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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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カテゴリ:“参与観察”日誌( 247 )


2019年 08月 01日

「街の顔を作る」が成功のヒントです

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インバウンドの現在と問題点、そしてこれからのインバウンドについて、評論家の中村さんにお聞きする連載もいよいよ最終回。

今回は外国の人に、「正しい日本を見せる方法」を伝えるために大切なことは何か?について語っていただきます。


多言語化は本当に正しいのか?


――正しくインバウンドを捉えることができれば、物心両面で、恩恵を得ることができるというお話を前回聞きました。

では現在、あまりインバウンドの恩恵を受けていない地方都市が、外国人観光客を積極的に呼び寄せたいと考えた時、何から手をつければいいのでしょう?


中村:
「私もさまざまな自治体のケースをウォッチングしていますが、多くの場合、まずパンフレットや地図、看板などの多言語化から手を付けます」


――すぐに思いつくのが多言語化だと思います。


中村:
「でも私に言わせれば、あれほどまずいものはない」


――なぜですか?外国人観光客にとっては便利なのでは?


中村:
「いえ。ほとんど役に立ちません。なぜなら、大半が日本人向けに作った内容を、翻訳しているだけだからです。


日本には中国人だけでなく、米国人やロシア人など、いろいろな国の人たちがやってきます。彼らの日本に関する知識や興味は千差万別なのです。


それなのに、日本人の一般常識を前提として書かれているパンフレットがいかに多いか。


たとえば、徳川家康を知らない日本人はいませんが、多くの外国人は知りません。それなのに何の注釈もない。そういう例が後を絶ちません」


――知っているという前提で、お墓やら古戦場やらを解説されても、ポカンとするばかりだということですね。


中村:
「多言語化して満足するのではなく『外国人観光客が本当に知りたいことは何だろう?』と立ち止まって考えることが大切なんです」


――なぜ、そういう状態が引き起こされたのでしょう?


中村:
「ノウハウのないコンサルティング会社などが、補助金を目当てに制作している場合が多いようなのです。


自治体側も彼らにすべてお任せで、自分の頭で考えるということを諦めているかのようです。


このようなことを続けていては、せっかくの上昇傾向に水を差すことになります。それに税金の無駄遣いです」


インバウンドの恩恵を受けるには「顔を作る」こと


――たしかにその通りです。問題は内容ですね。それではどんな内容にすればいいのでしょう?


外国人観光客の立場に立って考える、というのはわかりました。そのうえで、地方はインバウンドに向けて、何をアピールすればよいのでしょう?


中村:
「大事なのは『顔を作る』ことです。それぞれの地域の顔です。


ちょっと日本の白地図を思い描いてみてください。外国の方々がこの白地図を見て、みなさんの住む地方を指し示すことができるでしょうか?


東京、大阪、京都、北海道くらいはわかるでしょう。


しかし今、インバウンドの恩恵を受けていない町、市、県になると、外国人にとっては『真っ白』なんです。つまり、存在していないことと変わらない。


それなのに、どこのパンフレットを見ても、『桜』『温泉』など、自分たちが考える外国人ウケしそうなことしか載せていません。


全国どこでも同じ『顔』しか見せていない。横並びなんです。これでは彼らに選んでもらえません」


――でも、外国人にアピールするポイントがあると自信をもって言える地方のほうが少ないのでは?


中村:
「オンリーワンのものなど、自分の地元にはないと思うかもしれない。


しかし、これもみなさんが勘違いしているところですが、日本には特定の国の人々だけがやってくるわけではありません。


世界は広く、さまざまな文化・歴史的背景をもった人たちがいます。そして受け入れたいと考える地域も数限りなくある。そのマッチングこそ重要です。


双方の求めるものと提供できるものがマッチすれば、オンリーワンになり得るのです」


顔を作り、誰を呼ぶかを考える


――ではどうすれば?


