ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2017年 12月 27日

新しい中国人観光客像の5つの傾向とは?

今年もトップを走る訪日中国人は過去最高の年間700万人を大きく超えそうな勢いだ。訪日外国人の4人に1人を占める彼らの日本旅行の内実は、我々の理解が追いつかないほどの多様化と先進化を見せている。従来どおりの古いイメージだけで見ていると、対応にも間違いを起こしがちだ。日本を訪れた彼らのさまざまな声を聞いてみたい。

12月上旬、中国黒龍江省新世紀国際旅行社日本部の呼海友部長は、映画『男はつらいよ』の舞台である葛飾区柴又にいた。
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↑柴又駅前の寅さん像と今年3月にできたばかりのさくら像

彼は毎年この時期、東京に1週間ほど出張に来て、旅行会社回りの営業をするかたわら、訪日旅行のテーマ探しをするのがもうひとつのミッションになっている。なぜ彼は柴又に視察に訪ねることにしたのだろうか。「お定まりのコースしかない格安弾丸ツアーに飽きた中国の中高年のお客さんを寅さんの町に連れて来たいから」という。

寅さんの自由な生き方は平和な日本の象徴

訪れたのが朝9時と少し早かったせいか、帝釈天の参道は人通りも少なく、まるで映画のセットのようだった。境内の裏手の『邃渓園』と呼ばれる日本庭園で和み、中国には少ない法華経の説話を描いた帝釈堂の木彫りを鑑賞後、寅さん記念館に足を運んだ。
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↑さくらの主人の博が勤めるタコ社長の印刷所のセット

館内には、寅さんの実家である「くるまや」の店内セットやミニチュア模型など、映画を構成する象徴的なシーンが再現されている。中国の人たちは、寅さん映画のどんなところが面白いと思っているのか。

呼部長はこう話す。「寅さんがいつもあちこち旅をし、自由に生きているところです」。

いまの40代以上の中国人にとって寅さんは善良で平和的な日本人のイメージを象徴しているという。この映画が中国で観られるようになったのは1980年代以降だが、それまでの「日本といえば日本兵」という悪のイメージを払拭し、相対化するうえで、この映画が果たした役割は大きかったといえる。

今日、中国の若い世代が日本のアニメ作品『君の名は。』(岐阜飛騨市)や『スラムダンク』(神奈川県鎌倉市)のロケ地を訪ねる話はよく聞くが、中高年の中国人がよく知る日本人は寅さんであり、彼らにとっての「聖地巡礼」でもあるというのだ。

「中国にはこんな静かでのどかな下町はない」と呼部長はいう。「帰国したら、少人数で柴又を訪ねるツアーを企画します。中国にはファンが多いですから」。

新しい中国人観光客像に見られる5つの傾向

中国人の訪日団体旅行が解禁された2000年から10数年、これまで我々が思い描いていた中国人観光客のイメージを大きく変えなければならなくなっている。それは世間でよくいう「モノからコトへ」「買い物から体験に移っている」という話でもあるが、実際には、もっと中身は深化している。

今年、中国人観光客に見られた新しい傾向として以下の5つのポイントが挙げられる。

1.特定の文化的テーマで目的地を選ぶ
2.日本の田舎を楽しみたい
3.女子旅から親子旅へ
4.日本より進んだSNSによる濃密な情報環境の実現
5.肌で感じる日本社会の中国人嫌いに対する不安


それぞれについて、これから解説していく。

旅行体験共有会が個人旅行客の情報収集の場に

まず、「1.特定の文化的テーマで目的地を選ぶ」について。背景にはリピーターの増加にともなう日本に対する理解や関心の深まりがある。彼らがいま日本にどんな関心を持っているかについては個人によって千差万別で、ひと口では言えない。それを知るには、たとえば日本政府観光局(JNTO)や全国の自治体が中国各地で開催している旅行体験共有会がひとつの参考になる。

旅行体験共有会(中国語「旅游体验分享会」)は、普段はゆるいSNSで結ばれた特定の旅行テーマに関するファンたちが集まるオフ会で、個人化の進む中国におけるプロモーションとしてよく採用される手法のひとつだ。そこで集まるファンたちが核になり、SNSを通じて情報や話題が伝播されていくことで、日本国内のまったく無名の場所でさえ、誘客の効果が生まれているのだ。

日本のパワースポットめぐりを楽しむ中国のOLも

11月下旬、上海で開催された中部地方(東海、中央高地、北陸の9県)の旅行体験共有会では、この地域を実際に旅した3名の中国人がスピーカーとして登壇し、50名の参加者たちとの質疑応答が繰り広げられた。
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↑11月に上海で開催された旅行体験共有会「深体験 魅力遊 日本中部旅行分享会」

会場にいた上海在住OLの張麗さん(仮名)によると、面白かったのは『櫻追う』というブロガー名の女性の話。彼女は桜の季節に日本を訪れ、Yahoo!アプリで桜の開花した場所を調べて各地を旅して回ったという。「私のようなOLは自由に休みが取れないから、彼女のように無計画な旅ができるのがうらやましい。この会に来ると、いろんな旅をしている人の話が一度に聞けるから面白い」。

張さん自身も日本旅行のリピーターで、神社が好きという。「中国のお寺と違って、神秘的な雰囲気が魅力。2015年に伊勢神宮でご朱印を手にしたことをきっかけに、今年は諏訪神社と穂高神社に行きました。来年は出雲大社を訪ねる計画です」。

ここで注意したいのは、いま中国で日本のパワースポットめぐりが流行っているという話ではないことだ。個人化した中国人はさまざまな個別の動機と目的を持って日本国内のあらゆる場所に出没しているのである。

LCC深夜便を活用して訪日する上海の若い女性たち

なかでも今日の訪日中国客の主役は若い女性の個人客だ。

ある上海のアパレル企業に勤めるOLは、スカーフのおしゃれな巻き方を身につけるコーディネイターの資格を取るため日本に旅立った。中国にないこの種の日本の資格は、仕事の現場に活きるからだという。このようにレジャーや買い物目的を超えた個人的な趣味や職業上のスキルアップまで含めたさまざまな訪日動機が生まれており、情報収集にも余念のない一定層のリピーターがすでに存在しているのだ。

こうしたOLたちの気軽で多彩な訪日旅行を支えているインフラのひとつが、羽田空港や関西空港への中国からの格安深夜便の増加である。

たとえば、羽田・上海深夜便は、日系のピーチアビエーションに加え、春秋航空や上海航空、吉祥航空が運航している。これらの便は多くの場合、往復ともに深夜便なので、金曜夜に上海を発てば、土曜早朝に羽田に着き、1泊して日曜夜に羽田を発てば、月曜早朝に上海に戻れる。彼女らのアクティブな行動力には驚くばかりだ。
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左:ピーチアビエーションの羽田・上海の深夜便は中国客の利用も多い
右:上海浦東空港から日本に向かう中国人の女子旅

中国の若い世代が思い描く「日本の田舎」とは?

そうはいっても、「余暇を過ごす」ために日本を訪れるという中国人は若い世代ほど多い。最近、彼らに「日本のどこに行きたいか」と聞くと、たいてい最初に出てくる言葉が「日本の田舎」である。

彼らがそう語る真意はどこにあるのか。

中国の若い世代の「日本の田舎」志向を理解するうえで参考になる本がある。1986年生まれの史詩さんというブロガーが書いた日本を個人旅行するためのガイド書『自游日本(自由旅行日本)』(南海出版公司 2015年1月刊)だ。
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↑『自游日本(自由旅行日本)』は16年、17年と3冊目が出ている人気シリーズだ

今日中国では多くの旅行書が刊行されているが、同書が類書と異なるのは、彼女が自分の足で訪ねた日本の名所旧跡や日常食が写真入りで細かく紹介されていること。

一方、買い物に関する情報がほぼないのも特徴といえるだろう。

ここでいう「日常食」とは、日本人がふだん食べているカレーやラーメン、とんかつ、天ぷら定食といった料理のこと。基本的に冷めた食事を好まない中国人らしからず、駅弁と鉄道旅行の情報が詳しいのもユニークだ。

安全だからこそ楽しめる、地方の列車旅

この本の表紙として選ばれた一両きりのローカル線の車両と高く広がる青空の写真から、彼女の世代の想いが読み取れる。林立する高層ビルの中でストレスフルな競争社会を生きるいまの中国人にとって癒しとなるのは、こういう日本の澄み切った青空に違いない。

彼らの「日本の田舎」志向の背景にはもうひとつの理由がありそうだ。前述した張さんは「ローカル列車で若い女性が旅に出られるのも、日本が安全だから。中国で同じような地方の列車の旅に出る勇気は私にはない」。いかにも都会育ちの若者的な発言だが、日本の事情に精通したリピーターたちは日本と中国の社会の違いを知りぬいている。

「女子旅」から「親子旅」へ、子連れ旅行を指南する若い母親ブロガー

最近、都内の繁華街でベビーカーを押して歩く外国人ファミリー客の姿を日常的に見かけるようになった。当然、その中には中国客もいる。「3.女子旅から親子旅へ」についても見ていこう。

個人客として日本を訪れる中国の若い女性たちは一人っ子政策の申し子であり、すでに多くは母親になっている。

彼女たちの指南書として刊行されたのが、子連れ旅行ブロガーの王晶盈さんが書いた『日本东京亲子游(日本東京親子旅行)』(人民邮电出版社2017年1月刊)だ。
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↑『日本东京亲子游(日本東京親子旅行)』は姉妹編の関西版もある

同書は、親子で楽しめる東京の遊園地や動物園、水族館、レストラン、ホテル、キッズ&ベビー用品店、児童書店といった情報が満載だ。

体調が変わりやすい小さな子供を連れて日本を旅行する際の留意点や公共交通機関でのベビーカーの利用方法なども書かれている。

母親ブロガーが、親子旅行の様子を共有

2017年3月、上海で開催された長崎県主催の旅行体験共有会のテーマも「親子旅行」だった。登壇したのは、女性旅ブロガーの柳絮同学さん。

3歳の息子と一緒に長崎県に旅行に出かけた体験の報告だった。彼女は東京や大阪なども子連れで訪ねており、2回目の旅行先が九州。息子を連れて長崎県内の動物園を訪ねたり、天草でイルカをウォッチングしたり、日本旅館に泊まって手作り団子の体験をしたりと親子旅行を満喫したという。

日本は中国に比べ、小さな子連れ旅行をしやすい環境が整っていると彼女はいう。中国にはまだない便利なサービスやインフラも多い。彼女は日本を訪れて知った経験の数々をブログに紹介している。そこには中国人から見た日本の隠れた魅力や発見があふれている。
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左:長崎の日本旅館に泊まった柳絮さんと息子さん
右:上海で開催された、長崎県の旅行体験共有会に参加したみなさん

どの自治体も外国人ファミリー客向けの情報発信やサポートはまだ十分とはいえないが、自らの子連れ体験を発信する中国人がそれを補ってくれているのだ。

行先や目的を超えて行われる、SNS上での濃密な情報交換

これまで以上に、個人旅行化が進む中国人旅行客。彼らがいつどこで何をしているか、実際のところつかみようがない。そんな彼らを相手に、これまでと同様にパンフレットやサイトをつくって多言語化するだけのプロモーション手法では通用しなくなりつつある。微博(ウェイボー)や微信(ウィーチャット)といったSNSのアカウントを開設しても、ただ一方的に情報を発信するだけでは効果はない。

では、諦めるしかないのだろうか。実はそうではない。日本を訪れた彼らのニーズを捕捉するためのひとつの手がかりを与えてくれるのが、中国の海外渡航者用Wi-Fiルーターレンタルサービス事業者「北京環球友隣科技有限公司(Beijing Ulink Technology Co., Ltd. 、以下ULINK)」が採用しているグループチャットの運営である。

北京環球友隣科技有限公司 http://www.uroaming.com.cn 

同社のサービスがユニークで他社を圧倒しているのは、出発日ごとにまとめられた微信のグループチャットを運営していることだ。

このグループチャットに参加しているのは、たまたま同じ日に中国各地から日本各地へ向かう見ず知らずの個人客同士で、目的地も宿泊先も行動も違う。
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↑誰かが質問を投げると、すぐに誰かが答えてくれる

グループチャット上で飛び交う質問はあらゆる内容に及ぶ。

たとえば「関空にどうやって行くの?」「どのコンビニでアリペイが使える?」「SUICAはどこで買える?」など。なかには「SUICAの余ったお金はどうする?」といった具体的な質問も多い。

確かに、成田や羽田のJRトラベルサービスセンターはいつも外国人観光客で長蛇の列。多くの中国人観光客はSUICAの存在を知っており、もっと簡単に買える方法を知りたいというのだ。

「タビナカ」の中国人への情報提供が可能に

日々交わされるチャットの内容をみていると、いま彼らの周辺で何が起き、何に困っているのか。何をどこで買いたいのかといったことが具体的に見えてくる。

実は似たようなサービスを中国のいくつかのオンライン旅行社も実施しているが、北京環球友隣科技有限公司のグループチャットが優れているのは、本社サイドに管理人がいて、1日100通を超えるチャットの整理を行うかたわら、日本のクライアントからのPR情報の提供も随時行っている。
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↑管理人が随時、日本の小売店や飲食店などの特典情報を伝えている

同社の営業代理店である株式会社日本遊の田熊力也部長は「微博や微信のアカウントを開設している日本企業や自治体は多いが、それだけでは個人客の動向をグリップすることはできない。弊社ではこのグループチャットにお得なクーポン券などの情報をいま日本にいて、まさに観光や買い物をしている中国の個人客に提供できる」と力説する。

このような、不特定対数の同胞同士による「SNSを通じた海外でのリアルタイムの情報交換」の存在を知る日本人は多くはない。「4、日本より進んだSNSによる濃密な情報環境の実現」というのは、そういうことだ。

団体から個人へ、旅行形態の変化とともに発生する様々な課題

いま日本を訪れる中国客の地域的構成をみると、地方在住で団体ツアーでしか日本に旅行する手段のない人たちの比率が年々減少して約4割。残りの6割以上は、これまで見てきたようなツアーに参加する必要のない上海や北京、広州などの経済先進地域の個人客だ。

背景には、今秋中国政府が一部地域で始めた日本を訪れる団体客への渡航制限もある。現地関係者の声をまとめると、対象となっているのは黒龍江省や遼寧省、山東省などだ。これらの省では、まだ団体客が多く、かつての「爆買い」を思い起こさせる購買意欲の高さから、当局は各旅行会社に年間の取扱客数の上限を通達している。これが中国の観光行政の実態の一面である。

こうした事情に加え、より自由に個人で旅行したいという中国人のニーズの高まりから、今後もますます個人化やリピーター化に拍車がかかるだろう。

中国客の個人化は、その一方で在日中国人による「白タク」や違法民泊(※これは中国人に限らない)を増加させた。多くのメディアが報じるとおりである。外国人観光客の増加が日本の社会にもたらすのは経済効果のような良いことばかりではないことを多くの人が知ることになった1年だった。

中国人旅行客の民泊志向が高い理由

なぜこうしたことが起こるのか、中国の旅行関係者に聞いてみた。

前者の「白タク」については、日本の社会が中国に比べてライドシェアが遅れており、リーズナブルで利用しやすい移動手段がないため不便を感じていること。日本のドライバーには中国語が通じないため、同胞が運転する「白タク」のほうが安心なのだ。また、後者の民泊についてはどうだろうか。旅行形態の個人化に伴い、一都市の滞在日数が延びたことで、ホテルより使い勝手のいい民泊に流れがちであることだという。

前述の呼部長(黒龍江省新世紀国際旅行社)も「一カ所に連泊する場合、毎日外食だと飽きてしまうので、キッチンがあると便利。ホテルより民泊を選びたいと考える中国人は多い」と話す。ここ数年の大都市圏のホテル価格の高止まりの影響もあるだろう。これらの問題は来年にも持ち越されることは必至で、日本のインバウンド市場の健全な促進にとって懸念材料となっている。

「中国人は嫌われている!?」

気になる声もある。それは「5、肌で感じる日本社会の中国人嫌いに対する不安」である。

ある中国の旅行関係者は、今年中国人観光客を連れて数回大阪を訪ねたが、数年前に比べて日本人の中国人に対する風当たりの強さにショックを受け「中国人は嫌われている!?」という不安を感じることが増えているという。「私が初めて出張で日本に来たのは2000年だが、当時日本の方は本当に優しかった。道に迷っていると、どこまでも案内してくれる親切な人も多く、お世話になった。だが、最近は商店街を歩いているだけで、中国人に対して厳しい目つきや言葉を浴びせる人が多くなったと感じている」と話す。

彼女はなおも言う。「理由はわからないではない。かつて自分たちより貧しいと思っていた中国人が豪勢に買い物をしているのをみて面白くないのだろう。実は、同じことは中国にもある。不動産開発によって一部の農村の人たちが急に金持ちになって都会に遊びに来るようになったが、このような人たちをマナーが悪いと都会の中国人も嫌っている」。

日本をよく理解した旅行関係者だからこそ、こうした日本社会の変化とその理由に気づいているが、初めて日本を訪れる観光客は彼女と同じようには受けとめないだろう。

別の関係者はさらに気になる指摘をする。最近、関西方面の繁華街で中国客を狙ったスリが増えているというのだ。ある大阪心斎橋にあるビジネスホテルの中国人スタッフは言う。

「中国のお客様が外出する際には必ずスリに注意するよう呼びかけています。東南アジア系の外国人による中国客を狙った事件が増えているからです」。
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↑大阪心斎橋商店街は外国人観光客であふれているが、新たな問題が起きている

こうした実情は日本人には見えにくいが、ホテルやコンビニエンスストアで働く中国人らによる口コミで中国客の間では相当広まっているようだ。

こんな指摘をする中国の旅行関係者もいる。最近、ホテルの退出後に忘れ物が出てこないケースが増えているというのだ。

「あるお客様が日本で購入した高価な美顔器を洗面室に忘れて帰ったことに空港で気がついたのでホテルに連絡したところ、見つからないと言われました。以前なら、日本のホテルはお客様の忘れ物は預かっていたはずで、そんなことはあり得なかった」と話す。

一般に日本のシティホテルでは、ゲストの退出後、ゴミ箱に入っているもの以外はすべて一定期間預かっておくというのが常識だった。原因を特定するのは難しいが、外注の清掃業者へのチェックを怠ってはいないだろうか。そう前述の関係者は指摘する。

これらの好ましくない日本の評判は気がかりである。これまで日本は治安がいい、おもてなしの国だと言われてきたが、さすがにこれだけ外国人観光客が増えると、その評判を貶めるさまざまな問題が起きてくるのも当然かもしれない。

訪日客が抱える「不便解消」のための対応も必要

最後に、もうひとつだけ、新しい中国人観光客を理解するうえで知っておくべきことに触れておきたい。

これは多くの中国の旅行関係者が口を揃えて言うことだ。「多くの日本人は日本を訪れる外国人は日本が好きだから来てくれたと思うかもしれない。でも、必ずしもそうとはいえない。今日中国人は世界中どこにでも海外旅行に出かけており、日本はそのひとつの国に過ぎない。誰もが日本を好きだから来るわけではない」。

これも言われてみれば当然の話かもしれない。日本に来るのは日本好きなリピーターばかりではないのだ。だとすれば、モバイル決済への対応や免税店化促進など、彼らに気持ちよくお金を使ってもらえるような利便性の追求だけでなく、移動を快適化するためにSUICAや公共交通機関の1日乗車券などの入手場所を増やしたり、日本の事情に合ったライドシェアを進めるなど、彼らがいま、日本で不便に感じていることの解決に努めたいものだ。これは中国人観光客相手に限った話ではないが、彼らの声にどれだけ早く気づき、対応できるかが問われる時代になっている。

※やまとごころ特集レポート第70回 2017.12.24
https://www.yamatogokoro.jp/report/20489/
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by sanyo-kansatu | 2017-12-27 06:20 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2017年 12月 27日

日本の紅葉はなぜ外国人観光客の心をつかむのか?

