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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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カテゴリ:最新インバウンド・レポート( 58 )


2020年 05月 03日

いまこそハイスペックな外国人人材の声に耳を傾けよう(インバウンド激減の時代を考える その6)

以前も書いたが、4月下旬、観光庁が打ち出した新型コロナ被災に関する緊急経済対策や、収束後の観光需要喚起キャンペーン「Go to Travel」の仔細をみて、呆れてしまった。いまこの段階で旅行クーポンのような「需要回復キャンペーン」に何の意味があるのか、と思わざるを得ないからだ。

コロナ危機に直面する観光事業者への支援策や需要回復キャンペーン、そこからの期待を読み解く —2020年4月観光庁長官会見 やまとごころ2020.4.30) 
https://www.yamatogokoro.jp/column/kaisetsu/38205/

そもそもいつ人は旅行できるようになるのだろうか。それが定かでないのに、どういうつもりだろう。それ以前に誰もが知るとおり、人の移動が消えたいま、観光関連業界は青息吐息なのである。

いまできることは、なるべくコストを押さえ、来るべき日に供えて準備をすることしかできないだろう。でも、はたしてその日が来たとき、従来どおりの「需要回復キャンペーン」に効果があるのだろうか。かなりの疑問である。

そこで、ここ数日、これまでやまとごころに書いてきた特集レポートの内容を、現状に合わせて読み直せるよう、一部手を入れつつ転載している。今回は、外国人の活用についての記事だ。

インバウンドの現場での外国人活用というと、小売や外食、宿泊業を想像しがちだ。だが、こんな時期こそ、日本をよく知り、海外の事情を理解しているハイスペックな外国人人材に、いま我々は何をすべきか、彼らの意見を聞くことから始めるべきではないだろうか。

※※※
 
これまで多くの多言語メディアが登場してきたが、はたしてそれらは日本を訪れる外国客に伝わっているのだろうか。たとえば、全国で大量に発行された自治体の多言語観光パンフレットやマップの数々。これらは外国客にほとんど使われていないのはご存じだろうか。観光PRの分野は、投資に対する効果を測定することが難しい。そのため、誰も結果に責任を負うこともなく、同じことが続けられているケースが多い。

使われないのは、その大半が、日本人向けのパンフレットをそのまま外国語訳したものだからである。なぜそれではダメなのか。


そこには「外国人の視点」がまったく欠けているからだ。これは日本の海外向け情報発信の致命的な問題である。


■ターゲットの国を理解しているか


この問題について積極的に発言している外国人がいる。


訪日外国人向けウエブマガジン「MATCHA」でインバウンド戦略部統括マネジャーを務めるシーソンクラム・カオさんである。タイ出身で名門チュラーロンコーン大学政治学部国際関係学科を卒業した彼女は2008年の来日後、テレビの制作会社や日本企業の海外進出コンサルタント会社などで働き、現在の海外向けメディアで活躍している。

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シーソンクラム・カオさん


同マガジンの月間ビュー数は650万人PV超、ユニークユーザーが300万人だそう。これだけのアクセスがある理由は、英語や中国語(繁体字、簡体字)、タイ語以外にインドネシア語やベトナム語など10か国語で発信する多言語メディアであることだ。社内外の外国人編集者たちと連携しながら、日本各地の魅力を発信しつつ、クライアントとともにインバウンド戦略の立案を進めている。観光PRにとって何が重要かについて、彼女は次のように話す。


「大事なのは、ターゲットとなる国の読者のことをよくわかっているかどうか。外国人といっても、国籍や性別、年齢、趣味によって日本旅行で求めていることは違います。どうすれば外国人に刺さるコンテンツをつくれるか。それには、日本人と外国人の感覚の違いは何かをよく理解する必要があります」

そこがわかっていないから、何のために、どんな効果を求めて誰に対してPRしているのか明確化されず、効果も表れないという事態が全国で起きているのだ。

■外国人にとって箱根=温泉ではない!?


そういわれても、「外国人の視点」を理解するにはどうすればいいのか。カオさんによると、「日本人が当たり前に思っていることが、外国人にはそうでないことに気づく」のが最初の一歩だという。あるセミナーで彼女は聴衆に尋ねている。「箱根の定番といえば何でしょう?」。当然、温泉や芦ノ湖といった回答が上がった。それに対して、彼女はこう指摘する。


「実はこの質問を外国人にした場合、温泉というキーワードが必ずしも出るとは限りません。芦ノ湖を見て、ロープウェイに乗ったら満足という人も多い。さらに彼らにとって重要なのは、大涌谷の黒タマゴ。特にアジア圏の人には黒タマゴを食べることが目的で、温泉に入らずに帰る人もいます」

日本人からすれば「ありえない」ことかもしれないが、それは箱根=温泉というイメージが日本人には定着しているが、外国人にとっては「当たり前」とは限らないということだ。そうだとすれば、日本人向けの観光パンフレットをただそのまま外国語訳しても意味がないという理由がわかるだろう。


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シーソンクラム・カオさんはタイのウドーンターニー出身


■日本と海外のつなぎ役


それにしても、これほど認識が違うのだとすれば、観光PRの分野ほど、その違いを理解した外国人人材が関わることは不可欠といえるだろう。カオさんは自らの役割についてこう話す。


「私たちは日本と海外のつなぎ役です。外国人として一歩引いた目線で日本と海外のモノの見え方の違いを指摘できます。ただし、それを常に日本人に理解してもらえるとは限らない。そこがやりがいでもあり、苦労するところです」


彼女のその苦労を「(日本人との)共感が難しい」という言い方をする。では、逆になぜ彼女はそれが可能といえるのか。


理由は明快だ。彼女は多文化を地で生きているからである。日本語を苦労して習得し、日本で働きながら、自国の社会との違いを相対化して、日本と海外の両サイドの目線を併せ持つことに努めてきた。だから、我々には見えていないことが見えている。そこがインバウンドにとって最も重要な観点なのである。


■外国人人材の存在に気づいてほしい


カオさんは内閣府の「クールジャパン戦略」の骨子づくりのメンバーも務めており、メディアでいくつかの提言を行っている。そのひとつがクールジャパンに関わる外国人を対象にした在留資格の条件緩和である。


「私が日本に興味を持ったきっかけは、中学2年のとき、『源氏物語』を漫画化した『あさきゆめみし』を読んで日本語を勉強したいと思ったこと。私と同じように日本のアニメやマンガに夢中になって留学してきた外国人は多い。でも、彼らの多くが日本での仕事を諦めて帰国してしまうことがずっと気になっていた。彼らの存在に日本の社会は気づいてほしい」


こうした指摘は、日本人には見えにくいゆえに貴重なものだ。その後、内閣府は「旅行など短期にとどまらず、日本に長期滞在して活動する外国人を増やすため、来年度設置される外国人共生センターなど関係機関と連携を急ぎ、才能ある外国人を受け入れる環境を整える」(産経新聞2019年9月1日)という。こういう取り組みは歓迎したい。


■多文化人材を使いこなす度量


今回ふたりの外国人の話を聞いたが、そこには共通する人物像がある。それは、日本社会との葛藤を覚えつつ、そこでつなぎ役を務めようとする意志を持った人たちということだ。


だが、我々の周囲にいるのは、必ずしも彼らのような理想的な人材ばかりではない。一般的に、外国人に日本のやり方を強要するとうまくいかないケースが多い。それでも、彼らの有能さ、有用さに気づき、その提言をしっかり受けとめられる見識と柔軟性を備えた度量ある人材が我々の側にいなければならない。 

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2017年のタイ旅行博(TITF)の会場にて


長くインバウンドの現場を見てきた筆者からすると、彼らのような多文化人材をうまく使いこなせないのは、日本側の責任ある立場の人間に問題があると感じることが多い。日本側の上司の多くは、海外の話は自分にはわからないと理解を深めることを最初から諦め、彼らに方向性も示さず丸投げしてしまうか、逆に自分に理解できる部分のみを早合点して短絡的な決断をしてしまうかのいずれかが多い。これではいい結果が出るはずがない。


これは言うほど簡単なことではないが、それをどう乗り越えるか。実のところ、それが今日の日本の大きな課題といえるだろう。それを学ぶ相手として、彼らを見ることができるかどうかは大切かもしれない。

インバウンドの現場における外国人人材の活用(後編)—日本の観光PRこそ、ハイスペックな外国人人材に任せるべき
https://www.yamatogokoro.jp/report/35683/



by sanyo-kansatu | 2020-05-03 15:17 | 最新インバウンド・レポート
2020年 05月 01日

多慶屋がタイQRコード決済導入の日本第一号店となった理由(インバウンド激減の時代を考える その5)

緊急事態宣言が延長される政府の方針が固まったことが報じられるなか、どうやらもうしばらくwithコロナの日々を過ごさなければならなくなったようだ。集客が激減した小売店や宿泊施設などでは、いかにコストを削減し、日々のキャッシュアウトを最小化できるかが生き残りのための課題だという論調も一般的になっている。

以下のレポートは、昨年11月下旬に書いたもので、当時は「インバウンドの現場で労働力不足が叫ばれている」という前提で書かれていたことを考えると、いまとなっては隔世の感がある。

この感じでは、いつ頃訪日外国人の受け入れが始められるのかもそうだが、そもそも海外ではどの国が観光客を送り出せるほどの収束時期を迎えているのだろうか。今後は国や地域をめぐって、かなり面倒な議論が起こりそうだ。いま中国ではまるで感染者がいなくなったかのような報道がされているが、その真偽はともかく、そもそも今回の感染症の発生地である中国からの観光客をすんなり受け入れていいのか、という議論も出てくるだろう。

その意味では、国内の状況だけでなく、海外の国々の状況についての正確な把握が求められるだろう。そうである以上、優秀な外国人人材を通じて海外の情報を集め、分析することが必要となる。

以下のレポートでは、外国人人材を活用する本来の意義はどこにあるのかについて述べている。

それは、訪日客を送り出す海外の事情に精通し、戦略立案や制度設計に能力を発揮できるハイスペックな人材の登用にあり、彼らは何を考え、苦労しているのか。そこから我々が克服すべき課題が見えてくるという認識は、今日ますます重要となるはずだ。


※※※

2017年11月に施行された新たな外国人技能実習制度で、ホテルの清掃などインバウンドの現場に関わる職種が拡大した。この制度は外国人を低賃金労働者としてのみ扱うことにつながると批判の声もあるが、日本はもはや外国人人材の存在抜きにして社会を維持できないほど、背に腹は代えられない時代を迎えている。

そして、我々の周辺にはこうした底辺労働を担うだけではなく、ハイスペックな外国人人材もいることを知る必要がある。外国人を活用する本来の意義は、むしろそこにあるといっていい。なぜなら、いまの日本人が最も苦手とする市場の先見性や戦略の立案、制度設計に力を発揮してくれるからだ。


■カギを握ったのは台湾出身の企画課長


そのひとりが、株式会社多慶屋企画グループ営業企画課の馬躍原課長である。


多慶屋は東京・上野御徒町に7店舗を構える総合ディスカウントストアだ。食品や化粧品などの日用品をはじめ、家電や時計、ブランドバッグ、貴金属、インテリア、家具などを取り揃えた、1947年創業という老舗である。


同社は、今年9月、タイのQRコード決済導入の日本第一号店となった。2018年の訪日外客数6位ですでに100万人を超えているタイでは、日本と同様、QRコード決済の普及が始まっている。アセアン諸国では、シンガポールやベトナム、インドネシアでも同じ動きがみられており、その最初の受け皿となるのが多慶屋というわけだ。

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多慶屋の電飾看板ではタイのQRコード決済が利用可能なことをPRしている


実は、いまや全国の百貨店や量販店、免税店、ドラッグストアなどで広く導入されている中国QRコード決済のアリペイも、同社では日本で第一陣として導入されている。2015年11月のことだ。


なぜそれらの先進的な取り組みがいち早く可能となったのか。カギを握ったのが馬課長だった。

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馬躍原課長は台湾高雄市出身。11歳のとき来日し、台湾と日本の文化をよく理解している


台湾出身の彼が同社に入社したのは2000年4月。中国からの団体旅行が解禁となった、日本のインバウンド元年といっていい年だ。つまり、この20年間の彼の社歴は、日本のインバウンド拡大の歴史と重なっている。


彼は入社後、まず家電売場の販売を担当した。


「2000年代前半はまだ日本ではインバウンドは話題になっていませんでしたが、多慶屋には多くの外国客が口コミを通じて訪れていました。台湾や韓国のお客様、東南アジアやアフリカなどの大使館関係者が家具や家電、絨毯などを、また帰国するときのおみやげを買いに来ていました。私は多言語のフロアガイドや指さし会話カードの作成など、受け入れ態勢の整備に努めました」


■免税対応、銀聯カード、アリペイもいち早く導入


2005年、企画部に異動。最初に彼が取り組んだのが、免税対応の導入だった。


「当時、大手百貨店を除き、免税を導入している小売店はほとんどありませんから、売場のスタッフの手間が増えたことで、現場との調整に苦労しました。いまのようなポスレジはなく、免税伝票に商品1点ずつ書き出す必要があったからです。私は免税処理の効率化を図るため、社内の情報システム部門と自前で半自動免税処理システムをつくりました。そこまでやったのは、外国客が店を訪れていることを強く体感していたからです」


そして、「爆買い」という言葉が生まれた2008年、中国のキャッシュレス化の皮切りとなった銀聯カードの端末を導入。当時、多慶屋は現金主義だった。つまり、国内客に先んじて中国客相手のカード対応を始めたのだ。


「なぜ国内客は使えないのに、銀聯カードを導入したかというと、数年前から中国の地方政府の関係者などの訪日視察ツアーが急増しており、大使館関係者らに知名度のあった当店で腕時計などの高額商品がよく売れていたからです。その後の国内客向けのカード端末導入につながりました」


そして、2015年、中国客の「爆買い」最盛期が訪れる。前述したように、多慶屋ではいち早くアリペイを導入した。


「きっかけは、2014年10月から食品や飲料、薬品、化粧品などの消耗品の免税制度がスタートしたことです。これら日本製品の品質の高さは中国客に知られており、大量買いもすでに起きていたので、新しい決済方法でしたが、導入を決めました。他の大型量販店と違い、広告宣伝費を潤沢に使えない弊社としては、一号店となることで、中国のアリペイユーザーに注目されることがプロモーションにつながると考えました」


アリペイを導入することで、中国のユーザー向けにスマホのアプリでプロモーションを展開し、クーポンも配布できる。地元上野の美術館や動物園などの観光情報も届けられることから、「エリアとしての集客力が高まる」ことが期待されたという。


ところが、翌2016年、「爆買い」は突然終息する。


「中国政府の政策変更で、地方政府関係者の視察は減少し、『ぜいたく禁止令』やみやげものに対する関税強化が始まり、売れ筋が変わっていきました。越境ECの影響もあり、その頃から不安定な中国市場だけではなく、台湾やタイなど多様化を進め、底上げを図る必要が生まれました。それが今年9月のタイのQRコード決済導入の日本一号店につながったのです」

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多慶屋がタイのQRコード(Krungsri QR Pay)決済導入を伝える現地報道


■共感しながら仕事ができると楽しい


このように、馬課長は日本のインバウンドの動向を先取りする現場に長く身を置き、小売分野の最前線を先導した人材といっていい。なぜそれが可能となったのか。


彼は、理解ある日本人上司や経営陣のおかげだというが、自分と多慶屋の縁をこう話す。


「私が初めて多慶屋に来たのは、まだ台湾に住んでいた9歳のとき。家族旅行で東京に来て、日本の親戚に連れられて来ました。当時(1980年代半ば)、いいものが安く買えるディスカウントショップはまだ少なく、強い印象が残っています。学生時代の1990年代はまだ日本にこれほど多くの外国客が来るとは考えられなかったので、貿易を学び、入社後はまずバイヤーとして頑張りたいと考えていました。でも、すぐにインバウンドの時代がやってきました」


彼はいま多慶屋を訪れる外国客の気持ちを、子供の頃から理解していたのである。だからこそ、何が現場に求められているかをいち早く察知し、実行できたのだろう。企画部に所属するいまも、店が忙しければ売場に立つこともあると話す彼には、次のような自負がある。

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タイQRコードのキャンペーンTシャツを着用する多慶屋のスタッフ


