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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 08月 25日

マーシャ・ラムジーナのシャーマニズム的テキスタイルアートの可能性(ウラジオストクの写真家展 その39)

テーマ7「ライフスタイルとストリートフォトグラフィー(Стиль жизни и стрит-фотография)」の最後の作品は、<その5>で登場したアレクセイ・コロトコフです。

<その5>で彼は「アンチ肖像画」というテーマを掲げ、ひとりの女性を被写体とした写真を撮っています。その女性はウラジオストク在住のテキスタイルアーティストのマーシャ・ラムジーナです。


ライフスタイルがテーマのこの部屋でも、ほぼマーシャ・ラムジーナが被写体です。


以下、彼女が自身の作品を身に付けて撮ったアレクセイ・コロトコフの写真を見ていきましょう。前半はモノクロ撮影です。


男女の社会的領域や区別が厳格だった英国
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世紀末のヴィクトリア朝の女性の服装の特徴は、詰まった襟と長い胴部のラインといわれていますが、マーシャはあえて当時のような襟のブラウスを着ています。

マーシャ・ラムジーナのシャーマニズム的テキスタイルアートの可能性(ウラジオストクの写真家展 その39)_b0235153_12282542.jpg

Алексей Коротков

Викторианская блузка. 2013

アレクセイ・コロトコフ

ヴィクトリア朝のブラウス 2013


ローマ神話に出てくる花と豊穣と春の女神フローラのドレスを着たマーシャ。


Платье
с флорой. 2014

フローラのドレス 2014


彼女のおばあちゃんといえば、ソ連時代を長く生きた世代でしょう。ゆったりしたシルエットのワンピースで、大きなニットキャップを被り、カメラに背を向けています。

マーシャ・ラムジーナのシャーマニズム的テキスタイルアートの可能性(ウラジオストクの写真家展 その39)_b0235153_12282974.jpg

Бабушкино платье. 2013

おばあちゃんのドレス 2013


郊外の古い木造家屋の前の大きな木陰で寝そべるマーシャ。どういう衣装を着ているのかよくわかりません。写真展の解説によると「винтажной(ヴィンテージ=古くて価値が高い、年代物のアイテム、古着)の服を着て、村の家で撮影」と書かれています。前述のヴィクトリア朝のブラウスやおばあちゃんのドレスを指していると思われます。


Полуденный
сон. 2019

昼寝 2019


その家の前に立つマーシャはなぜかピンボケしています。

マーシャ・ラムジーナのシャーマニズム的テキスタイルアートの可能性(ウラジオストクの写真家展 その39)_b0235153_12283441.jpg

Старый дом. 2012

古い家 2012


涙を流したあとのようにも見えるマーシャの顔の接写。


Без
названия. 2019

無題 2019


そして、マーシャが最近の自分の作品を着て撮ったカラー撮影
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点。場所は郊外の荒地や沼地、工事現場のようなところばかりです。


忍者のように布で顔を覆うマーシャ。

マーシャ・ラムジーナのシャーマニズム的テキスタイルアートの可能性(ウラジオストクの写真家展 その39)_b0235153_12283890.jpg

Без названия. 2019

無題 2019


「本」?

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Книги. 2019

本 2019

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Наводнение. 2015

洪水 2015

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Первый снег. 2013

初雪 2013

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Дорога на Маяк. 2018

灯台への道 2018

最後の2点はモノクロで、モデルは別人(アポリナリア)です。

マーシャ・ラムジーナのシャーマニズム的テキスタイルアートの可能性(ウラジオストクの写真家展 その39)_b0235153_12285852.jpg

Аполлинария в куртке с черепами.2017

頭蓋骨のジャケットを着たアポリナリア 2017


Аполлинария
в образе лесной нимфы. 2017

森のニンフのようなアポリナリア 2017年 


ニンフとは「ギリシア神話に出てくる女の姿をして川や泉から現れる妖精」のことだと思いますが、確かに彼女にはそんな雰囲気があります。


さて、ここまで写真をみてくると、マーシャ・ラムジーナという女性がどのような人物なのか知りたくなります。


彼女の公式サイトによると、プリントや型紙、グラフィックパターンを使ったテキスタイルやインスタレーションを創作するアーティストだそうです。キルティングやパッチワーク、刺繍などの技法を駆使して職人のように洋服をつくります。


彼女の作品世界を知るには、以下の公式サイトとインスタグラムを見ていただくのが早いと思います。


Маша
Ламзина

https://mashalamzina.com

https://www.instagram.com/mashalamzina/


彼女は今年
5
月、地元の現代画廊「アルカ」で企画展を開催しています。テーマは「Я– ЛЕС(私は森にいます)」。「表面に防食処理をした銅板をニードルで削り、腐食液に浸して作品に欲しい線や面を作っていく版画技法」であるエッチングによるプリント技法でデザインした作品を展示しました。

マーシャ・ラムジーナのシャーマニズム的テキスタイルアートの可能性(ウラジオストクの写真家展 その39)_b0235153_12290299.jpg

https://mashalamzina.com/exhibition/


興味深いことに、藍染のようなテキスタイルのデザインは、かつて極東ロシアの森でひそやかに行われたシャーマンの儀式の際、身につける仮面のように見えます。彼女は自然と人間、心と身体という二元論ではない意識に戻る方法としてシャーマニズムに関心を持っているそうです。確かに、この部屋のアレクセイ・コロトコフの作品も、そのようなイメージを強く感じさせるシーンばかりでした。


こうしたテキスタイルアートの世界に自分は詳しくないため、月並みなことしか語ることができませんが、彼女のつくる作品の思想的な背景に極東ロシアの自然や文化があることが感じられます。



by sanyo-kansatu | 2020-08-25 12:34 | 極東ロシアのいまをご存知ですか?


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