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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 09月 04日

ソ連時代に現役で活躍していた世代の作品の見たことがない新鮮さ(ウラジオストクの写真家展 その45)

昨冬から今年春にかけて、ウラジオストクで開催されていた「FAR FOCUS.PHOTOGRAPHERS OF VLADIVOSTOK(極東フォーカス、ウラジオストクの写真家たち)」という企画展のすべての作品に解説をつけるという試みをひとまず終えて、これから全体を通じて見えてきたこと、感じたことなどを書き出していきたいと思います。

まず世代別に写真家を比較するため、以下の19名を年代別に並べてみました。大まか3つの世代に分けられることがわかります。


1
)ソ連時代に現役で活躍していた世代

Юрий Луганский ユーリ・ルガンスキー 1946年生まれ

Георгий Хрущев ゲオルギイ・フルシチョフ 1940年代生まれ

Сергей Дробноход セルゲイ・ドロブノホド 1950年代生まれ

Елена Мельникова エレナ・メルニコワ 1950年モスクワ生まれ

Александр Мельниковы アレクサンドル・メルニコフ 1953年生まれ


2
)ペレストロイカからソ連崩壊に至る激動の時代に撮影を始めた世代
Юрий Яроцкий ユーリ・ヤロツキー 1957年生まれ
Михаил Павин ミハイル・パヴィン 1958年生まれ
Владимир Шутафедов ウラジーミル・シュタフェドフ 1960年ハバロフスク生まれ

Глеб Телешов グレブ・テレショフ 1966年アルマータ生まれ

Сергей Кирьянов セルゲイ・キリャノフ 1966年カリーニングラード生まれ


3
21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代

Алексей Коротков アレクセイ・コロトコフ 1979年モスクワ生まれ

Александр Хитров アレクサンドル・キトロフ 1986年生まれ

Евгения Кокурина エヴゲニイヤ・コクリーナ 1987年生まれ

Павел Немтин パヴェル・ネムティン 1987年生まれ

Сергей Орлов セルゲイ・オルロフ 1988年生まれ

Леонид Звегинцев レオニード・スヴェギンツェフ 1990年生まれ

Денис Коробов デニス・コロボフ 1991年生まれ

Иван Сперанский イヴァン・スペランスキー 1996年生まれ

Мария Бабкова マリア・バブコワ 1997年生まれ


※特定の地名がない場合は、ウラジオストクおよび沿海地方出身


「ソ連時代に現役で活躍していた世代」を代表するのが、
元ロシア写真家協会沿海地方支部会長の故ユーリ・ルガンスキーです。まさにソ連時代の王道を歩いた写真家といえそうです。

ソ連時代に現役で活躍していた世代の作品の見たことがない新鮮さ(ウラジオストクの写真家展 その45)_b0235153_11220051.jpg

11回 海洋写真家が1970年代に撮った南極観測船と「極東のベスト写真」プロジェクト
15回 1978年のオホーツク海の蟹工船の漁師と加工業者たち
21回 異世代が撮るスターリン建築「灰色の馬」と赤軍兵士の銅像の眺め


彼は極東連邦大学でジャーナリズムを学び、1960年代から「コムソモリスカヤ・プラウダ」などのソ連時代のメディアでフォトジャーナリストとして活躍します。また太平洋艦隊に勤務し、漁船やトロール船で海に出て、漁獲作業に従事する労働者の姿など、海洋写真を多く撮っています。

もうひとりが、今回出品数が最多だったゲオルギイ・フルシチョフです。

ソ連時代に現役で活躍していた世代の作品の見たことがない新鮮さ(ウラジオストクの写真家展 その45)_b0235153_11220395.jpg

1回 社会主義リアリズムの美学と1970年代に撮影された労働者たち

3回 色丹島のうら若き漁村の女性、サハリン島の先住民族ウデゲ人
7回 極東ロシアの静謐な村の家並みと自然を撮る

15回 1978年のオホーツク海の蟹工船の漁師と加工業者たち

16回 1970年代の農場で働くシェフとファーマーたちの記録

17回 1970年代vs.2010年代 新旧靴の修理屋の肖像の違いから見えてくること

26回 群集たちは当時、広場で何を想っていたのか

34回 1970年にソ連の写真家によって撮られた国後島の景勝地「材木岩」

41回 イカしたソ連の80年代「不条理」ヌードを撮ったのは、あのゲオルギイ・フルシチョフ

出品数が多い理由は彼の作品を見ていると、よくわかります。1940年代生まれと思われるフルシチョフは1970年代に活躍した写真家で、「社会主義のリアリズム」を旨とした労働者たちの魅力的なポートレイトを撮り続けていました。ソ連が崩壊してすでに30年近く経つ今日において、それはとても新鮮です。彼の被写体となる労働者たちは、中国や北朝鮮などの近隣の社会主義国で撮られた同様の「労働者の肖像」と比べると、その違いに気づきます。つくられた感がしないのです。それはなぜだったのか。

また彼は北方四島を訪ねて、荒涼たる風景やそこで暮らすロシア人の肖像も撮影しています。それらも含めて、社会主義の発展に寄与することが自分の役割であるという認識を彼が持っていたと思われま
す。



ソ連時代に現役で活躍していた世代の作品の見たことがない新鮮さ(ウラジオストクの写真家展 その45)_b0235153_11221464.jpg

それだけに、1980年代に彼が工場内でアバンギャルドなヌード撮影を行っていることは興味深いです。いったい何があったのでしょうか。ご本人にぜひとも聞いてみたいことです。

最後にもうひとりを挙げるとすると、アレクサンドル・メルニコフでしょうか。

ソ連時代に現役で活躍していた世代の作品の見たことがない新鮮さ(ウラジオストクの写真家展 その45)_b0235153_11221824.jpg

20回 ロシア人がゴルバチョフは英雄だと誰も言わない理由


彼は1980年代前半に続々と建設されていたウラジオストクの社会インフラを記録しています。それらの多くは、子どもたちのための教育施設や保養所など、いわゆるレジャー施設も多く、市民が生活を楽しむための社会インフラでした。


これらの写真を見ながら思うのは、
1970
80年代前半くらいまでは、少なくともロシア人の認識では「発展」が感じられたのだと思います。「ペレストロイカの前の時代は良かった」と彼らが語るのは、そのためなのです。


次回は「
ペレストロイカからソ連崩壊に至る激動の時代に撮影を始めた世代」について考えてみたいと思います。


ソ連時代に現役で活躍していた世代の作品の見たことがない新鮮さ(ウラジオストクの写真家展 その45)_b0235153_11222296.jpg
1985年の戦勝記念日における艦隊の隊列シーン



by sanyo-kansatu | 2020-09-04 11:28 | 極東ロシアのいまをご存知ですか?


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