「いま多慶屋には多くの外国人スタッフがいますが、私にできるのは、日本と海外の文化や価値観の違いの間に立てること。その違いを日本のスタッフに伝えられることで、信頼を得られているとしたら、大きなやりがいです。そして、お互いに共感しながら、一緒に仕事ができるのが楽しいのです」

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タイだけでなく、シンガポールのQRコード決済も導入している


そんな彼が、最近気になることがあるという。


「幕張のIT展示会に行くと、この方面では日本は中国の周回遅れという印象です。日本製品は品質がすばらしいものが多いのに、プロモーションがうまくない。時代の変化に気づくのが遅れているからではないかと危惧します。価格を下げることばかりでは、生産力、ひいては国力を削ることになる。いい意味で、もっと心の扉を開き、新しい状況に向き合ってほしい」


彼のような外国人人材が懸念している日本の課題にどう向き合うか。我々にはそれが問われている。

インバウンドの現場における外国人人材の活用 (前編)—多慶屋がタイQRコード決済導入の日本第一号店となった理由(やまとごころ2019.11.28)
https://www.yamatogokoro.jp/report/35681/

【追記】
アフターコロナの時代の訪日客は、これまで以上にキャッシュレスを求めることでしょう。キャッシュ自体が感染源とみられる時代となったからです。このまま日本が「周回遅れ」でいいとは思えません。

取材時に馬躍原さんとお話して、お互い意気投合したことがいまでは懐かしく思い出されます。彼はいま何を考えているのでしょうか。久しぶりに連絡入れてみようと思います。



by sanyo-kansatu | 2020-05-01 12:48 | 最新インバウンド・レポート
2020年 04月 30日

2019年にすでにみられていたインバウンド変調(インバウンド激減の時代を考える その4)

アフターコロナの時代のツーリズムに関する議論が少しずつだが、ようやく始まっている。

海外メディアが予測する「アフターコロナの旅行はどうなっていくか」(やまとごころ2020.4.28)
https://www.yamatogokoro.jp/column/inbound-worldvoice/38209/

また観光庁も新型コロナ被災に関する緊急経済対策や、収束後の観光需要喚起キャンペーン「Go to Travel」として、以下のような施策を挙げているそうだ。

「観光による地域での消費を促すべく、宿泊や日帰り旅行商品の割引、地場の土産物店・飲食店・観光施設・アクティビィティ・交通機関などで幅広く使えるセットのクーポン券の発行などを行う。今回のキャンペーンの特徴としては『国民による旅行の機運醸成を作るため、1兆円を超えるかつてない規模での実施』『長期旅行をしてもらえるよう、日数の上限は設けない(1泊あたり1人2万円の上限あり)』などが挙げられる」(コロナ危機に直面する観光事業者への支援策や需要回復キャンペーン、そこからの期待を読み解く —2020年4月観光庁長官会見 やまとごころ2020.4.30) https://www.yamatogokoro.jp/column/kaisetsu/38205/

いつものことだが、従来どおりの認識やかわりばえしない発想から出てきた対策にしか思えない。これをどれだけの人たちが期待を込めて受けとめたのか、大いに疑問である。現在、関係業者が抱えている喫緊の問題や、アフターコロナの時代にツーリズムがどのように変容してしまうのかという議論は、ほとんど前提にされていないようにみえるからだ。

そもそも訪日外国人市場はここ数年、変調が起きており、むしろその変化を見据えた発想の転換こそ求められていたはずである。


以下の記事は、2020年冒頭、もともとは「2020年の新春を迎え、東京オリンピックの開催が迫っている」という前提で書いたもので、中国発新型コロナウイルス被災はまったく想定していなかった。それでも、ここでの指摘は、当時の現状認識というだけでなく、withコロナの時代のツーリズムを考えるうえで、知っておくべきことだと思う。一部、手を入れて転載したい。

※※※

これまで一般的な認識として、オリンピックイヤーの2020年までは訪日外国人は増えていくと考えられていたが、すでにこの1、2年、伸び悩みをみせている。そもそもオリンピックとインバウンドはそれほど関係ないのではないかというのが、以前からの筆者の見解だった。


開催中に多くのアスリートや観客が訪れ、数を押し上げるのは確かだが、訪日旅行を計画している人の意思決定に、数週間しか開催されないスポーツイベントはあまり影響しないと思う。開催効果はあっても限定的なものだ。開催地の宿泊料金の高騰や混雑を回避する「クラウディングアウト効果」が要因となって、訪日客が大幅に加速する可能性は低いという予測も多い。


ここ数年日本の夏の酷暑が広く知られたことで、この時期日本行きを控えるリピーターも多く、7、8月の訪日客数の伸び率は他の月に比べ低い傾向もみられる。2020年まではインバウンドは拡大するというのは日本側の勝手な思い込みにすぎず、2019年の情勢をみるかぎり、あまり根拠がないことも明らかになっている。


その一方で、オリンピック翌年に訪日外国人客数が減少するという見方についても、過去の開催国では減少したケースは少なく、その可能性は低いといえる。あるとすれば、自然災害や2019年に起きた近隣諸国との政治関係など、日本のインバウンドが抱えるジレンマによるものだろう。


■訪日客が増えても消費額は増えていない


むしろ、我々が気にすべきは、訪日外国人市場の本当の異変である。ひとことでいうと、観光客が増えてもそれにともなって消費額が増えていないことだ。


観光庁が集計する訪日外国人消費動向調査をみると、2017年の旅行消費額(推計値)4兆4162億円に対し、2018年の4兆5189億円と年間で1027億円(2.3%増)の伸びにすぎなかったのだ。これは訪日外客数の伸び率が8.7%増だったことと比較しても、相当小さいというほかない。


2019年は若干回復しているようだが、ここ数年の消費額の伸び率を並べてみると、中国客の「爆買い」が話題になった2015年こそ驚くべきものがあったが、それ以降は訪日客の増加にともなって消費額が伸びていないことがわかる。その原因は「1人当たりの消費額」が相対的に減少していることにある。


直近の訪日外国人消費動向調査のデータによると、2019年7~9月の訪日外国人1人当たりの平均旅行支出(推計値)は16万5425円。国別にみると最多はフランス(25万2000円)、次いでスペイン(22万7000円)、オーストラリア(21万5000円)、イタリア(21万3000円)、中国(20万9000円)と続く。中国客は数が多いことから国別の総額でみると全体の42.1%を占めるという意味で上客には変わらないのだが、1人当たりの消費額でみると、もはや日本でいちばんお金を落とす人たちとはいえないのだ。


旅行支出の費目には、宿泊費、飲食費、交通費、娯楽サービス費、買い物代があり、中国は相変わらず買い物代(9万4000円)が最も高い。ただし、最多だった2015年(16万2000円)以降、2016年(12万3000円)、2017年(11 万9000円)、2018年(11万2000円)と年々落ちていることがわかる。


同調査をさらにみると、その理由がわかってくる。2018年の中国客の旅行支出の買い物代の購入率の内訳をみると1位が「化粧品・香水」(79.5%)、2位「菓子類」(70.1%)、3位「医薬品」(49%)と続く。「爆買い」当時に話題になったシャワートイレや電気炊飯器のような電化製品の購入率はわずか18%。この数年で高額商品からドラッグストアなどで購入できる安価な消費財へと様変わりしているのだ。

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大阪心斎橋で見かけたアジア系観光客の手にした買い物袋の中身はドラッグストア商品ばかり

これではいくら大量に買ってもたかが知れている。1人当たりの消費額が落ちるのも無理はないのだ。もっとも、彼らにそんな恨みごとを言っても仕方がない。彼らからすれば、いまの日本で買いたい高額商品が見当たらないのだから。中国の人たちは日本企業の地盤沈下の実情をよく知っているのだ。

■地方こそインバウンドの舞台


これまで政府は、訪日外国人を多く日本に呼び込み、消費してくれることで得られる「経済効果」を旗印にインバウンドを促進してきた。だが、もはや数が増えても、消費額はそれほど増えるとは限らないのであれば、その前提は崩れたことになる。もし本当にそうなら、訪日外国人を増やすことの意味はどこにあるのだろうか。それを考えるべき段階に来ているのである。


それは数値目標のみを掲げ、「数を追う」ことを重視してきたインバウンド戦略の変更を迫られているということでもある。外国人観光客の消費行動ばかりをフォーカスするのではなく、彼らの存在の多様な価値を理解し、その活力を日本社会に還元する方策を考えること。数を求めるより中身の充実を図ることこそ、これから取り組むべきインバウンド戦略の方向性であるべきなのだ。


ポスト五輪の日本のインバウンドの舞台は、地方にこそある。日本はいま未曾有の人口減少と少子高齢化による「地方消滅」の危機に直面している。近未来の日本の光景を予感させるシャッター商店街はもはや地方都市のみならず、大都市圏の私鉄沿線などでもみられるようになっている。


そんなに遠くない将来に、今日の感覚ではあり得ないほどドラスティックなダウンサイジング、すなわち全国のほとんどの地域で「この町を残すのか、残さないのか」という決断が迫られるだろう。その頃には、もはや今日の人々が考えているような甘えは許されない。自分の地元は残る側になれるのか、なくなってしまうのか。現状のまま時間だけたつのであれば、心もとないと言わざるを得ない。インバウンドを呼び込めたかどうかは、その判断の決め手のひとつになるだろう。

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広島市の宮島行き電車「広電」は外国客の姿が多く見られる


訪日客の地方への分散化が叫ばれて久しいが、少しずつ動き出しているようだ。

「地方空港がインバウンド(訪日外国人)の玄関口として存在感を増している。2018年に成田や関西など主要6空港以外の地方空港から入国した訪日客は前年比11.7%増の758万人と入国者数全体の25.2%に達した。客数は08年の5.5倍となった。自治体の誘致などで直行便が増え、西日本の空港で伸びが目立つ。韓国や中国など東アジアからが中心だが、欧州便が就航する動きも出ている」(「訪日客「地方へ直行」急増 25%が主要6空港以外へ」日本経済新聞2019年12月22日)

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地方の酒蔵は外国客誘致の可能性を秘めている


これらの動きをもっと加速させるために何が必要なのだろうか。今後重要となってくるのは、大都市圏と地方のインバウンド人材の交流だろう。行政や企業だけでなく、民間の動きが鍵を握る。民泊はそのひとつの契機となるはずだ。

筆者は本レポートでこれまで書いてきた内容などをもとに、「間違いだらけの日本のインバウンド」(扶桑社)という本を上梓した。2020年以降のインバウンド戦略を考えるための多くの材料を提供している。ご一読いただけるとさいわいである。

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「間違いだらけの日本のインバウンド」(扶桑社)2019年12月27日発売

インバウンドを取り巻く状況が大きく変わるなか、地方を舞台とした新しい取り組みがこれから始まっていくことを期待したい。

2019年のインバウンド市場を振り返り、2020年を展望する(後編) オリンピックイヤーだからこそ、発想を転換すべき理由(やまとごころ2020.1.9)
https://www.yamatogokoro.jp/report/36374/

【追記】
ぼくは記事の中で以下のように書いている。

これまで政府は、訪日外国人を多く日本に呼び込み、消費してくれることで得られる「経済効果」を旗印にインバウンドを促進してきた。だが、もはや数が増えても、消費額はそれほど増えるとは限らないのであれば、その前提は崩れたことになる。もし本当にそうなら、訪日外国人を増やすことの意味はどこにあるのだろうか。それを考えるべき段階に来ているのである。

ところが、いきなり新型コロナウイルス被災が起きてしまったことで、このままでは、それを考えることなく、アフターコロナの対策を策定しかねないことになる。それは大いに問題だと考える。

この記事の後半に書かれている「地方こそインバウンドの舞台」についても気になることがある。

4月下旬、岡山県知事が「来たことを後悔するようになれば」などと記者会見で発言し、批判されたことにも象徴されるように、これから先、一部の地方でインバウンドの取り組みに対する逆風が吹くことも考えられるだろう。こういうところに県民性が表われるものだと思うが(同知事は地元出身のよう)、今回の事態を受けて地方によって取り組みの差が大きくなるのは仕方がないことかもしれない。これまで右ならえだった観光行政も、地方による違いを明確に打ち出していくのは当然のことだと思うのだが、アフターコロナのインバウンドの行方を先読みさせる発言だったという気がする。





by sanyo-kansatu | 2020-04-30 11:57 | 最新インバウンド・レポート
2020年 04月 28日

韓国客の激減で露呈した政治と観光のジレンマ(インバウンド壊滅の時代を考える その3)

新型コロナウイルス被災で世界のツーリズムは壊滅状態になってしまったが、日本のインバウンドについていえば、昨年の段階ですでに伸び悩んでいたたことは、あまり知られていないように思われる。

2019年は日本のインバウンドが抱える課題が露見した年となった。なかでも、日韓の政治関係悪化が引き金となった韓国客の激減は、訪日外客数の伸びを押し下げ、国内各地のインバウンド関係者を当惑させていたのだ。

そうである以上、たとえ緊急事態宣言が解除され、世界各国の渡航自粛が収束していったとしても、即インバウンドが回復するとは言いにくい。たとえ東日本大震災後のように、日本に対して好意的な国々から旅行者が現れるようになっても、すべての国が同じように反応するとは限らないことは、昨年起きていたことから予測できるからだ。各国による新型コロナウイルス被災の深刻度の違いや収束時期も影響するだろう。

以下、2020年1月に書いたレポートを振り返りたいと思います。


※※※

これまで右肩上がりで増えてきた訪日外国人数に異変が起きている。最大の要因は、言うまでもなく、日韓の政治関係悪化が引き金となって起きた日本旅行ボイコットによる訪日韓国客の激減にある。日本政府観光局の訪日外客数統計によると、2019年11月の韓国客は前年同月比65.1%減と、9月以降、3カ月連続で東日本大震災時に匹敵する落ち込みとなった。


その結果、中国や台湾、香港などから多くの観光客が訪れたものの、訪日外客全体の数も前年同月比0.4%減となった。2019年1~11月の総数は、前年比でわずか2.8%増である。


だが、このトレンドは必ずしも今年だけのことではない。2018年の訪日外客数の前年比の伸びも8.7%と1桁台だった。東日本大震災以降、国際的にみても著しく増加した訪日外客数は、この1、2年で足踏みしている。このままでは、2020年に4000万人という政府目標の達成は難しいというほかない。


■韓国系エアラインの相次ぐ減便、運休


韓国客の動きは、2019年の夏以降、韓国系エアラインの日本路線の相次ぐ減便や運休となって現れた。両国を飛び交うエアライン各社と地方空港に打撃を与えている。メディアもそれを以下のように伝えている。


「日本と韓国を結ぶ直行便を運航しているのは、日韓の11社。7月の段階で国内の26空港との間に少なくとものべ128路線で1325便が就航しており、9割超を韓国の航空会社の便が占めていた。運休が決まっているのは43路線あり、他に42路線で減便を予定している。減便数の合計は全体の33%にあたる439便にのぼる。

成田、羽田、中部、関西、福岡の5空港では、71路線のうち41路線(57%)で運休・減便する。これらの路線はビジネス客の利用が多いため需要が堅調で、運休は11路線(15%)、減便数の合計も全体の23%にとどまった。


一方、5空港を除く地方の21空港では、57路線のうち運休・減便は44路線(77%)あり、このうち運休だけで32路線(56%)あった。特に旭川、茨城、富山、小松、佐賀、大分、熊本の7空港では、すべての韓国便の運休が見込まれる。21空港を合わせた減便数は207便にのぼり、減便前の320便から3分の1強にまで落ち込む。これらの空港では、特に韓国の格安航空会社(LCC)の運休・減便が目立つ」(「日韓対立、空路に痛手 地方便は運休・減便で3分の1に」朝日デジタル2019年8月31日)

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日韓の交流人口の増加に貢献した韓国系エアラインが苦境に陥っている


以下は、8月以降の夏期スケジュールにおける韓国系エアライン8社の日本路線の減便、運休の状況である。


韓国系エアライン日本路線減便、運休状況(2019年夏便)※各社のHPから整理

●大韓航空 
関空―釜山 2019年9月16日より運休
旭川―仁川 2019年9月29日~10月26日運休
小松―仁川 2019年9月29日~11月16日運休
鹿児島―仁川 2019年9月29日~11月16日運休
沖縄―仁川 2019年9月29日~11月16日減便(週7便→週4便)
成田―釜山 2019年9月29日~11月16日減便(週14便→週7便)
福岡―釜山 2019年9月29日~11月16日減便(週14便→週7便)
関空―仁川 2019年10月27日~11月16日減便(週28便→週21便)
福岡―仁川 2019年10月27日~11月16日減便(週28便→週21便)
成田―済州 2019年11月2日より運休
関空―済州 2019年11月2日より運休

