2019年 01月 18日
中国の火鍋といえば、唐辛子で真っ赤に染まった激辛鍋を思い浮かべるかもしれないが、東北地方の火鍋は素材の新鮮さで勝負する。なかでも三大素材は、キノコ(吉林省)や羊肉(内蒙古)、海鮮(遼寧省)だ。このうち、東北ならではのふたつの極上鍋を紹介しよう。(写真/佐藤憲一) 長白山麓でとれたキノコづくし鍋、 美味スープで恍惚となる 真冬に重慶に行って驚いた。肌に冷気がひやりと突き刺す寒空の下で、人々はコートを着たまま、野外で鍋をつついていたのだ。そういう輩を何人か見たという話ではない。街中老若男女の誰もがそうしていたのである。 グツグツとどす黒いほどに煮え立つ重慶火鍋は、中国全土で最も激辛といわれる。口の中に具を入れると、山椒で舌がしびれて味がわからないどころか、ただ痛いだけ。こんな苦行のような体験はもうコリゴリだと思うのだが、翌日なぜかまた挑戦してみたいと思ってしまうのだから、どうかしている。鍋ほど人間の業を目覚めさせる食べ物はないかもしれない。 前置きが長くなってしまったが、これからする東北の火鍋は、これに比べると、ひたすら上品である。素材で勝負する、おダシのおいしい鍋なのだ。 その筆頭が、長白山麓でとれた新鮮な菌類をふんだんに入れたキノコ鍋である。 吉林省の町々の市場を訪ねると、何十種類ものキノコが並んでいる。日本の高級スーパーなんか話にならない豊穣さだ。もちろん、秋が近づくとマツタケもある。 キノコ鍋の食べ方には作法がある。最初はキノコ以外の具は絶対入れてはならない。肉や野菜を入れると味がにごるからだ。 山盛りのキノコを鍋に入れ、ただただキノコを食べるのだが、ダシが染み出たスープのなんとうまいこと。もう恍惚たる気分である。 正直なところ、もうそれだけで十分という気がする。だが、中国の友人たちは、これからがお楽しみよ、とばかりに、キノコを平らげ、スープだけが残った鍋に、肉やら魚やら野菜やらをぶち込み始める。 このとき、重慶とは違った意味で、人間とは業の深い生き物だと思う。もう十分だとさっきまでは思っていたのに、気が付くと、肉に食らいついているのだから。 このキノコ鍋は、大連にある鍋専門店「何鮮菇」で食べられる。すでに自分は数度訪ねているが、毎回友人が選んでくれた数種類のキノコて満足している。いろいろありすぎて、選びようがないからだ。が、ふと思うことがある。店には自分の知らないたくさんの、何十種類ものキノコが用意されている。もしそれらのキノコのひとつひとつの名称や味の違いがわかるような食通がいたら、どのようにキノコを組み合わせるのだろうか。味はどう変わるのだろうか。 中国の食の奥深さに気づいて、めまいがしてくるのは、こういう瞬間だ。でも、そこまでわかってしまうと、業に食い尽くされて自分を取り戻せなくなるのではないか、そんなことまで思うのである。 大草原の羊を豪快にぶち込むモンゴル鍋 中国でもはや稀少となってしまった天然の大草原が残るフルンボイル平原は、黒龍江省の西に広がる内蒙古自治区の東北部にある。そこを車を1週間チャーターして訪ね歩いたことがある。 21世紀の内蒙古には風力発電のような人工物が多く、興ざめな感じもあるのだが、突然絵に描いたような高く澄み渡った空と白い雲、羊がのんびり群れる絶景に立ち会えることがある。 このような土地で、人は何を食べているのか。もちろん、目の前にいる羊である。 もともとモンゴルの人たちは、羊肉を一口サイズに小さく切り刻み、串にさして焼くようなちまちました食べ方はお好みではない。豪快に羊の骨付き太ももを塩味だけで焼いたり、茹でたりして食べているのだ。 同じことは火鍋にもいえる。チンギスハンも好んだというモンゴル鍋を、ハイラルの鍋専門店で食べたとき、ちょっと驚いた。鍋はもちろん、中に石炭を入れ、真ん中に煙突のあるタイプで情緒満点だが、具材として最初から骨付き羊肉の塊が隙間もないほどぎっしりと周辺の鍋部分に埋め込まれていたのだ。 食べ方は、特に作法もなにもない。肉の塊を鍋から取り出し、そのまま食べるだけ。最近は南方から多くの華人がフルンボイルの地に来るので、ゴマやニンニクなどの各種中華風タレ(中国では「調料」という)が用意されているが、基本モンゴルの人たちはスープのダシだけで満足だ。実は日本人も同じだろう。なぜなら、そのダシは肉臭いどころか芳醇で、独特の風味をもつモンゴル岩塩が溶け込んでいて、味も深いのだ。香辛料のような野暮なものは不要なのである。
by sanyo-kansatu
| 2019-01-18 12:33
| 日本「外地」紀行
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