人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

inbound.exblog.jp
ブログトップ
2020年 09月 08日

21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)

「ソ連時代を知らない世代」は、ロシア社会の中でも確実に増えていて、いまの30代を含めた下の世代はほぼそうだといえそうです。さらに、1990年代生まれになると、スマホとSNSの時代を謳歌し、ストリートフォトやファッション、アートを志向する「21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代」といえるでしょう。

ウラジオストクの現代アートスペース「ザリャー」で開催された写真展に登場した、この世代の写真家たちは、いったいカメラのファインダー越しに何を見つめようとしているのでしょうか。いやもうカメラではなく、スマホの時代だよと言われてしまいそうでもありますが、ひとまず年長者から順々に取り上げていきます。


まず
パヴェル・ネムティン。彼は1987年生まれですが、その作風やスタイルは90年代生まれの中に入れていいと思います。彼の作品はいわゆるストリートフォトですが、構図の取り方に特徴があります。多くの作品が人物であれ、風景であれ、断片として切り取られているのです。しかも、独特の色彩感覚で、瞬間的に一部をシャープに切り撮るスタイルです。

21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)_b0235153_17143007.jpg
21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)_b0235153_17143313.jpg

36回 スマホで切り撮られた一瞬の構図と色彩が生む断片の美学


1990年生まれのレオニード・ズメギンツェフは風変わりなストリートフォトばかりです。人々が休日を過ごしている一場面には違いないのでしょうが、そこで何をしているのかよくわからない路上の人々の姿を好んで撮っています。

21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)_b0235153_17143704.jpg
21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)_b0235153_17144067.jpg

これらはすべてストリートの断片であり、街角で出食わした一瞬をスナップショットし、リアルタイムで自身のインスタグラムにアップすることを忘れません。写真の撮り方もそうですが、撮ることの意味自体が、年長の世代とは異なっているようです。あと面白いのは、彼の場合、詩的ともとれる長いキャプションを一枚一枚につけているところです。少々意味不明なつぶやきのようなものばかりなのですが…。これも彼のスタイルといえそうです。


24回 ストリートフォトから見えるウラジオストクのフツーの感じ

29回 奇妙な路上の人々と写真家のシュールなつぶやき


1991
年生まれのデニス・コロボフは、日本人からみると、理解しやすい作風に思えます。「アンチ自画像」をテーマとした部屋では、決して素顔をさらそうとしない女性モデルばかりを撮っていたり、日常にあふれるレトロな色味やプラスティックのチープな素材ばかりを撮ってみたりと、日本の同世代と共感しあえそうな感受性が伝わってきます。

21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)_b0235153_17144408.jpg
21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)_b0235153_17144791.jpg

5回「アンチ肖像画」? 彼女らが顔を隠すのはなぜなのか

35回 ストリート写真家がこだわる日常のチープな素材と色彩

43回 若手写真家が提示するオルタナティブな身体性とニューエロティシズム


1996
年生まれのイヴァン・スペランスキーは、ウラジオストクに住む自分と同世代の20
代前半と思われる彼ら、彼女たちの「自画像」を作品化しています。

21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)_b0235153_17145115.jpg
21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)_b0235153_17145525.jpg

彼女は自分の部屋の壁に白いシートを貼って、それを背景に彼らを撮影。その後、彼らに木炭クレヨンを渡し、プリントアウトしたモノクロの自分のポートレイトに好きに描き込ませることにしました。視覚的に切り撮られた自らのポートレイトに不満があれば、非難したり、美化したり、落書きしたりして描き換える自由を与えたのです。


6回 1996年生まれの女性写真家が始めたプロジェクト「ego」は友達撮りから


1997
年生まれのマリア・バブコワは、この世代らしく、ファッション写真の可能性を追求しているようです。ただし、ティーネイジャーたちを起用したモデル撮影は、グローバル資本が先導するファストファッションが広告として採用するファッション写真の世界に似ている気がします。きっとそれだけではないのかもしれませんけれど。

21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)_b0235153_17145891.jpg

また自分の同世代の女性たちのヌード写真を撮っています。この初々しさと控えめさはかえって新鮮に感じられます。

21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代の感受性について(ウラジオストクの写真家展 その48)_b0235153_17150191.jpg

38回 ロシアのティーンエイジャーたちが演じるファッション写真の可能性

43回 若手写真家が提示するオルタナティブな身体性とニューエロティシズム


これら若い写真家たちの作品は、見る人によっては完成途上として感じられるかもしれませんが、それをふまえても、いまウラジオストクを訪れるときに感じるフツーな感じ、世界のどの町でも(それは東京や大阪、地方都市でも)同じであるような共時性、それはこれまでの社会と新しい世代の関係のありようを形成するベースとなる感受性のようなものを、彼らもまた共有しているからだと思います。それゆえ、ぼくのような人間は、彼らの作品に親しみと愛着を感じてしまうというわけなのです。



by sanyo-kansatu | 2020-09-08 17:19 | 極東ロシアのいまをご存知ですか?


<< 中国人観光客不在のインバウンド...      ソ連時代を知らない世代はいまの... >>