●アシアナ航空
沖縄―釜山 2019年8月23日より運休
札幌―仁川 2019年9月24日より減便
関空―仁川 2019年9月24日より運休

●チェジュ航空
成田―仁川 2019年9月16日~10月26日の一部運休
成田―釜山 2019年9月29日~10月26日の一部運休
関空―金浦 2019年10月1日~26日運休
関空―仁川 2019年9月19日~10月26日の一部運休
関空―務安 2019年8月26日~10月26日運休
名古屋―仁川 2019年8月25日~10月26日運休
札幌―仁川 2019年9月1日~10月26日の一部運休
札幌―釜山 2019年8月20日~10月26日運休
福岡―釜山 2019年9月3日~10月26日運休
福岡―仁川 2019年9月4日~10月20日運休
福岡―務安 2019年10月6日~26日運休
沖縄―仁川 2019年9月17日~10月26日運休

●エアプサン
成田―釜山 2019年9月3日~10月26日の一部運休
成田―大邱 2019年9月1日~10月26日運休
福岡―釜山 2019年8月25日~10月26日の一部運休
福岡―大邱 2019年9月1日~10月26日運休
関空―釜山 2019年8月27日~10月26日の一部運休
関空―大邱 2019年9月1日~10月26日運休
札幌―釜山 2019年8月23日~10月26日運休
札幌―大邱 2019年9月1日~10月26日運休
名古屋―釜山 2019年9月1日~10月26日の一部運休
北九州―大邱 2019年8月28日~10月26日運休

●ジンエアー
成田―仁川 2019年9月16日~10月26日減便(週21便→週14便)
関空―仁川 2019年8月28日~10月26日減便(週28便→週18便)
福岡―仁川 2019年8月26日~10月26日減便(週28便→週18便)
北九州―仁川 2019年8月26日~10月26日減便(週14便→週7便)
札幌―仁川 2019年9月2日~10月26日減便(週7便→週4便)
沖縄―仁川 2019年9月2日~10月26日減便(週7便→週4便)
関空―釜山 2019年8月19日~10月26日減便(週14便→週7便)
沖縄―釜山 2019年8月21日~10月26日減便(週7便→週3便)
北九州―釜山 2019年8月25日~10月26日減便(週5便→週3便)

●イースター航空
成田―仁川 2019年10月1日~2020年3月28日の一部運休
沖縄―仁川 2019年9月1日~11月30日運休
札幌―仁川 2019年8月20日~11月30日運休
宮崎―仁川 2019年9月19日~11月30日運休
札幌、関空―清州 2019年9月1日~2020年3月28日運休

●ティーウェイ航空
佐賀、大分、熊本、鹿児島―仁川 2019年8月19日~10月26日運休
関空、熊本、佐賀―大邱 2019年8月19日~10月26日運休
札幌―大邱 2019年8月27日~10月26日運休
札幌―仁川 2019年9月16日~10月26日運休
沖縄―仁川 2019年9月1日~10月26日の一部運休
沖縄―大邱 2019年8月27日~10月26日の一部運休

●エアソウル
札幌、沖縄―仁川 2019年9月1日~10月26日の一部運休
福岡、富山―仁川 2019年9月16日~10月26日運休
成田―仁川 2019年9月8日、9日、29日、30日運休
関空―仁川 2019年9月16日~10月26日減便(週6便→週3便)
米子―仁川 2019年9月3日、5日、7日、11日運休
福岡―仁川 2019年9月3日、5日、10日運休
関空―仁川 2019年9月16日~10月26日減便(週7便→週2便)


これだけ減便と運休が増えれば、前年度比65.1%減となるのもやむなしだが、韓国系エアライン、特にLCCはこれまで日本路線に大きく依存していただけに、経営悪化も報じられている。11月以降の冬期スケジュールになると、一部日本客の比率の高い路線で運航再開の動きもあるようだ。また当初、韓国を訪れる日本客にはそれほど大きな影響はないとみられていたが、今日の訪韓日本人は若年世代の比率が高いため、LCCが減便したことで、影響も出てきているようだ。


■九州方面を中心に人気エリアほど影響大

訪日外客数2位で、2018年に約750万人が訪れた韓国客の激減の影響は、日本全土というより、地方都市に強く現れている。


観光庁が集計する宿泊旅行統計調査の「都道府県別、国籍別外国人延べ宿泊者数構成比」の2019年6月と9月のデータを比較すると、どの地方にその影響が大きかったがみえてくる。以下は、6月から9月にかけて韓国客の構成比が大きく減少している都道府県である。


宿泊旅行統計調査 都道府県別、国籍別外国人延べ宿泊者数構成比

        2019年6月       2019年9月
北海道     26%           6%
大阪府     13%     4 %
鳥取県     35%           11%
山口県     28%           9%
福岡県     41%           21%
長崎県     23%            7%
熊本県     36%           22%
大分県     49%           15%
宮崎県     25%           12%
鹿児島県    15%            6%
沖縄県     21%            7%


減少しているのは、当然のことながら、韓国客にもともと人気のあったディスティネーションである北海道や大阪、九州各県、韓国とのみ国際線を持つ地方都市などで、前述の韓国系エアラインが減便、運休した路線と重なっている。


韓国客に人気といえば、釜山からわずか49.5㎞という「国境の町」対馬も影響が大きかった。筆者は9月に現地を訪ねたが、夏前まで韓国客を乗せたバスやレンタカーであふれていた島が一変し、閑散としていた様子を目にしている。

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対馬を訪れる韓国客の激減を伝える地元紙
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この近さが韓国客を対馬に惹きつけた理由である


韓国の人たちにとって対馬は気軽に楽しめる海外旅行先で、カジュアルなビーチリゾートとして2018年には40万人を超える渡航者があった。自国の観光客をあてこんだ宿泊施設や免税店などの投資の多くは韓国資本であり、その努力を自ら投げ捨ててしまったかのように見えた。

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韓国人の対馬旅行を盛り上げたのは同国の旅行会社だった


現地の人に話を聞いても、今回の一連の出来事は、まるで韓国側の一人芝居のように見えたことから、冷めている印象だった。

韓国客の受け入れに関わる地元業者は、突如起きた韓国客の前年比8割減の事態に当惑を隠せなかったが、ある地元関係者は「いちばん煽りを食ったのは、韓国の船会社や旅行会社だ」と話した。つまり、対馬のインバウンド投資に寄与した両国の人たちこそ、「被害者」といえるのだ。

これを受け、韓国市場のみに頼らない受け入れ先の多様化を模索する動きもあるが、釜山から船で1時間という地の利を生かして拡大してきたインバウンド戦略の転換は、言うほどたやすいことではない。

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かつて対馬には韓国の若い女性客の姿が多くみられた


以下は、筆者による対馬レポートである。ご参照ください。

韓国から見た「対馬」 片道900円で行ける海外ビーチリゾートの今(ForbesJapan2019/10/06)
https://forbesjapan.com/articles/detail/30039


■回復に向けた動きもみられる


一般に韓国の人たちの海外旅行熱は旺盛で、日本人より出国率が高く、本来は成熟した消費者といっていいはずだ。ところが、自国民の日本旅行をお互いけん制しあう同調圧力の高さには、日本人の想像を超えるものがあった。2019年は「近隣国ほど政治が観光に影響しやすい」という日本のインバウンドが抱えるジレンマが大きな教訓として残る1年となった。


それでも、福岡の関係者によると、数字にはまだ現れてはいないものの、回復に向けた動きもみられるようだ。たとえば、現地ではこんな声が聞かれる。


「博多駅周辺では韓国人を見かけるようになっている」「「来年になったら来ようかな」と話していた人が「年内に来ようかな」と前倒しで考え始めているようだ」「いままで日本に来たことがない人たちが来るようになった」「旅行で来た人たちはいまだにインスタ等のSNSにアップすることはしないが、仕事で来た人はSNSにアップしている。仕事=自分の意思で日本に来たのではないと言い訳できるから」「韓国では日本製品が買えないので、日本で買い物をお願いされるケースが増えている」

ある関係者は「これまで日本に来たことがない人たちが来るようになったのも、日本行き=海外旅行ですから、それなりにお金がかかっていたものが、航空運賃の大幅値下げで安く日本旅行ができるようになったことも理由のようだ」と話す。


本来、政治と民間交流は別物と考えている韓国の人たちも多いはずだ。いつとは言えないが、何ごともなかったかのように、彼らが戻ってくる日が来るのではないだろうか。



【追記】
今年2月上旬、福岡を訪ねる機会があり、現地の関係者に話を聞いたところ、「もうすぐ韓国客は戻ってくるだろう」という声も聞かれましたが、その後の新型コロナウイルス被災で、全方面の外国客が消えてしまったのは周知のとおりです。その意味では、九州ではインバウンドの変調はすでに昨年起きており、それが今年になって全国化したともいえなくありません。





by sanyo-kansatu | 2020-04-28 10:41 | 最新インバウンド・レポート
2020年 04月 27日

スペインのサンティアゴ巡礼路から学べること(インバウンド壊滅の時代を考える その2)

新型コロナウイルス被災が強いる人の移動の制限は、インバウンドに限らず、ツーリズムのあり方に大きな変更を迫るだろう。

“withコロナの時代”のツーリズムのかたちは、まだあまりにおぼろげで見えていない。

ひとつのヒントとなるのが「歩く旅」かもしれない。

かつて寂れていたスペインのサンティアゴ巡礼路は、21世紀に入り、巡礼者が増えているという。理由は「歩く旅」が世界的なトレンドになっているからだ。なぜ人は街道へと旅立つのか。ひとりの巡礼者に話を聞いた。

※※※

1993年にユネスコの世界文化遺産に登録されたスペインのサンティアゴ巡礼(正式名「サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路:カミノ・フランセスとスペイン北部の道」)は、主にフランス各地からピレネー山脈を経由して、スペイン北部に通じ、キリスト教の三大聖地のひとつ、サンティアゴ・デ・コンポステーラに向かう巡礼路である。


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スペイン北部のサンティアゴ巡礼路を歩く若者(写真:鈴木章弘氏)


十二使徒のひとりでスペインの守護聖人、聖ヤコブの墓があるとされ、1000年以上の歴史のある約800kmの街道は、20世紀に入ると巡礼者の数が減り、廃れていた。ところが、21世紀になると、右肩上がりで増えているという。しかも、キリスト教圏の人たちだけでなく、韓国や台湾などアジアの人たちも見かけるほど、巡礼者の国籍も多様化している。歩くだけでなく、自転車で巡礼路を走る人たちも現れたという。

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サンティアゴ・デ・コンポステーラには世界中から巡礼者が集まる(写真:鈴木章弘氏)


※サンティアゴ巡礼者数の推移

1972年:67人⇒ 2002年:6万8952人⇒ 2012年:19万2488人⇒2018年:32万7328人⇒2021年(予想):46万4000人


■「歩くことで人と出会う」

なぜ21世紀に入って巡礼者が増えたのだろうか。また、現代の巡礼者とはどのような人たちなのか。


フリー編集者の鈴木章弘さんは、これまでサンティアゴ巡礼に5回出かけたという。彼は自分が何度も巡礼を続ける理由について「巡礼路を歩くのが楽しいから」と話す。

「なぜなら、歩くことで人と出会うから。歩くことには多くの効用があり、創造性を高めるのにもっともシンプルで安上がりな方法といえる」という。


鈴木さんの旅の装備は、身の回りの品を入れたわずか4.7kgのバックパックと貴重品入りのショルダーバックだけだ。1日の歩行距離は日によって違うが、15~40km。使うお金も、宿泊代5~15ユーロ、食事・飲み物代10~30ユーロ(1ユーロ=約116円)。「歩くことが第一義の旅なので、必要最小限度の装備と費用で十分」なのだという。「これは自分が特別質素なのではなく、多くの巡礼者も同じ」らしい。


なぜ鈴木さんはこのような旅が「楽しい」というのだろう。彼はこう話す。


「現代の旅は、交通や宿のアレンジが基本的に必要で、何時までにどこに移動しなければならないなど、時間が縛られる。もし誰かと出会っても、時間通りに移動しなければならないなら、せっかくの出会いをふいにしなければならず、これほど残念なことはない。でも、歩く旅なら、急ぐ必要はない。それが巡礼の旅の醍醐味なのです」。


旅の本質は、人と出会うことにあり、それを実現する方法は「歩く旅」にあるというのだ。こうした思いは、現代の多くの巡礼者に共通するものだという。


■予約なしで泊れるスペインの巡礼宿


とはいえ、今日のサンティアゴ巡礼の事情を知らない人には、鈴木さんの話はなかなか理解しにくいかもしれない。彼はそれが「楽しい」理由について、こう話す。


「巡礼者はどのような場所に泊まっていると思いますか。サンティアゴ巡礼路には、彼らを支える宿泊システムがあります」。


鈴木さんの説明によると、スペインで「アルベルゲ」と呼ばれる巡礼宿の運営主体は、市町村や州政府など公的なものと修道院や教会、巡礼者協会、支援団体など、そして個人やNPO法人が経営するものがある。宿泊料金は2タイプあり、1泊5~15ユーロ程度に設定されている宿と、任意の寄付に頼るものもある。


一般に、巡礼宿は大部屋(2人から90人以上の場合も)で、男女の区別はない。宿泊には「クレデンシャル」と呼ばれる巡礼手帳が必要で、連泊は基本的にできないことになっている。

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寄付で泊る公営の宿では、マットレスを敷いただけの部屋もある
(写真:鈴木章弘氏)


これらの宿のルールとして、公営アルベルゲは予約不可で、早く着いた順に泊れる。朝8~10時までに出発しなければならない。「ホスピタレイロ」と呼ばれる管理人が常駐しているとは限らず、ボランティアスタッフであることも多い。また、寝具やタオルなどは自分で用意し、キッチンで自炊ができる。

一般のホテルとは違い、民営の場合も営利を主たる目的とはしておらず、宿泊側も「お客さま」という考えはないし、泊る側も「泊めさせてもらう」という認識が必要だ。世界中から集まる巡礼者との出会いと人間的な交流の場となっていることが、最大の特徴だという。


「スペインの巡礼宿は予約なしで泊れるから、道中で魅力的な人物と出会ったとき、別れを惜しむことなく、自由に旅程を変えることができる。これがどれほど価値のあることか」と鈴木さんは語る。


鈴木さんの話は「人はなぜ旅をするのか」という問いかけに対するひとつの回答といえるだろう。さらにいうと、日本を訪れる多くの外国人、とりわけ中山道の街道を歩くようなウォーカーたちhttps://inbound.exblog.jp/30022862/は、実際にサンティアゴ巡礼の経験があるなしに関わらず、こうした旅の醍醐味を理解している人たちだというべきだろう。だとしたら、受け入れる側も、その意味を理解しておかないと、彼らをガッカリさせることになるのではないだろうか。


■住人との語らいも旅の思い出


これまで「歩く旅」の魅力を旅人の側からみてきたが、街道沿いの住人にとってはどうだろう。鈴木さんはこう話す。


「その後、私は四国のお遍路も歩くようになりましたが、そこではスペイン同様、旅人同士の出会いがあるだけではなく、地元のご老人に声をかけられて、話す機会が増えました。彼らは道端に所在なく立っていたり、ぼんやり座り込んでいて、話しかけられるのを待っているようなのです。彼らはお遍路さんと話をしたいのだと思いました」。


お遍路や旧街道はたいてい過疎化の進む地方の町である。そこに現れる街道ウォーカーの存在は、地元の老人にとって大切な話し相手というのである。これは地域の活性化を目指すインバウンドの観点からみて貴重な出来事といえまいか。


実は、筆者も今回、同じような体験をした。馬籠峠を越える手前の街道で、ひとりのおばあさんに声をかけられたのだ。見ず知らずの自分に「コーヒーでも飲んでいきなさい」という。桃の節句の時期だったので、彼女の家にはきれいな雛飾りがあった。


そのとき、ふと思ったのは、先ほど追い越したカナダ人の夫婦のことだ。彼らに雛飾りを見せてあげてはどうか。しばらくすると、彼らが来たので、おばあさんの家に呼ぶことにした。彼らは雛飾りとおばあさんの写真を撮って喜んでいた。おばあさんもしばし自分語りを始め、筆者はそれを通訳した。