日本政府観光局(JNTO)の統計によると、ここ数年、秋に日本を訪れる外国人が増えている。理由のひとつは紅葉だ。桜と同様、日本を彩る魅力である紅葉は、なぜ外国人観光客の心をつかむのか。海外で日本の紅葉はどのように伝えられているか。外国人向けの正しい紅葉の伝え方とは。

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9月下旬、中国語通訳案内士の水谷浩さんがガイドを務めるマレーシアからの華人グループは大雪山系にいた。「札幌から入ってトマムや富良野、旭川をめぐる。紅葉の見どころは富良野や大雪山。日本でいちばん早く紅葉が見られるのがポイント」だという。

水谷さん率いる中国語通訳のプロ集団で形成される彩里旅遊株式会社では、中国本土や華僑として海外に在住しているVIP華人の訪日旅行手配を扱っている。ここ数年、9月下旬から10月中旬にかけては北海道でのガイド業務の引き合いが多い。紅葉を見たいという華人客が増えているからだ。

訪日客が多く訪れるのは、春より秋⁉

これまで訪日外国人旅行市場は繁忙期と閑散期に分かれ、春や夏が多いとされていた。ところが、ここ数年、秋や冬に日本を訪れる外国人が増えており、1年を通して満遍なく彼らの姿を見かけるようになっている。日本政府観光局(JNTO)によるこの5年間の月別外客数のトップ3を調べると、以下のとおりである。

◆月別訪日外客数トップ3(2012年~16年)※外客数と( )は前年同月増比

<2016年>
1位 7月 2,296,451人(19.7%) 
2位 10月 2,135,904人(16.8%)
3位 4月 2,081,697人(18.0%) 
※11月は1,875,404人(13.8%)で11位

<2015年>
1位  7月 1,918,356人(51.07%) 
2位 10月 1,829,265人(43.87%)
3位  8月 1,817,023人(63.87%) 
※4月は1,764,691人(43.37%) で5位、11月は1,647,550人(41.07%)で6位

<2014年>
1位 10月 1,271,705人(37.07%)
2位  7月 1,270,048人(26.67%)
3位 12月 1,236,073人(43.07%) 
※4月は1,231,471人(33.47%)で4位、11月は1,168,427人(39.17%)で5位

<2013年>
1位  7月 1,003,032人(18.47%) 
2位 10月  928,560人(31.67%) 
3位  4月  923,017人(18.47%) 
※11月は839,891人(29.57%)で10位

<2012年>
1位 7月 847,194人(50.97%) 
2位 4月 779,481人(163.57%) 
3位 8月 774,239人(41.77%)
※10月は705,848人(14.67%)で4位、11月は648,548人(17.67%)で11位

月別では、東アジアの国々が夏休みに入る7月がほぼトップを占めているが、中華圏が春節休暇に入る1月~2月、桜の開花や欧米のイースター休暇が重なる4月よりも10月が多いことがわかる。10月は中国の国慶節休暇に入るので、訪日客数トップの中国客が全体の数を押し上げるとはいえ、肌感覚でいうと街に外国人観光客があふれていることを強く感じる桜のシーズンより多いのだ。年々月別の数の差が縮まり、年間を通じた平準化が進んでいる。

紅葉が外国人観光客を魅了する⁉

では、なぜ秋に日本を訪れる外国人観光客が増えているのだろうか。

訪日外国人の団体から個人への移行が進み、とりわけアジアからのリピーターが増えたことから、繁忙期の夏ではなく、日本旅行の時期を秋にズラす層が現れていることが考えられる。日本人が8月ではなく、9月以降に遅めの夏休みを取るというのと同じだ。近年、日本の夏は相当蒸し暑いので、旅行に適しているとはいいにくい。アジアの国から訪れる旅慣れた人たちは、できれば涼しい日本を体験したいだろう。

もうひとつの理由は、海外で日本の紅葉の魅力が広く伝わったことが考えられる。

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↑河口湖もみじ回廊のライトアップ河(HIS提供)

「万葉集」や「源氏物語」などの古典や「百人一首」でもおなじみのように、日本人は古来もみじ狩りを楽しんできた。

紅葉が見られるのは落葉樹だけで、日本など東アジアの沿岸部やヨーロッパの一部、北アメリカの東部に限られるという。なかでも日本は落葉広葉樹の種類が多く、紅葉の見どころが多いのだ。

人気の紅葉バスツアーは河口湖

では、訪日客はどのような紅葉ツアーを楽しんでいるのだろうか。

日本の旅行大手クラブツーリズムは、2009年から、YOKOSO Japan Tourという外国人向けの国内バスツアーを催行しており、10月下旬から11月にかけては日帰りの紅葉ツアーが人気という。

CLUB TOURISM YOKOSO Japan Tour
http://www.yokoso-japan.jp

同社のツアー客の国籍のトップは香港で、次いで台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、最近はインドネシアが増えているという。これらアジア客をメインとした約20万人のメルマガ会員がいて、リピーターも多い。

担当者によると「以前は中華圏の旧正月時期や4月~5月が圧倒的に多く、秋は閑散期だったが、ここ数年はすごい勢いで増えている」という。実際、10月~12月のツアー客数が年々倍々ゲームで、「2017年10月~11月の予約数は前年同月比200%前後、同12月は300%強」だ。

なかでも人気があるのが、英語や中国語のわかる添乗員が同乗する河口湖への日帰りツアーだ。
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↑英名:Departure guaranteed! Mt. Fuji & 5-Storied Pagoda “Arakurayama Sengen Park”・Sagamiko Illumillion・Koro-kaki no Sato (Village of Dried Persimmons)・Autumn Leaves in Lake Kawaguchi
全日程保證出發! 富士山&新倉山淺間公園 五重塔・相模湖霓虹燈秀・曬柿子之里・河口湖賞楓
http://www.yokoso-japan.jp/tc/05522.html

日程は以下の通り。

ホテルグレイスリー新宿(8:10発)→新宿ワシントンホテル(8:30発)→<首都高・中央道>→(10:00)シャトー勝沼(10:30)【買い物・試飲30分】→ころ柿の里(10:50)【散策】→信玄館(12:20)【昼食】→(13:30)新倉山浅間公園(14:40)【散策70分】→(15:00)河口湖(16:00)【紅葉鑑賞60分】→<中央道>→(17:00)さがみ湖プレジャーフォレスト(18:00)【イルミネーション鑑賞60分】→<中央道・首都高>→新宿(19:00予定)

ツアー料金は、大人8900円、子供8600円、幼児5000円だ。

担当者によると「メインビジュアルは新倉山浅間神社。五重塔と富士山と紅葉という外国人が好む風景の組み合わせがポイント。昼食に松坂牛のローストビーフとほうとう鍋をつけているのも人気の理由」という。

日本人向け紅葉ツアーを外国人にも展開、アジアを中心に一躍大人気に!

同じく旅行大手のHISも外国人向けバスツアーを催行しているが、同社のイチ押しツアーも英語添乗員付きの河口湖への日帰りツアーだ。

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↑Mt.Fuji Autumn Leaves Light-up Festival & Shosenkyo Gorge Bus Tour!(山梨の紅葉いいとこどりっ☆昇仙峡と河口湖もみじ回廊ライトアップ&ラストシーズン!秋めく富士山五合目)
http://www.hisgo.com/j1/Contents/OptionalTour/DetailOptionalTour.aspx?TourCd=TYO1166&lang=en
(日本語:https://bus-tour.his-j.com/tyo/item/?cc=A1041

コースは以下のとおり。

新宿→昇仙峡(秋めく渓谷美を観賞)→影絵の森美術館(世界初の影絵美術館で光と影のアートを鑑賞)→富士山五合目(ラストシーズン!標高2,305mの絶景散歩)→富士河口湖紅葉まつり(幻想的な河口湖もみじ回廊ライトアップの観賞)→新宿

ツアー料金は7990円~8490円だ。

HISの担当者によると「ポイントは幻想的な河口湖もみじ回廊のライトアップ。訪日客に定番人気の富士山5合目や今後人気が出てきそうな昇仙峡、影絵の森美術館など最新のスポットを入れている」とのこと。ツアーのハイライトである「もみじ回廊」の滞在時間はたっぷり約1時間半あるという。

どちらのツアーも1万円を切る手頃な料金で、日本人が普通に参加しても十分楽しめる内容だ。実際、日本人と外国人が一緒にバスに混載するツアーもあるという。日本の旅行会社は、これまで国内客向けに格安でバラエティ豊かなバスツアーを企画してきた。それをそのまま外国客向けに提供したところ、アジア客にウケたという話なのだ。日本人が感じるお得感は、彼らにも伝わるのだろう。

ただし、クラブツーリズムの担当者は「欧米客への訴求は同じようにはいかない」ともらす。旅に対する考え方が違うせいなのか、今後の検討課題だという。

外国人観光客は、紅葉の時期やスポットに関する情報どう得ているのか

桜に次ぐもうひとつの日本観光の売りである紅葉について、海外の人たちはどうやって情報を得ているのだろうか。

訪日旅行シーンの先駆けを走る香港や台湾の旅行会社では、8月中頃から日本の紅葉をテーマとしたツアーを募集している。以下のサイトをみると、人気の目的先や料金の相場がわかる(10月中旬現在の情報)。

◆EGLツアーズ@香港

香港で訪日送客数トップの旅行会社であるEGLツアーズでは、すでに紅葉ツアー販売は終盤で、日本のみならず韓国や中国の紅葉スポットを訪ねる商品も企画しているようだ。

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http://www.egltours.com/travel/showIndex

◆KKday@台湾

一方、台湾のオンライン旅行会社であるKKdayも、日本情緒たっぷりのデザインで紅葉ツアーを募集している。

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https://www.kkday.com/zh-tw/home/index2

これらのサイトに掲載されるツアーの内容をみると、香港や台湾の人たちがもうほとんど日本人と変わらない旅をしていることがわかる。

◆HISバンコク支店@タイ

昨年の訪日客数でアメリカに次ぐ6位となったタイの場合はどうだろう。タイではHISがバンコク市内に多くの店舗を構え、タイ人を日本に送り出している。

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https://th.his-bkk.com/HIS

バンコク支店のサイトをみると、やはりこの時期、紅葉ツアーがメイン商品となっている。

日本国内各地を3泊5日で5000バーツ(約17万円)相当のツアーが販売されている。
タイでは、台湾と同様、日本のテレビ番組が普通に見られるだけでなく、自らも日本に関する番組を制作している。YouTubeで探すと、WabisabiTVやSUGOI JAPANといったサイトで日本旅行をテーマにした動画がいくつも見つかる。タイ人はこうした豊富な情報源を通して自由に日本旅行を計画しているのだ。

WabisabiTV
https://www.youtube.com/user/WABISABITV1
SUGOI JAPAN
http://www.sugoijp.com/

◆欧米向けメディア

欧米の人たちはどうだろう。日本在住の欧米人たちが発信する日本の観光&生活情報サイトのTokyo Cheapoでは、この時期、東京や日本各地の紅葉スポットを紹介するレポートを載せている。

Tokyo Cheapo
https://tokyocheapo.com/
Koyo: 10 Places to See Autumn Leaves In and Around Tokyo(東京とその近郊の紅葉スポット10)
https://tokyocheapo.com/lifestyle/outdoors/koyo-autumn-leaves-in-tokyo/

海外発としては、トリップアドバイザーの傘下で、全世界の現地発ツアーを扱うviatorでも、東京や富士山は人気の旅行先の上位に入っている。

viator
https://www.viator.com/

同サイトでは、日光をはじめ袋田の滝(茨城県)、長瀞の滝(埼玉県)、富士山と河口湖、びわ湖バレイと鶏足寺、小豆島(香川県)、香嵐渓(愛知県)などの日帰り紅葉ツアー(発地は東京や京都、大阪などいろいろ)が海外からネット予約できるようになっている。

旅行の最先端を歩む、香港と台湾における日本の紅葉情報

日本を訪れる外国人が事前にさまざまな紅葉情報を入手し、ツアーや目的先を選んでいることをみてきたが、なかでも香港と台湾の人たちの情報集力は他の国・地域に比べ群を抜いている。

香港では例年、8月下旬から9月上旬にかけて、新聞やネット報道でその年の日本の紅葉の見ごろ時期の予想を取り上げている。こうした関心の高さの背景には、株式会社KADOKAWAが現地で発行してきたタウン情報誌や日本情報誌があるといっていい。
香港で2007年11月に創刊された『香港ウォーカー』は「旅慣れた香港の人々をも満足させる日本情報が満載」の月刊誌だ。

台湾には1999年創刊の現地情報誌『台北ウォーカー』があり、早い時期から日本情報を発信してきた。15年8月に創刊された『Japan Walker』は台湾で唯一の日本情報誌だ。

海外には日本の観光情報を伝えるフリーペーパーはたくさんあるが、市販の雑誌は珍しい。これらが隠れたトレンドメーカーとなって香港や台湾の人たちに与えた影響は大きい。


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上記2誌の、台湾・香港現地での立ち上げに関わった編集者の鈴木夕未さん(株式会社KADOKAWA)によると「両誌ともに日本の紅葉特集は定番企画」だという。香港と台湾の違いや彼らの日本に対するニーズについて、より詳細に話を聞いた。

―香港や台湾の人たちにとって日本の紅葉の魅力とは何か。

「日本のようなはっきりした四季がない台湾、自然が少なく高層ビルに囲まれた環境に暮らす香港の人たちにとって、紅葉に触れることで季節感を感じられるのがいちばんの魅力だろう。これは桜と同様だ。

なかでも彼らが強く魅力を感じるポイントは、紅葉の色の艶やかさと日本的な情緒の組み合わせにあると思う。紅葉と滝や寺社仏閣、お城など。その風景をバックに自分が写り込む写真を撮るのが好きで、“インスタ映え”を気にしている。最近では湖面に映る紅葉など、さまざまなバリエーションが生まれている」

実際、クラブツーリズムの河口湖ツアーを募集するサイトのトップの写真は、富士山と新倉山浅間神社の五重塔と紅葉の組み合わせだった。紅葉に日本的情緒が感じられるアイテムが加わることで、彼らの気持ちをグッとつかんでいるわけだ。

―『香港ウォーカー』や『Japan Walker』ではどんな紅葉特集をやっているのか。

「香港と台湾では、それぞれ読者の求める嗜好やニーズが違う。昨年、台湾の『Japan Walker』では<秋季賞楓微旅行(秋のもみじ狩りプチ旅行)>という特集をやったが、紅葉×鉄道、紅葉×温泉、紅葉×日本庭園の3つのテーマに分けて各地を紹介した。

一方、『香港ウォーカー』の最新号(10月号)の特集は、”秋の京都 紅葉単車遊(サイクリングでもみじ狩り)”だ」

―台湾と香港では何が違うのか。

「香港人はアクティブで、いまサイクリングブームだ。街で自由に自転車に乗れる環境にはないため、日本で体験したいという人が多い。香港はストレス社会なので、日本では自然の中でのんびりリラックスして過ごしたいようだ。最近、香港では日本でグランピング(グラマラス×キャンピングの造語でラグジュラリーなアウトドア体験)を楽しみたいという人も増えている。

一方、台湾人の鉄道好きは有名だ。日本全国の観光列車に乗りたい人は多く、できれば紅葉の時期に行ってみたい。温泉や日本庭園など、日本文化に対する憧れは、香港人より強い。

こうしたことから、香港と台湾では同じ情報誌でも誌面づくりが違う。香港の場合はビジュアル優先で、情報は少なめでいいという考え方だ。香港の人に聞くと『情報はスマホで探せるから必要ない。行ってみたいと思わせる写真やイメージがあればいい』と答える。一方、台湾の読者はそれぞれのスポットに関する細かい情報やアクセスなどがきちんと書き込まれている誌面を求めている」

隣国の香港と台湾でも、嗜好や求める情報がこんなにも違うことは、とても興味深い。

日本の紅葉はマッカッカ(真っ赤っ赤)だけじゃない

冒頭で紹介した中国語通訳案内士の水谷浩さんが案内するマレーシア華人の北海道旅行に話を戻そう。彼らは日本の紅葉をどのように楽しみ、何を感じているのか。10月中旬まで北海道にいた水谷さんに話を聞いた。

―マレーシア客は日本の紅葉についてどんなイメージを持ち、何に魅力を感じているのか。

「非日常感ではないか。彼らは熱帯に暮らしているから、冷たく張りつめた新鮮な空気と艶やかな色彩に包まれた場所で写真を撮って、そこに自分が写り込みたいという願望が強い。だから、いちばんいい状態の紅葉を見せたいが、これが難しい。散り際が真っ赤に染まって美しいし、写真を撮るには晴天がいい。太陽の光の向きも重要だ。紅葉のピークは同じ場所でも天候によって変わってくる」

―桜もそうだが、紅葉も年によって見ごろの時期は変わる?