中村:
「だからこそ、『顔を作る』のが重要なんです。まず『自分たちの町の顔はこれだ』というものを決めること。いくつも魅力を並べるのはNGです。


『いろいろある』は、『何もない』と同じだからです。


そして、次はターゲットを決めること。どの国の人たちを呼び込むべきか決めるのです。


でもどうやって?それを決めるうえで必要なのは、国内外の事情をよく知り尽くしたコンサルタントの意見です。


すなわち、この地域にとって呼び込むべきはどこの国の人たちなのか?


その国の人たちにアピールできるポイントはこれで、ひとまずそのポイントを一点集中で売り出していく体制をつくる。


本物のコンサルタントは、それらを判断するデータやノウハウの蓄積があります。


実は、これはインバウンドの3つ目のジレンマといっていいのですが、地元の人が誇りに感じているものが、外国人に伝わるかどうかは疑問です。


むしろ、みなさんが全く価値を感じていないものでも、外国人の目を通すとおもしろいと感じるものがあるかもしれない。


それが判明したとき、多くの地域の人たちは虚をつかれたような、期待はずれのような顔をされるのが常ですが、自分たちがいいと思うものが受け入れられるとは限らないのがインバウンドです。


その意味では、あまりに地元愛が強い人は向かないかもしれません。外から自分たちの地域を客観的に見ることのできる人材が必要なのです。


しかも、地域にこうしたインバウンドのツボを理解できる人材がいれば成功する可能性が高まりますが、いないとうまくいかない。


その明暗がはっきり出るのもインバウンドです。横並びはありえない、とても残酷な世界といえます。


とはいえ、『顔を作る』ことの重要性は、ご自身が海外旅行に行くときのことを考えたら、理解しやすいのではないでしょうか。


海外旅行は、誰のためにやるのでもなく、自分のやりたいように楽しむものです。

まず自分が行ってみたい国を選び、そこで何をやりたいか。インターネットやガイドブックを見ながらあれこれ考える。


それと同じことを、日本を訪れる外国人もやっているのです。


つまり、そうした相手に自分の地域を選んでもらうためには、徹底的にわかりやすい顔が、まず必要なのです。


さらにいえば、海外旅行に行って何が必要か、どういうことにお金を使うべきなのか、自分が外国人観光客の立場になって経験してほしいと思います。


そうすれば、インバウンドで何をすべきか、いろいろ見えてくるはずです。


最近はアジアからの観光客も2度目3度目というリピーターが増えています。そういう人たちは有名な観光地ではなく、知る人ぞ知るような観光スポットを探しています。


いままさに、地方がインバウンドの恩恵を受ける絶好のチャンスなのです」


――インバウンドは日本の産業も、地方も、もしかしたら未来の国際情勢も変える可能性があるということですね。


現在の勢いを大切にしたいものです。今回はありがとうございました。
(おわり)


取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)
https://found.media/n/n578d9bfa5b13?creator_urlname=found



by sanyo-kansatu | 2019-08-01 13:25 | “参与観察”日誌
2019年 08月 01日

「儲け」より大切なことに、もっと目を向けるべきです

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急成長を遂げている外国人観光客の消費額は、これからも引き続き成長するのでしょうか?

3回目の本記事は、右肩上がりで湧く日本の観光業における問題点について迫ってみます。


インバウンド急増で生まれたさまざまな問題


――今までのお話を聞く限り、日本の観光立国への道はバラ色に思えます。

中村:
「ところがやはり、いろいろな問題が起きています。

たとえば、これだけインバウンドが拡大しているのに、果たしてお金は誰のところに落ちているのか、といったことも問題のひとつです」


――日本人がもうかっているんじゃないんですか?