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街道沿いに住むおばあさんと雛飾り


玄関から半身を出し、街道をじっと眺めていたおばあさんが望んでいたであろうことに自分なりに応えられてよかったと思った。カナダ人夫婦にとっても、ひとつの思い出になったとしたら、うれしいものである。こうしたことが起こりうるのも「歩く旅」ならではの魅力だと感じたのだった。

■「歩く旅」を支えるシステムづくり


こうした「歩く旅」の魅力を広く伝えるために、街道ウォーカーのコミュニティ「みちびと」を設立したのが、街道コンシェルジュの渡辺マサヲさんだ。



彼はJICA職員として海外各地の地域コミュニティ開発や研修員受入れ、人材育成事業に携わってきたが、2004年頃から日本の旧街道を歩く旅を始めた。「これまで私は世界の途上国を訪れ、それなりに強烈な体験もしてきましたが、もっと本質的な旅をしてみたいと思うようになりました。それを突き詰めて考えると、歩く旅ということでした」。

中山道をはじめとした旧街道で「歩く旅」のプロデュースを始めた渡辺さんは「江戸時代のように、各地の街道を旅人が往来する光景を再現することが夢」と語っている。


外国人の街道ウォーカーが増えたことで、すでに馬籠と妻籠間の街道沿いに新しいサービスがいくつも誕生している。たとえば、休憩スポットにおけるWi-Fi
コーナーや手荷物運搬サービスだ。案内所から案内所まで荷物を運んでもらうことで、身軽になって街道ウォークを楽しんでもらおうというものである。

数百kmの道のりを数十日かけて歩くサンティアゴ巡礼とは同じではないけれど、中山道は歴史と自然を同時に体感できるという意味で、国内でも貴重な「歩く旅」を外国客に提供できる観光インフラといえるだろう。こうした街道ウォーカーを支えるシステムづくりをさらに街道沿線に拡大していけないだろうか。

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Wi-Fiスポットでは街道で撮った写真をSNSで世界に発信できる

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手荷物運搬サービス(Baggage Transfer Service)の告知(馬籠宿)


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古来人は歩いて旅をしてきた。その原点を体現する「歩く旅」(写真:鈴木章弘氏)


前述の鈴木さんは、21世紀になってサンティアゴ巡礼者が増えた理由について「人の価値観が『モノを得る喜び』から『精神的な充実感による喜び』へと移りつつあることのひとつの証ではないか」と話している。


【追記】
これを書いたのは3月上旬で、いまほど世間には事態の深刻味が感じられない頃でした。今日の状況は感染防止のため、「人の出会い」すら自粛しなければならないわけで、大いに困惑を覚えざるを得ません。答えはすぐには出ませんが、自由にモノを考える想像力だけは温存しておかなければならないと思います。



by sanyo-kansatu | 2020-04-27 10:06 | 最新インバウンド・レポート
2020年 04月 26日

インバウンド壊滅の時代に考えるべきこと~なぜ中山道の宿場町を訪れる西洋人ウォーカーが増えたのか

新型コロナウイルス被災で、日本のインバウンドは大きく停滞しそうだ。いや、このままでは壊滅してしまいかねない事態を迎えている。


ツーリズムは人の移動をポジティブに捉え、喜びや幸せと結びつけて考えられてきた。国境を超えた人の移動のかたちとして軍隊があるが、目的やふるまいがまったく別物である。ツーリズムは誰もが自由に参加できることから歓迎されてきたといえる。

ところが、人の移動が制限され、問題視されてしまうことで、その前提条件が一気に崩れてしまった。これはなかなか厄介な事態である。


でも、こんなときこそ、インバウンドの本質を見直すべきいい機会ではないかと思う。ぼくは、2010年代の日本のインバウンドの好況の時代のなかで、常に不満を抱えていた。それはメディアも含めて、日本の大半の論客が、若手も含めて、インバウンド=中国人の「爆買い」=経済効果の話として真顔で語っていたことである。要はそういうことでしょう、と。


本気で言っているの? 違うでしょ!


とはいえ、この期に及んでその話を蒸し返しても仕方がない。“withコロナの時代”を迎えたとされるいま、人の移動のかたちも変わらざるを得ないのだとしたら、どんなあり方がありうるのか。

そういう観点から、近年世界的なトレンドといわれていた「歩く旅」の現場を訪ねてみたい。


※※※


3月上旬の早朝、岐阜県中津川市にある中山道の旧宿場町、馬籠の石畳の通りには、新型コロナウイルスの影響で、人の姿は見られなかった。それでも、隣の宿である長野県南木曽町の妻籠を目指して馬籠峠を越える木曽杉のトレイルを歩き出すと、何人もの街道ウォーカーとすれ違った。

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中山道の妻籠宿から馬籠宿を目指して歩くオランダ人夫婦


そのうちひとりの中年男性を除くと、すべて西洋人だった。


約9㎞、所要約3時間の街道ウォークで出会ったのは、カナダ、イギリス、フランス(ただし、香港在住)、オランダ、オーストラリアなどの人たちだ。比較的年配のカップルが多く、のんびり自分たちのペースで木曽路の自然を満喫しているようだった。


■馬籠峠越え、3人に2人は外国人


江戸時代の五街道のひとつ、中山道を歩く西洋人ウォーカーが増えている。2019年度(19年4月~3月)は2月までの11カ月間で前年を超える3万7000人の外国人が馬籠峠越えをした。国内客も含めると5万5300人なので、3人に2人は外国人になる。

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中山道の馬籠峠を越えるハイカー調査(上:総通行者数、下:外国人)「妻籠を愛する会」調べ


馬籠峠を歩く外国人の姿が見られるようになったのは、2000年頃からだという。2009年には5000人を超えたが、2016年には2万人を超え、ついに日本人を上回った。


なぜこれほど多くの外国人、それも西洋人が中山道を訪れるようになったのか。


とつのヒントとなる映像がある。


2016年に放映されたBBCの旅番組「ジョアンナ・ラムレイが見た日本」で、英国の人気女優ジョアンナ・ラムレイさんが日本を訪ねるドキュメンタリー紀行だ。彼女は北海道から沖縄まで全国各地に足を運んだが、そのひとつが妻籠からの馬籠峠越えだった。

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DVD「ジョアンナ・ラムレイが見た日本」(丸善出版)


中山道のシーンが流れる約10分間の映像は、彼女が木曽路の古地図を見るところから始まる。何度も映像にはさまれる江戸時代の街道の風景や参勤交代の絵図、幕末に徳川家に嫁ぐため江戸に向かった皇女和宮の写真などを通して、歴史ある街道「サムライトレイル」であることが彼女と視聴者の頭にインプットされる。


中山道を撮影のため訪ねたBBCのスタッフとジョアンナ・ラムレイさん

そして、彼女は梅の花咲く街道を歩き出す。渓流沿いのトレイルを抜け、古い祠を訪ね、江戸時代の風情とともに人の暮らしが感じられる家並みの前でたたずむ。さらに杉並木を歩くと、古いあずまやに出合う。現在、街道ウォーカーのための休憩所となっている一石栃立場茶屋だ。囲炉裏端に腰掛ける彼女を出迎えた老人は、木曽節を歌って聴かせる。まるで絵に描いたような演出だが、この茶屋は実在している(筆者も彼女と同じようにお茶でもてなされた)。

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馬籠峠から妻籠に向かう杉並木の自然道

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妻籠と馬籠の中間地点にある空き家を休憩用の茶屋にした一石栃立場茶屋


■「観光地化されていない」道が選ばれた理由


西洋人による近年の馬籠峠越えブームをつくったといわれるこの番組にも出演している公益財団法人「妻籠を愛する会」の藤原義則理事長は、彼らがこの地を訪れるようになった理由のうち、ふたつのポイントを強調する。


同会の調査レポート「欧米人はなぜ馬籠峠をテクテクで超えるか」(2019年9月)によると、同年6~8月に妻籠宿を訪れた外国人(127人 複数回答可)に来訪動機についてアンケートしたところ、1位「伝統的な町並みを楽しむ(115人、91%)」、2位「観光地化されていない町並みを楽しむ(108人、85%)」だったのだ。


「伝統的」という理由はわかるとして「観光地化されていない」町並みが彼らを惹きつけたというのはどういうことだろう。


BBCの映像をみると、その理由もうなずける。彼女が歩いた妻籠から馬籠までの道中で、英国の制作者が編集の過程で選んでいるのは、馬籠峠から妻後方面の街道だけだった。


おそらく理由として考えられるのは、彼らにとって魅力的に映ったのは、妻籠側の街道で、そこは馬籠側のような整備された石畳の道ではなく、自然のままの姿が残るトレイルだったということだ。「妻籠を愛する会」の調査レポートが物語るとおり、「観光地化されていない」道が好まれたのである。


■50年前の先見の明が実を結ぶ


ではなぜ同じ街道でこのような明暗が分かれたのだろうか。その点について「昭和以降の木曽路の観光開発と集落保存の歴史が関係する」と藤原理事長は話す。


馬籠は文豪島崎藤村の生家があることで、昭和40年代後半から若い女性のひとり旅のはしりだった「アンノン族」が訪れ、にぎわった。その後、日本はバブル経済に向かい、馬籠は、多くの地方都市がそうであったように、時代の波に乗って観光開発を行った。一方、妻籠は時代とは一線を画し、集落保存こそ大事だと考えたという。


※アンノン族…1970年代半ばから80年代にかけてファッション誌やガイドブックを片手にひとり旅や少人数で旅行する若い女性(「anan」と「non・no」の頭文字から命名)。


昭和40年代から今日に至る妻籠宿の来訪者統計から(1990年代半ば以降、減少している。特に国内客の減り方が大きい)「妻籠を愛する会」調べ

今日、なぜ妻籠に海外から多くの街道ウォーカーが訪れ、2016年以降は日本人より外国人が多くなったのか。その背景には、50年以上前に始まった集落保存の取り組みがあった。


先導したのは、御年91歳の小林俊彦さんという町役場の元職員だった。「当時、妻籠はすでに限界集落となっていた。高度経済成長期を迎え、全国各地でゴルフ場開発や大型旅館の建設が進められたが、小林さんは当時から『古いものを残しておくと、いずれ文化財になる。江戸時代から残る宿場町の集落保存をすることが観光化につながる。でも、博物館のようではいけない。生きたままの状態で残すべき』と話していた」と藤原理事長は語る。

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50年以上かけて集落保存に尽力した妻籠宿


そのためのさまざまな取り組みが行われたが、特筆すべきは、住民の理解と協力が必要と考えて始めた「妻籠冬期大学講座」という住民主体の勉強会である。昭和52(1977)年に始まっている。「妻籠宿保存50周年記念事業」記念誌(2018)の中の「妻籠冬期大学講座のあゆみ」と題されたリストをみると、全国の大学やメディアから識者を呼び、どれだけ多様なテーマの講義が行われたかわかる。


小林さんは、1970年代の日本列島改造論の時代から「集落保存をしていれば、いずれ青い目の人たちがやって来る」と話していたという。西洋人による街道ウォークのブームが起きたのも、小林さんの先見の明があったからなのである。


ここから我々は教訓として何を学べるだろうか。インバウンドの取り組みは、地域の生き残りのためにあること。そのときどきの時代のムードに流されるのではなく、物事の本質を見極める姿勢を忘れてはいけないことではないか。


ここでいう本質をインバウンドの現場に置き換えていえば、「人はなぜ旅をするのか」という問いかけに応えることだと思う。


そして、もうひとつ確認しておきたいのは「歩く旅」が世界的なトレンドになっていることだ。これも中山道に多くの外国人が訪れる理由といえるだろう。


やまとごころ
特集レポート2020年3月23日





by sanyo-kansatu | 2020-04-26 14:20 | 最新インバウンド・レポート
2017年 12月 27日

新しい中国人観光客像の5つの傾向とは?

今年もトップを走る訪日中国人は過去最高の年間700万人を大きく超えそうな勢いだ。訪日外国人の4人に1人を占める彼らの日本旅行の内実は、我々の理解が追いつかないほどの多様化と先進化を見せている。従来どおりの古いイメージだけで見ていると、対応にも間違いを起こしがちだ。日本を訪れた彼らのさまざまな声を聞いてみたい。

12月上旬、中国黒龍江省新世紀国際旅行社日本部の呼海友部長は、映画『男はつらいよ』の舞台である葛飾区柴又にいた。
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↑柴又駅前の寅さん像と今年3月にできたばかりのさくら像

彼は毎年この時期、東京に1週間ほど出張に来て、旅行会社回りの営業をするかたわら、訪日旅行のテーマ探しをするのがもうひとつのミッションになっている。なぜ彼は柴又に視察に訪ねることにしたのだろうか。「お定まりのコースしかない格安弾丸ツアーに飽きた中国の中高年のお客さんを寅さんの町に連れて来たいから」という。

寅さんの自由な生き方は平和な日本の象徴

訪れたのが朝9時と少し早かったせいか、帝釈天の参道は人通りも少なく、まるで映画のセットのようだった。境内の裏手の『邃渓園』と呼ばれる日本庭園で和み、中国には少ない法華経の説話を描いた帝釈堂の木彫りを鑑賞後、寅さん記念館に足を運んだ。
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↑さくらの主人の博が勤めるタコ社長の印刷所のセット

館内には、寅さんの実家である「くるまや」の店内セットやミニチュア模型など、映画を構成する象徴的なシーンが再現されている。中国の人たちは、寅さん映画のどんなところが面白いと思っているのか。

呼部長はこう話す。「寅さんがいつもあちこち旅をし、自由に生きているところです」。

いまの40代以上の中国人にとって寅さんは善良で平和的な日本人のイメージを象徴しているという。この映画が中国で観られるようになったのは1980年代以降だが、それまでの「日本といえば日本兵」という悪のイメージを払拭し、相対化するうえで、この映画が果たした役割は大きかったといえる。

今日、中国の若い世代が日本のアニメ作品『君の名は。』(岐阜飛騨市)や『スラムダンク』(神奈川県鎌倉市)のロケ地を訪ねる話はよく聞くが、中高年の中国人がよく知る日本人は寅さんであり、彼らにとっての「聖地巡礼」でもあるというのだ。

「中国にはこんな静かでのどかな下町はない」と呼部長はいう。「帰国したら、少人数で柴又を訪ねるツアーを企画します。中国にはファンが多いですから」。

新しい中国人観光客像に見られる5つの傾向

中国人の訪日団体旅行が解禁された2000年から10数年、これまで我々が思い描いていた中国人観光客のイメージを大きく変えなければならなくなっている。それは世間でよくいう「モノからコトへ」「買い物から体験に移っている」という話でもあるが、実際には、もっと中身は深化している。

今年、中国人観光客に見られた新しい傾向として以下の5つのポイントが挙げられる。

1.特定の文化的テーマで目的地を選ぶ
2.日本の田舎を楽しみたい
3.女子旅から親子旅へ
4.日本より進んだSNSによる濃密な情報環境の実現
5.肌で感じる日本社会の中国人嫌いに対する不安


それぞれについて、これから解説していく。

旅行体験共有会が個人旅行客の情報収集の場に

まず、「1.特定の文化的テーマで目的地を選ぶ」について。背景にはリピーターの増加にともなう日本に対する理解や関心の深まりがある。彼らがいま日本にどんな関心を持っているかについては個人によって千差万別で、ひと口では言えない。それを知るには、たとえば日本政府観光局(JNTO)や全国の自治体が中国各地で開催している旅行体験共有会がひとつの参考になる。

旅行体験共有会(中国語「旅游体验分享会」)は、普段はゆるいSNSで結ばれた特定の旅行テーマに関するファンたちが集まるオフ会で、個人化の進む中国におけるプロモーションとしてよく採用される手法のひとつだ。そこで集まるファンたちが核になり、SNSを通じて情報や話題が伝播されていくことで、日本国内のまったく無名の場所でさえ、誘客の効果が生まれているのだ。

日本のパワースポットめぐりを楽しむ中国のOLも

11月下旬、上海で開催された中部地方(東海、中央高地、北陸の9県)の旅行体験共有会では、この地域を実際に旅した3名の中国人がスピーカーとして登壇し、50名の参加者たちとの質疑応答が繰り広げられた。
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↑11月に上海で開催された旅行体験共有会「深体験 魅力遊 日本中部旅行分享会」

会場にいた上海在住OLの張麗さん(仮名)によると、面白かったのは『櫻追う』というブロガー名の女性の話。彼女は桜の季節に日本を訪れ、Yahoo!アプリで桜の開花した場所を調べて各地を旅して回ったという。「私のようなOLは自由に休みが取れないから、彼女のように無計画な旅ができるのがうらやましい。この会に来ると、いろんな旅をしている人の話が一度に聞けるから面白い」。

張さん自身も日本旅行のリピーターで、神社が好きという。「中国のお寺と違って、神秘的な雰囲気が魅力。2015年に伊勢神宮でご朱印を手にしたことをきっかけに、今年は諏訪神社と穂高神社に行きました。来年は出雲大社を訪ねる計画です」。

ここで注意したいのは、いま中国で日本のパワースポットめぐりが流行っているという話ではないことだ。個人化した中国人はさまざまな個別の動機と目的を持って日本国内のあらゆる場所に出没しているのである。

LCC深夜便を活用して訪日する上海の若い女性たち

なかでも今日の訪日中国客の主役は若い女性の個人客だ。

ある上海のアパレル企業に勤めるOLは、スカーフのおしゃれな巻き方を身につけるコーディネイターの資格を取るため日本に旅立った。中国にないこの種の日本の資格は、仕事の現場に活きるからだという。このようにレジャーや買い物目的を超えた個人的な趣味や職業上のスキルアップまで含めたさまざまな訪日動機が生まれており、情報収集にも余念のない一定層のリピーターがすでに存在しているのだ。

こうしたOLたちの気軽で多彩な訪日旅行を支えているインフラのひとつが、羽田空港や関西空港への中国からの格安深夜便の増加である。

たとえば、羽田・上海深夜便は、日系のピーチアビエーションに加え、春秋航空や上海航空、吉祥航空が運航している。これらの便は多くの場合、往復ともに深夜便なので、金曜夜に上海を発てば、土曜早朝に羽田に着き、1泊して日曜夜に羽田を発てば、月曜早朝に上海に戻れる。彼女らのアクティブな行動力には驚くばかりだ。
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左:ピーチアビエーションの羽田・上海の深夜便は中国客の利用も多い
右:上海浦東空港から日本に向かう中国人の女子旅

中国の若い世代が思い描く「日本の田舎」とは?