「メディアのみなさんにお願いがある。日本の紅葉はマッカッカ(真っ赤っ赤)だけじゃないと伝えてほしい。なぜなら、一般に旅行会社やメディアが発信する日本の紅葉は真っ赤に染まった写真を使うことが多い。インパクトがあるせいだと思うが、外国のお客さんはそれを期待して日本に来る。ところが、実際には黄色や緑も多く、必ずしも赤一色ではない。それでガッカリされる人がけっこういるからだ。

もちろん、私はその方たちに日本の紅葉は赤だけではなく、黄色や緑など色とりどりの美しさがあると説明するのだが、先入観があるぶん、腑に落ちない気分になるようだ。

実際には、中国語でいう“五彩缤纷”(たくさんの色が豪華絢爛で豊かに見える様)というべき。最初からそのように伝えれば、ガッカリされることもないと思う」

この点、欧米のメディアは比較的バランスが取れていて、紅葉=赤一色という伝え方はしていない。たとえば、前述した現地発ツアーサイトのviatorでは、東京発の紅葉ツアーのトップページに以下のような写真を使っており、日本の紅葉についても次のように「赤やオレンジ、黄色」と説明している。



The season for fall colors typically kicks off in mid-September and lasts until December, with red, orange, and yellow colors lasting in a single location for as long as five weeks.

人一倍こだわりを持つ富裕層に満足してもらうために必要なこととは?

紅葉は漢字で「紅」と書くから、中国語圏の人たちは赤一色と思いがち。でも、ガッカリするのは期待値の高さからともいえる。日本特有の自然現象である紅葉について、もっと我々自身が深く理解し、説明することばを持たなければならないだろう。

なぜなら「こうした説明の大切さは、相手が富裕層であれば、なおさらだ」と水谷さんは言う。

「海外のVIPほど、旅に対するこだわりが強い。彼らはそれがいいか悪いかは常に自分で判断したがる。気に入らないと『不要(いらない)』とはっきり言う。食事も高級な料理店に連れて行けば満足するというのではない。状況や気分によって地元の庶民的な場所で食事がしたいと言い出すかと思えば、逆のときもある。

そのぶん、きちんと合理的な説明ができれば、彼らも納得する。そのためには、相当の知識と経験が必要。いったん満足してくれると、次回もまたお願いしたいという話になる。その結果、彼らのネットワークを通して別のお客さんを呼んでくれる。それが富裕層旅行の世界だ」

彩里旅遊株式会社は顧客の要望に合わせて一からコンテンツを組み立てる企画旅行が専門。口コミで同社の評判を聞いた海外の華人から「日本の極上の紅葉が見たい。水谷、案内してほしい」と直接指名がかかるそうだ。

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↑大雪山系は10月上旬には早くも紅葉は散り、雪に覆われる

まもなく本州にも紅葉前線が南下し始めるだろう。「日本の紅葉はマッカッカ(真っ赤っ赤)だけじゃない」。今後は肝に銘じて、情報発信するよう努めたい。

秋の紅葉シーズンは、時期や場所が日本全国をまたぎ、今後もさらなる発展の可能性が高い。大切に育てていきたい観光コンテンツだ。

彩里旅遊株式会社
http://www.ayasato.co.jp/

※やまとごころ特集レポート第61回 2017.10.24 より
https://www.yamatogokoro.jp/report/8272/


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by sanyo-kansatu | 2017-12-27 05:51 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2017年 09月 11日

民泊の時代に日本の宿はどうあるべきか ~若き宿経営者たちの模索

訪日外国人の数は増えているのに、宿泊者数が伸び悩んでいる。なぜなのか。日本のホテルはすでに供給過剰なのだろうか。議論は分かれるが、民泊の影響も否定できない。民泊新法が施行される来春をふまえ、日本の宿はどうあるべきなのか考えたい。

「訪日外国人の数は増えているのに、外国人宿泊者数が伸び悩んでいる。なぜ?」

これは、昨年からすでにインバウンド関係者の間でささやかれていた話である。

3年後に迫った東京五輪、政府が掲げる訪日外国人客数4,000万人の目標から、ホテル不足解消のためにさまざまなタイプの宿泊施設の開業が、いま最盛期を迎えている。最近まで老朽化していたビルがビジネスホテルやカプセルホテルに転換するケースもよく目にする。

にもかかわらず、これはどういうことなのだろうか。

宿泊統計のリアルな実態 

観光庁が集計する宿泊旅行統計調査(2016年版)によると、東日本大震災の翌年の2012年以降、好調に推移していた外国人の延べ宿泊者数の伸び率が、15年(46.4%)から16年(8.0%)にかけて大きく落ちているのだ。16年の訪日外客数の前年比は21.8%増にもかかわらず、である。

さらに、同年の国別訪日客数トップ5の伸び率と延べ宿泊者数の前年比は以下のとおりである。

1位 中国    27.6%増   3.3%増
2位 韓国    27.2%増   15.7%増
3位 台湾    13.3%増   1.3%増
4位 香港    20.7%増   8.2%増
5位 アメリカ  20.3%増   14.3%増
(左:訪日客数、右:延べ宿泊者数)

どの国も訪日客の伸びに比べ延べ宿泊者数の伸びは心もとない。とりわけ中国の乖離は大きいようだ。

だから、15年頃まで外国客の利用比率が高かった大都市圏のホテルほど、客室を埋めるのに苦心するという事態が起きている。むしろ、これらのホテルでは宿泊料金の「高止まり」ではなく、ディスカウント合戦が始まっていると聞く。

こうした実態について、今年5月下旬、朝日新聞は以下の興味深い記事を配信している。

「ユー、夜はどこに? 訪日客は増加でも宿泊者は伸び悩み」(朝日新聞デジタル2017年5月24日)
http://www.asahi.com/articles/ASK5R55GBK5RULFA01M.html

記事では、なぜこうしたことが起きたのか、その背景についてさまざまな観点から検討している。訪日外国人の多くが、もし一般の宿泊施設以外の場所を利用しているのだとしたら、それはどこなのか ――。

いまやLCCを使えば、近隣アジアの国々から片道5,000円で日本を訪れることができる時代。なるべくお金をかけずに日本旅行を楽しみたいというニーズは高まるばかりである。
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↑羽田空港国際ターミナルは、深夜便を利用する外国客でにぎわっている。彼らはベンチが仮の寝床というわけだ

記事で挙げられているのは、外国客が利用する「深夜の成田空港のロビー」「都内の(宿泊可能な)温浴施設」「深夜に走る高速バス」などだ。

日本のホテルは供給過剰?

こうしたことから、早くもインバウンド業界からもれ聞こえてくるのは「ホテルは供給過剰では?」という声だ。

観光庁は民泊の影響だけではないというが、日本政府観光局(JNTO)の「訪日外客統計」と同庁の「宿泊旅行統計調査」の今年の推移を見比べると、その影響はやはり大きいのではないかと考えざるを得ない。

というのも、今年2月、訪日外客総数が前年比15.7%の増加に対して、延べ宿泊者数の前年比は4.5%のマイナスだったからだ。伸び悩むどころか減っているのである。

なかでも中国客は前年同月比で17.0%も増えているのに、延べ宿泊者数は-14.1%。この数字の開きは相当大きい。いくら中国客に占めるクルーズ客が多いからといって、それはずいぶん前からこと。その後、3~5月にかけても中国客の延べ宿泊者数だけが前年を割り続けているのだ。

2017年3月  中国客数 +12.0%   延べ宿泊者数  -13.4%
2017年4月  中国客数 +9.6%    延べ宿泊者数  -15.6%
2017年5月  中国客数 +8.0%    延べ宿泊者数  -7.0%

中国人の日本旅行の内実は大きく変化した。2000~10年は上海や北京などの沿海先進地域の大都市圏中心の団体旅行の時代、10年から個人旅行が始まり、14年以降は内陸の地方都市からの団体客が急増。

ところが、昨年秋頃より内陸客は伸び悩み、大都市圏からの個人客やリピーターなど「安近短」組が過半を占めるように構造変化している。団体客が減り、「安近短」の客が増えれば、トータルの日本の滞在日数(延べ宿泊者数)は減少するのも道理だろう。

昨年は国内で少なくとも370万人が民泊を利用したとされる米国発の仲介サイトAirbnb(エアービーアンドビー)は、現在5万件超の民泊物件を掲載している。

これに急迫する勢いで、途家・自在客・住百家といった中国発の民泊サイトが成長している。彼らは日本での実績を公開していないが、今年に入って相次いで日本法人を設立している。来春に施行される住宅宿泊事業法(民泊新法)への対応と考えられる。

日本の宿は外国人観光客のニーズとミスマッチング?

では、なぜこれほどの勢いで外国人観光客の宿泊先の民泊への移行が進むのか。

考えられるのは、日本の宿と今日の外国客のニーズのミスマッチングが顕在化している、ということだ。

最近、観光庁は国内の旅館に対して部屋料金と食事料金を別建てとする「泊食分離」の導入を促していく方針を明らかにした。日本の旅館は「1泊2食付き」が主流だが、日本の多彩な食文化を楽しみたい長期滞在の外国客のニーズに合っていないためだ。

旅館業界「泊食分離」導入を=長期滞在客対応、モデル地区指定へ-観光庁(時事通信2017年8月16日)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2017081600733&g=eco

似たようなことが、都市部のシティホテルやビジネスホテルについてもいえるのではないか。

団体から個人へと移行したアジアからの観光客は、家族連れや小グループで日本を訪れることが多いといわれる。これは欧米客も同じである。たとえば、彼らは夫婦と子供2人でシティホテルに泊まろうとすると、たいてい2室を予約しなければならない。

一方、民泊の場合、部屋がたとえ狭くても、家族一緒に利用すれば、ホテルの客室を複数室利用するのに比べると割安になるだろう。

日本では家族水いらずで利用できる宿泊施設は、行楽地に限られることが多い。日本人の場合、家族で連泊するニーズはリゾートホテルや旅館にしかないからだろう。

だが、外国客は行楽地でも都市部でも家族やグループと一緒に旅をしている。

日本の都市部には、リーズナブルな価格帯で家族やグループ旅行の連泊に適した宿泊施設が少ないといえるかもしれない。これが民泊に流れるもうひとつの理由ではないだろうか。

こうした市場の急変が、宿泊施設の経営者にも影響を与えている。民泊は明らかに日本の宿泊相場を押し下げる要因となり始めているからだ。

なかでも、いまや全国に1,000を超えるといわれている、若い外国人観光客向けにリーズナブルな価格帯の宿を提供するホステルやゲストハウスの経営者たちは、これまでにない逆風にさらされ始めている。

若いオーナーたちが目指す新しい日本の宿

◆古民家を改装したゲストハウス:toco.

2010年10月に台東区下谷の築90年の古民家を改装したゲストハウスtoco.を開業したBackpackers’ Japanの宮嶌智子さんも「民泊の影響は必ず出てくるだろう」と話す。 

toco.
https://backpackersjapan.co.jp/toco/

大学時代の友人4人で設立した同社では、都内に3軒と京都に1軒の個性的な宿を運営している。

宮嶌さんは1号店のtoco.を開業する前に3ヵ月かけて海外のゲストハウスの調査の旅に出ている。印象に残っているのは、ブルガリアの首都ソフィアのホステルだそうで「マネージャーやスタッフのゲストに対する声かけが心地よかった」という。ホステル経営で大事なのは「ゲストに安心感を与えること」と彼女は語る。

同社の宿のゲストの8割は外国客だという。海外のゲストハウスと同様に、複数の見ず知らずのゲストが寝起きを共にする2段ベッドが並ぶドミトリー式の部屋と個室の2タイプがある。

だが、最も特徴的なのは、単なる宿泊施設ではなく、さまざまなイベントを通してゲストと日本人が交流できる共有スペースを有していることだ。

◆バーが併設、生演奏も聞ける宿:CITAN

今年3月に東日本橋に開業したホステルCITAN(シタン) では、地下1階をバーとして運営し、ライブ演奏などのイベントを定期的に行っている。
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↑背中に大きなバックパックを背負った欧米の若い女性がチェックインする都心の宿だ

CITAN
https://backpackersjapan.co.jp/citan/

7月末の週末の午後、ハーモニカ奏者によるライブがあった。そこでは、ゲストではない日本人客とともに、同ホステルのゲストである若い欧米客も演奏に耳を傾けていた。若いオーナーらによる、これまで日本になかったタイプの新しい宿が生まれているのだ。
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↑地下1階のカフェで開催された「八木のぶお ハーモニカライブ」。エントランスフリーなので、誰でも気軽に参加できる

◆次の目的地が決められる宿:Planetyze Hostel

今年2月、同じく東日本橋に開業したホステルPlanetyze Hostel(プラネタイズホテル)もユニークな志向性と理念を掲げた宿だ。支配人の橋本直明さんによると、この宿の特色は「次の目的地が決められる宿」であること。どういう意味だろうか。

Planetyze Hostel
https://planetyzehostel.com/ja

Planetyze Hostelのターゲットは欧米のバックパッカー。彼らの日本の滞在日数は平均2週間から6週間と長く、じっくり日本を旅してくれる人たちだ。ところが、彼らの多くは日本のどこを訪れるのか、ノープランのケースも多い。日本に来てから、面白い場所を探して旅に出かけるという人が多い。

そこで、オンライン旅行ガイドブック『Planetyze.com』をベースに、日本中の観光地の動画を作成。それをホテル内のモニターを使ってみることができる。ここで自分の行きたい旅先を決めてもらえるようになっているのが、最大の特徴だ。
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↑「Planetyze.com」に掲載されている観光スポットの映像が、フロント正面にある42型のモニターを4面接続した巨大なモニターに映し出される

橋本さんが代表取締役を務める株式会社トラベリエンスは、2013年に通訳案内士と外国客のマッチングサイトである「Triplelights.com」(トリプルライツ)を立ち上げている。

同サイトでは、外国客が自分に合った通訳ガイドを選択できるように、登録ガイドの紹介動画を用意し、それぞれのガイドは趣向を凝らしたオリジナルなツアーをサイト上に紹介。そのツアーに興味を持ってくれた外国人からサイト経由でメールの問い合わせが届くと、日程を調整し、仕事を受けることになる。

たとえば、スノーモンキー(野生のサルが露天風呂に入ることで有名な長野県下高井郡山ノ内町の地獄谷温泉)のような外国人には訪れずらい場所でも、いったん広く知られると、どっと彼らは訪れる。

このことからわかるように、アクセスは問題ではない。どうやって彼らにそれを見つけてもらうか、そのための情報をきちんと届かせるためのチャネルとなることが、ホステルを開業した目的だったとのこと。

同ホステルでは、英語と日本語に堪能な外国人スタッフが宿泊客の旅程相談に乗ってくれるという。同じ若い世代同士、ゲストのニーズに合った日本全国の観光スポットを紹介してくれるというわけだ。
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↑スタッフは橋本さんを除くと全員若い外国人。国籍はタイ、台湾、ブラジル、アメリカの4名

空き家活用プロジェクトで生まれたゲストハウス

◆とんかつ屋がゲストハウスに⁉:シーナと一平

豊島区椎名町の商店街に昨年3月に開業したゲストハウス『シーナと一平』も、長く空き家だった元とんかつ屋をリノベーションしてゲストハウス兼カフェとして開業させたというから、相当ユニークな宿だ。
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↑一見ゲストハウスには見えない元とんかつ屋のゲストハウス

シーナと一平
http://sheenaandippei.com/

豊島区の空き家率は15.8%と23区で最も高く、区は空き家の再生で地域の魅力を高める構想を進めている。同ゲストハウスは、豊島区の「リノベーションまちづくり」事業の一環で開かれたリノベーションスクールに参加した男性が始めたものだ。

面白いのは、2階は外国客向けの宿泊施設なのだが、1階をカフェとして利用していることだ。カフェの活動を担当する藤岡聡子さんによると「都内一といわれる空家率の背景に、豊島区における30代(子育て世代)の流出がある。いかに子供を育てやすい環境をつくるかという観点も、この施設の運営にとって大切」という。
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↑カフェで休んでいると、近所のママさんが小さなお子さん連れで現れた。近所の商店街のおばさんたちが先生になって若い地元の女性相手に洋裁や編み物、料理などを教えてくれる教室として使われている

椎名町は池袋に近い徒歩圏内でありながら、昔ながらの商店街が(以前に比べると縮小しているが)いまだに残っている。個人経営の食堂も多い。「うちに泊まった外国のゲストが、近所の商店街で焼き鳥を買って、カフェスペースでビールを飲んだりできる。そんな宿にしていきたい」(藤岡さん)

こういう滞在のあり方が本当は日本らしい町の楽しみ方なのかもしれない。

地域ぐるみで彼らを支援できないか

『CITAN(シタン)』のライブを観るため、週末の東日本橋を訪ねたとき、そこが無人の街と化していたことに驚いた。平日はそんなことはないだろうが、通りを歩いているのは外国人観光客だけなのだ。ここは本当に東京なのだろうかと思ったほどだった。だが、これが東京東部の下町と呼ばれた地域の実態なのである。

こうなると、少子高齢化の影響は、もはや都心も地方も変わらないのではないかと思えてくる。

こうした状況の中で、街のにぎわいを取り戻すことに貢献できるのは、ホテルなのではないか。

民泊の運営の中には、どこか刹那的で短期間に利益を回収するのが目的というような打算が動機という側面もあるように感じる。

ホテルのような人的なホスピタリティは不要と考え、むしろ「かまわないでほしい」という人たちが一定数おり、そのニーズとマッチしたことが、民泊市場拡大の要因の一つではないかと思う。

旅の楽しみは人との交流にあると思うのだが、これもひとつの好みであり、スタイルなのである以上、いたしかたないところがある。

一方、今回登場した若いホステルやゲストハウスのオーナーたちは、収益のためだけではなく、自分たちの暮らす地域を活性化するために何ができるかを問いながら、あるべき日本の近未来の宿の姿を模索しているように見える。

このような動きをもっと広げられないだろうか。地域ぐるみで若い宿泊施設のオーナーたちを支援できないだろうかと思う次第である。 

※やまとごころインバウンドレポート http://www.yamatogokoro.jp/report/6951/


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by sanyo-kansatu | 2017-09-11 17:16 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2017年 06月 26日

大都市圏を中心に増殖中!中国系「越境白タク」の問題点を追跡

羽田空港や成田空港、そして大都市圏を中心に、人知れず中国系の白タクが増殖している。その背景には、日本に先んじて広く普及した中国の配車アプリサービスが、日本の国内ルールを無視して横行していることにある。日本のライドシェアのあるべき姿を見据え、「越境白タク」の何が問題かを考えたい。 
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羽田空港国際ターミナル1階、午前0時半。タクシー降り場の周辺に何台ものワゴンタイプの自家用車が隊列停車し、大きな荷物を抱えた乗客を降ろしている。一見、家族に見送られる旅行客にも思われるが、乗客の多くは中国客だった。

「それは中国系の白タクです。彼らは営業許可を持たない自家用車で中国の個人客の送迎サービスを行っているのです」。そう語るのは、一般社団法人アジアインバウンド推進協議会(AISO)の王一仁会長だ。

同じことは成田空港をはじめとする全国の主な国際空港で起きている。

中国系白タクが急増していることは、関係者の間では数年前から広く知られていた。NHKの「クローズアップ現代」は昨年10月下旬、中国人観光客の周辺で起きる違法問題の一例として留学生の白タクドライバーを告発している。

潜入!中国人 “爆ツアー”の無法現場(NHKクローズアップ現代+2016/10/23)
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3879/

地元ドライバーの仕事が奪われる沖縄県の事情

なかでもこの問題が深刻な地域のひとつは沖縄県だ。地元メディアは、白タクの背景に配車アプリを使った中国のサービスがあり、3年前から顕在化しているという。

台湾人向け「白タク」中国系運転手がクルーズ客送迎 総合事務局「違法行為」(琉球新報2017年5月1日)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-488190.html
中国客も「白タク」利用 沖縄観光、アプリで配車 運転手は県内に100人超(琉球新報2017年5月14日)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-495441.html

これらの記事では、いま沖縄で起きている中国系白タク問題をふたつのケースに分けて指摘している。ひとつは、台湾からのクルーズ客が上陸観光の際に「旅客自動車運送事業の許認可を受けず、レンタカーを使って有償で運送」(琉球新報2017年5月1日)するケース。もうひとつは、中国客が「世界各地で事業展開する中国の運転手付き自動車配車サービスアプリを使う」(同5月14日)ケースで、共通するのはドライバーの大半が県内在住の中国人であることだ。

背景には「急増する外国人観光客への多言語対応など、県内の受け入れ態勢の不備が白タクの横行を招いている側面」(同上)があるという。問題は、彼らが営業許可を取らずに課税逃れのヤミ商売をしていることだ。「同アプリに登録し、沖縄で操業できる中国人運転手は100人を超える」(同上)ため、沖縄県民のドライバーの仕事が奪われているというのだ。

中国の配車アプリサービスとは?

