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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 08月 28日

イカしたソ連の80年代「不条理」ヌードを撮ったのは、あのゲオルギイ・フルシチョフ(ウラジオストクの写真家展 その41)

フェルトハットを被ったうら若き女性が裸体のまま、白いベレー帽姿の工場労働者と並んで立っています。場所はボイラーの配管と計器類に囲まれた工場施設の中。油の匂いと蒸気に包まれた空間で、彼女の白く無防備な裸体とハイ・ヒールを履いた細い足首、そしてカメラを見つめるあどけない表情が衝撃的でさえあり、とてもイカしています。しかも、これが撮られたのはソ連時代の1983年というのですから、ちょっと驚きです。

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こちらはふたりの裸の女性がダンスでも踊るかのように両手を振り上げ、宙を見つめて立っています。右の女性はスカーフを主婦のように頭に巻いているぶん、かえっていやらしさを感じるのは気のせい? 背景にあるのは焼却炉のようで、この設定の意図するところはよくわかりませんが、労働運動の奥底にあるエロスの情動を暗示しているとでもいうのでしょうか。それとも抑圧された労働者の夢想とユートピア? でも、よく見ると、わざとらしさも感じられないではありません。

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Георгий Хрущев

Обнаженные в стиле ≪Абсурд≫. 1983

ゲオルギイ・フルシチョフ

「不条理」なヌード 1983

労働者の作業着を大きな洗濯機に投げ込んでいる女性も上半身裸です。

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最初の彼女がここでは先端が細い円錐型のじょうろのようなものを持ち上げています。

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これらを撮影したのが、<その1>1970年代に社会主義リアリズムを掲げて労働者のポートレイトを撮っていたゲオルギイ・フルシチョフであることは、興味深い発見です。すでに述べたとおり、彼は当時勤めていたダルプリボル社の社内撮影師であり、社員たちの労働に勤しむ姿を親しみを込めて、魅力的に撮影していました。そんな彼がどうしたことでしょう。1980年代になると、このような一見ハレンチ?なヌード撮影を、しかも工場施設内で行っているのです。


この路線変更に戸惑ったのは、被写体とされ、ヌードモデルの女性たちの隣に立たされた労働者のおじさんたちだったのではないでしょうか。この現実にはあり得ない設定の中で、彼らは神妙な表情を浮かべています。


石炭をつかむような大きなペンチを手にしたおじさんの、どこかやらされてる感の漂う表情もおかしいですが(こうした小道具もフルシチョフのリクエストなのか?)、ヌードモデルをはさんで立っているもうひとりの口ひげのおじさんは、いくぶんカメラを睨みつけるようで、自分が置かれた「不条理」な状況に対する違和感を表しているかのように見えます。裸体の彼女の表情と目線は、最初のモデルに比べると、少し険しめです。

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さらに、女性の労働者とヌードモデルが並ぶシーンもあります。眼鏡をかけたこの中年女性は明らかに不満げです。何を自分にやらせようとしているのか……。そりゃそうでしょう。ここは自分たちの職場なのです。

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ぼくが勝手に想像をたくましくしてしまうのは、フルシチョフ氏はこのクレージーとも思えるヌードモデル撮影の企画を社内と労働者たちにどう持ちかけ、説得したのだろうか、ということです。そして、これが撮られた1980年代と1970年代という時代の間に、ソ連社会にはどのような変化があったのか。考えすぎでしょうか……。


写真展の解説はこう語っています。


「ヌードモデルたちは、写真家によって労働者たちの隣に置かれます。無防備で脆弱な女性のボディと巨大な工場設備は、そのコントラストを増幅します。モデルはまた、裸性の真実とソ連の新聞プロパガンダの疲労を象徴するプラウダ新聞の上に横たわっています」


そうなのです。ソ連時代のプロパガンダ紙とされる「プラウダ」を床に敷いた上にヌードモデルが死体のように横たわる写真は、見ようによってはかなりのインパクトがあります。

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もう一点では、裸体のモデルの顔が覆われています。ヌードモデルの死とエロスとプラウダの関係をフルシチョフ氏はどう語るのか、ぜひ聞いてみたいです。

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by sanyo-kansatu | 2020-08-28 13:42 | 極東ロシアのいまをご存知ですか?


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