そうはいっても、「余暇を過ごす」ために日本を訪れるという中国人は若い世代ほど多い。最近、彼らに「日本のどこに行きたいか」と聞くと、たいてい最初に出てくる言葉が「日本の田舎」である。

彼らがそう語る真意はどこにあるのか。

中国の若い世代の「日本の田舎」志向を理解するうえで参考になる本がある。1986年生まれの史詩さんというブロガーが書いた日本を個人旅行するためのガイド書『自游日本(自由旅行日本)』(南海出版公司 2015年1月刊)だ。
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↑『自游日本(自由旅行日本)』は16年、17年と3冊目が出ている人気シリーズだ

今日中国では多くの旅行書が刊行されているが、同書が類書と異なるのは、彼女が自分の足で訪ねた日本の名所旧跡や日常食が写真入りで細かく紹介されていること。

一方、買い物に関する情報がほぼないのも特徴といえるだろう。

ここでいう「日常食」とは、日本人がふだん食べているカレーやラーメン、とんかつ、天ぷら定食といった料理のこと。基本的に冷めた食事を好まない中国人らしからず、駅弁と鉄道旅行の情報が詳しいのもユニークだ。

安全だからこそ楽しめる、地方の列車旅

この本の表紙として選ばれた一両きりのローカル線の車両と高く広がる青空の写真から、彼女の世代の想いが読み取れる。林立する高層ビルの中でストレスフルな競争社会を生きるいまの中国人にとって癒しとなるのは、こういう日本の澄み切った青空に違いない。

彼らの「日本の田舎」志向の背景にはもうひとつの理由がありそうだ。前述した張さんは「ローカル列車で若い女性が旅に出られるのも、日本が安全だから。中国で同じような地方の列車の旅に出る勇気は私にはない」。いかにも都会育ちの若者的な発言だが、日本の事情に精通したリピーターたちは日本と中国の社会の違いを知りぬいている。

「女子旅」から「親子旅」へ、子連れ旅行を指南する若い母親ブロガー

最近、都内の繁華街でベビーカーを押して歩く外国人ファミリー客の姿を日常的に見かけるようになった。当然、その中には中国客もいる。「3.女子旅から親子旅へ」についても見ていこう。

個人客として日本を訪れる中国の若い女性たちは一人っ子政策の申し子であり、すでに多くは母親になっている。

彼女たちの指南書として刊行されたのが、子連れ旅行ブロガーの王晶盈さんが書いた『日本东京亲子游(日本東京親子旅行)』(人民邮电出版社2017年1月刊)だ。
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↑『日本东京亲子游(日本東京親子旅行)』は姉妹編の関西版もある

同書は、親子で楽しめる東京の遊園地や動物園、水族館、レストラン、ホテル、キッズ&ベビー用品店、児童書店といった情報が満載だ。

体調が変わりやすい小さな子供を連れて日本を旅行する際の留意点や公共交通機関でのベビーカーの利用方法なども書かれている。

母親ブロガーが、親子旅行の様子を共有

2017年3月、上海で開催された長崎県主催の旅行体験共有会のテーマも「親子旅行」だった。登壇したのは、女性旅ブロガーの柳絮同学さん。

3歳の息子と一緒に長崎県に旅行に出かけた体験の報告だった。彼女は東京や大阪なども子連れで訪ねており、2回目の旅行先が九州。息子を連れて長崎県内の動物園を訪ねたり、天草でイルカをウォッチングしたり、日本旅館に泊まって手作り団子の体験をしたりと親子旅行を満喫したという。

日本は中国に比べ、小さな子連れ旅行をしやすい環境が整っていると彼女はいう。中国にはまだない便利なサービスやインフラも多い。彼女は日本を訪れて知った経験の数々をブログに紹介している。そこには中国人から見た日本の隠れた魅力や発見があふれている。
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左:長崎の日本旅館に泊まった柳絮さんと息子さん
右:上海で開催された、長崎県の旅行体験共有会に参加したみなさん

どの自治体も外国人ファミリー客向けの情報発信やサポートはまだ十分とはいえないが、自らの子連れ体験を発信する中国人がそれを補ってくれているのだ。

行先や目的を超えて行われる、SNS上での濃密な情報交換

これまで以上に、個人旅行化が進む中国人旅行客。彼らがいつどこで何をしているか、実際のところつかみようがない。そんな彼らを相手に、これまでと同様にパンフレットやサイトをつくって多言語化するだけのプロモーション手法では通用しなくなりつつある。微博(ウェイボー)や微信(ウィーチャット)といったSNSのアカウントを開設しても、ただ一方的に情報を発信するだけでは効果はない。

では、諦めるしかないのだろうか。実はそうではない。日本を訪れた彼らのニーズを捕捉するためのひとつの手がかりを与えてくれるのが、中国の海外渡航者用Wi-Fiルーターレンタルサービス事業者「北京環球友隣科技有限公司(Beijing Ulink Technology Co., Ltd. 、以下ULINK)」が採用しているグループチャットの運営である。

北京環球友隣科技有限公司 http://www.uroaming.com.cn 

同社のサービスがユニークで他社を圧倒しているのは、出発日ごとにまとめられた微信のグループチャットを運営していることだ。

このグループチャットに参加しているのは、たまたま同じ日に中国各地から日本各地へ向かう見ず知らずの個人客同士で、目的地も宿泊先も行動も違う。
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↑誰かが質問を投げると、すぐに誰かが答えてくれる

グループチャット上で飛び交う質問はあらゆる内容に及ぶ。

たとえば「関空にどうやって行くの?」「どのコンビニでアリペイが使える?」「SUICAはどこで買える?」など。なかには「SUICAの余ったお金はどうする?」といった具体的な質問も多い。

確かに、成田や羽田のJRトラベルサービスセンターはいつも外国人観光客で長蛇の列。多くの中国人観光客はSUICAの存在を知っており、もっと簡単に買える方法を知りたいというのだ。

「タビナカ」の中国人への情報提供が可能に

日々交わされるチャットの内容をみていると、いま彼らの周辺で何が起き、何に困っているのか。何をどこで買いたいのかといったことが具体的に見えてくる。

実は似たようなサービスを中国のいくつかのオンライン旅行社も実施しているが、北京環球友隣科技有限公司のグループチャットが優れているのは、本社サイドに管理人がいて、1日100通を超えるチャットの整理を行うかたわら、日本のクライアントからのPR情報の提供も随時行っている。
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↑管理人が随時、日本の小売店や飲食店などの特典情報を伝えている

同社の営業代理店である株式会社日本遊の田熊力也部長は「微博や微信のアカウントを開設している日本企業や自治体は多いが、それだけでは個人客の動向をグリップすることはできない。弊社ではこのグループチャットにお得なクーポン券などの情報をいま日本にいて、まさに観光や買い物をしている中国の個人客に提供できる」と力説する。

このような、不特定対数の同胞同士による「SNSを通じた海外でのリアルタイムの情報交換」の存在を知る日本人は多くはない。「4、日本より進んだSNSによる濃密な情報環境の実現」というのは、そういうことだ。

団体から個人へ、旅行形態の変化とともに発生する様々な課題

いま日本を訪れる中国客の地域的構成をみると、地方在住で団体ツアーでしか日本に旅行する手段のない人たちの比率が年々減少して約4割。残りの6割以上は、これまで見てきたようなツアーに参加する必要のない上海や北京、広州などの経済先進地域の個人客だ。

背景には、今秋中国政府が一部地域で始めた日本を訪れる団体客への渡航制限もある。現地関係者の声をまとめると、対象となっているのは黒龍江省や遼寧省、山東省などだ。これらの省では、まだ団体客が多く、かつての「爆買い」を思い起こさせる購買意欲の高さから、当局は各旅行会社に年間の取扱客数の上限を通達している。これが中国の観光行政の実態の一面である。

こうした事情に加え、より自由に個人で旅行したいという中国人のニーズの高まりから、今後もますます個人化やリピーター化に拍車がかかるだろう。

中国客の個人化は、その一方で在日中国人による「白タク」や違法民泊(※これは中国人に限らない)を増加させた。多くのメディアが報じるとおりである。外国人観光客の増加が日本の社会にもたらすのは経済効果のような良いことばかりではないことを多くの人が知ることになった1年だった。

中国人旅行客の民泊志向が高い理由

なぜこうしたことが起こるのか、中国の旅行関係者に聞いてみた。

前者の「白タク」については、日本の社会が中国に比べてライドシェアが遅れており、リーズナブルで利用しやすい移動手段がないため不便を感じていること。日本のドライバーには中国語が通じないため、同胞が運転する「白タク」のほうが安心なのだ。また、後者の民泊についてはどうだろうか。旅行形態の個人化に伴い、一都市の滞在日数が延びたことで、ホテルより使い勝手のいい民泊に流れがちであることだという。

前述の呼部長(黒龍江省新世紀国際旅行社)も「一カ所に連泊する場合、毎日外食だと飽きてしまうので、キッチンがあると便利。ホテルより民泊を選びたいと考える中国人は多い」と話す。ここ数年の大都市圏のホテル価格の高止まりの影響もあるだろう。これらの問題は来年にも持ち越されることは必至で、日本のインバウンド市場の健全な促進にとって懸念材料となっている。

「中国人は嫌われている!?」

気になる声もある。それは「5、肌で感じる日本社会の中国人嫌いに対する不安」である。

ある中国の旅行関係者は、今年中国人観光客を連れて数回大阪を訪ねたが、数年前に比べて日本人の中国人に対する風当たりの強さにショックを受け「中国人は嫌われている!?」という不安を感じることが増えているという。「私が初めて出張で日本に来たのは2000年だが、当時日本の方は本当に優しかった。道に迷っていると、どこまでも案内してくれる親切な人も多く、お世話になった。だが、最近は商店街を歩いているだけで、中国人に対して厳しい目つきや言葉を浴びせる人が多くなったと感じている」と話す。

彼女はなおも言う。「理由はわからないではない。かつて自分たちより貧しいと思っていた中国人が豪勢に買い物をしているのをみて面白くないのだろう。実は、同じことは中国にもある。不動産開発によって一部の農村の人たちが急に金持ちになって都会に遊びに来るようになったが、このような人たちをマナーが悪いと都会の中国人も嫌っている」。

日本をよく理解した旅行関係者だからこそ、こうした日本社会の変化とその理由に気づいているが、初めて日本を訪れる観光客は彼女と同じようには受けとめないだろう。

別の関係者はさらに気になる指摘をする。最近、関西方面の繁華街で中国客を狙ったスリが増えているというのだ。ある大阪心斎橋にあるビジネスホテルの中国人スタッフは言う。

「中国のお客様が外出する際には必ずスリに注意するよう呼びかけています。東南アジア系の外国人による中国客を狙った事件が増えているからです」。
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↑大阪心斎橋商店街は外国人観光客であふれているが、新たな問題が起きている

こうした実情は日本人には見えにくいが、ホテルやコンビニエンスストアで働く中国人らによる口コミで中国客の間では相当広まっているようだ。

こんな指摘をする中国の旅行関係者もいる。最近、ホテルの退出後に忘れ物が出てこないケースが増えているというのだ。

「あるお客様が日本で購入した高価な美顔器を洗面室に忘れて帰ったことに空港で気がついたのでホテルに連絡したところ、見つからないと言われました。以前なら、日本のホテルはお客様の忘れ物は預かっていたはずで、そんなことはあり得なかった」と話す。

一般に日本のシティホテルでは、ゲストの退出後、ゴミ箱に入っているもの以外はすべて一定期間預かっておくというのが常識だった。原因を特定するのは難しいが、外注の清掃業者へのチェックを怠ってはいないだろうか。そう前述の関係者は指摘する。

これらの好ましくない日本の評判は気がかりである。これまで日本は治安がいい、おもてなしの国だと言われてきたが、さすがにこれだけ外国人観光客が増えると、その評判を貶めるさまざまな問題が起きてくるのも当然かもしれない。

訪日客が抱える「不便解消」のための対応も必要

最後に、もうひとつだけ、新しい中国人観光客を理解するうえで知っておくべきことに触れておきたい。

これは多くの中国の旅行関係者が口を揃えて言うことだ。「多くの日本人は日本を訪れる外国人は日本が好きだから来てくれたと思うかもしれない。でも、必ずしもそうとはいえない。今日中国人は世界中どこにでも海外旅行に出かけており、日本はそのひとつの国に過ぎない。誰もが日本を好きだから来るわけではない」。

これも言われてみれば当然の話かもしれない。日本に来るのは日本好きなリピーターばかりではないのだ。だとすれば、モバイル決済への対応や免税店化促進など、彼らに気持ちよくお金を使ってもらえるような利便性の追求だけでなく、移動を快適化するためにSUICAや公共交通機関の1日乗車券などの入手場所を増やしたり、日本の事情に合ったライドシェアを進めるなど、彼らがいま、日本で不便に感じていることの解決に努めたいものだ。これは中国人観光客相手に限った話ではないが、彼らの声にどれだけ早く気づき、対応できるかが問われる時代になっている。

※やまとごころ特集レポート第70回 2017.12.24
https://www.yamatogokoro.jp/report/20489/

by sanyo-kansatu | 2017-12-27 06:20 | 最新インバウンド・レポート
2017年 12月 27日

日本の紅葉はなぜ外国人観光客の心をつかむのか?