では、琉球新報が報じる中国の配車アプリサービスとはどのようなものか。

一般に配車アプリサービスとは、スマートフォンで走行中のタクシーを検索し、自動的に指定場所まで配車するもの。事前に登録をせずに支払いは従来通りに行う方法と、あらかじめ登録を行い、ネット決済で支払う方法を選択できる。

ところが、中国系白タクの場合、日本国内の配車アプリサービスではなく、中国で運営されているサービスをそのまま利用している。つまり、これは「越境EC」ならぬ、「越境白タク」とでも呼ぶべきものである。問題は、営業許可をはじめ日本国内の法やルールはあっさり無視されていることだ。
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↑中国の配車アプリ大手「滴滴出行」
http://www.xiaojukeji.com

なぜこのようなことが起きるのか、理由は明快だ。

中国では日本より先んじて配車アプリが普及し、身近なサービスとして社会に定着したこと。そして、同サービスの配信企業が中国国内と同様に海外でも事業を展開し始めたことだ。

なぜそんなことが可能となったのか。

それは、サービスの担い手である在外華人が日本国内に暮らし、ドライバーをしているからだ。これは日本のみならず、在外華人の住む海外の国々では、どこでも起きている。

配車アプリが提供するサービスとは?

中国にはいくつかの配車アプリサービスがある。なかでも海外展開を積極的に進めているサービスに「皇包車(HI GUIDES)」がある。
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↑皇包車(HI GUIDES)
https://www.huangbaoche.com/

このサービスのキャッチコピーはこうだ。

「华人导游开车带你玩」

”中国人ガイドがあなたを乗せてドライブします”

ここでいう中国人ガイドとは誰のことだろうか?

このアプリのトップページに、以下のような海外都市と同アプリと契約していると思われるドライバー数が載っている。このドライバーこそが「中国人ガイド」というわけだ。NHKの番組でも指摘されたように、彼らの多くは営業許可を持っているとは思えない。

東京:1659名     台北:1643名   大阪:1172名

ニューヨーク:698名  パリ:786名   バリ島:101名

では、実際にどのようなサービスを提供しているのか。東京のページをみてみよう。
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↑皇包車(HI GUIDES):東京
https://www.huangbaoche.com/app/lineList.html

このページには、東京発のさまざまなドライブコースが表示されている。

たとえば、トップにあるのが、富士山日帰りドライブコース。

多くの乗客を乗せる大型バスでもないのに、1名あたりの料金は驚くほど安い。

富士山河口湖→五合目→忍野八海→山中湖温泉

包车一日游,东京往返(東京発1日パッケ―ジ)

489元(7900円)

海外展開しているもうひとつの中国系配車アプリサービスに「DingTAXI」がある。

同サービスの日本ページ(日本包车旅游)をみてみよう。
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↑DingTAXI:日本
https://www.dingtaxi.com/zh_CN/c/japan

トップページには以下のようなコースと料金(一部)が記されている。

東京包车一日游(東京1日チャーター)JPY23,000~

大阪包车一日游(大阪1日チャーター)JPY25,500~

(东京出发)富士山箱根包车一日游(東京発富士山・箱根1日チャーター)JPY36,000~

ちなみに、成田空港から都内へは16,500円、羽田空港からは9,500円とある。

おそらくこれが筆者が羽田空港で見かけた白タクだろう。

中国客に配車アプリサービスが支持される理由

さらに、DingTAXIの「東京1日チャーター」のページをみてみよう。ここには23人のドライバーと自家用車の写真が載っている。それぞれ1日の運行時間や料金に加え、深夜航空便利用客のニーズに合わせた深夜料金なども設定されている。
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↑DingTAXIの「東京1日チャーター」ドライバーリスト

このサービスを利用する中国客たちは、日本を訪れる前に、アプリ上で車の写真や料金、条件などを比べてドライバーを選ぶことになる。予約と支払いは、中国で普及しているモバイル決済で完結するしくみだ。

中国客に配車アプリサービスが支持される理由に、成田空港をはじめとする日本の国際空港から市内へのアクセスのコスト高がある。京浜急行やバス会社など民間による格安な交通手段も登場し、LCC客を中心に利用者は増えているが、中国ではタクシーで2000~3000円も出せば市内に行けることを思えば、相当割高に感じるだろう。

配車アプリこそが、観光客のニーズを満たすサービス

最近のアジアからの個人旅行者は、家族や小グループが多い。荷物も多く、1台のタクシーでは乗り切れないため、ワゴン車が好まれる。中国客は、自国で予約決済をすませるので、日本でドライバーに支払いをする必要はない。土地勘のない海外でドライバーにボラれる心配はないのだ。アプリで簡単に予約でき、適度な価格帯で利用できる白タクが支持されるのは、顧客のニーズに正対するという意味でも、これほど理にかなっているサービスはないのだ。

実は、筆者は日本を訪れた中国の友人が予約した「越境白タク」に同乗したことが何度かある。ドライバーは日本在住の中国人なので、普通に日本語を話すし、友人もドライバーとの会話に支障はない。中国人同士、気軽に会話が楽しめ、日本の事情を聞くこともできる。営業許可のない自家用ワゴン車だが、中国客はそれが違法と知るよしもなく、「日本のタクシーは高すぎる。配車アプリほど便利でお得なサービスはない」と自慢げにいう。彼らには「自分たちは世界に例のない先進的なサービスを日常的に享受しているが、日本はとても遅れている」との思いもある。一方、事情を知らない日本人からみると、ドライバーも客も中国人同士ということもあり、白タク営業とは気づかないだろう。

参考:中国でライドシェア(配車アプリサービス)が一気に普及した理由
http://inbound.exblog.jp/26874125/

「越境白タク」の何が問題なのか?

一般の日本人が知らないうちに、これほど広範囲に中国人観光客を乗せた「越境白タク」が蔓延していた。では、この何が問題だと考えるべきだろうか。

いま日本国内でライドシェア(相乗り)推進をめぐる議論や取り組みが行なわれている。シェアリング・エコノミーと自動運転技術の発達で、近い将来、タクシーが無人化することも見据え、各地で検証実験も始まっている。外国人観光客の増加で、地方への旅行の足もそうだが、多くの荷物を抱えた彼らの最寄りの駅からホテルまでといった短距離需要が拡大しているのも追い風だ。

もっとも、言うまでもなく、日本国内では白タク営業は違法である。そのため政府もライドシェア推進を表明するものの、「白タク解禁」に対するタクシー業界からの反発も強く、「過疎地での観光客の交通手段に、自家用車の活用を拡大する」のが趣旨だと説明している。人口減少により公共交通機関の確保が難しくなった市町村で、住民にとって買い物や通院など日常を支える移動手段としてのライドシェアからまず始めようというのが、国内のコンセンサスである。

ところが、これらの地道な取り組みを無視して、中国の「越境白タク」は増殖している。過疎地の利用から始めようとする日本のライドシェア推進者たちの法令遵守の進め方は、中国配車アプリサービスではほぼ省みられることなく、東京など大都市圏のど真ん中で運用されているのだ。そこに中国客のニーズが集中しているためなのだが、この実態をまったく知らないことにしてまともな議論ができるのだろうか。このあまりに無頓着なフライングを見過していては、日本の社会にとって有用なライドシェアの実現をぶち壊しにしてしまうのではないか。

国内の日本人市場と訪日外国人市場、それぞれのライドシェアを分けて考える

では、日本の国内事情にふさわしいライドシェアのあり方とは何だろうか。

ここでは、国内の日本人が利用するライドシェアのあり方と訪日外国人市場における運用を分けて考えるべきだろう。双方のニーズのありようや普及のための条件は異なっている点が多いからだ。

中国でこれほど配車アプリサービスが普及した背景には、モバイル決済の高い普及率がある。ライドシェアの普及に欠かせないのは、モバイル決済なのである。なぜなら、配車アプリサービスを導入した日本のタクシー会社にとって、予約客のノーショー(ドタキャン)を防止するするには、それが決め手になるからだ。日本ではまだ少し時間がかかるかもしれない。

国内向けには、まず地方でのライドシェアを進めることだろう。迅速に使える利便性を追求するというより、公共の足として普及させる取り組みはすでに各地で始まっているが、ニーズはあっても、もうひとつ盛り上がりに欠けているかもしれない。であれば、過疎地の住民のためだけでなく、地方の観光地に足を延ばしたい外国人観光客へのサービスも提供することで普及させることはできないだろうか。

訪日外国人向けのライドシェアのあるべき姿とは

一方、訪日外国人向けのあるべきライドシェアを考えるためには、現状の白タクによる違法状態の取り締まりから逃げてはならないだろう。

冒頭で中国系白タクの存在を指摘した一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁会長は、この問題を解消するためのこんな提案をしている。

「これは皮肉な言い方かもしれないが、白タク暗躍で見えてきたのは、中国人観光客の個人化にともなう移動ニーズの実態だ。これを駆逐するためにも、税金を使ってでも、彼らのための格安の足の手配を官民が協力して用意することはできないか。

いま地方へ外国人観光客を呼び込むのに最も効果的なのは、交通インフラの改善だ。ひとつの手段として、地方への外国人向けの無料バスを走らせたらどうか。もちろん、国内のバス会社に共同でやってもらえばいい。こういうことに税金を使うほうが、PRに使うより意味があるのではないか」

これまでみてきたとおり、中国の配車アプリサービスは、大都市圏のみならず、地方の観光地へ中国客を乗せたドライブサービスも展開している。アプリサイトのリストに載っている観光地はニーズの高い有名観光地が多いが、個別では、あまり多くの外国人観光客が訪れていない地域へのドライブサービスもあるだろう。この不届きな違法サービスも、中国客を地方へ分散させる足となっていることは否定できないのだ。彼らが市場ニーズに直結したサービスを提供しているのは確かなのである。なんという皮肉なジレンマだろう。

観光客のニーズに対応するサービスの提供が必要

団体から個人へと移行した中国人観光客の移動のニーズを正確に捕捉することは簡単ではない。それゆえ、我々は彼らのニーズに即応したサービスを提供できずにいる。そのため、すでに自国で定着したシステムを持つ中国の配車アプリサービスは、日本でこそ優位性を発揮し、好んで利用されているのだ。

そうである以上、彼らの違法営業をやめさせるためには、空港での摘発強化に加え、中国客のニーズに対応した代替サービスを提供することが必要になるだろう。原則とルールを決めて、違反する者をきちんと取り締まる。これが第一歩だが、それだけでは不十分で、市場を動かすためのインセンティブを用意することも不可欠なのだ。

たとえば、中国配車アプリサービスで定番となっている成田空港や羽田空港からの都心への外国客向けのワゴン車による送迎サービスで、彼らの提供する現行に近い価格帯を実現させることはできないだろうか(ちなみに、DingTAXIの場合、成田空港から都内へは16500円、羽田からは9500円)。外国客が利用しやすい決済サービスの構築も必要になる。

訪日外国人の増加は、我々の目の届かない領域でさまざまな不測の事態を引き起こしてきた。その実態を正しく把握したうえで、実情に合わせた対応策を用意することが求められている。

前述の王会長はいう。

「日本のインバウンド市場の問題は、ヤミ営業が野放しのせいで、本来お金が落ちるべき正規の事業者や地元にお金が落ちてこないこと。市場の変化に日本側の対応が追いつかず、すべてが後手後手となり、そこにヤミ業者が暗躍するすきを与えてしまう。その結果、一般の日本人も外国人観光客の本当の恩恵を知らないでいる。それは買い物による消費だけではない。もっと多くの恩恵があるはずなのに、いちばん損しているのは日本の社会である」

この率直かつ真摯な提言に、我々はどう応えていくべきだろうか。
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※上記記事は、2017年6月19日、21日、26日に「やまとごころ」で配信されました。 
http://www.yamatogokoro.jp/report/5540/
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by sanyo-kansatu | 2017-06-26 16:35 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2017年 04月 21日

これはマズいぞ! 間違いだらけの外国語表示

外国人向けのパンフレットやポスター、看板、案内表示、手書きのポップ、webサイトに間違いだらけの外国語があふれている。その何が問題なのか。どうすれば解決できるのか。日本に住む外国人やインバウンドの現場の関係者に話を聞いた。


今年のイースター(復活祭)は4月16日。これから初夏にかけて、多くの外国人観光客が日本を訪れる季節を迎える。だが、ちょっと気になる光景がある。外国人向けのパンフレットやポスター、看板、案内表示、手書きのポップ、さらにはwebサイトに間違いだらけの外国語があふれていることだ。たいていの場合、それを知っているのは外国人だけ。日本人の大半は気づいていない。これはかなりマズいことではなかろうか。

中国人に聞く間違いの実例

「爆買い」が収束し、量販店やドラッグストアの店内にうるさいほど貼り出されていた外国語表示も、以前に比べ控えめになっているようだ。むしろ、最近気になるのは、自治体や公共交通など公的機関の外国語表示に間違いが多く見つかることだ。地名を表記するだけならいいのだが、何らかのメッセージをテキスト化した途端、ボロが出てしまう。

筆者は最近、日本に住む中国の友人とおかしな中国語表記をチェックする以下のブログを始めた。

街で見かけた《お恥ずかしい》中国語表示
http://ramei.exblog.jp/

同ブログでは、知り合いの中国人留学生などにも呼びかけて、街で見かけた間違い中国語の写真を送ってもらっている。いくつかの例を紹介しよう。

1:街の看板

これはある留学生が中国から遊びに来た友人を連れて浅草を案内していたとき、見つけたもの。「ようこそ、台東区へ」の中国語が「欢迎悠来台东区!」となっている。一瞬、どこが間違っているのか気がつきにくいが、よくみると、「您(あなた)」と「悠」の誤植が起きているのだ。「悠」は「悠久の大地」の「悠」で、確かに「您」とよく似ているが、中国語の発音は違うため、入力の間違いは考えられない。なぜこんな単純な誤植が起きたのか?
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↑英語、ハングル、中国語簡体字が併記される台東区の案内板だが…

実は、この誤植、他の場所でも何度か目にしたことがある。よくある間違いなのだ。これを見て文句を言う中国人はいないと思うが、区の信用に関わるといったら言いすぎだろうか。

2:トイレの貼り紙

さらに、初歩的な中国語のミスの例。あるトイレにこんな貼り紙があったという。

「谢谢你总是漂亮地使用厕所」

「いつもトイレを綺麗にご利用していただき、ありがとうございます」と言いたいのだが、「綺麗に」の中国語が「漂亮」。これは「美しい」という意味だが、女性やファッションなどに使う。子供でもわかるおかしな使い方に失笑を禁じえないだろう。「清潔に/きれいに」を意味するのは「干净」。正しくは「请干净地使用厕所」だ。
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↑日本では中国人観光客のマナーやトイレの使い方についてさまざまな風評があるため、わざわざトイレの中にこんな注意書きがあると、中国人はあまりいい気分はしないという。

この貼り紙の写真を送ってくれた中国人は「安易に翻訳ソフトを使ったのではないか。どうして中国人の誰かにチェックしてもらわなかったのだろう」と不思議に思ったという。

3:「ながら歩き」ストップキャンペーン

最後は地下鉄にて。東京メトロでは、数年前から携帯の「ながら歩き」ストップキャンペーンを始めている。そのポスターの中国語が、ある中国人の目に留まってしまった。
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↑この中国文には携帯(手机)を指す語がないので、パッと見て何を言っているか意味不明

ここでは「ながら歩きは危険です」の中国語訳が「走路分散注意力是非常危险的」となっている。「走路」(歩く)、「分散注意力」(気を散らす)、「非常危险的」(とても危険です)というそれぞれの表現はともかく、その組み合わせは中国語としてありえないという。もっとシンプルに「走路看手机非常危险的」(携帯を見ながら歩くのはとても危険です)でいいだろう。日本語を厳密に直訳しようとした結果、中国人には何が言いたいのかわかりにくい奇天烈な文章になっているというのだ。

間違った表示が、日本への失望につながりうる!?

