目の開催となりました。国内外のさまざまなアーティストによる展示会やインスタレーション、パフォーマンス、レクチャーなどのアートイベントが、ルースキー島を含む市内の15の会場で開催されました。オープニングはマリインスキー劇場で行われました。


「アーティストの告白」と題された写真プロジェクトは、アレクサンドル・キリヤフノが自身の作品とともにこの港湾都市をさまよい、瞑想するパフォーマンスの一部始終をドロブノホドが撮り収めたものでした。


国際ビジュアルアートフェス「ウラジオストク・ビエンナーレ」開催(
24.09.2017

https://gorodv.com/2017/09/putevoditel-po-biennale-sovremennyh-iskusstv-startovavshej-vo-vladivostoke/

公式サイト https://vibva.com/en/


実は、
2017
9月はウラジオストクの現代アートの担い手たちにとって晴れがましい時節となりました。同じ時期、モスクワの近代美術館で20名を越えるロシア沿海地方のアーティストたちをフィーチャーした展覧会が開かれていたからです。


その企画展は「反逆者の土地:ウラジオストクの現代美術 
1960
2010年」と題されたものでした。


これを報じたいくつかの記事によると、この企画展は「沿海地方の非公式なアートシーンとその歴史を紹介する最初の試み」でした。ロシアの首都モスクワから遠く離れた沿海地方で
1960
年代から2010年代までの半世紀において、どのようなアートシーンが生まれていたかについて、これまでほとんど知られていませんでした。


ところが、長く閉鎖都市であったこの地では、
1960
年代に抽象絵画を描く複数の画家たちが現れ、その後もアンダーグランドなカルチャーが育まれていました。当時、モスクワの文化が十分届いていなかったけれど、ウラジオストクのアーティストたちはネオモダニズムの思想を手に入れ、ひそかに芸術活動が続けられていたというのです。


かつてのソ連時代の社会主義リアリズムから独立した別種のアートが、首都から遠く離れたこの地に生まれていた理由を探ることがこの企画展のテーマでした。彼らは必ずしも「反逆者」だったわけではなかったのでしょうが、モスクワからみると、そういう言い方をしたくなるのかもしれません。


その代表的な人物として、いまは亡きヴィクトル・グラチェフと前回紹介したヴィクトル・フェドロフ
が挙げられます(この2
名とともに、何名かのアーティストが記事では紹介されますが、今後の勉強とさせてください)。


ソ連が崩壊した
1990
年代に入ると、世界に開かれたウラジオストクのアーティストたちは、アメリカ西海岸に渡り、同じ海辺に暮らす芸術家同士として交流しました。


この時期、農村育ちでしたが、絵を描く才能が認められたアレクサンドル・キリヤフノは活動を始めます。しかし、彼はウラジオストクのアートコミュニティには加わらず、独自のコンセプチュアルアートの世界を模索しました。


彼の作品の一部は、下記の
2
本目の記事の中の動画の130頃からとYOUTUBE動画の冒頭シーンに映っているようです。

※関連記事サイト

https://dv.land/spec/bunt-na-korable

https://tvkultura.ru/article/show/article_id/190345/&usg=ALkJrhiJxP3xMMGHJGH4sLBEVixL2folDQ

https://www.youtube.com/watch?v=uOw3JQ46U_s


話を元に戻しましょう。ウラジオストク郊外にある「ザリャー(
фабрика ЗАРЯ)」と呼ばれるアートコンプレックスで昨冬から今年春まで開催されていた「
FARFOCUS. PHOTOGRAPHERS OF VLADIVOSTOK(極東フォーカス、ウラジオストクの写真家たち)」という企画展の話です。


テーマ
6
「芸術と実験:コンセプチュアリズムからパフォーマンスへ(Искусствоиэксперимент. От концептуализма к
перформансу)」の部屋に入ると、これまでのどちらかといえば、社会の諸相や歴史的ドキュメントなどを記録した作品とはまったく違う世界が見えてきました。


今回の写真家、セルゲイ・ドロブノホドは、彼のプロフィールによると、ウラジオストク芸術アカデミーを卒業し、
1969
年から撮影を始めたそうです。好きな写真家として、オランダ生まれでロック・フォトグラファーとしてU2やデヴィッド・ボウイ、ビョークらを撮り続けてきたアントン・コービンや、チェコ出身でソ連軍のプラハ侵攻(プラハの春)のドキュメントで世界的に知られるヨゼフ・コウデルカ、同じくチェコ出身で、子供の頃ナチスの収容所に入れられたという経験を持つ写真家ヤン・ソーデックを挙げています。ソーデックはバルテュスの絵のような幻想的なエロスの世界で知られています。

また彼は「写真とは何か?」との問いに「アーティストの魂によって混乱から引き裂かれた神秘的なイメージをつむぐこと」と答えています。彼自身が根っからのアーティストですね。


今日のウラジオストクのアートシーンを理解するうえで、「ザリャー」とともに、ウラジオストク現代アートスクール(Владивостокская
школа современного искусства (ВШСИ)
)の以下のサイトは役立ちそうです。


アーカイブの中に、たくさんの未知なるアーティストが紹介されています。このブログで紹介した何人かもいます。たとえば、今回紹介したアレクサンドル・キリヤフノやミハイル・パヴィンの名があります。また「ウラジオストクの写真家展」に写真家として登場するグレブ・テレショフやデニス・コロボフもいます。ウラジオストクのストリートアートを先導するアーティスト集団の「33 + 1」
もいます。


ВШСИ

http://vsca.ru/


そして、もうひとつウラジオストクの現代アートを支えてきたアートギャラリー「ARKA」の企画展リストも参考になります。


ARKAGALLERY.RU
http://www.arkagallery.ru/exhibitions.htm

モスクワの人々もそうでしたが、我々もウラジオストクのアートシーンについてもっと知る必要がありそうです。



by sanyo-kansatu | 2020-08-11 11:45 | 極東ロシアのいまをご存知ですか?


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