日本政府観光局(JNTO)の統計によると、ここ数年、秋に日本を訪れる外国人が増えている。理由のひとつは紅葉だ。桜と同様、日本を彩る魅力である紅葉は、なぜ外国人観光客の心をつかむのか。海外で日本の紅葉はどのように伝えられているか。外国人向けの正しい紅葉の伝え方とは。

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9月下旬、中国語通訳案内士の水谷浩さんがガイドを務めるマレーシアからの華人グループは大雪山系にいた。「札幌から入ってトマムや富良野、旭川をめぐる。紅葉の見どころは富良野や大雪山。日本でいちばん早く紅葉が見られるのがポイント」だという。

水谷さん率いる中国語通訳のプロ集団で形成される彩里旅遊株式会社では、中国本土や華僑として海外に在住しているVIP華人の訪日旅行手配を扱っている。ここ数年、9月下旬から10月中旬にかけては北海道でのガイド業務の引き合いが多い。紅葉を見たいという華人客が増えているからだ。

訪日客が多く訪れるのは、春より秋⁉

これまで訪日外国人旅行市場は繁忙期と閑散期に分かれ、春や夏が多いとされていた。ところが、ここ数年、秋や冬に日本を訪れる外国人が増えており、1年を通して満遍なく彼らの姿を見かけるようになっている。日本政府観光局(JNTO)によるこの5年間の月別外客数のトップ3を調べると、以下のとおりである。

◆月別訪日外客数トップ3(2012年~16年)※外客数と( )は前年同月増比

<2016年>
1位 7月 2,296,451人(19.7%) 
2位 10月 2,135,904人(16.8%)
3位 4月 2,081,697人(18.0%) 
※11月は1,875,404人(13.8%)で11位

<2015年>
1位  7月 1,918,356人(51.07%) 
2位 10月 1,829,265人(43.87%)
3位  8月 1,817,023人(63.87%) 
※4月は1,764,691人(43.37%) で5位、11月は1,647,550人(41.07%)で6位

<2014年>
1位 10月 1,271,705人(37.07%)
2位  7月 1,270,048人(26.67%)
3位 12月 1,236,073人(43.07%) 
※4月は1,231,471人(33.47%)で4位、11月は1,168,427人(39.17%)で5位

<2013年>
1位  7月 1,003,032人(18.47%) 
2位 10月  928,560人(31.67%) 
3位  4月  923,017人(18.47%) 
※11月は839,891人(29.57%)で10位

<2012年>
1位 7月 847,194人(50.97%) 
2位 4月 779,481人(163.57%) 
3位 8月 774,239人(41.77%)
※10月は705,848人(14.67%)で4位、11月は648,548人(17.67%)で11位

月別では、東アジアの国々が夏休みに入る7月がほぼトップを占めているが、中華圏が春節休暇に入る1月~2月、桜の開花や欧米のイースター休暇が重なる4月よりも10月が多いことがわかる。10月は中国の国慶節休暇に入るので、訪日客数トップの中国客が全体の数を押し上げるとはいえ、肌感覚でいうと街に外国人観光客があふれていることを強く感じる桜のシーズンより多いのだ。年々月別の数の差が縮まり、年間を通じた平準化が進んでいる。

紅葉が外国人観光客を魅了する⁉

では、なぜ秋に日本を訪れる外国人観光客が増えているのだろうか。

訪日外国人の団体から個人への移行が進み、とりわけアジアからのリピーターが増えたことから、繁忙期の夏ではなく、日本旅行の時期を秋にズラす層が現れていることが考えられる。日本人が8月ではなく、9月以降に遅めの夏休みを取るというのと同じだ。近年、日本の夏は相当蒸し暑いので、旅行に適しているとはいいにくい。アジアの国から訪れる旅慣れた人たちは、できれば涼しい日本を体験したいだろう。

もうひとつの理由は、海外で日本の紅葉の魅力が広く伝わったことが考えられる。

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↑河口湖もみじ回廊のライトアップ河(HIS提供)

「万葉集」や「源氏物語」などの古典や「百人一首」でもおなじみのように、日本人は古来もみじ狩りを楽しんできた。

紅葉が見られるのは落葉樹だけで、日本など東アジアの沿岸部やヨーロッパの一部、北アメリカの東部に限られるという。なかでも日本は落葉広葉樹の種類が多く、紅葉の見どころが多いのだ。

人気の紅葉バスツアーは河口湖

では、訪日客はどのような紅葉ツアーを楽しんでいるのだろうか。

日本の旅行大手クラブツーリズムは、2009年から、YOKOSO Japan Tourという外国人向けの国内バスツアーを催行しており、10月下旬から11月にかけては日帰りの紅葉ツアーが人気という。

CLUB TOURISM YOKOSO Japan Tour
http://www.yokoso-japan.jp

同社のツアー客の国籍のトップは香港で、次いで台湾、シンガポール、マレーシア、タイ、最近はインドネシアが増えているという。これらアジア客をメインとした約20万人のメルマガ会員がいて、リピーターも多い。

担当者によると「以前は中華圏の旧正月時期や4月~5月が圧倒的に多く、秋は閑散期だったが、ここ数年はすごい勢いで増えている」という。実際、10月~12月のツアー客数が年々倍々ゲームで、「2017年10月~11月の予約数は前年同月比200%前後、同12月は300%強」だ。

なかでも人気があるのが、英語や中国語のわかる添乗員が同乗する河口湖への日帰りツアーだ。
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↑英名:Departure guaranteed! Mt. Fuji & 5-Storied Pagoda “Arakurayama Sengen Park”・Sagamiko Illumillion・Koro-kaki no Sato (Village of Dried Persimmons)・Autumn Leaves in Lake Kawaguchi
全日程保證出發! 富士山&新倉山淺間公園 五重塔・相模湖霓虹燈秀・曬柿子之里・河口湖賞楓
http://www.yokoso-japan.jp/tc/05522.html

日程は以下の通り。

ホテルグレイスリー新宿(8:10発)→新宿ワシントンホテル(8:30発)→<首都高・中央道>→(10:00)シャトー勝沼(10:30)【買い物・試飲30分】→ころ柿の里(10:50)【散策】→信玄館(12:20)【昼食】→(13:30)新倉山浅間公園(14:40)【散策70分】→(15:00)河口湖(16:00)【紅葉鑑賞60分】→<中央道>→(17:00)さがみ湖プレジャーフォレスト(18:00)【イルミネーション鑑賞60分】→<中央道・首都高>→新宿(19:00予定)

ツアー料金は、大人8900円、子供8600円、幼児5000円だ。

担当者によると「メインビジュアルは新倉山浅間神社。五重塔と富士山と紅葉という外国人が好む風景の組み合わせがポイント。昼食に松坂牛のローストビーフとほうとう鍋をつけているのも人気の理由」という。

日本人向け紅葉ツアーを外国人にも展開、アジアを中心に一躍大人気に!

同じく旅行大手のHISも外国人向けバスツアーを催行しているが、同社のイチ押しツアーも英語添乗員付きの河口湖への日帰りツアーだ。

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↑Mt.Fuji Autumn Leaves Light-up Festival & Shosenkyo Gorge Bus Tour!(山梨の紅葉いいとこどりっ☆昇仙峡と河口湖もみじ回廊ライトアップ&ラストシーズン!秋めく富士山五合目)
http://www.hisgo.com/j1/Contents/OptionalTour/DetailOptionalTour.aspx?TourCd=TYO1166&lang=en
(日本語:https://bus-tour.his-j.com/tyo/item/?cc=A1041

コースは以下のとおり。

新宿→昇仙峡(秋めく渓谷美を観賞)→影絵の森美術館(世界初の影絵美術館で光と影のアートを鑑賞)→富士山五合目(ラストシーズン!標高2,305mの絶景散歩)→富士河口湖紅葉まつり(幻想的な河口湖もみじ回廊ライトアップの観賞)→新宿

ツアー料金は7990円~8490円だ。

HISの担当者によると「ポイントは幻想的な河口湖もみじ回廊のライトアップ。訪日客に定番人気の富士山5合目や今後人気が出てきそうな昇仙峡、影絵の森美術館など最新のスポットを入れている」とのこと。ツアーのハイライトである「もみじ回廊」の滞在時間はたっぷり約1時間半あるという。

どちらのツアーも1万円を切る手頃な料金で、日本人が普通に参加しても十分楽しめる内容だ。実際、日本人と外国人が一緒にバスに混載するツアーもあるという。日本の旅行会社は、これまで国内客向けに格安でバラエティ豊かなバスツアーを企画してきた。それをそのまま外国客向けに提供したところ、アジア客にウケたという話なのだ。日本人が感じるお得感は、彼らにも伝わるのだろう。

ただし、クラブツーリズムの担当者は「欧米客への訴求は同じようにはいかない」ともらす。旅に対する考え方が違うせいなのか、今後の検討課題だという。

外国人観光客は、紅葉の時期やスポットに関する情報どう得ているのか

桜に次ぐもうひとつの日本観光の売りである紅葉について、海外の人たちはどうやって情報を得ているのだろうか。

訪日旅行シーンの先駆けを走る香港や台湾の旅行会社では、8月中頃から日本の紅葉をテーマとしたツアーを募集している。以下のサイトをみると、人気の目的先や料金の相場がわかる(10月中旬現在の情報)。

◆EGLツアーズ@香港

香港で訪日送客数トップの旅行会社であるEGLツアーズでは、すでに紅葉ツアー販売は終盤で、日本のみならず韓国や中国の紅葉スポットを訪ねる商品も企画しているようだ。

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http://www.egltours.com/travel/showIndex

◆KKday@台湾

一方、台湾のオンライン旅行会社であるKKdayも、日本情緒たっぷりのデザインで紅葉ツアーを募集している。

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https://www.kkday.com/zh-tw/home/index2

これらのサイトに掲載されるツアーの内容をみると、香港や台湾の人たちがもうほとんど日本人と変わらない旅をしていることがわかる。

◆HISバンコク支店@タイ

昨年の訪日客数でアメリカに次ぐ6位となったタイの場合はどうだろう。タイではHISがバンコク市内に多くの店舗を構え、タイ人を日本に送り出している。

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https://th.his-bkk.com/HIS

バンコク支店のサイトをみると、やはりこの時期、紅葉ツアーがメイン商品となっている。

日本国内各地を3泊5日で5000バーツ(約17万円)相当のツアーが販売されている。
タイでは、台湾と同様、日本のテレビ番組が普通に見られるだけでなく、自らも日本に関する番組を制作している。YouTubeで探すと、WabisabiTVやSUGOI JAPANといったサイトで日本旅行をテーマにした動画がいくつも見つかる。タイ人はこうした豊富な情報源を通して自由に日本旅行を計画しているのだ。

WabisabiTV
https://www.youtube.com/user/WABISABITV1
SUGOI JAPAN
http://www.sugoijp.com/

◆欧米向けメディア

欧米の人たちはどうだろう。日本在住の欧米人たちが発信する日本の観光&生活情報サイトのTokyo Cheapoでは、この時期、東京や日本各地の紅葉スポットを紹介するレポートを載せている。

Tokyo Cheapo
https://tokyocheapo.com/
Koyo: 10 Places to See Autumn Leaves In and Around Tokyo(東京とその近郊の紅葉スポット10)
https://tokyocheapo.com/lifestyle/outdoors/koyo-autumn-leaves-in-tokyo/

海外発としては、トリップアドバイザーの傘下で、全世界の現地発ツアーを扱うviatorでも、東京や富士山は人気の旅行先の上位に入っている。

viator
https://www.viator.com/

同サイトでは、日光をはじめ袋田の滝(茨城県)、長瀞の滝(埼玉県)、富士山と河口湖、びわ湖バレイと鶏足寺、小豆島(香川県)、香嵐渓(愛知県)などの日帰り紅葉ツアー(発地は東京や京都、大阪などいろいろ)が海外からネット予約できるようになっている。

旅行の最先端を歩む、香港と台湾における日本の紅葉情報

日本を訪れる外国人が事前にさまざまな紅葉情報を入手し、ツアーや目的先を選んでいることをみてきたが、なかでも香港と台湾の人たちの情報集力は他の国・地域に比べ群を抜いている。

香港では例年、8月下旬から9月上旬にかけて、新聞やネット報道でその年の日本の紅葉の見ごろ時期の予想を取り上げている。こうした関心の高さの背景には、株式会社KADOKAWAが現地で発行してきたタウン情報誌や日本情報誌があるといっていい。
香港で2007年11月に創刊された『香港ウォーカー』は「旅慣れた香港の人々をも満足させる日本情報が満載」の月刊誌だ。

台湾には1999年創刊の現地情報誌『台北ウォーカー』があり、早い時期から日本情報を発信してきた。15年8月に創刊された『Japan Walker』は台湾で唯一の日本情報誌だ。

海外には日本の観光情報を伝えるフリーペーパーはたくさんあるが、市販の雑誌は珍しい。これらが隠れたトレンドメーカーとなって香港や台湾の人たちに与えた影響は大きい。


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上記2誌の、台湾・香港現地での立ち上げに関わった編集者の鈴木夕未さん(株式会社KADOKAWA)によると「両誌ともに日本の紅葉特集は定番企画」だという。香港と台湾の違いや彼らの日本に対するニーズについて、より詳細に話を聞いた。

―香港や台湾の人たちにとって日本の紅葉の魅力とは何か。

「日本のようなはっきりした四季がない台湾、自然が少なく高層ビルに囲まれた環境に暮らす香港の人たちにとって、紅葉に触れることで季節感を感じられるのがいちばんの魅力だろう。これは桜と同様だ。

なかでも彼らが強く魅力を感じるポイントは、紅葉の色の艶やかさと日本的な情緒の組み合わせにあると思う。紅葉と滝や寺社仏閣、お城など。その風景をバックに自分が写り込む写真を撮るのが好きで、“インスタ映え”を気にしている。最近では湖面に映る紅葉など、さまざまなバリエーションが生まれている」

実際、クラブツーリズムの河口湖ツアーを募集するサイトのトップの写真は、富士山と新倉山浅間神社の五重塔と紅葉の組み合わせだった。紅葉に日本的情緒が感じられるアイテムが加わることで、彼らの気持ちをグッとつかんでいるわけだ。

―『香港ウォーカー』や『Japan Walker』ではどんな紅葉特集をやっているのか。

「香港と台湾では、それぞれ読者の求める嗜好やニーズが違う。昨年、台湾の『Japan Walker』では<秋季賞楓微旅行(秋のもみじ狩りプチ旅行)>という特集をやったが、紅葉×鉄道、紅葉×温泉、紅葉×日本庭園の3つのテーマに分けて各地を紹介した。

一方、『香港ウォーカー』の最新号(10月号)の特集は、”秋の京都 紅葉単車遊(サイクリングでもみじ狩り)”だ」

―台湾と香港では何が違うのか。

「香港人はアクティブで、いまサイクリングブームだ。街で自由に自転車に乗れる環境にはないため、日本で体験したいという人が多い。香港はストレス社会なので、日本では自然の中でのんびりリラックスして過ごしたいようだ。最近、香港では日本でグランピング(グラマラス×キャンピングの造語でラグジュラリーなアウトドア体験)を楽しみたいという人も増えている。

一方、台湾人の鉄道好きは有名だ。日本全国の観光列車に乗りたい人は多く、できれば紅葉の時期に行ってみたい。温泉や日本庭園など、日本文化に対する憧れは、香港人より強い。

こうしたことから、香港と台湾では同じ情報誌でも誌面づくりが違う。香港の場合はビジュアル優先で、情報は少なめでいいという考え方だ。香港の人に聞くと『情報はスマホで探せるから必要ない。行ってみたいと思わせる写真やイメージがあればいい』と答える。一方、台湾の読者はそれぞれのスポットに関する細かい情報やアクセスなどがきちんと書き込まれている誌面を求めている」

隣国の香港と台湾でも、嗜好や求める情報がこんなにも違うことは、とても興味深い。

日本の紅葉はマッカッカ(真っ赤っ赤)だけじゃない

冒頭で紹介した中国語通訳案内士の水谷浩さんが案内するマレーシア華人の北海道旅行に話を戻そう。彼らは日本の紅葉をどのように楽しみ、何を感じているのか。10月中旬まで北海道にいた水谷さんに話を聞いた。

―マレーシア客は日本の紅葉についてどんなイメージを持ち、何に魅力を感じているのか。

「非日常感ではないか。彼らは熱帯に暮らしているから、冷たく張りつめた新鮮な空気と艶やかな色彩に包まれた場所で写真を撮って、そこに自分が写り込みたいという願望が強い。だから、いちばんいい状態の紅葉を見せたいが、これが難しい。散り際が真っ赤に染まって美しいし、写真を撮るには晴天がいい。太陽の光の向きも重要だ。紅葉のピークは同じ場所でも天候によって変わってくる」

―桜もそうだが、紅葉も年によって見ごろの時期は変わる?