こうした間違い外国語表示はいまや全国至るところで散見される。では、その何が問題なのだろうか。

国内の商業施設や観光地における中国向けコミュニケーション環境の調査やアドバイスを行ってきた日中コミュニケーション株式会社の可越さんは以下のようにいう。

「大切なコミュニケーションツールである外国語表示が間違いだらけということは、“おもてなし”を重んじているはずの日本の面目が丸つぶれであるだけでなく、個別の観光地や商業施設にとってのブランドイメージや信用に関わります」。

一般に中国やアジアからの訪日客は「日本の商品は高品質でニセモノがない」」「接客がていねい」「街が清潔である」など、高い期待値を持っている。ところが、間違いだらけの母国語表記を目にした途端、「なんだ、日本もこんなものか」と軽い失望を味わうかもしれないというのだ。

可越さんは、こうした間違い中国語が多くなる理由として以下の4点を挙げている。

1 翻訳ソフトに頼りすぎ
2 (翻訳は)中国人なら誰に任せてもいいという誤解
3 日本人的な発想は外国人には伝わらない(日本語の直訳はNG)
4 外国人は日本のことを知らないという認識の欠如


先ほどのトイレの例でも、実際に某翻訳サイトを使うと

“綺麗に” ⇒ ”漂亮”

と訳されてしまう。現状では翻訳ソフトは完璧ではなく、間違い外国語を量産するサービスと考えたほうがいい。そうである以上、中国人によるチェック態勢が必要だが、中国人なら誰でもいいというのは間違いだ。出身地の方言の影響を受けやすく、世代や学歴によって、その人の使う中国語は大きく違っているからだ。

中国語の文章のクオリティもおざなりにできない。若者やファミリー向けのスポットでは、新しい感覚や遊び心のある表現が求められる一方、高級なブランド店では品格ある落ち着いた文章でなければならない。商品のキャッチコピーも、顧客の対象に合わせて洗練された表現にしなければ、ブランドイメージを悪くするだけだ。おかしな中国語を使うくらいなら、むしろ英語と日本語だけで通したほうがいい。

日本人は表向き礼儀正しいのに、中国語表示になると、急に命令口調になると感じる中国人もいるらしい。たとえば、「銀聯カードが使用可」を中国語に直訳すれば「可以使用银联卡」だが、「欢迎使用银联卡(銀聯カードの利用を歓迎します)」とするだけで、ずいぶん印象が変わる。表現をちょっと変えるだけで、その店の印象が良くなったり、悪くなったりすることもあるのだ。

伝えたいメッセージを、その言語で一から考える

さらに、知っておくべき重要なことがあると可越さんはいう。

「一般に翻訳会社は、用意された日本語の文章を中国語に直訳するよう頼まれることが多いのですが、これが問題をはらんでいます。日本人と中国人の思考回路は違うので、日本語をそのまま直訳するだけでは中国人に意味が伝わらないことが多いからです。日本人的な発想は外国人には伝わらないと知るべきです。ですから、翻訳を頼む場合も直訳はNGで、日本語のニュアンスを忠実に伝えることより、中国人にわかりやすい表現に大胆に変換してもらったほうがいい。翻訳というより、相手に伝えるべきメッセージを中国語で一から考えて書いてもらうようにしてはどうでしょう」。

外国人は日本を知らないという認識の欠如

では、4つ目の、外国人は日本のことを知らないという認識の欠如とはどういうことだろうか。先日、都営地下鉄に乗っていて、こんな広告ポスターを見つけた。

「かつて偉大な漫画家たちが描いた景色が、ここにはあります」(PROJECT TOEI 013 日暮里・舎人ライナー)

というコピーが書かれている。英語やハングルも併記されていて、中国語はこうだ。

「以前那些伟大的漫画家们插绘出来的未来的景色,在这里都可以看到」
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↑「偉大な漫画家」というのは誰? 担当者によると手塚治虫とのこと。鉄腕アトムは中高年以上の中国人ならわりと知っているが、若い中国人はほとんど知らないだろう。

ここでは中国語の文章の問題については触れないが、考えなければならないのは「偉大な漫画家たちが描いた景色」とは何なのか。この文章だけでは、大半の中国人、いや英語を話す人たちも同様に、まったくわからないだろうということだ。それを理解するための手がかりは、高層ビルの合間を抜けるように走る高架電車の1枚の写真だけなのだから。

多言語化の取り組みにおいて、前提としなければならないのは、外国人は日本の社会や文化、歴史の背景をほぼ知らないということだ。その認識に、多くの日本人は気づいていないのではないか。ある日本在住の外国人によると、国内の観光地の外国語の解説の多くが、日本人向けの文章をただ翻訳しただけで、外国人にはまったく伝わっていないという。これは英語やタイ語など、すべての言語について共通している。

これまで挙げた例によって、筆者は誰かの揚げ足を取ったり、貶めようとする意図はない。

外国人たちから、いま日本で見られる多言語化のお寒い現状を指摘されることは残念であり、これをいかに改善できるか、筆者自身がもっと知りたいのである。

外国人によるチェック態勢を構築

では、どうすればこの問題を解決できるのだろうか。

外国客に対する情報発信の場合、日本人にとって当たり前のことでも、一からていねいに説明するという手間が必要で、これを惜しんではいけないということだ。ポイントは、外国人によるチェック態勢をいかに構築するか。前述したとおり、外国人であれば誰でもいいというわけではない。現場の環境や顧客対象、伝えるべき内容や目的を明確にしたうえで、外国語表示を担当する外国人との綿密な打ち合わせが必要だろう。

さらにいえば、外国語表示をどこまで進めるかも再検討し、なにがなんでもやらなければならないという考え方は見直すべきかもしれない。これまでみてきたとおり、中途半端な外国語は逆効果で、イメージダウンをもたらすこともあるからだ。

多言語表示対応が進むビックカメラの取り組み

この点、日々多くの外国客と接している量販店は対応が進んでいる。なかでも多くの外国人スタッフがいるビックカメラの外国語表示には定評がある。たとえば、都内の同店に行くと、商品によって中国語の簡体字と繁体字が使い分けられている。つまり、中国客が好んで買う商品には簡体字、台湾客がよく買う商品は繁体字の説明があるのだ。
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↑外国人スタッフと対応言語のリストが店内に表示される

この点を最初に指摘したのは、台湾の日本薬粧研究家の鄭世彬氏だが、こうしたことが可能になるのも、売り場のスタッフが国別の売れ筋商品を把握しているからだろう。

株式会社ビックカメラ広告宣伝部インバウンド室の松本真室長によると「個別の商品の多言語表示については、どの国からの来店が多いのか、店舗の特徴に合わせて表記しています。限られた時間の中でいかにお客様に買い物を楽しんでいただけるか。インバウンド客向けの取り組みのポイントは、何より会計回りの対応です。いかに現場の声に応えていくかが大事」という。

2014年10月、外国客向けの免税枠が拡大され、翌15年5月には最低購入額の引き下げの改正があるなど制度面での変更、突然の中国客の「爆買い」の収束など、小売業を取り巻く環境の変化は激しい。同社は日本ではまだ普及していない海外の決済サービスとして、中国のアリペイ(2016年6月)やウイチャットペイ(2016年10月。ただし一部店舗)などの導入もいち早く進めている。

こうした現場で揉まれる量販店の多言語表示が進化するのは当然だろう。一方、自治体や公共交通などの公的機関の場合、外国客にどこまでメッセージが届いているかを検証する機会は少ないかもしれない。筆者が始めたブログでは、今後も多言語化の現状を観察していきたいと考えている。ぜひアクセスしていただきたい。

※やまとごころ.jp http://www.yamatogokoro.jp/report/3857/


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by sanyo-kansatu | 2017-04-21 14:43 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2017年 03月 02日

過去最高400万人超えの台湾客はいま日本で何を楽しみたいのか?

昨年の訪日台湾人数は416万7400人。リピーターが多く、全国各地に足を延ばす台湾客は1980年代から日本を訪れている。彼らはどのような人たちで、日本がなぜ好きなのか。そろそろ飽和市場といわれるなか、さらにこの勢いを盛り上げるために何ができるのか、考えたい。
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昨年の訪日台湾人数が過去最高の416万7400人ということは、人口2300万人のうち6人に1人が日本を訪れたことになる。台湾から毎年これだけ多くの人たちが日本を訪れる理由は何だろうか。

それを理解するうえで参考になる映画がある。中国のオムニバス映画『Cities in Love(恋愛する都市)』(2015)の一編として収録されている『Honeymoon(蜜月)』という約20分の短編作品だ。

台湾人監督が描く北海道ハネムーン旅行

『Honeymoon(蜜月)』は、北海道を舞台にした中国人カップルのハネムーン旅行を描いている。台湾人の傅天余監督は1973年生まれの女性で、岩井俊二監督に影響を受けたという。

恋爱中的城市(YOU TUBE)※『蜜月』は1時間2分40秒頃から。
https://www.youtube.com/watch?v=JT6K7HyzAPE

物語はハネムナーのふたりが窓の外の雪景色を見ながら温泉に入るシーンから始まる。部屋に戻ったふたりが床に就くと、新郎の携帯が鳴る。電話の相手は会社のボスで、彼のスマホに北海道産の干物屋の写真を送ってくる。土産に買ってこいというのだ。
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↑亜熱帯に暮らす台湾人にとって、雪見温泉は極上体験

新婦は北海道で行きたいところ、食べたいもの、体験したいことをいくつも計画していたが、翌朝彼らは温泉宿をキャンセルし、干物屋を探しに行くことになった。彼女は大いに不満である。

小樽駅から電車に乗り、ある無人駅で下車。その後、ふたりは路線バスに乗る。バスを降りて、雪道を歩いているうちに大喧嘩を始める。そして、彼を置き去りにして彼女はひとりで歩いていってしまう。
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↑雪に覆われた無人駅はハネムナーにとってはロマンチックな世界。今年初め、この映画を観た中国人観光客が線路に降りて、電車を停めるという報道があった

ついに日が暮れ、大雪の路上でスーツケースに座って途方に暮れていた彼に電話がかかる。彼女からだった。「見つかったのよ」。

彼女はすでに干物屋を見つけ、自宅に招き入れてもらい、部屋で休んでいたのだった。こうしてふたりは老夫婦の暮らす家にホームステイすることになる。囲炉裏を囲んで片言の日本語で会話をしているうちに、喧嘩ばかりしていたふたりが寄り添うところで終幕となる。

台湾客はローカルバスが好き?

ほのぼのとしたラブコメディであり、この作品に見られる日本の老夫婦に対する温かいまなざしは、いかにも台湾人監督らしい。ハネムーンの話ということで、いまの若い台湾人や、おそらく中国人も(同作品はまがりなりにも中国映画である)、日本で体験したいことがもれなく盛り込まれていると解釈していいかもしれない。

この作品には以下のようなシーンが出てくる。

雪景色、温泉、納豆、ローカル線、駅弁、無人駅、ローカルバス、雪道を歩く、日本酒の熱燗、ホームステイ(民泊)、日本人老夫婦との交流

一見なんの変哲もないようだが、これらは台湾の人たちが日本でやってみたくてたまらない体験のラインナップと見ていいのではないだろうか。わざわざローカルバスに乗ることも、最近の日本のテレビ局が低予算ゆえに盛んにつくっている路線バスの旅番組の影響があるかもしれない。台湾では日本のテレビ番組が多く放映されているからだ。
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↑バスの中でふたりの気持ちは離れてしまったよう。「せっかくのハネムーンなのに、自分はどこに連れて行かれているのだろう…」。彼女の気持ちは理解できる

ここには、彼女が当初計画に入れていた和牛の焼肉やタラバガニの食事もそうだし、ドラッグストアや免税店の買い物といった一般の日本人がイメージする訪日中国客の姿は一切出てこない。彼女が「見つけた」と語る日本の老夫婦との和やかな語らいの時間に比べれば、そんな誰でもできるようなことなど、たいした価値はないのである。

自分たちの住む小さな田舎町を訪ねてきたふたりの様子を訝しがりながら、老夫婦は自分たちの新婚旅行先がハワイだったと話す。おそらく1970年代のことだろう。こうしたエピソードを挿入できるのも、昔から日本のことをよく知っている台湾人監督ゆえの味つけだと思われる。
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↑日本酒の熱燗を酌み交わしながら、老夫婦の思い出話を聞くふたり

台湾版「田舎に泊まろう」ウルルンツアー

長崎県の島原半島の南端にある南島原市では、2013年から台湾の団体客を農家民泊させるツアーを受け入れている。ツアー名は「來去郷下住一晩(田舎に泊まろう)」。催行しているのは、台北にある名生旅行社だ。
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↑「來去郷下住一晩(田舎に泊まろう)」

名生旅行社:http://www.msttour.com.tw/web/major.asp

このツアーで、台湾客たちは民泊先の畑で地元の農産物の収穫をした後、ホスト家族と一緒に料理をし、夕食を味わう。その心温まる体験は、台湾メディアに報じられたことで人気を呼び、毎年多くの台湾客が訪れるようになった。
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↑筆者が同行取材した台北在住の黄さん一家は民泊先のビニールハウスでナスやピーマンを収穫した
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↑民泊先のキッチンで家族と一緒につくった夕食を楽しむ

(参考)台湾版「田舎に泊まろう」ウルルンツアー密着レポート(長崎県南島原市)
http://inbound.exblog.jp/24747209/

南島原市が農家民泊事業を始めたのは2009年から。最初は長崎県の中学生から受け入れを始め、全国の中高生の修学旅行生へと広げていったという。いまでは年間約1万人の民泊を受け入れており、約160の民家が対応している。

民泊ツアーに参加する台湾客について、添乗員の林尚緯さんはこう話す。

「このツアーでは、福岡や壱岐島、湯布院、長崎などを訪ねます。福岡ではグランドハイアット、湯布院では有名な温泉旅館に泊まるように、決して安いツアーではない。お客さんの多くは、すでに東京や大阪、北海道などには行き尽くした、日本をよく知るリピーターです。日本が好きになって、もっと奥まで日本のことを知りたい。今回、南島原の民泊は2回目というリピーターのお客さんもいました。帰国後、アンケートを取ると、ほとんどの方が民泊がいちばん良かったと回答しています」。
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↑台湾から来た8家族(33名)がそれぞれの受入先の農家に分かれて民泊した(2015年7月)

帰り際に地元の公民館に台湾客が全員集まり、お別れの会をするのだが、感極まって涙を見せる人も多いという。一緒に過ごした1日の時間を思い出すと、お互い言葉がわからなくてもどかしいぶん、ぐっとこみ上げてくるものがあるようだ。まさにウルルンツアーなのである。

日本人と触れあいたいという思い

民泊ツアーの添乗員の林尚緯さんが言うように、台湾客は日本のリピーターが多い。一般に市場が成熟すると、団体から個人へと移行するといわれるが、台湾客は個人比率が高いものの、仲間でわいわい楽しみながら旅行をするのが好きな人たちである。日本の情報も、テレビはもちろん、ネットが普及する前の紙メディアが主流の時代から接していたという意味で、年季の入った日本ファンといえる。

そのため、彼らは日本人の好みや流行、考え方を比較的素直に受け取る傾向が強い。台北で現地情報誌の立ち上げに関わった編集者の鈴木夕未さんによると「台湾人の日本旅行の好みは、ほとんど日本人と一緒。よく外国人目線を大切にというけれど、彼らは日本人目線とそんなに変わらない。日本人がカワイイと思うもの、素敵と思うもの、行ってみたいと思うところもほぼ同じ。日本の女性誌に掲載されているような店を台湾人は好みます」という。

「日本が好きになって、もっと奥まで日本のことを知りたい」という台湾客の思いを理解するうえで参考になるのが、台湾出身の日本薬粧研究家の鄭世彬さんが書いた『爆買いの正体』(飛鳥新社)だろう。彼は日本の医薬品や化粧品、美容・健康商品の専門家で、すでに台湾、中国で10冊以上の案内書を出版している。同書は台湾人も含めた華人の「爆買い」を経済現象としてみるのではなく、民族的、歴史的な背景をもった文化現象として描いていることが特徴だ。

さらに、台湾人によるあふれんばかりの日本愛の告白書でもある。なぜ台湾の人たちがこれほど多く日本を訪れるのか、その理由を熱く語ってくれている。それは、ひとことでいえば、日本人ともっと触れあいたいという思いがあるからなのである。
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↑『爆買いの正体』(飛鳥新社)http://goo.gl/DXhOMa

1980年代から日本を旅行していた台湾客

台湾の人たちが日本に旅行に訪れるようなったのは、1979年以降である。その年、台湾人の海外渡航が自由化されたからだ。

アジア映画ファンなら、台湾映画を代表する候孝賢監督が製作に携わった『多桑 父さん』(呉念眞監督 1994年)という作品に登場する老人のことを知っているかもしれない。彼は日本統治時代に教育を受けた世代で、戦後多くの苦労を重ねたが、夢は日本旅行に行って富士山を見ることだった。結局、老人は夢を果たせなかったことで物語は終わるが、多くの台湾の人たちが自由化後に最初に向かった先は日本だったのだ。

とはいえ、80年代当時は年間約40万人、90年代でも約80万人ほどだった。それが一気に増えたのは、2000年代に入ってからである。

引き金になったのは、2005年の愛知万博開催を期に台湾人に対する観光ビザを免除したことだ。さらに、日本への往来を格段に便利にしたのが日本の航空政策である。海外の国々との間で航空便の路線や発着枠、便数を自由化させるオープンスカイ協定の改定や推進で、特に近年の目覚しい路線数の拡充は、米国との協定を締結させた2010年10月以降、続々とアジア各国との同様の協定を進めた。

なかでも地方空港への国際線乗り入れ増加に影響を与えたのは、10年の韓国、11年の台湾、香港、12年の中国との協定締結だろう。台湾と日本のオープンスカイ協定は、11年11月に調印されたが、これにより台湾からの関西国際空港や中部国際空港、そして地方空港への乗り入れは自由化され、就航エアラインやチャーター便の規制も撤廃されたことから、従来のチャイナエアラインやエバー航空に加え、翌年よりマンダリン航空やトランスアジア航空(16年11月解散)の4社が定期便の運航を開始した。

現在、これに加えてLCC(格安航空会社)が日本と台湾を結んでいる。国内系はジェットスターやピーチ・アビエーション、バニラエア。外国系はシンガポールのスクート航空、昨年から仙台や岡山などの地方都市への運航を開始したタイガーエア台湾。もちろん、これに日本航空と全日空が加わる。台湾のエアラインは日本の地方都市にも多く就航していることが特徴で、台湾メディアによれば、「日本と台湾を結ぶ航空便は毎日約100便」(フォーカス台湾2016年5月29日)飛んでいるという。
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↑台湾で開催される旅行博では、日本ブースが最大規模。会場では日本ツアーが大量に販売される

ビザ免除とオープンスカイ協定終結による相乗効果が、昨年台湾からの訪日客が400万人を超えるまでに拡大した最大の理由といえる。

双方向の交流を進め、盛り上げたい

日本政府観光局(JNTO)によると、昨年の1月から10月まで日本は台湾人の海外旅行先トップだったという。数の規模は飛躍的に拡大し、前年からの伸び率も13.3%増と決して低いとはいえないが、一時期の勢いは収まり、市場は飽和状態という声もある。

