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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 09月 01日

マン・レイを愛する写真家が挑み続けたヌード写真あれこれ(ウラジオストクの写真家展 その42)

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アパートの一室で若い女性が肌身をさらしたまま、ひとりは横を向いてたたずみ、もうひとりは往年の西洋美人画のモデルのようにベッドの上に横たわっています。壁には額縁に収められた絵や写真がいくつも掛けられ、テーブルの上には画材道具が置かれています。モノクロ撮影されたこのシーンは、まるでヴィンテージヌードの銀塩写真のよう。20世紀初頭のパリやニューヨークの芸術家とモデルの関係を思い起こさせます。

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一方、こちらでは目の前に立つ上半身裸の彼女は大きくブレたまま、迫ってくるようです。ソファーベッドの片隅に座る彼女は、太ももを露わにしてうつむきながら雑誌を読んでいます。先ほどの2点に比べ、少し現代に近づいた印象です。

Михаил Павин

Из серии 18+. 1988-2014

ミハイル・パヴィン

シリーズ「18+」より 1988-2014


<その4><その30><その31>
で、さまざまなジャンルにまたがるアート写真を出品してきたミハイル・パヴィンがこれまで撮りためてきたヌード作品を紹介しています。マン・レイを愛好する彼らしく、20
世紀風ヌード写真の様式美に対するオマージュのような作品といえるでしょう。


写真展の解説は言います。「ミハイル・パヴィンのモデルたちは、アーティストの<アトリエ>のような古典的なインテリアの中に置かれ、絵のように美しい類推の記憶を呼び起こします。盗撮とスカートの下を覗く写真家は、エロティックなシルエットを認識したまま、むき出しの下着の女性の太ももが平面と線に変わる、抽象化を行います」


※後半の一文は、のちに紹介する写真に関するものです。


ゴツゴツした岩場のかなたに衣服を脱ぎ捨て、海に向かって裸体をさらす女性がいます。なんとすがすがしいまでの自由でしょうか。

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Желтухина остров свободы. 2008

イエロー 自由の島 2008


<その30>
でパヴェル氏は中央広場に建つ州政府庁舎をテーマにした作品をたくさん撮っていましたが、ここでは夜闇にボンヤリとライトアップされ、浮き上がって見える州政府庁舎に向かって裸体の女性が手を伸ばし、何かを訴えかけているようです。ペレストロイカまっただ中の1987年の作品です。

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С надеждой и верой. 1987. Из серии ≪Двенадцатьвидовадминистративногоздания≫

希望と信頼 1987年 シリーズ「州政府庁舎の第一の眺め」より


ウラジオストク市郊外の要塞跡地の草むらにまるで横たわるように置かれた裸体の女性。

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Из серии ≪Душа крепости≫. 2007

要塞の私たち 2007


いわゆる「レンズなし」撮影によるヌード写真。像は薄ぼんやりとしか写らないため、オブジェとしての肉体がかえって生々しく感じられる?

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Из серии ≪Без объектива≫. 2007-2009

シリーズ「レンズなし」より 20072009


窓の明かりで逆光となり、すっきりとした黒いシルエットがどこかいとおしい。とてもプライベートなヌード撮影?

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Аня. 2013

アーニャ 2013


???

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Из серии ≪Путешествия по эрогенным зонам≫. 1999

シリーズ「性感帯への旅」より 1999


これはパヴェル氏の「自画像」をテーマにした作品の一部で、写真集『屋根裏部屋の地下室』(
2007
)によると、ウラジオストク市内にある画廊「アートエタッシュ」のディレクターのアレクサンドル・ゴロディニイからオファーされたものだそうです。彼自身が裸体となり、モデルに扮しています。

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Радужные перспективы. 1988-1994

虹のパースペクティブ 1988-1994


この女性の下着の盗撮のような写真について、パヴェル氏は同じ写真集の中でこう説明しています。「ある夏の日、バスに乗っていた私の席のそばに北朝鮮の若い同志がいた。しばらくしてミニスカートの女子高生が乗ってきて、彼の向かいに座ると、スカートの中が露わになった。同志は最初気がつかないふりをして、窓の外を眺めていたが、彼の視線は彼女の太ももに何度も注がれていた。その後、彼女はバスを降り、同志も次のバス停で降りた。その光景に出会った私は、コミュニストとして教化された同志が一瞬、それを否定し、ひとりの人間としてささやかな楽しみを得たことを見逃さなかった」

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Из серии ≪Первое измерение≫. 2001

シリーズ「第一次元」より 2001


実際、『屋根裏部屋の地下室』の中には、おふざけのようなヌード写真もけっこうあります。「
Classics Imitation
」(1988-1992)と題されており、かつての名作の模倣というわけです。

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In The Shade Of The Great Artists」(2006- 2007)と題されたこの2枚の写真についても、偉大なアーティストによる西洋美人画をコピーすることで写真における誠実な表現を獲得しようと試みたと説明しています。

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どこまで本気なのかよくわからないところもありますが、ぼくにはパヴェル氏のどこまでも自由で快活な挑戦は微笑ましくもあり、楽しめる作品ばかりだと思えてきます。



by sanyo-kansatu | 2020-09-01 13:25 | 極東ロシアのいまをご存知ですか?


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