「メディアのみなさんにお願いがある。日本の紅葉はマッカッカ(真っ赤っ赤)だけじゃないと伝えてほしい。なぜなら、一般に旅行会社やメディアが発信する日本の紅葉は真っ赤に染まった写真を使うことが多い。インパクトがあるせいだと思うが、外国のお客さんはそれを期待して日本に来る。ところが、実際には黄色や緑も多く、必ずしも赤一色ではない。それでガッカリされる人がけっこういるからだ。

もちろん、私はその方たちに日本の紅葉は赤だけではなく、黄色や緑など色とりどりの美しさがあると説明するのだが、先入観があるぶん、腑に落ちない気分になるようだ。

実際には、中国語でいう“五彩缤纷”(たくさんの色が豪華絢爛で豊かに見える様)というべき。最初からそのように伝えれば、ガッカリされることもないと思う」

この点、欧米のメディアは比較的バランスが取れていて、紅葉=赤一色という伝え方はしていない。たとえば、前述した現地発ツアーサイトのviatorでは、東京発の紅葉ツアーのトップページに以下のような写真を使っており、日本の紅葉についても次のように「赤やオレンジ、黄色」と説明している。



The season for fall colors typically kicks off in mid-September and lasts until December, with red, orange, and yellow colors lasting in a single location for as long as five weeks.

人一倍こだわりを持つ富裕層に満足してもらうために必要なこととは?

紅葉は漢字で「紅」と書くから、中国語圏の人たちは赤一色と思いがち。でも、ガッカリするのは期待値の高さからともいえる。日本特有の自然現象である紅葉について、もっと我々自身が深く理解し、説明することばを持たなければならないだろう。

なぜなら「こうした説明の大切さは、相手が富裕層であれば、なおさらだ」と水谷さんは言う。

「海外のVIPほど、旅に対するこだわりが強い。彼らはそれがいいか悪いかは常に自分で判断したがる。気に入らないと『不要(いらない)』とはっきり言う。食事も高級な料理店に連れて行けば満足するというのではない。状況や気分によって地元の庶民的な場所で食事がしたいと言い出すかと思えば、逆のときもある。

そのぶん、きちんと合理的な説明ができれば、彼らも納得する。そのためには、相当の知識と経験が必要。いったん満足してくれると、次回もまたお願いしたいという話になる。その結果、彼らのネットワークを通して別のお客さんを呼んでくれる。それが富裕層旅行の世界だ」

彩里旅遊株式会社は顧客の要望に合わせて一からコンテンツを組み立てる企画旅行が専門。口コミで同社の評判を聞いた海外の華人から「日本の極上の紅葉が見たい。水谷、案内してほしい」と直接指名がかかるそうだ。

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↑大雪山系は10月上旬には早くも紅葉は散り、雪に覆われる

まもなく本州にも紅葉前線が南下し始めるだろう。「日本の紅葉はマッカッカ(真っ赤っ赤)だけじゃない」。今後は肝に銘じて、情報発信するよう努めたい。

秋の紅葉シーズンは、時期や場所が日本全国をまたぎ、今後もさらなる発展の可能性が高い。大切に育てていきたい観光コンテンツだ。

彩里旅遊株式会社
http://www.ayasato.co.jp/

※やまとごころ特集レポート第61回 2017.10.24 より
https://www.yamatogokoro.jp/report/8272/



by sanyo-kansatu | 2017-12-27 05:51 | 最新インバウンド・レポート
2017年 09月 11日

民泊の時代に日本の宿はどうあるべきか ~若き宿経営者たちの模索

訪日外国人の数は増えているのに、宿泊者数が伸び悩んでいる。なぜなのか。日本のホテルはすでに供給過剰なのだろうか。議論は分かれるが、民泊の影響も否定できない。民泊新法が施行される来春をふまえ、日本の宿はどうあるべきなのか考えたい。

「訪日外国人の数は増えているのに、外国人宿泊者数が伸び悩んでいる。なぜ?」

これは、昨年からすでにインバウンド関係者の間でささやかれていた話である。

3年後に迫った東京五輪、政府が掲げる訪日外国人客数4,000万人の目標から、ホテル不足解消のためにさまざまなタイプの宿泊施設の開業が、いま最盛期を迎えている。最近まで老朽化していたビルがビジネスホテルやカプセルホテルに転換するケースもよく目にする。

にもかかわらず、これはどういうことなのだろうか。

宿泊統計のリアルな実態 

観光庁が集計する宿泊旅行統計調査(2016年版)によると、東日本大震災の翌年の2012年以降、好調に推移していた外国人の延べ宿泊者数の伸び率が、15年(46.4%)から16年(8.0%)にかけて大きく落ちているのだ。16年の訪日外客数の前年比は21.8%増にもかかわらず、である。

さらに、同年の国別訪日客数トップ5の伸び率と延べ宿泊者数の前年比は以下のとおりである。

1位 中国    27.6%増   3.3%増
2位 韓国    27.2%増   15.7%増
3位 台湾    13.3%増   1.3%増
4位 香港    20.7%増   8.2%増
5位 アメリカ  20.3%増   14.3%増
(左:訪日客数、右:延べ宿泊者数)

どの国も訪日客の伸びに比べ延べ宿泊者数の伸びは心もとない。とりわけ中国の乖離は大きいようだ。

だから、15年頃まで外国客の利用比率が高かった大都市圏のホテルほど、客室を埋めるのに苦心するという事態が起きている。むしろ、これらのホテルでは宿泊料金の「高止まり」ではなく、ディスカウント合戦が始まっていると聞く。

こうした実態について、今年5月下旬、朝日新聞は以下の興味深い記事を配信している。

「ユー、夜はどこに? 訪日客は増加でも宿泊者は伸び悩み」(朝日新聞デジタル2017年5月24日)
http://www.asahi.com/articles/ASK5R55GBK5RULFA01M.html

記事では、なぜこうしたことが起きたのか、その背景についてさまざまな観点から検討している。訪日外国人の多くが、もし一般の宿泊施設以外の場所を利用しているのだとしたら、それはどこなのか ――。

いまやLCCを使えば、近隣アジアの国々から片道5,000円で日本を訪れることができる時代。なるべくお金をかけずに日本旅行を楽しみたいというニーズは高まるばかりである。
民泊の時代に日本の宿はどうあるべきか ~若き宿経営者たちの模索_b0235153_1764382.jpg
↑羽田空港国際ターミナルは、深夜便を利用する外国客でにぎわっている。彼らはベンチが仮の寝床というわけだ

記事で挙げられているのは、外国客が利用する「深夜の成田空港のロビー」「都内の(宿泊可能な)温浴施設」「深夜に走る高速バス」などだ。

日本のホテルは供給過剰?

こうしたことから、早くもインバウンド業界からもれ聞こえてくるのは「ホテルは供給過剰では?」という声だ。

観光庁は民泊の影響だけではないというが、日本政府観光局(JNTO)の「訪日外客統計」と同庁の「宿泊旅行統計調査」の今年の推移を見比べると、その影響はやはり大きいのではないかと考えざるを得ない。

というのも、今年2月、訪日外客総数が前年比15.7%の増加に対して、延べ宿泊者数の前年比は4.5%のマイナスだったからだ。伸び悩むどころか減っているのである。

なかでも中国客は前年同月比で17.0%も増えているのに、延べ宿泊者数は-14.1%。この数字の開きは相当大きい。いくら中国客に占めるクルーズ客が多いからといって、それはずいぶん前からこと。その後、3~5月にかけても中国客の延べ宿泊者数だけが前年を割り続けているのだ。

2017年3月  中国客数 +12.0%   延べ宿泊者数  -13.4%
2017年4月  中国客数 +9.6%    延べ宿泊者数  -15.6%
2017年5月  中国客数 +8.0%    延べ宿泊者数  -7.0%

中国人の日本旅行の内実は大きく変化した。2000~10年は上海や北京などの沿海先進地域の大都市圏中心の団体旅行の時代、10年から個人旅行が始まり、14年以降は内陸の地方都市からの団体客が急増。

ところが、昨年秋頃より内陸客は伸び悩み、大都市圏からの個人客やリピーターなど「安近短」組が過半を占めるように構造変化している。団体客が減り、「安近短」の客が増えれば、トータルの日本の滞在日数(延べ宿泊者数)は減少するのも道理だろう。

昨年は国内で少なくとも370万人が民泊を利用したとされる米国発の仲介サイトAirbnb(エアービーアンドビー)は、現在5万件超の民泊物件を掲載している。

これに急迫する勢いで、途家・自在客・住百家といった中国発の民泊サイトが成長している。彼らは日本での実績を公開していないが、今年に入って相次いで日本法人を設立している。来春に施行される住宅宿泊事業法(民泊新法)への対応と考えられる。

日本の宿は外国人観光客のニーズとミスマッチング?

では、なぜこれほどの勢いで外国人観光客の宿泊先の民泊への移行が進むのか。

考えられるのは、日本の宿と今日の外国客のニーズのミスマッチングが顕在化している、ということだ。

最近、観光庁は国内の旅館に対して部屋料金と食事料金を別建てとする「泊食分離」の導入を促していく方針を明らかにした。日本の旅館は「1泊2食付き」が主流だが、日本の多彩な食文化を楽しみたい長期滞在の外国客のニーズに合っていないためだ。

旅館業界「泊食分離」導入を=長期滞在客対応、モデル地区指定へ-観光庁(時事通信2017年8月16日)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2017081600733&g=eco

似たようなことが、都市部のシティホテルやビジネスホテルについてもいえるのではないか。

団体から個人へと移行したアジアからの観光客は、家族連れや小グループで日本を訪れることが多いといわれる。これは欧米客も同じである。たとえば、彼らは夫婦と子供2人でシティホテルに泊まろうとすると、たいてい2室を予約しなければならない。

一方、民泊の場合、部屋がたとえ狭くても、家族一緒に利用すれば、ホテルの客室を複数室利用するのに比べると割安になるだろう。

日本では家族水いらずで利用できる宿泊施設は、行楽地に限られることが多い。日本人の場合、家族で連泊するニーズはリゾートホテルや旅館にしかないからだろう。

だが、外国客は行楽地でも都市部でも家族やグループと一緒に旅をしている。

日本の都市部には、リーズナブルな価格帯で家族やグループ旅行の連泊に適した宿泊施設が少ないといえるかもしれない。これが民泊に流れるもうひとつの理由ではないだろうか。

こうした市場の急変が、宿泊施設の経営者にも影響を与えている。民泊は明らかに日本の宿泊相場を押し下げる要因となり始めているからだ。

なかでも、いまや全国に1,000を超えるといわれている、若い外国人観光客向けにリーズナブルな価格帯の宿を提供するホステルやゲストハウスの経営者たちは、これまでにない逆風にさらされ始めている。

若いオーナーたちが目指す新しい日本の宿

◆古民家を改装したゲストハウス:toco.

2010年10月に台東区下谷の築90年の古民家を改装したゲストハウスtoco.を開業したBackpackers’ Japanの宮嶌智子さんも「民泊の影響は必ず出てくるだろう」と話す。 

toco.
https://backpackersjapan.co.jp/toco/

大学時代の友人4人で設立した同社では、都内に3軒と京都に1軒の個性的な宿を運営している。

宮嶌さんは1号店のtoco.を開業する前に3ヵ月かけて海外のゲストハウスの調査の旅に出ている。印象に残っているのは、ブルガリアの首都ソフィアのホステルだそうで「マネージャーやスタッフのゲストに対する声かけが心地よかった」という。ホステル経営で大事なのは「ゲストに安心感を与えること」と彼女は語る。

同社の宿のゲストの8割は外国客だという。海外のゲストハウスと同様に、複数の見ず知らずのゲストが寝起きを共にする2段ベッドが並ぶドミトリー式の部屋と個室の2タイプがある。

だが、最も特徴的なのは、単なる宿泊施設ではなく、さまざまなイベントを通してゲストと日本人が交流できる共有スペースを有していることだ。

◆バーが併設、生演奏も聞ける宿:CITAN

今年3月に東日本橋に開業したホステルCITAN(シタン) では、地下1階をバーとして運営し、ライブ演奏などのイベントを定期的に行っている。
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↑背中に大きなバックパックを背負った欧米の若い女性がチェックインする都心の宿だ

CITAN
https://backpackersjapan.co.jp/citan/

7月末の週末の午後、ハーモニカ奏者によるライブがあった。そこでは、ゲストではない日本人客とともに、同ホステルのゲストである若い欧米客も演奏に耳を傾けていた。若いオーナーらによる、これまで日本になかったタイプの新しい宿が生まれているのだ。
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↑地下1階のカフェで開催された「八木のぶお ハーモニカライブ」。エントランスフリーなので、誰でも気軽に参加できる

◆次の目的地が決められる宿:Planetyze Hostel

今年2月、同じく東日本橋に開業したホステルPlanetyze Hostel(プラネタイズホテル)もユニークな志向性と理念を掲げた宿だ。支配人の橋本直明さんによると、この宿の特色は「次の目的地が決められる宿」であること。どういう意味だろうか。

Planetyze Hostel
https://planetyzehostel.com/ja

Planetyze Hostelのターゲットは欧米のバックパッカー。彼らの日本の滞在日数は平均2週間から6週間と長く、じっくり日本を旅してくれる人たちだ。ところが、彼らの多くは日本のどこを訪れるのか、ノープランのケースも多い。日本に来てから、面白い場所を探して旅に出かけるという人が多い。

そこで、オンライン旅行ガイドブック『Planetyze.com』をベースに、日本中の観光地の動画を作成。それをホテル内のモニターを使ってみることができる。ここで自分の行きたい旅先を決めてもらえるようになっているのが、最大の特徴だ。
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↑「Planetyze.com」に掲載されている観光スポットの映像が、フロント正面にある42型のモニターを4面接続した巨大なモニターに映し出される

橋本さんが代表取締役を務める株式会社トラベリエンスは、2013年に通訳案内士と外国客のマッチングサイトである「Triplelights.com」(トリプルライツ)を立ち上げている。

同サイトでは、外国客が自分に合った通訳ガイドを選択できるように、登録ガイドの紹介動画を用意し、それぞれのガイドは趣向を凝らしたオリジナルなツアーをサイト上に紹介。そのツアーに興味を持ってくれた外国人からサイト経由でメールの問い合わせが届くと、日程を調整し、仕事を受けることになる。

たとえば、スノーモンキー(野生のサルが露天風呂に入ることで有名な長野県下高井郡山ノ内町の地獄谷温泉)のような外国人には訪れずらい場所でも、いったん広く知られると、どっと彼らは訪れる。

このことからわかるように、アクセスは問題ではない。どうやって彼らにそれを見つけてもらうか、そのための情報をきちんと届かせるためのチャネルとなることが、ホステルを開業した目的だったとのこと。

同ホステルでは、英語と日本語に堪能な外国人スタッフが宿泊客の旅程相談に乗ってくれるという。同じ若い世代同士、ゲストのニーズに合った日本全国の観光スポットを紹介してくれるというわけだ。
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↑スタッフは橋本さんを除くと全員若い外国人。国籍はタイ、台湾、ブラジル、アメリカの4名

空き家活用プロジェクトで生まれたゲストハウス

◆とんかつ屋がゲストハウスに⁉:シーナと一平

豊島区椎名町の商店街に昨年3月に開業したゲストハウス『シーナと一平』も、長く空き家だった元とんかつ屋をリノベーションしてゲストハウス兼カフェとして開業させたというから、相当ユニークな宿だ。
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↑一見ゲストハウスには見えない元とんかつ屋のゲストハウス

シーナと一平
http://sheenaandippei.com/

豊島区の空き家率は15.8%と23区で最も高く、区は空き家の再生で地域の魅力を高める構想を進めている。同ゲストハウスは、豊島区の「リノベーションまちづくり」事業の一環で開かれたリノベーションスクールに参加した男性が始めたものだ。

面白いのは、2階は外国客向けの宿泊施設なのだが、1階をカフェとして利用していることだ。カフェの活動を担当する藤岡聡子さんによると「都内一といわれる空家率の背景に、豊島区における30代(子育て世代)の流出がある。いかに子供を育てやすい環境をつくるかという観点も、この施設の運営にとって大切」という。
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↑カフェで休んでいると、近所のママさんが小さなお子さん連れで現れた。近所の商店街のおばさんたちが先生になって若い地元の女性相手に洋裁や編み物、料理などを教えてくれる教室として使われている

椎名町は池袋に近い徒歩圏内でありながら、昔ながらの商店街が(以前に比べると縮小しているが)いまだに残っている。個人経営の食堂も多い。「うちに泊まった外国のゲストが、近所の商店街で焼き鳥を買って、カフェスペースでビールを飲んだりできる。そんな宿にしていきたい」(藤岡さん)