昨年下半期に若干伸びが落ちた背景には、2015年12月に日本路線の運航を開始したVエアの撤退(16年9月)やトランスアジア航空の解散(11月)などの影響があったと考えられる。

日台間を結ぶ航空便が減れば、当然訪日客数に影響が出る。であれば、航空便の維持のためにも、我々も台湾に出かけるべきではないだろうか。さいわい、日本から台湾を訪れる観光客数はここ数年、わずかではあるが増加傾向にある(2015年で167万2000人)。ただし、台湾から日本を訪れる数に比べると、半分以下だ。双方向の交流こそが、台湾の訪日市場をさらに盛り上げることにつながるはずだ。

台湾が日本からの観光客を待望するのはもうひとつの理由がある。2016年1月の台湾総統選挙の結果、民進党の蔡英文主席が当選したが、それ以後、中国からの観光客が大きく減少しているからだ。

訪日台湾市場を理解するためには、現地をよく知ることが欠かせない。ぜひ多くの日本人が今年は台湾に足を運んでほしい。

※やまとごころ.jp
http://www.yamatogokoro.jp/report/2934/
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by sanyo-kansatu | 2017-03-02 12:19 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2016年 12月 05日

外国客で行列のできる店 並んでわかった集客に成功した理由

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最近、外国客で行列のできる飲食店を見かける。なぜ彼らはその店だけに並ぶのだろうか。店側はどんな対応をし、集客を図っているのか。モノは試し。実際に、外国客に交じって行列に並んでみた。そこから見えてきた各店のノウハウとは――。

最初に訪ねたのは、JR池袋東口の明治通り沿いにあるラーメン店「無敵家」。

この店は、もう3年以上前から行列ができている。今回、筆者は初めて行列に並ぶことにした。

10月下旬の平日の午前12時少し前に店を訪ねると、明らかに外国客と思われる人たちばかりが列をなしていた。
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↑若いカップルや女性同士、小グループ客などいろいろ。アジア系が多く、自撮り好き?
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↑店の横脇に英語、中国語(繁体字)、タイ語で、列を並ぶ際の注意事項などが書かれている

行列を体験として楽しむアジア客たち

たまたま筆者の列の前にいたのが、キャリーケースを引いた中高年の男性。行列客としてはちょっと珍しいタイプで、試しに中国語で声をかけてみた。

「どちらからいらしたのですか? この店をご存知でしたか?」

すると、中国語がわかる相手がいたことに喜んだ彼は「北京から来た」と答えた。

「ひとりで日本に来ているんですか?」
「そうだよ」
「ホテルはどこに泊まっているんですか?」
「池袋に知り合いが住んでいるので、そこにね」

「この店、どうして知っているんですか? やはり微信(WeChat)?」

すると彼は「行列ができているのを見たからね。こういう店はうまいに違いないと思ったんだ」という。

少し意外だったのは、かつてこの年代の中国の人たちは外食の際、行列まですることはなかったからだ。それでも、最近の人気レストランでは、店の1階が広い待ち合いスペースになっていて、お茶やソフトドリンクなどを提供し、席が空くまで客を待たせているような店も増えている。「うまい店=待つのは当然」という認識が一般化してきたようだ。

「無敵家」では、店を早く回転させるために、行列客にメニューを渡して入店前に注文を取っている。そこで筆者は彼のために中国語のメニューを取り寄せた。
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↑彼は中国語のメニューを見ながら「のうこく麺(780円)」を注文した

並んでから約20分。入店が近づいてきた。入り口近くに、外国語併記で列を並んでもらうことへの店側のお詫びが書かれている。
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↑同店はトリップアドバイザーのグルメ分野、豊島区の口コミ数ランキングで堂々1位(2015年)。これが行列のできる理由だ

店内はカウンター17席と広くはない。空席がそこしかなく、彼と隣り合って座ることになった。しばらくすると、のうこく麺が出てきた。
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↑同店には英中韓タイ4ヵ国語のメニューが用意されている
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↑海苔に白地で英語と中国語で「welcome」と書かれていた

「どう、おいしい?」と聞くと、「还可以(悪くない)」と彼は答えた。いろいろ世話を焼いたお礼にビールをおごるという。彼の面子に応えるためにふたりで乾杯することに。

外国客で行列のできる店には、そこかしこに彼らを迎え入れるサービスが用意されている。多言語化されたメニューもそうだが、近所に迷惑がかからないように行列時の注意が書かれた告知もそう。一方、外国客は行列を体験として楽しんでいる印象だ。それが可能となるのも、彼らがSNSを通じて、この店は行列するものだとあらかじめ知っているからだ。それも含めて「無敵家に行ってきたぞ」とSNSで自分の追体験を報告できることが楽しみなのだろう。

麺創房 無敵家
http://www.mutekiya.com/

体験のすべてがネットに公開されている

次に並んだのが、渋谷にある「牛かつ もと村」。豚カツ同様に牛肉を衣に包んで揚げた料理一品のみの定食屋である。

11月上旬の午後1時、JR渋谷駅東口から明治通りに沿って恵比寿方面に向かって少し歩くと、すぐに行列が現れた。
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↑30人近い行列。ざっと見た感じ、外国客も多い

この店は9席しかないため、結局、1時間半も並ぶことに。筆者の列の後ろに韓国人の若いカップルがいたので、「どうしてこの店知ってるの?」と聞くと、韓国の旅行情報サイトで評判だという。
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↑彼女がスマホでみせてくれたのが、naver(http://section.blog.naver.com)というまとめサイト

ソウル在住のフォトライターの堀田奈穂さんによると「naverは韓国で最も多く利用されているまとめサイト。naver blogについては、IDを持っているとさらに詳しく見たり、コメントのやりとりができる」という。

実際に、同店を紹介するページをみると、外観から店内、料理まで細かに写真がアップされている。この店の特徴であるレアなカツの断面を見せたり、石板で肉のレア面を焼いているカットなど、ここで体験できるほぼすべてのことが写真で公開されている。これが初めてこの店を訪れる韓国客に安心を与えているようだ。いったん揚げたカツを自分の好みに合わせてさらに焼くというひと手間も、他の店では体験できないことかもしれない。

「牛かつ もと村渋谷店」を紹介するページ
http://choys0723.blog.me/220802039236
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↑「牛かつ もと村」の定食。最近、ソウルにも牛かつの店があるという

背景にアジアの食の多様化がある

それにしても、韓国人はそんなに日本料理が好きだったのか?

前述の堀田さんは言う。「韓国では日本食は単なるブームというよりは、定着に近い気がする。うどん、ラーメン、ハンバーグ、焼き鳥、いろいろある。ブログ全般についていえることは、お金をもらって書くパワーブロガーが書いたものとは違う、個人の経験によるブログを見て、飲食店や旅行先の情報収集するのが主流のようだ」。

宣伝臭の漂うプロのブロガーではなく、一般の個人客の体験を載せたブログの好感度が高いのは、それだけ韓国でも日本への個人旅行が一般化しているからだろう。

韓国における日本食の定着ぶりについては、コリアン・フード・コラムニストの八田靖史さんが今春上梓した『食の日韓論』(三五館)に詳しく書かれている。いま韓国では、日本の外食チェーンが驚くほど出店している。

八田靖史さん「韓食生活」
http://www.kansyoku-life.com/

だが、素朴な疑問がある。日本を団体旅行する韓国人を乗せたバスの運転手に聞くと、彼らの多くはトウガラシを持参して日本に来るという。日本の料理は刺激が足りないからだ。ではなぜ日本食は韓国で定着したのだろうか。

その点を堀田さんはこう説明する。「トウガラシを朝鮮半島に広めたのは日本であり、元々辛い物ばかり食べていたわけでは決してない。とんかつ、おでん、うどんなども日本の統治時代に入ったもの。近年では、諸外国の食べ物が東京のようにソウルなどの都市では普通に食べられるようになり、留学や渡航経験のある若者の影響などもあって、食の多様化が進んでいる。テレビ番組やインターネットの情報も大きい。

いまソウルのデパ地下は東京と遜色ない。日本人と同様で、辛い物は辛い物として食べるし、辛くないものはそのまま食べる、という感じだと思う。トウガラシを持って海外へ行くのは全員ではないし、海外の食文化を楽しむ傾向にある」。

同様の事情は中国でも上海などの経済先進都市では共通している。日本食のチェーンが多数出店していて、ラーメンの一風堂、丸亀製麺、CoCo壱番屋、サイゼリアなどもある。こうして若い世代を中心にアジアの都市では日本食の普及と食の多様化が進んでいるのだ。

おそらく彼らは、自分の国にはまだ出店していない日本の外食チェーンやグルメの流行を見つけて楽しんでいるのだろう。

独自のシステムを体験する面白さ

外国客で行列のできる店といえば、広く知られているのが一蘭ラーメンかもしれない。

では、一蘭ラーメンにはいつ頃から、どんな理由で外国客が行列するようになったのか? 同店の広報・宣伝担当の三浦卓さんに話を聞いた。

-いつ頃から外国客が現れるようになったのか。そのきっかけは何だったのか。

「いつ頃からとははっきり言えないが、特に増えたのは3~4年前から。やはり口コミで広がり、フェイスブックやインスタグラム、微信などのSNSによるものだと思う。

もっとも、すでに10年以上前から外国客は、いまほどでなくてもいた。一方、全国に62店舗展開しているうち、すべての店に外国客が来ているのではなく、渋谷や新宿、池袋、浅草などの外国人観光客の多い特定の店に限られる。JR渋谷駅に近い渋谷店は行列ができるが、スペイン坂店には少ない。これもSNSの影響だと思う」。
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↑今回訪ねたのは、新宿3丁目店。アジア客が多いが、白人女性や黒人男性も並んでいた

-どの国の人たちがよく訪れているのか。

「多いのは、中国や台湾、香港、東南アジアの方だが、最近は欧米の方も増えている。当店のとんこつスープには臭みがないので、欧米の方にも親しんでいただけると思っている。また替え玉という博多ラーメン特有のサービスが体験できることも魅力かと」。

-一蘭ラーメンに外国客の行列ができる理由は何だとお考えか。

「3つあると考えている。まず、SNSで「イイネ」が海外に拡散されたこと。これがご来店の最大の動機になっていると思う。

2つめは、創業以来変わらないとんこつラーメンの味への支持だ。

3つめは、食券購入や独自のオーダー記入用紙、仕切り壁の食空間という独自のシステムを体験してみたいということではないかと思う」。
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↑仕切り壁に隔てられ、各々ラーメンに向き合う独特の空間

三浦さんによると、独自のオーダーシステムや仕切り壁などは、1993年に同店が法人化し、福岡でチェーン展開を始めた当初から導入されていたという。女性でもひとりでラーメンを食べられるようにという配慮があったそうだ。
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↑これが「味集中カウンター」。テーブルにオーダー用紙が置かれている

スープの味や濃さ、特性ダレの量、麺のかたさなど、7項目からを自分の好みで選べるしくみが面白いのは、アジアの屋台で麺を食べるときの習慣に似ていることだ。たとえば、タイで麺を注文するときは、まず麺の種類を選び、唐辛子入りナンプラー(プリック・ナンプラー)、唐辛子(プリックポン)、唐辛子入り酢(プリック・ナムソム)、砂糖(ナムタン)の4種類がテーブルに用意されていて、自分の好みで調合してから食べる。

日本のラーメンは一般的に、その店の味をありがたく、そのままいただくという感じが多いのに対し、一蘭ラーメンでは自分で味の好みを決められるというしくみが外国客、特にアジア客に支持されているのではないかと考えられる。
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↑日本語以外は、英語、中国語(繁体字)、ハングルが用意される
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↑同店も「天然とんこつラーメン」のみの一品メニュー

-今後の展望をどうお考えか。

「国内外にこだわらず、出店を加速したい。10月19日にはニューヨーク店、11月17日には中野店も開業した。中野はサブカルの町として外国人にも知られるようになっているから楽しみだ。ラーメンという日本独自の文化をいかにつきつめるか。ブランドとして維持できるかに、今後も注力していくつもりだ」。

一蘭ラーメン
http://www.ichiran.co.jp

ラーメンが日本食の一ジャンルとして定着

一蘭ラーメンの躍進の背景について、三浦さんは「何よりラーメンが日本食の一ジャンルとして定着したこと」が大きいという。つまり、日本に来たら、すしやてんぷら、鉄板焼きを食べるのと同じようにラーメンも体験したいと多くの外国客が考えるようになったのだ。

では、それはいつ頃からの話なのだろうか。

台湾や香港でKADOKAWAの現地情報誌の立ち上げに尽力した編集者の鈴木夕未さんによると、2000年代後半頃から日本のラーメン特集が人気企画としてよく取り上げられたという。
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↑『香港ウォーカー』のラーメン特集のページ(2015年)より

前述の池袋のラーメン店「無敵家」の関係者によると、取材を受けた覚えはないのだが、2000年代の半ば頃、台湾に行ったとき、現地の雑誌で同店が紹介されているのを見たそうだ。つまり、SNSが普及する少し前から、台湾や香港などでは、日本のラーメン店が現地メディアで紹介されるようになっていたのだ。

興味深いのは、それらの記事に「ラーメン分析アイコン」という項目があって、紹介する各店ごとに、麺の太さや形、量、ベースとなる味(醤油、とんこつ、魚介など)、濃さなどが記されていることだ。

これは日本の情報誌が以前から採り入れていた編集手法だが、こういう下地が現地情報誌を通じてあったことも、台湾や香港の人たちが一蘭ラーメンのオーダーシステムに慣れていた理由といえそうだ。入店してから自分の好みを用紙に書き込むというひと手間も、体験として面白がられていると考えられる。

これまでみてきたことから、外国客の集客に成功している飲食店の共通点が見えてくる。どの店も、最初から外国客を呼び寄せようと考えていたわけではない。海外のメディアやSNSによって突然、知られるようになり、外国客が増えてくるにつれて、多言語化も含めた臨機応変な対応を無理なく進めてきていることがわかる。また同じチェーン店でも立地により集客状況がまったく違うこともわかった。

外国客が食を体験として楽しむうえでのユニークなひと手間があることも共通している。だが、それはなにも外国客向けに用意されたものではなく、国内客のために提供されていたものだ。

今年6月、トリップアドバイザーが「外国人に人気の日本のレストラン 2016」を発表しているが、上位にランキングされているのは外食チェーンではなく、個性ある単店ばかり。ラーメン店に限らず、今後どんな飲食店が注目されることになるか楽しみだ。

トリップアドバイザーが「外国人に人気の日本のレストラン 2016」
https://tg.tripadvisor.jp/news/wp-content/uploads/2016/06/20160621_TripAdvisorPressRelease.pdf

※やまとごころ特集レポート30回
http://www.yamatogokoro.jp/inbound/report/1447/
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by sanyo-kansatu | 2016-12-05 10:06 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2016年 09月 13日

中国客の「爆買い」はこうして終わった で、今後はどうなる?

中国人観光客の「爆買い」が終わったと多くのメディアは指摘している。本当にそうなのだろうか。では、その理由は何なのか。探っていくと、そこには3つの理由があることがわかった。
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7月上旬、中国南方航空の成田・ハルビン線の機内の大半は中国客だった。彼らは日本人に比べればずいぶん多くの買い物をしているようだが、昨年までのように炊飯器を5つも6つもまとめ買いするような人は見かけなかった。

現地到着後、預け入れ荷物を受け取った中国客の多くは、X線検査装置にそれを通さなければならない。そのため、買い物を手控えているのだろうか。少なくとも、その光景を見る限り、「爆買いが終わった」というのは本当のようだった。
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■電化製品やカメラの購入額が減少

いくつかの経済指標がそれを裏付けている。

たとえば、2016年7月の全国百貨店売上高概況によると、免税品売上高が前年同月比で21.0%減少。購買客数は継続して拡大しているが、購買単価の下落によるものだ。

全国百貨店売上高概況(2016年7月)
http://www.depart.or.jp/common_department_store_sale/list

中国人観光客ご用達免税店ともいえるラオックスの7月の売上高も、前年同月比44%と大きく減少。前年度比マイナスは今年2月から続いている。

ラオックス月次状況報告(2016年7月)
http://www.laox.co.jp/ir/upload_file/library_05/getsuji_201607_jp.pdf

観光庁が四半期ごとに実施している訪日外国人消費動向調査(2016年4−6月期)では「訪日外国人旅行消費額は9533億円で、前年同期比7.2%増加。ただし、1人当たりの旅行支出は15万9930円で、9.9%減」と報告している。
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国籍・地域別の訪日外国人旅行消費額と構成比(2016年4-6月期)観光庁プレスリリース(2016年7月20日)より

なかでも中国の1人当たり支出は21万9996円で22.9%減。トップは中国を抜いたベトナムの23万8000円だった。観光客数が多いぶん、国別の消費額のシェアは中国がトップで37.0%を占めるが、比率は前年の40.3%から下がっている。

「爆買い」の主人公と目される中国人観光客の消費は、明らかに昨年に比べ減退していることがわかる。

さらに報告書では、消費される費目について「“電気製品”や“化粧品・香水”では中国、“医薬品・健康グッズ・トイレタリー”では台湾と中国の購入率が高い」と指摘する。

だが、中国客の「電気製品」の購入者単価は前年同期の6万2316円から3万6630円へ、「医薬品・健康グッズ・トイレッタリー」も4万1225円から3万3479円へと減少。

特に「カメラ・ビデオカメラ・時計」は10万3920円から6万246円に大きく減少した。

訪日外国人消費動向調査(観光庁)
http://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html

こうした具体的な費目の調査からも、中国客の日本での消費シーンが様変わりしていることがうかがえる。

※購入率(その費目を購入した人の割合)、購入者単価(その費目を購入した人における当該費目の1 人当たり平均支出)を指す。

■「爆買い」が終わった3つの理由

その一方で、訪日中国客数は相変わらず伸びている。日本政府観光局(JNTO)の8月17日付プレスリリースによると、今年7月の訪日中国客数は前年同月比26.8%増の73万1400人。