中村:
「2017年に、中国から九州へ来航するクルーズ客船が1000隻を超えました。

昨年初めて来航数が減ったように、この市場は飽和状態にあると見られていますが、クルーズ客船で来日する観光客はみんな団体客です。


彼らは上陸するとバスに乗せられ、免税店に連れて行かれる。だから地元の人たちと交流がなく、お金を落とさない。


免税店も中国や韓国資本の場合がほとんどです。ですから、地元の人たちはまったく無関心なのです。


また一昨年メディアで話題になった、中国の白タク問題も、沈静化するどころか、ますます増殖中です。


中国人が個人旅行化する中で、彼らの移動の足は在日中国人が運転する白タクで、その実態はほとんど知られていません。


せめて彼らが法人化し、確定申告してくれれば、税収が見込めるのですが。日本は彼らの営業活動のための『場貸し』をしているだけだ、といわれています」


――それは複雑な気持ちがします。他には?


中村:
「やはり一極集中があげられるでしょう。この4、5年の京都の混雑はとくにひどいものがあります。


おかげで日本人観光客が減少してきている。一般市民が市営バスに乗れない、などということが起きているのですから。


その一方、まったく外国人が訪れることのない地域はいくらでもあります。


旅慣れた海外の旅行者は、そのような地域こそ訪ねてみたいと思っているのに、その地域の人たちはどうやったら外国人を呼び込めるか、まったくわかっていません」


――東京、京都、大阪の「ゴールデンルート」へ観光客が集中しているという問題ですね。しかし先ほど、中国人観光客も個人旅行が増えてきたとおっしゃっていました。


中村:
「数が多いので、中国人観光客の動向を基準にモノを考えがちですが、欧米や台湾、韓国、香港などの人たちはずっと以前から個人旅行化していました。


ですから、いまようやく個人旅行化した中国人も含めた訪日外国人として共通の話ができる時代になったのですが、興味深い現象として、SNSの普及で、観光スポットどころか、地元の人が見向きもしなかったような場所に突然、外国人観光客が殺到することも珍しくなくなりました。


有名なのは、長野県の『地獄谷野猿公苑』です。


交通の便が悪く、最後は山道を歩かなければいけないのに、雪の降る温泉につかるニホンザルを見たい一心で、外国人観光客が集まりました。


また、突然観光地になるといえば、マンガやアニメファンの『聖地巡礼』です。

世界的に人気のマンガ『スラムダンク』に登場した江ノ電・鎌倉高校前踏切は外国人観光客が殺到し、車道に出て写真撮影する人まで現れました。


買い物だけでなく、楽しみ方が多様化した結果ですが、それが思わぬ問題を起こすこともあります。


というのも、増加があまりに急激だったため、観光客を受け入れる地域の側に準備ができていなかったのです。


こういうことは、今後も各地で起こるでしょう」


――他にはどんな問題が起きそうですか?


中村:
「急激に市場が収縮するリスクがないとはいえない、ということですね。


たとえば、日本のインバウンド市場が抱える大きなジレンマは2つあると思います。

1つ目は『天災』です。東日本大震災や熊本地震、さらには水害や台風など日本には自然災害がたいへん多い。


実際に、東日本大震災の際には、大きなダメージを経験しました。


2つ目は、外国人観光客の約半数を占める中国と韓国が、政治的影響を受けやすい市場であることです。


これまで台湾や香港、そして韓国自身も政治的な理由から中国政府によって中国人観光客の渡航を制限され、打撃を受けた経験があります。


同じことが日本にも起きない保証はありません」


インバウンドを成長させるべき本当の理由


――インバウンドが他の輸出産業と比べても、重要な地位を占めることになった以上、これらの問題にしっかり取り組んでいかなければならないわけですね。今後の課題は?


中村:
「そのまえに言いたいことがあります。


実は、今おっしゃったように輸出とか爆買いとか、金もうけの手段としてしかインバウンドが語られない現状に、私はとても不満を抱いているんです」


――と言いますと?