こういう滞在のあり方が本当は日本らしい町の楽しみ方なのかもしれない。

地域ぐるみで彼らを支援できないか

『CITAN(シタン)』のライブを観るため、週末の東日本橋を訪ねたとき、そこが無人の街と化していたことに驚いた。平日はそんなことはないだろうが、通りを歩いているのは外国人観光客だけなのだ。ここは本当に東京なのだろうかと思ったほどだった。だが、これが東京東部の下町と呼ばれた地域の実態なのである。

こうなると、少子高齢化の影響は、もはや都心も地方も変わらないのではないかと思えてくる。

こうした状況の中で、街のにぎわいを取り戻すことに貢献できるのは、ホテルなのではないか。

民泊の運営の中には、どこか刹那的で短期間に利益を回収するのが目的というような打算が動機という側面もあるように感じる。

ホテルのような人的なホスピタリティは不要と考え、むしろ「かまわないでほしい」という人たちが一定数おり、そのニーズとマッチしたことが、民泊市場拡大の要因の一つではないかと思う。

旅の楽しみは人との交流にあると思うのだが、これもひとつの好みであり、スタイルなのである以上、いたしかたないところがある。

一方、今回登場した若いホステルやゲストハウスのオーナーたちは、収益のためだけではなく、自分たちの暮らす地域を活性化するために何ができるかを問いながら、あるべき日本の近未来の宿の姿を模索しているように見える。

このような動きをもっと広げられないだろうか。地域ぐるみで若い宿泊施設のオーナーたちを支援できないだろうかと思う次第である。 

※やまとごころインバウンドレポート http://www.yamatogokoro.jp/report/6951/



by sanyo-kansatu | 2017-09-11 17:16 | 最新インバウンド・レポート
2017年 06月 26日

大都市圏を中心に増殖中!中国系「越境白タク」の問題点を追跡

羽田空港や成田空港、そして大都市圏を中心に、人知れず中国系の白タクが増殖している。その背景には、日本に先んじて広く普及した中国の配車アプリサービスが、日本の国内ルールを無視して横行していることにある。日本のライドシェアのあるべき姿を見据え、「越境白タク」の何が問題かを考えたい。 
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羽田空港国際ターミナル1階、午前0時半。タクシー降り場の周辺に何台ものワゴンタイプの自家用車が隊列停車し、大きな荷物を抱えた乗客を降ろしている。一見、家族に見送られる旅行客にも思われるが、乗客の多くは中国客だった。

「それは中国系の白タクです。彼らは営業許可を持たない自家用車で中国の個人客の送迎サービスを行っているのです」。そう語るのは、一般社団法人アジアインバウンド推進協議会(AISO)の王一仁会長だ。

同じことは成田空港をはじめとする全国の主な国際空港で起きている。

中国系白タクが急増していることは、関係者の間では数年前から広く知られていた。NHKの「クローズアップ現代」は昨年10月下旬、中国人観光客の周辺で起きる違法問題の一例として留学生の白タクドライバーを告発している。

潜入!中国人 “爆ツアー”の無法現場(NHKクローズアップ現代+2016/10/23)
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3879/

地元ドライバーの仕事が奪われる沖縄県の事情

なかでもこの問題が深刻な地域のひとつは沖縄県だ。地元メディアは、白タクの背景に配車アプリを使った中国のサービスがあり、3年前から顕在化しているという。

台湾人向け「白タク」中国系運転手がクルーズ客送迎 総合事務局「違法行為」(琉球新報2017年5月1日)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-488190.html
中国客も「白タク」利用 沖縄観光、アプリで配車 運転手は県内に100人超(琉球新報2017年5月14日)
http://ryukyushimpo.jp/news/entry-495441.html

これらの記事では、いま沖縄で起きている中国系白タク問題をふたつのケースに分けて指摘している。ひとつは、台湾からのクルーズ客が上陸観光の際に「旅客自動車運送事業の許認可を受けず、レンタカーを使って有償で運送」(琉球新報2017年5月1日)するケース。もうひとつは、中国客が「世界各地で事業展開する中国の運転手付き自動車配車サービスアプリを使う」(同5月14日)ケースで、共通するのはドライバーの大半が県内在住の中国人であることだ。

背景には「急増する外国人観光客への多言語対応など、県内の受け入れ態勢の不備が白タクの横行を招いている側面」(同上)があるという。問題は、彼らが営業許可を取らずに課税逃れのヤミ商売をしていることだ。「同アプリに登録し、沖縄で操業できる中国人運転手は100人を超える」(同上)ため、沖縄県民のドライバーの仕事が奪われているというのだ。

中国の配車アプリサービスとは?

では、琉球新報が報じる中国の配車アプリサービスとはどのようなものか。

一般に配車アプリサービスとは、スマートフォンで走行中のタクシーを検索し、自動的に指定場所まで配車するもの。事前に登録をせずに支払いは従来通りに行う方法と、あらかじめ登録を行い、ネット決済で支払う方法を選択できる。

ところが、中国系白タクの場合、日本国内の配車アプリサービスではなく、中国で運営されているサービスをそのまま利用している。つまり、これは「越境EC」ならぬ、「越境白タク」とでも呼ぶべきものである。問題は、営業許可をはじめ日本国内の法やルールはあっさり無視されていることだ。
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↑中国の配車アプリ大手「滴滴出行」
http://www.xiaojukeji.com

なぜこのようなことが起きるのか、理由は明快だ。

中国では日本より先んじて配車アプリが普及し、身近なサービスとして社会に定着したこと。そして、同サービスの配信企業が中国国内と同様に海外でも事業を展開し始めたことだ。

なぜそんなことが可能となったのか。

それは、サービスの担い手である在外華人が日本国内に暮らし、ドライバーをしているからだ。これは日本のみならず、在外華人の住む海外の国々では、どこでも起きている。

配車アプリが提供するサービスとは?

中国にはいくつかの配車アプリサービスがある。なかでも海外展開を積極的に進めているサービスに「皇包車(HI GUIDES)」がある。
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↑皇包車(HI GUIDES)
https://www.huangbaoche.com/

このサービスのキャッチコピーはこうだ。

「华人导游开车带你玩」

”中国人ガイドがあなたを乗せてドライブします”

ここでいう中国人ガイドとは誰のことだろうか?

このアプリのトップページに、以下のような海外都市と同アプリと契約していると思われるドライバー数が載っている。このドライバーこそが「中国人ガイド」というわけだ。NHKの番組でも指摘されたように、彼らの多くは営業許可を持っているとは思えない。

東京:1659名     台北:1643名   大阪:1172名

ニューヨーク:698名  パリ:786名   バリ島:101名

では、実際にどのようなサービスを提供しているのか。東京のページをみてみよう。
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↑皇包車(HI GUIDES):東京
https://www.huangbaoche.com/app/lineList.html

このページには、東京発のさまざまなドライブコースが表示されている。

たとえば、トップにあるのが、富士山日帰りドライブコース。

多くの乗客を乗せる大型バスでもないのに、1名あたりの料金は驚くほど安い。

富士山河口湖→五合目→忍野八海→山中湖温泉

包车一日游,东京往返(東京発1日パッケ―ジ)

489元(7900円)

海外展開しているもうひとつの中国系配車アプリサービスに「DingTAXI」がある。

同サービスの日本ページ(日本包车旅游)をみてみよう。
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↑DingTAXI:日本
https://www.dingtaxi.com/zh_CN/c/japan

トップページには以下のようなコースと料金(一部)が記されている。

東京包车一日游(東京1日チャーター)JPY23,000~

大阪包车一日游(大阪1日チャーター)JPY25,500~

(东京出发)富士山箱根包车一日游(東京発富士山・箱根1日チャーター)JPY36,000~

ちなみに、成田空港から都内へは16,500円、羽田空港からは9,500円とある。

おそらくこれが筆者が羽田空港で見かけた白タクだろう。

中国客に配車アプリサービスが支持される理由

さらに、DingTAXIの「東京1日チャーター」のページをみてみよう。ここには23人のドライバーと自家用車の写真が載っている。それぞれ1日の運行時間や料金に加え、深夜航空便利用客のニーズに合わせた深夜料金なども設定されている。
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↑DingTAXIの「東京1日チャーター」ドライバーリスト

このサービスを利用する中国客たちは、日本を訪れる前に、アプリ上で車の写真や料金、条件などを比べてドライバーを選ぶことになる。予約と支払いは、中国で普及しているモバイル決済で完結するしくみだ。

中国客に配車アプリサービスが支持される理由に、成田空港をはじめとする日本の国際空港から市内へのアクセスのコスト高がある。京浜急行やバス会社など民間による格安な交通手段も登場し、LCC客を中心に利用者は増えているが、中国ではタクシーで2000~3000円も出せば市内に行けることを思えば、相当割高に感じるだろう。

配車アプリこそが、観光客のニーズを満たすサービス

最近のアジアからの個人旅行者は、家族や小グループが多い。荷物も多く、1台のタクシーでは乗り切れないため、ワゴン車が好まれる。中国客は、自国で予約決済をすませるので、日本でドライバーに支払いをする必要はない。土地勘のない海外でドライバーにボラれる心配はないのだ。アプリで簡単に予約でき、適度な価格帯で利用できる白タクが支持されるのは、顧客のニーズに正対するという意味でも、これほど理にかなっているサービスはないのだ。

実は、筆者は日本を訪れた中国の友人が予約した「越境白タク」に同乗したことが何度かある。ドライバーは日本在住の中国人なので、普通に日本語を話すし、友人もドライバーとの会話に支障はない。中国人同士、気軽に会話が楽しめ、日本の事情を聞くこともできる。営業許可のない自家用ワゴン車だが、中国客はそれが違法と知るよしもなく、「日本のタクシーは高すぎる。配車アプリほど便利でお得なサービスはない」と自慢げにいう。彼らには「自分たちは世界に例のない先進的なサービスを日常的に享受しているが、日本はとても遅れている」との思いもある。一方、事情を知らない日本人からみると、ドライバーも客も中国人同士ということもあり、白タク営業とは気づかないだろう。

参考:中国でライドシェア(配車アプリサービス)が一気に普及した理由
http://inbound.exblog.jp/26874125/

「越境白タク」の何が問題なのか?

一般の日本人が知らないうちに、これほど広範囲に中国人観光客を乗せた「越境白タク」が蔓延していた。では、この何が問題だと考えるべきだろうか。

いま日本国内でライドシェア(相乗り)推進をめぐる議論や取り組みが行なわれている。シェアリング・エコノミーと自動運転技術の発達で、近い将来、タクシーが無人化することも見据え、各地で検証実験も始まっている。外国人観光客の増加で、地方への旅行の足もそうだが、多くの荷物を抱えた彼らの最寄りの駅からホテルまでといった短距離需要が拡大しているのも追い風だ。

もっとも、言うまでもなく、日本国内では白タク営業は違法である。そのため政府もライドシェア推進を表明するものの、「白タク解禁」に対するタクシー業界からの反発も強く、「過疎地での観光客の交通手段に、自家用車の活用を拡大する」のが趣旨だと説明している。人口減少により公共交通機関の確保が難しくなった市町村で、住民にとって買い物や通院など日常を支える移動手段としてのライドシェアからまず始めようというのが、国内のコンセンサスである。

ところが、これらの地道な取り組みを無視して、中国の「越境白タク」は増殖している。過疎地の利用から始めようとする日本のライドシェア推進者たちの法令遵守の進め方は、中国配車アプリサービスではほぼ省みられることなく、東京など大都市圏のど真ん中で運用されているのだ。そこに中国客のニーズが集中しているためなのだが、この実態をまったく知らないことにしてまともな議論ができるのだろうか。このあまりに無頓着なフライングを見過していては、日本の社会にとって有用なライドシェアの実現をぶち壊しにしてしまうのではないか。

国内の日本人市場と訪日外国人市場、それぞれのライドシェアを分けて考える

では、日本の国内事情にふさわしいライドシェアのあり方とは何だろうか。

ここでは、国内の日本人が利用するライドシェアのあり方と訪日外国人市場における運用を分けて考えるべきだろう。双方のニーズのありようや普及のための条件は異なっている点が多いからだ。

中国でこれほど配車アプリサービスが普及した背景には、モバイル決済の高い普及率がある。ライドシェアの普及に欠かせないのは、モバイル決済なのである。なぜなら、配車アプリサービスを導入した日本のタクシー会社にとって、予約客のノーショー(ドタキャン)を防止するするには、それが決め手になるからだ。日本ではまだ少し時間がかかるかもしれない。

国内向けには、まず地方でのライドシェアを進めることだろう。迅速に使える利便性を追求するというより、公共の足として普及させる取り組みはすでに各地で始まっているが、ニーズはあっても、もうひとつ盛り上がりに欠けているかもしれない。であれば、過疎地の住民のためだけでなく、地方の観光地に足を延ばしたい外国人観光客へのサービスも提供することで普及させることはできないだろうか。

訪日外国人向けのライドシェアのあるべき姿とは

一方、訪日外国人向けのあるべきライドシェアを考えるためには、現状の白タクによる違法状態の取り締まりから逃げてはならないだろう。

冒頭で中国系白タクの存在を指摘した一般社団法人アジアインバウンド観光振興会(AISO)の王一仁会長は、この問題を解消するためのこんな提案をしている。

「これは皮肉な言い方かもしれないが、白タク暗躍で見えてきたのは、中国人観光客の個人化にともなう移動ニーズの実態だ。これを駆逐するためにも、税金を使ってでも、彼らのための格安の足の手配を官民が協力して用意することはできないか。

いま地方へ外国人観光客を呼び込むのに最も効果的なのは、交通インフラの改善だ。ひとつの手段として、地方への外国人向けの無料バスを走らせたらどうか。もちろん、国内のバス会社に共同でやってもらえばいい。こういうことに税金を使うほうが、PRに使うより意味があるのではないか」

これまでみてきたとおり、中国の配車アプリサービスは、大都市圏のみならず、地方の観光地へ中国客を乗せたドライブサービスも展開している。アプリサイトのリストに載っている観光地はニーズの高い有名観光地が多いが、個別では、あまり多くの外国人観光客が訪れていない地域へのドライブサービスもあるだろう。この不届きな違法サービスも、中国客を地方へ分散させる足となっていることは否定できないのだ。彼らが市場ニーズに直結したサービスを提供しているのは確かなのである。なんという皮肉なジレンマだろう。

観光客のニーズに対応するサービスの提供が必要

団体から個人へと移行した中国人観光客の移動のニーズを正確に捕捉することは簡単ではない。それゆえ、我々は彼らのニーズに即応したサービスを提供できずにいる。そのため、すでに自国で定着したシステムを持つ中国の配車アプリサービスは、日本でこそ優位性を発揮し、好んで利用されているのだ。

そうである以上、彼らの違法営業をやめさせるためには、空港での摘発強化に加え、中国客のニーズに対応した代替サービスを提供することが必要になるだろう。原則とルールを決めて、違反する者をきちんと取り締まる。これが第一歩だが、それだけでは不十分で、市場を動かすためのインセンティブを用意することも不可欠なのだ。

たとえば、中国配車アプリサービスで定番となっている成田空港や羽田空港からの都心への外国客向けのワゴン車による送迎サービスで、彼らの提供する現行に近い価格帯を実現させることはできないだろうか(ちなみに、DingTAXIの場合、成田空港から都内へは16500円、羽田からは9500円)。外国客が利用しやすい決済サービスの構築も必要になる。

訪日外国人の増加は、我々の目の届かない領域でさまざまな不測の事態を引き起こしてきた。その実態を正しく把握したうえで、実情に合わせた対応策を用意することが求められている。

前述の王会長はいう。

「日本のインバウンド市場の問題は、ヤミ営業が野放しのせいで、本来お金が落ちるべき正規の事業者や地元にお金が落ちてこないこと。市場の変化に日本側の対応が追いつかず、すべてが後手後手となり、そこにヤミ業者が暗躍するすきを与えてしまう。その結果、一般の日本人も外国人観光客の本当の恩恵を知らないでいる。それは買い物による消費だけではない。もっと多くの恩恵があるはずなのに、いちばん損しているのは日本の社会である」

この率直かつ真摯な提言に、我々はどう応えていくべきだろうか。
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※上記記事は、2017年6月19日、21日、26日に「やまとごころ」で配信されました。 
http://www.yamatogokoro.jp/report/5540/

by sanyo-kansatu | 2017-06-26 16:35 | 最新インバウンド・レポート