単月として過去最高を記録している。

こうした客観情勢をふまえ、「爆買い」が終わった理由を検証してみたい。

以下の3つの理由があると筆者は考えている。

①中国の景気低迷による消費者心理の変化
②メディアが誘導した愛国的反発心
③転売できなければ「爆買い」なし


まず①「中国の景気低迷による消費者心理の変化」について。

筆者は7月上旬から約1ヵ月間、中国の地方都市(東北三省や内蒙古自治区)を視察する機会を得たが、各地で聞かれるのは「景気がよくない」という声ばかりだった。

特に地方都市では、急ピッチで進む高速鉄道網の拡充に代表される政府のインフラ投資が盛んに見られたが、民間経済の押し上げには必ずしもつながっていないようだった。

一方、深圳や上海、北京などの経済先進都市で特徴的なのは、政府の規制緩和策により再び始まった不動産価格の高騰とEC市場の拡大だ。ECについては明らかに日本より各種のサービス面で進んでいる点も多い。

だが、それは手放しで喜べる話でもないようだ。

不動産価格の高騰は一部の利得者に恩恵を与えるとしても、国民生活にもたらす影響が懸念される。また、「いまの中国人はショッピングモールで洋服の試着はするけれど、実際に買うのはネット。そのほうが安いから。でも、これは中国の経済全体にいい影響を与えていない」という声もある。

共通するのは、もはやGDP2桁成長が続いた2000年代の中国ではないという認識だ。

もうひとつ別の観点を付け加えれば、日本の百貨店の免税売上の購買単価が下がり、高額商品の売れ行きが落ちた背景には、習近平政権が推し進める「反汚職キャンペーン」の影響も考えられる。汚職に対する社会の目が厳しくなったことから、役人への贈り物や接待需要が激減したからだ。これが経済へのマイナス影響を与えているとの指摘も多い。

こうしたことから、中国の消費者心理は以前に比べ変わらざるを得ない。特に団体ツアー客を多く送り出している地方都市ほどその影響は大きそうだ。

■日中炊飯器論争と愛国

次に②「メディアが誘導した愛国的反発心」だが、これを象徴する事例がある。昨年春頃に始まった「日中炊飯器論争」だ。

論争を仕掛けたのは国営大手メディアだった。日本製と中国製の炊飯器で炊いた米の味の比較実験を始めたのである。

中日両国の炊飯器の性能を徹底比較 勝つのはどっち?(人民網日本語版2015年3月2日)
http://j.people.com.cn/n/2015/0302/c94476-8855374.html

ここでは大真面目に「中日の炊飯器で炊いた米の味を比較」した結果、「中国製の炊飯器で炊いた米の方が美味しいと答えた人は5人、日本製の方が美味しいと答えた人は3人、「ほとんど同じ」と答えた人は2人だった」と票決している。

これはテレビの比較広告ではない。比較の対象は企業ではなく、国家である。

その後も日中炊飯器論争は続くのだが、さすがにこれではあからさますぎると思ったのか、自国の製造業の問題をいかに克服するかという議論に移っていく。

全人代代表、製造業めぐり熱い議論 炊飯器が出発点(人民網日本語版2016年3月10日)
http://j.people.com.cn/n3/2016/0310/c94476-9028195.html

「日本の電気炊飯器現象」が中国家電企業に刺激、家電大手が新たな展開(人民網日本語版2016年3月14日)
http://j.people.com.cn/n3/2016/0314/c94476-9029652.html

こうした奇妙な論争が起こる背景には、従来の投資に頼る経済から消費主導の社会に転換していかなければならないという中国の大命題がある。

自国の製造業が発展すれば、なにも海外で炊飯器を買う必要はない。そう訴えかけることで、海外で買い物ばかりしている自国民に警鐘を鳴らしたのだ。

中国政府は近々、自国の製造業の品質を向上するために「消費品標準・質量向上計画」なる施策を公表するようだ(朝日新聞2016年8月30日)。

こうした一連の動きから、海外での「爆買い」によって消費が国外に逃げることを政府がいかに問題視しているかわかる。その意味でも、中国メディアは巧みにナショナリズムを利用して国民の意識を誘導したのだといえる。

そして、この議論に余計な刺激を与えたのが、日本での中国人観光客「爆買い」報道だった。

筆者はこれまで多くの日本をよく知る中国人と「爆買い」について話をしたが、決まって彼らはこう言う。

「爆買い、爆買いって、なんだか私たち、バカにされている気がする。中国にだっていいものはあるわ」。

ほんの数年前まで中国では、なにかにつけて「日本商品不買運動」を提唱する声がネット上にあふれたものだが、さすがに消費社会化が進むと、その無意味さに多くの国民が気づくようになる。だが、今回に限っては、日本の報道が彼らの自尊心を刺激し、反発心を引き起こした面もあるようだ。
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中国人はこんな光景はもう観たくない!?

■「爆買い」とは何だったのか
 
こうしてみると、一部のメディアが報じた中国人観光客の旅行支出が「モノからコトへ」と変わるという説明はいかにも単純すぎるだろう。

ここであらためて「爆買い」とは何だったのかについて確認したい。

その問いに明快に答えてくれるのは、台湾出身の日本薬粧研究家の鄭世彬氏だ。彼が今春上梓した日本での初の著書『爆買いの正体』(飛鳥新社)によると、「爆買い」の背景には以下の3つのポイントがある。

①華人にとって買いだめは本能
②面子や血縁を大切にする文化的特質
③誰もが転売業者のような買い方をする


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『爆買いの正体』(飛鳥新社)は、中国人の買い物の特徴について詳しく解説している。同書を読むと、彼らが「爆買い」した理由がよくわかると同時に、急ブレーキがかかってしまった理由も見えてくる。

鄭氏によると、歴史的に変動の大きな社会を生きてきた中華圏の人たちは買いだめが本能だという。つまり、買えるときにたくさん買っておきたいという消費心理が身についているというのだ。

旅行に行くと、お土産を広く配る習慣が残っているのは、人間関係を重視する社会ゆえだ。

さらに、根っからの商売人気質ゆえに、誰もが転売業者のような買い方をする。それがネットやSNSによって想像を超えた拡散効果と購買の連鎖を生んだのが「爆買い」の正体だった。

この指摘が興味深いのは、日本のメディアを通じて我々が思い描いていた「爆買い」に対する理解は、少し的外れだったかもしれないことに気づかされるからだ。

中国人観光客の多くは「富裕層」などではなく、自分のためだけにお土産を買っていたのではなかった。

直接代償としての金銭を受け取るかどうかはともかく、帰国後、購入した商品が多くの人の手に広く渡っていくことが前提だったのである。だからあれほど大量に、転売業者のような買い方をしたのだった。

さらに、観光客以外にも多くの「爆買い」の担い手がいたことは知られている。

それは日本に住む中国系の人たちの代購(代理購入)業者だった。

一部の企業にとって観光客の買い物より代購による売上が大きかったとの指摘もある。

あるトイレタリー企業の関係者も「売上のピークは2015年10月。その多くは代購によるものだった」と証言している。

この点について、ある中国の旅行関係者もためらうことなく、こう話す。

「日本では中国人が「爆買い」をしなくなったと言っているようだが、その理由をひと言でいえば、代購が難しくなったからだ」。

背景には、海外の輸入商品が街場のショップより安く買えるというふれこみで広がった中国の越境ECの普及がある。所詮ブローカーにすぎない代購業者たちは、それ以降、もう利益が見込めないとみてあっさり商売替えしてしまったのだ。これは日本に限らず、欧米諸国でも同様に起きていたことなのである。
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「出勤中に買って、出社時に受け取る。その日に届き、その日に使える」。購入手続きの簡便さと早さをうたう中国越境ECサイトの「T-mall(天猫)」の地下鉄広告(上海)


■とどめを刺した荷物の開封検査

こうしたなか、今年に入って「爆買い」にとどめを刺したのが、4月6日付け文書で7日交付、8日には執行と、日本ではあり得ないスピードで着手された中国の税関による海外旅行者への荷物の開封検査の強化だった。 
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海关总署公告2016年第25号(关于《中华人民共和国进境物品归类表》和《中华人民共和国进境物品完税价格表》的公告)
http://www.customs.gov.cn/publish/portal0/tab65598/info793342.htm

この通達の添付資料には、食料品(15%)から酒(60%)、電気製品(30%)、化粧品・医薬品(30~60%)など、中国人が好んで買いそうな、さまざまな商品に関する免税枠と関税率が事細かに記されている。

ある中国の訪日ツアーの担当者によると、関税率自体は2012年に出されたものと大きく変わっておらず、要はこれまでスルーされていた旅行者の荷物の開封検査を税関が抜き打ち的に始めたことが事態を大きく変えたのだという。

まさに中国式のショック療法である。

これでは、海外での買い物に対する事実上の課税と受け取られても無理はない。

その後、旅行客の反発から、検査は少しゆるくなってきたとも聞くが、せっかく日本で安く買っても、帰国時に高率の関税をかけられてしまうのであれば、安値で転売することができない。同じことは個人輸入の託送便でも実施されたため、代購の意味もほぼなくなった。

「転売できなければ「爆買い」なし」とはこのことだ。

中国側は、2014年10月に日本が実施した外国客に対する免税枠の拡大とは真逆の手を打ち、「爆買い」を沈静化しようとしたのである。

その効果はてきめん。

中国の人たちにとって人より安くモノを入手できるということは賞賛に値することで、そこにケチをつけられたようなもの。こうして中国人観光客は「爆買い」する意欲を急速に失っていったと考えられる。

■今後どうなるのか

では、今後はどうなるのか。

注目すべきは、中国客の影に隠れて見えにくい存在であった台湾客の存在だろう。

彼らはいまでも無理なく「爆買い」を楽しんでいる。繰り返していうが、「爆買い」は「富裕層」の専売特許ではない。華人ならではの購買の連鎖が生んだものだ。それは本来、彼らにとって景気のいい、喜ばしき体験なのである。

台湾の人たちは長く日本の商品に親しみ、その価値を知っている。だから、彼らが選ぶ商品は、中国の消費者の先取りをしている。彼らは日本の魅力の雄弁な語り手なのである。

実は、そこが中国の消費者とのいちばんの違いだ。

中国人観光客の多くは、これまで実際に日本の商品を手にしていたわけでも、正確な商品知識を持っていたわけでもなく、ただSNSや口コミを頼りに購入していただけだった。

特定の商品だけが大量に売れるという事態が起きたのはそのためだ。

前述したように、今日の中国にはいくつもの相反する事態が同時進行で起きている。大都市圏の不動産価格は高騰し、ECに誘発されて消費市場が活性化しているかに見える一方、民間経済の低迷を懸念する声は強い。政府があの手この手で「爆買い」のストップをかけようとしたのも、そのためだ。

こうした将来に対する不透明な情勢は、日本のバブル崩壊以降に起きたことと同様に、中国の消費者の成熟化をもたらすと考えられる。

消費者に確実に支持された商品だけが売れるという日本では当たり前の状況にだんだん近づいていくはずだ。

特に、中国の若い世代は生まれた頃から消費社会を知っており、自分の目で価値判断ができる人たちだ。すでに彼らは団体ツアーではなく、個人客として訪日するのが普通になっている。

今後はこうした個人客に向けた取り組みが求められるが、そうなるとこれまでのやり方では足りない部分が出てくるだろう。

その点については、別の機会にあらためて検討したい。

※やまとごこと特集レポート
前編 http://www.yamatogokoro.jp/report/2016/report_27.html
後編 http://www.yamatogokoro.jp/report/2016/report_28.html
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by sanyo-kansatu | 2016-09-13 17:47 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2016年 06月 20日

なぜサムライは外国人観光客の心をつかむ? 人気の秘密を探ってみた

銀座某所の正午過ぎ。館内に中国語のアナウンスが流れると、派手な和装に身を包んだ男女がステージに向かってゆるりと歩き出す。
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食事に夢中になっていた中国の団体客たちの視線は一斉にふたりの方向に注がれた。

なかには席を立ち、スマホを取り出し、写真を撮り始める人たちもいる。

いったいこれは何ごとなのか?

●サムライショーの中国客の食いつきがすごい

浅草で外国客向けの変身スタジオやサムライ体験ツアーを催行している夢乃屋(株式会社バンリーエンターテイメント)の出張侍・花魁ショーである。場所は、銀座8丁目にある外国人団体客向けの和風エンターテインメントレストラン「どすこい相撲茶屋」だ。

ステージに立つのは、創作剣舞橘一刀流の家元でもある孝藤右近さん。彼が太刀を抜き、剣舞を始めると、狭いステージの周囲にカメラを手にした人垣ができる。動画を撮る人も多い。
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孝藤右近さんは金沢にある創作日本舞踊孝藤流の二代目。国内外で華麗なステージをこなしてきた

孝藤右近 剣舞・殺陣 作品集 Ukon Takafuji Sword battle and Samurai dance performance
https://www.youtube.com/watch?v=DGJ4F9-DGSM

1回わずか15分のショーだが、終わっても観客はなかなかステージの前から離れようとしない。

ついには、記念撮影タイムが始まる。中国客たちは次々に入れ替わるように、ふたりのそばに寄り添い、シャッターを切り続けること、約15分。

「春節の頃は店も大変な盛況ぶりで、記念撮影だけで1時間近くかかったこともある」と右近さんは苦笑する。

それにしても、中国客の食いつきぶりはすごい。彼らはふたりと記念撮影したくてたまらないのだ。

一般に中国の団体客は、毎日バスに揺られ、富士山を見たり、温泉に入ったり、買い物したり。でも、せっかく日本に来ているのに、ガイドも中国人。買い物も中国系の店ばかり。だから、日本人とじかに触れ合う機会は、実は少ない。
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右近さんの隣りに立つのは、艶やかな花魁姿の舞いを披露する孝藤流花形の孝藤みゆさん

だとすれば、この種の和風エンターテインメントが彼らの心をつかむのもわかる気がする。彼らの多くはここで撮った写真をすぐさま中国版SNSのWeChat(微信)にアップするだろう。そうでなくても、中国に戻って、知人友人に見せて自慢するに違いない。

「どすこい相撲茶屋」では、夢乃屋の出張侍・花魁ショーは週3回行っているという。次々と入店してくる中国客をメインとしたアジア系団体客のために、1日約6回のステージをこなす。

いま銀座の一角では、人知れず、こんなことが起きているのだ。

JAPAN CULTURE EXPERIENCE TOURS  夢乃屋
http://www.tokyo-samurai.com/


●トリップアドバイザーで和エンタメが人気の理由

今年3月末に配信された世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」の2015年の外国人による東京の人気観光地ランキングの結果が興味深い。
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2015年にトリップアドバイザーの日本の観光地に寄せられた口コミを分析(2016.3.31)
http://tg.tripadvisor.jp/news/wp-content/uploads/2016/03/20160331_TripAdvisorPressRelease.pdf

1位こそ新宿御苑だが、2位に昨年7月新宿歌舞伎町にオープンしたサムライミュージアムがランクイン。以下、3位は浅草、5位は明治神宮、6位は両国国技館、7位に東京都江戸東京博物館、8位は八芳園、9位はホテルニューオータニ庭園と、ほぼ和のスポットが選ばれている。また京都のランキングでみると、剣舞の鑑賞や体験ができる京都サムライ剣舞シアターが2位で、鹿苑寺や清水寺といった世界遺産よりも上位となっている。

サムライミュージアムの館内には、日本刀や鎧兜の展示があり、鎧兜を身につけて撮影できるスタジオがある。玄関脇のショップでは、日本刀のレプリカや扇子、ミニ甲冑などが販売されている。人気は7000円~3万円くらいの日本刀のレプリカだという。
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戦国武将のストラップも販売(サムライミュージアム)

では、なぜこれらサムライがらみのスポットや和風エンターテインメントは外国客に人気なのか。
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サムライミュージアムのInstagram (https://www.instagram.com/samuraimuseumtokyo/)には甲冑を身につけた外国客の写真があふれている。

トリップアドバイザーの広報によると、「サムライミュージアムが人気の理由は、和の文化を体験できるところ。最近、全国的に同様の施設が増えている。こうした施設は、トリップアドバイザーのようなサイトやSNSを活用して外国客にアピールする術をよく知っている。サムライミュージアムの場合も、オープン当初からトリップアドバイザー上に施設の所在地、公式サイトへのリンク、メールアドレス、営業時間などの詳細を掲載し、館内ではトリップアドバイザー上に掲載されていることを告知しながら、口コミ投稿を促している。また、英語が話せるスタッフがいて、きちんと説明をしていることも重要なポイント」と分析する。

●「ラストサムライ」こと日本最高齢ガイドが再登場

こうした全国的な外国客のサムライ人気で、活動を再開したユニークな人物がいる。

通訳案内士暦54年という異色の英語ガイド、ジョー岡田さんだ。現役では日本最高齢だという。
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左:ジョー岡田さんのツアーは地元でこう呼ばれている。「京都観光に旋風を巻き起こす!ラストサムライショー」 右:ジョー岡田さんはかつてアメリカのTV番組でサムライショーを披露したことも

彼の型破りなガイディング作法は、海外から訪れた多くの観光客を長く魅了してきた。ガイドを始めたのは前回の東京オリンピックの2年前の1962年。1ドル=360円の時代だ。だが、90年代に一時休業。21世紀に入り、訪日外国人が急増したため、東日本大震災の翌年の2012年5月、約20年ぶりにガイド業を再開した。

御年87歳のジョー岡田さんは、毎週土曜日、京都で外国客相手にウォーキングツアーを行っている。ユニークなのは、そのいでたちとコースの中身。自らサムライに扮し、腰に日本刀を差し、京都の商店街や寺院を練り歩く。そして、最後に「空中りんご斬り」をはじめとしたサムライショーを披露するというものだ。

ツアーの概要については、以下の彼の公式サイトを参照のこと。

ジョー岡田のさむらい人生
http://samurai-okada.com

通訳ガイドを再開した理由について、彼はこう語る。

「90年代に入り、円高で1ドル80円になった。これではもう続けられない。その間、土方でもなんでもやりました。しかし、こうして再び外国客が増える時代になった。90歳まで続けようと思っていたら、2020年に東京オリンピックがあるというから、91歳までやることにした」

当時といまでは、通訳ガイドをめぐる状況は何が違うかと聞くと、「インターネットが世界を変えた。かつて仕事の受注先は、旅行会社が40%、外国人のツアコン30%、国内の観光ガイド30%という比率だったが、いまでは予約はたいていインターネット」と答える。

一見無頼に見える「ラストサムライ」は、その実コミカルな笑いをふりまく熟練のガイディングの持ち主で、ITリテラシーも身につけている。ウォーキングツアーでは毎回4kmを5時間かけて歩くという健脚にも驚かされる。時代は再びジョー岡田のガイディングを必要としているのだ。

●日本にしかない独自の文化だから面白い

これまで見てきた外国客のサムライ人気。でも、一般の日本人の感覚からすると、少しベタすぎて、本当に面白いのか?そんな疑問がないではない。外国客相手には、もっとクールで、エキサイティングで、アメージングなことではなくて、いいのだろうか?

