若手写真家が提示するオルタナティブな身体性とニューエロティシズム（ウラジオストクの写真家展 その43）

若い裸の女性が海辺の岩場の上で割れた大きな鏡を手にして立っています。鏡には打ちつける波がくだける様子が写っています。

Островитянка. 2017

Мария Бабкова

マリア・バブコワ

アイランダー 　2017年

ブロンドの長い髪の彼女が下着姿で背を向けて立っています。左手に観賞植物が見えることで、室内で撮られたことがわかり、彼女に対するいとおしさがわいてくるとともに、淡く切ないエロティシズムが感じられます。

Пена. 2017

泡 2017年

丈の長い草原に裸の女性が横たわり、足と手だけを見せています。同じ彼女は裸のまま駆け出しました。広大な空の青みが彼女の躍動感を包み込むかのようです。

Wild life 2017

ワイルドライフ　2017年

マリア・バブコワは、＜その38＞でウラジオストクに住むティーンエイジャーたちのファッション写真を出品した1997年生まれの彼女です。今回は自分の同世代の女性たちのヌード写真を作品にしました。その舞台は自然で、初々しく新鮮です。

写真展の解説では「マリア・バブコワ、デニス・コロボフ、アレクセイ・コロトコフの3人の若い世代の写真家がオルタナティブな身体性と新しいエロティシズムを提示している」と言っています。これはどういう意味でしょうか。

以下はデニス・コロボフの作品です。

本人が上半身裸でこちらを向いています。右胸の下に小さなタトゥーが彫られています。

Денис Коробов

デニス・コロボフ

Я. 2014

私　2014年

目に鮮やかなほどカラフルで大きな蝶柄のシーツの上に裸体の女性が横たわり、乳首やお腹の上にミカンの皮を散らして置いています。

Бабочки. 2014

蝶　2014年

1991年生まれのデニス・コロボフもこの写真展で何度も登場しています。＜その5＞で顔を隠す若い女性モデルのポートレイトを撮り、＜その35＞で日常のチープな色味にこだわるストリート写真を多数出品しています。今日の日本人にも理解しやすい世界のように思います。

3人目はアレクセイ・コロトコフで、＜その39＞で登場したテキスタイルアーティストのマーシャ・ラムジーナを被写体にした作品を多く撮っています。コロボフと同じ＜その5＞では「アンチ自画像」をテーマにした作品を出品しています。

もちろん、今回も被写体はマーシャ・ラムジーナです。レースのドレスを着た彼女がバスタブの中に横になっています。ビーチサンダルを脱ぎ捨てて。

Алексей Коротков

Кружевное платье. 2007

アレクセイ・コロトコフ

レースのドレス 2007年

＜その39＞に出てくる郊外の木造家屋の庭に彼女は裸のまま座り込んでいます。くびれた背中に背骨だけがくっきり浮かび上がって見えます。もう一点は、彼女の首筋から背中にかけての接写。木漏れ日が彼女の背中を美しく照らしています。

Лето. 2007

夏　2007年

これら3人の若い写真家たちが被写体としているのは、プロのモデルさんではなく、おそらく身近な人物たちだと思われます。自らの日常に生起するプライベートな関係の中で撮影が行われていることからくる自然体のエロティシズムは、＜その41＞でゲオルギイ・フルシチョフが大掛かりな舞台設定の中で撮影したモデル撮影とは対極のものです。

彼らがこだわっているのは、写真展の解説が指摘するように「オルタナティブな身体性」ということなのではないでしょうか。この部屋のテーマが「ボディランゲージ」であるように、彼女たちのさらされた裸体は多くのことを物語っているようです。