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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 08月 12日

1970年にソ連の写真家によって撮られた国後島の景勝地「材木岩」(ウラジオストクの写真家展 その34)

海岸線の岩肌が魚のうろこのように見えます。材木のような石柱が幾百幾千とせめぎあうように連なり、その亀裂に海水が流れ込んでいます。自然が創り出した絶景には目を見張るほかありませんが、全体を漫然と見るのではなく、プロの写真家が構図を選んでその一部を切り撮ること、さらにモノクロ撮影されたことで、地球ではない別の惑星に不時着した宇宙船の乗組員が目撃したかのような視覚的な効果を楽しませてくれます。

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1970年にソ連の写真家によって撮られた国後島の景勝地「材木岩」(ウラジオストクの写真家展 その34)_b0235153_14563263.jpg


Георгий Хрущев

Мыс Столбчатый. Курильскиеострова. 1970

ゲオルギイ・フルシチョフ

シュトルプチャティ岬 千島列島 1970年

ところで、この奇観が見られる場所がどこかご存知でしょうか。もしかしたら戦前の日本人なら知っている人がいたかもしれません。


これは北方四島のひとつ、国後島の名高い景勝地「材木岩」だからです。


撮影したのは、<その26><その17><その16><その15><その7><その3><その1> と、この写真展で最多登場しているゲオルギイ・フルシチョフです。

<その3><その7>で紹介したとおり、フルシチョフは1970年に北方四島のひとつ、色丹島を訪ねており、同じときに撮られたものと思われます。ただし、これまで彼が社会主義リアリズムを追求しながら撮ってきた労働者のポートレイトや休日の群集の光景とは違い、かなり芸術的な作品といえます。


写真展の解説でも「この石の組成物は、ゲオルギイ・フルシチョフによって70年代に撮影され、これらの一見形式主義的な運動に美的な意味を見つけた」と書かれています。


ロシアの旅行サイトによると、国後島の西海岸にあるシュトルプチャティ岬は、約4000万年前、羅臼岳(メンデレーエフ火山)の噴火口から海に向かって流れた玄武岩質の溶岩が水の中で五角柱、または六角柱の形状の層となって割れ、その後波食によって切り立つ海岸線として形成されたと説明しています。


https://discovery-russia.ru/europe/russia/juzhno-sahalinsk/mis-stolbchatij-ostrov-kunashir/



実際、この岬は北アイルランドにある「巨人の石道」として有名なジャイアンツ・コーズウェイとよく似ています。材木岩は戦前の日本人にも当然知られていて、千島列島における最大の景勝地のひとつでした。

近年、北方四島へのビザなし渡航が始まっていて、国後島を訪ねるメディアや日本人による報告がネットに見られます。


たとえば、産経新聞は、以下のような記事を載せています。

国後島の西海岸沿いにある材木岩。島の中心地・古釜布からコンクリート舗装されていない道を車で約1時間、さらに歩いて45分のところにある。溶岩が噴出した時に三角や六角の柱上のまま急速に固まり、まるで材木が並んだような形になったところから、この名称になったという。ここからは、天候が良ければ知床半島が見渡せる。(2011年7月30日、鈴木健児撮影)

景勝地の材木岩【北方領土パノラマ】国後島 Vol.4 2012.6.6

https://www.sankei.com/photo/panorama/news/120606/pnr1206060004-n1.html

また内閣府のHPには、材木岩の写真が載っています。もうひとつパッとしない写真ですけれど。
https://www8.cao.go.jp/hoppo/hyakkei/04_kunashiri01.html

2018
10月にビザなし渡航で北方四島を訪ねた日本人のレポートもあります。


北方領土に初上陸!択捉島・国後島は自然の絶景たっぷり!温泉、料理、買い物と、知られざるその魅力をご紹介します!(2018/12/26)

https://tabicoffret.com/article/75955/index.html 

一方、ロシア人たちも、モスクワからみると地の果てのような国後島を訪ねています。以下のレポートは、イリヤ・ブヤノフスキーさん(1986年生まれ)という地理ジャーナリストが2018年に国後島を訪れたレポートで、現在の様子が豊富な写真で紹介されています。


Кунашир 1~5varandej.livejournal

https://varandej.livejournal.com/986296.html

https://varandej.livejournal.com/986491.html

https://varandej.livejournal.com/986676.html

https://varandej.livejournal.com/986985.html

https://varandej.livejournal.com/987384.html


興味深いのは、Part1のユジノクリリスク(Южно-Курильск 古釜布)の町並みや日本時代の灯台などの遺構が撮られていること。島の博物館の展示品として戦前期日本人が使っていたとっくりやおちょこ、アイヌの木彫りなどがガラスケースの中に置かれていて、サハリン各地の郷土博物館とそっくりだったこと。


※たとえば、コルサコフ(大泊)やポロナイスク(敷香)。さすがにサハリンの方がだいぶ立派には見えますけれど。

https://inbound.exblog.jp/27288993/
https://inbound.exblog.jp/27257855/

Part3には、ゲオルギイ・フルシチョフ張りに撮られた材木岩のさまざまなカット(同じ場所から撮ったと思われるカットあり)があります。国後島の豊かな自然の風景やサケの川上り、日本人が使用したと思われる陶器の破片を見つける写真など、さまざまなシーンが記録されています。

ブヤノフスキーさんのレポートを見てあらためて思うのは、日本人は驚くほど国後島のことを知らない、ということです。たとえば、国後島の面積は1489.27 km2、長さ123kmに及ぶ細長い島で、沖縄本島より大きいことをご存知でしょうか。


この地域については知らないことが多すぎて、ショックのあまり、めまいがしそうな気分になりました。ぼくは、いつの日、晴れてこの島を訪ねることができるのでしょうか。



by sanyo-kansatu | 2020-08-12 15:06 | 極東ロシアのいまをご存知ですか?


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