だが、そういうことではないようだ。

「サムライや城は日本にしかない独自の文化だから面白い」。
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クリス・グレンオフィシャルサイト
http://www.chris-glenn.com/

そう明快に答えてくれたのは、オーストラリアのアデレード出身のクリス・グレンさんだ。彼は名古屋のFM局のDJだが、日本のサムライ文化や城、甲冑が好きで、インバウンド観光アドバイザーとしてさまざまな地域の観光PRに関わっている。

1968年生まれのクリス・グレンさんは、85年に交換留学生として来日。帰国後、オーストラリアでラジオDJやコピーライターとして活躍し、92年再来日した。その翌年、名古屋のFM局ZIP-FMでミュージックナビゲーターとしてデビューし、現在、日曜朝9時〜13時の「RADIO ORBIT」を担当している。

昨年刊行した自著『豪州人歴史愛好家、名城を行く』(宝島社)によると、彼の趣味は、戦国時代の歴史や甲冑武具の研究、城めぐりなど。これまで訪ねた城の数は、日本全国400カ所にも及ぶという。また甲冑師にも弟子入りしている。外国人でありながら、筋金入りのサムライ文化の担い手といえる彼は、テレビ朝日『ワイドスクランブル』や毎日放送『知っとこ』などのテレビ番組にも出演。日本の文化や歴史の魅力を国内外に伝える活動を勢力的に行っている。
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甲冑を身につけ、侍に扮して地元の観光PRを行うクリス・グレンさん

クリス・グレンさんの所属事務所のパスト・プレゼント・フューチャーの加藤由佳さんは、彼がサムライ好きになった理由をこう説明する。

「彼が日本文化に興味を持ったのは、日本びいきだった祖父の影響が大きい。祖父から聞く日本の話や家にあった民芸品や伝統工芸品を見て育ち、16歳で日本留学。サムライの世界に引き込まれたのは、担任の先生に渡された吉川英治の『宮本武蔵』を読んだのがきっかけだ。彼にとって、城はサムライたちが生きた場所、戦った場所であること、また軍事施設でありながら美しさもある。こうした城の建築美、建築技術、軍事施設としての機能性など、さまざまな点に魅力を感じたようだ」。

●外国人の視点とはどういうことか

訪日旅行市場が盛り上がるなか、クリス・グレンさんは自身が案内役をつとめる歴史ツアーを企画するほか、自治体や観光施設に対してアドバイスをしたり、講演を行っている。

彼が最も大切なポイントとして挙げるのが「外国人の視点を理解する」ことだ。

その点について、彼にメールで質問した一問一答を紹介する。

―クリスさんは日本の観光PRをするうえで「外国人の視点」が大切というが、外国人と日本人の視点でいちばん違うところはどこか。

「以下のふたつのポイントがある。

①日本に関する知識
当然のことだが、日本人と外国人とでは、日本に関する知識は雲泥の差がある。そのため、日本人の知識ベースで書かれた、観光施設などの紹介文を翻訳しただけでは、通じないことも多々ある。多くの日本人には、その認識が完全に抜け落ちている。

②曖昧さを嫌う
観光パンフレットなどを見ていると、日本人は曖昧な表現や美しい言葉を並べることで、なんとなく良さげに体裁を整えているように感じる。だが、それでは外国人には何が言いたいのかわからないことが多い。外国人相手の場合は、なるべくストレートな表現で伝える必要がある」

今年4月上旬、彼が制作した名古屋城本丸御殿英語版サイトが立ち上がった。ここでは、外国人の知識や好みを考えて、彼が英文テキストの執筆を担当している。
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名古屋城本丸御殿
http://www.nagoya-info.jp/en/hommaru/

―では、「外国人の視点」を理解するために、日本人はどうすればいいか。

「そのためには、以下のことをトライしてほしい。

①逆を考える
自分が海外に行ったとき、困ること、見たいモノ・コト、事前に知りたい情報、欲しいもの、体験したいこと、食べたいものを考えてみれば、日本に来る外国人が何を欲しがるかが理解できると思う。

②外国人に聞いてみる
外国人向けのサイトやパンフレットなどの制作に、外国人がひとりも携わっていない、あるいは外国人にリサーチもしないでつくられていることが多いのには、本当に驚く。もっと外国人と話して、リアルな声を聞いて、ニーズをつかむという作業に努めるべきだ」

クリス・グレンさんは、今日の日本の外国人向け情報発信の現状は、相当深刻な事態にあると指摘する。これは多言語化以前の問題で、そもそも発信者たちは、外国人の日本に対する素朴な疑問にどこまで向き合ってきたかが問われているのだ。

その意味でも、外国客の心をつかんだサムライ人気は、日本人が自国の文化や歴史をあらためて見直す契機になるだろう。訪日旅行市場に関わる多くの人が、日本の文化を外国人にもわかりやすく説明するスキルを身につけていくことは、今後の日本のインバウンドさらに発展させていくうえで欠かせないステップになると思う。

やまとごころレポート
http://www.yamatogokoro.jp/report/2016/report_25.html
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by sanyo-kansatu | 2016-06-20 16:32 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)
2016年 04月 09日

訪日客が増えて問題続出  通訳ガイド問題の解決の糸口は? 

3月末からのイースター(復活祭)休暇中、外国人観光客、特にキリスト教圏から来た欧米客が全国各地に多くの姿を見せた。桜の開花とも重なり、日本の春を楽しんだことだろう。

日本政府観光局(JNTO)によると、今年も訪日客数は前年比43.7%(1~2月の集計)の伸びを見せている。基本的に数が増えるのはいいことには違いないが、訪日客が増えると、当然問題も起こる。

大都市圏のホテル不足は国内のビジネス出張者を大いに悩ませていることから広く知られているが、それ以外にも国民が知らない多くの場所で、外国人観光客たちはさまざまな問題に直面している。

たとえば、空港で入国審査をするとき、外国人の長い列を見たことがないだろうか。混雑で出入国審査に時間がかかりすぎることは、訪日客の不満になっている。また不慮のケガや病気になったときの外国人向けの医療機関の情報提供が不十分なこともよく指摘される。

これらは比較的想像しやすいが、我々日本人がサービスの受益者でないため、その内実があまり知られていないのが、「通訳ガイド問題」である。
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中国語の通訳ガイドはわずか12%

3月上旬、中国発クルーズ客船が多数寄港する福岡市で、ツアー客の上陸観光のガイドとしてバスに同乗し、免税店を案内するかたわら、売り上げに応じたコミッションを得ていた中国人不法ガイドが摘発された。

報道によると、逮捕された中国人は「就労資格のないビザで日本に滞在し、買い物をする中国人観光客らをボランティア名目で案内。その見返りとして案内先の免税店から計約7500万円の報酬を受け取っていた」(日本経済新聞2016年3月4日付)とされる。そのため、彼らにコミッションを渡していた免税店や業務を委託した旅行会社の関係者も「不法就労助長」容疑で書類送検されている。

なぜこのようなことが起きたのだろうか? 背景には、日本の通訳ガイドを取り巻く特殊な状況がある。

そこで、まず日本の通訳ガイドをめぐる実情を整理しておきたい。

通訳ガイドは、訪日外国人に引率し、外国語を使って観光地の説明や広い意味でのガイディングを有償で行う職業のことだが、これには「通訳案内士」という国家資格の取得が法的に義務づけられている(通訳案内士法第2条、第3条、第18条及び第36条)。日本の文化や歴史を正しく外国人に伝えるには、語学力はもちろん、それ相応の知識を有していることが条件とされるからだ。通訳案内士は「日本文化の発信者」としての重要な役割を担っているのだ。

観光庁では、2008年から関係者を集めて「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」を続けている。なにしろ通訳案内士制度が創設されたのは1949年(昭和24年)。すでに60年以上が経過しており、訪日客の急増やニーズの多様化に応じた新たなあり方を検討するためだ。

同検討会では、今日における「通訳案内士制度の課題」として、「語学の偏在」「地理的偏在」「ガイドニーズの多様化」を挙げる。
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通訳案内士制度の課題(「通訳案内士を巡る状況及び今後の対応について」観光庁 2015年12月24日資料3より)

「語学の偏在」とは、10カ国の言語に分かれる通訳案内士のうち英語が67.8%と3分の2を占め、訪日客数トップの中国や台湾、香港らの中国語は12.0%しかいないことを指す。

「地理的偏在」は東京や神奈川など4分の3が都市部の在住者が占めること。地方にある観光地も、遠く離れた都市在住の通訳案内士が対応している現状を指す。

「ガイドニーズの多様化」は、訪日客の多様化に即した専門的な知識がこれまで以上に求められる現実に対し、現行のフルアテンドを前提とした通訳案内士資格でどこまでニーズをカバーしきれているかを問うものだ。

さらに、ここでは触れられていないが、観光庁の数年前の調査では、通訳案内士の資格を持ちながら実際の職業にしているのは、全体の4分の1に過ぎないこと。人材の高齢化が進み、若い世代が圧倒的に不足していることも課題といえる。

背景には、通訳ガイドの職業としての不安定さ、フリーランスとして生計を立てていかなければならない難しさがあると考えられる。

だが、それ以上に、政府が「観光立国」を掲げた2003年以降の時代の大きな変化に、制度が合わなくなってしまったことがある。市場と制度のギャップを埋め合わせる見直しが求められているのだ。

「業務独占」をめぐる議論

市場と制度のギャップを指摘する意見は、有識者を集めた観光庁の「検討会」の資料でも詳細に記されている(「規制改革会議の検討状況について」観光庁 2016年2月29日 資料2)。

代表的な意見を挙げると「資格や研修で得られる画一的な知識・体験では、食べ歩き、スポーツ大会時の周辺観光等、個人が有している生のユニークな知識・経験を有償でガイドしたい個人のニーズ及びこうしたユニークな体験をしたいという多様な旅行者のニーズに対応できない」「マッチングサイトを通じた口コミ情報などにより、質の悪いサービスは市場から淘汰されるので、国家資格による一定の品質確保に対するニーズに対応するには、名称独占で対応可能」というものだ。2020年の東京五輪開催やSNSによる情報収集が普及した時代のニーズを意識した内容となっている。

規制改革会議の検討状況について
http://www.mlit.go.jp/common/001122871.pdf

ここで議論となっているのが、通訳案内士の「業務独占」をめぐる問題だ。

日本における国家資格制度には、有資格者以外に業務の従事を禁じる「業務独占」、有資格者以外は名称の使用を禁じる「名称独占」、事業者に公的資格を有する者の配置を義務づける「必置」の3つがある。

通訳案内士は、これまで弁護士らと同じ「業務独占」資格とされてきた。外国人を有償でガイドするには、国家資格を必要とするのはそのためだ。だが、昨年の訪日中国客が約500万人だったのに対し、中国語の通訳案内士は約2000名しかいないという現実に象徴されるように、訪日客が激増した今日、(通訳案内士制度の理念や目的からすると)有資格者の数がまったく足りないという事態となった。

業務独占のあり方について
http://www.mlit.go.jp/common/001122872.pdf

この議論をめぐって、当事者である通訳案内士団体からの反論がある。

「中国語や韓国語のガイドが無資格者に市場独占されているためで、数が足りないという意見は正しくない」「ガイドの質を担保するためには業務独占は必要」「訪日客に対する詐欺行為等を取り締まる観光警察を創設すべき」というものだ。

ただでさえさまざまな課題を抱えた通訳案内士のよりどころでもある「業務独占」を「規制改革」という錦の御旗を掲げ、断罪されるのは耐え難いという反発もあるだろう。彼らには高い語学能力を必要とする国家資格が担保する職業意識とプライドもあるからだ。

もっとも、市場の激変を最もよく知る中国語の通訳案内士は、これらの議論についてこう指摘する。

「業務独占廃止問題は、ボランティアガイドや欧米客の事情しか知らない関係者と、アジアのインバウンド市場をよく知る者の意見が衝突している。欧米客のみを相手にしてきた関係者は、業務独占が廃止されても構わないと考えているかもしれないが、アジアを知る者は、これをなくせば、福岡の不法ガイドのような問題が野放しにされ、外国人の資格外活動が常態化すると思われる。この懸念をどう考えるかという視点が議論に欠けている」。

在日中国人ガイドのマッチングサイトも登場

だが、通訳ガイドをめぐる新たな状況を知るとき、制度の迅速な見直しは迫られていると筆者は考える。

なぜなら、このままずるずると見直しを先延ばしにしておくと、さらに厄介な状況が起きることが心配されるからである。

たとえば、日本でも通訳案内士と外国人をネット上でマッチングさせる「トラベリエンス」のようなサービスも始まっているが、同じことは、在日中国人らがすでに始めているからだ。

トラベリエンス
http://www.travelience.com/

仙貝旅行は、留学生や若い在日中国人らが中国本土の訪日客のガイドを有償で請け負うマッチングサイトである。
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仙貝旅行
http://www.xianbei.cc
仙貝旅行のガイドたち
http://www.xianbei.cc/guide/list

問題は、このサイトに登録しているガイドが通訳案内士の資格を有しているとは思われないことだ。

こうした中国発のマッチングサービスの登場は、この1、2年法的規制をめぐって盛んに議論されている民泊市場において、本家と考えられていた米国系のAirBnBを凌駕する勢いで、中国系の民泊サイトを利用する中国の個人客が増えている動きとも軌を一にしている。

※中国の民泊サイトについては、中村の個人Blog「都内で民泊をやってる在日中国人の話を聞いてみた」 参照。

今日の中国では、日本よりはるかに速いスピードでオンライン旅行化が進んでおり、さまざまなECサービスが次々と現れている。こうした中国市場の動きに対して、日本の監督官庁の対応は常に後手に回ってきたというのがこれまでの経緯だった。

いや、現実に即していうと、無為無策で状況を見過ごしてきたと指摘されても仕方がない面がある。

冒頭で述べた中国人不法ガイドの一件も、留学生という立場で就労資格がないことが直接の逮捕の理由とされるが、結局のところ、数年間で何倍にも急増したクルーズ客の上陸観光に充てる有資格ガイドを日本側が用意することができなかったこと。それを知りながら、当局がそのままスルーしてしまったために、事態が際限なく進んだのである。
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「違法・不当な旅行案内について」(「通訳案内士を巡る状況及び今後の対応について」観光庁 平成27年12月24日資料3より)

その意味でも、仙貝旅行のようなサービスの登場は、通訳案内士制度をさらに形骸化させる懸念を感じざるを得ないのだ。

実情に即したルールを設定し、随時修正していく

だからといって、「取締りを強化せよ」とだけいうのは見当違いだろう。

仙貝旅行は、中国の個人旅行化がようやく始まり、団体ではなく、自分の足で日本を旅してみたいという若い世代を中心にした新しい層が生まれている事実を反映しているからだ。

日本語を話せず、日本に知り合いがいなくても、このマッチングサービスを通じて知り合った同胞に日本を案内してもらいたいというニーズがあるのは理解できる。そこに金銭の授受があるとしたら、そこを当局が見逃さなければすむだけの話といえなくもない。

しかし、通訳案内士が業務独占資格である限り、それではすまない話である。有資格者しか有償でガイドをしてはいけないという法的な縛りがあるからだ。

ここで考えたいのは、市場の論理でもなく、事業者の保護のためだけでもなく、もっと長期的な視点に基づき、訪日旅行市場をより健全化するための制度の見直しの進め方である。

そのためには、中国に代表されるアジア市場と英語圏の市場の制度設計は、もはや分けて考えるべきではないか。そもそも1948年(昭和23年)に創設された通訳案内士制度は、英語圏の旅行者のために設計されたものといっていい。一方、アジア市場の歴史は浅く、内実も異なっている。まず、それぞれの市場ごとに現実に即した最適なルールを設定し、問題が起これば随時修正していくという臨機応変なスタンスが必要ではなかろうか。

ただし、ルール設定においては、あるべき理想の姿を追うのではなく、あってはならない最悪の事態を想定するという融通無碍な考え方が、特にアジア市場を対象にした制度設計には必要だろう。観光庁も指摘する「違法・不当な旅行案内」の常態化は、海外の旅行関係者からも不信を招いていることは自覚したほうがいい。

VIPに絞った企業化の取り組み

アジア市場の制度設計を考えるうえで、ひとつの先例といえるのが、中国語通訳案内士の水谷浩氏が率いる彩里旅遊株式会社の取り組みだ。

同社は2014年4月に設立された中華圏のVIP旅客を対象とした受注型旅行や手配旅行、募集型旅行の企画、販売を行う旅行会社だ。

彩里旅遊株式会社
http://www.ayasato.co.jp/

これまで通訳案内士自身が起業し、集客から旅行の企画、販売まで行う事例は多いとはいえなかった。これが可能となったのも、水谷氏の中国における広い人脈にある。

1980年代、北京と上海に留学した経験のある彼の顧客リストには、日本人ならメディアを通じて誰でも知っているような大企業の幹部も含まれる。2010年、日本政府が中国の個人ビザを解禁したことで、VIP層がお忍びで日本を訪れるようになり、中国語ガイドとして抜擢されたのだ。中国事情をよく知る彼は、中国のVIP層に信任され、口コミでその存在が知られるようになった。

水谷氏は、中国のVIP層についてこう語る。

「彼らは創業者世代が多く、とてもパワフルな人たちだが、日本に対する深い関心も持っている。だが、その中身は欧米客とは少し異なるようだ。彼らの関心のありかを深く洞察することが欠かせない」。

なぜ彼が選ばれたのか。顧客がVIP層だからこそ、生半可な知識しかない在日中国人では物足らず、水谷氏のような中国語のできる日本人に日本を案内してもらいたいからなのだ。

水谷氏は、若い中国語通訳案内士の育成にも力を入れている。企業化という道を選んだのも、後進の育成がこれからのインバウンドアジア市場にとって不可欠だと考えたからだ。

これまで通訳案内士は、旅行会社などのクライアントから仕事を発注してもらうというのが一般的だったかもしれない。だが、英語圏の市場ではそれが可能でも、現状の混沌としたアジア市場では、待っていても仕事が来るとは限らない。ならば自らで集客し、同業の志とのネットワークを活用し、事業化していくまでだ。

通訳案内士の新しいスタイルを切り拓く水谷氏の今後に注目したい。

※やまとごころ.jp
http://www.yamatogokoro.jp/report/2016/report_23.html
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by sanyo-kansatu | 2016-04-09 22:19 | 最新インバウンド・レポート | Comments(0)