中村:
「つまり、数字ばかりに惑わされていると感じるんです。

インバウンドの本当の意義は、もうけることはもちろんですが、訪日外国人の存在を、日本の社会のためにどう活用していくかを戦略的に考えることです。


実は、『外国人を日本に呼ぼう』という呼びかけは、日本では1912(明治45)年に始まったことです。100年前ですね。


この年、当時の鉄道院の外局として設立された『ジャパン・ツーリスト・ビューロー』が、その嚆矢です。日本を訪れる外国人の誘致や斡旋を行う観光広報機関で、現在の旅行会社JTBの前身です。


『ジャパン・ツーリスト・ビューロー』は設立の翌1913年から広報誌『ツーリスト』を発行します。


その巻頭に『設立趣旨』の文章が寄せられ、中で『外客誘致』を提唱する目的を掲げました。


1つ目は『外人の内地消費』です。一般にイメージされる『インバウンド』ですね。


2つ目は『内地の生産品を広く外人の耳目に触れしめて、我輸出貿易を発達せんが為め』です。つまり、観光を貿易拡大につなげようという意味です。


私が注目するのは3つ目の、『遠来の外客を好遇して国交の円満を期す』というスローガンです。


『外客誘致』の目的は国際親善にあるというのです。


その後、第一次世界大戦が起きて欧州からの訪日外国人が減少したり、日中間の対立が深まった際にも、『ツーリスト』誌上で、『外客誘致』の必要性を強く説いています。これも同じ主旨からです。


100年前の日本人は、インバウンドの意義を正確に捉えていたんです」


――驚きました。


中村:
「先ほど、日本が抱えるジレンマの1つとして中国・韓国との関係を取り上げました。


その悪化を防ぐには人的交流が必要であって、それはカネやモノのインバウンドよりも重要ではないかと思うのです。


ただし、ここでいう人的交流には単に『仲良くする』というようなきれいごとの話でなく、相手を深く知ることが求められます。


お互いの違いをよく知ったうえで、賢い付き合い方を身につけるべきです。


先ほど韓国人の出国率が高く、彼らは世界に見聞を広めているという話をしましたが、日本人の出国率は実に韓国の3分の1です。これは驚くほど低いといわざる得ません。


つまり、日本人は外へ出たがらない。海外旅行者数は25年間ほとんど増えていないのです。


実はこれが日本のインバウンドにとっても、大きな問題となっています。


外に出ないので、近隣アジアの国々で何が起きているか日本人だけわかっていない。彼らの悩みやニーズをよく理解できていないのです。


それはインバウンドの問題だけではありません。


昨今の日本は、社会の各方面で世界の新しい動きをキャッチアップできず、出遅れてばかりいます。


生身の外国人と触れられるインバウンドはそれに気づく絶好の機会であるはずなのに、とても残念です。


そして、今我々が理解すべきは、インバウンドの成長が地域の若年労働者の雇用を生み出すことにつながることです。


これはヨーロッパの観光関係者の間では常識ですが、日本ではまだ十分認知されているようには思えません。


人口流出の続く地方にとって、インバウンドで成功すれば、いったん都会に出た地元の若者もUターンし、地元のために働くことができるのです。


今後、自分たちの地域が限界集落となるかは、インバウンドに成功するかにかかっているといってもいい。


今日の日本の社会にとって最も重要なインバウンドの意義は、ここにあるのです」


単に日本に多くの外国人観光客が来て、お金をたくさん落としてくれて、ホクホクする人が増えて幸せ、そんな話ではないことに気づかされました。


取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)
https://found.media/n/nd5e27d218279?creator_urlname=found



by sanyo-kansatu | 2019-08-01 13:18 | “参与観察”日誌
2019年 07月 30日

観光客が増えたのは、日本経済の弱体化が原因です

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前回、中国の方々の「面子」についてお話を聞きました。

今回はインバウンドが急激に増えた、その背景について迫りたいと思います。


前回に続き、インバウンド評論家の中村正人さんからお話を聞きました。


訪日外国人数1位2位両国の傾向


――訪日外国人観光客は、やはり中国人が多いのですか?

中村正人氏(以下、中村):
「訪日観光客数最多で、全体の4人に1人が中国人です。消費額は4割を占めると言われています。


先ほど述べたように、中国では2000年に日本への団体旅行、2010年には個人旅行が解禁になりました。現在では、個人旅行の割合が全体の7割を占め、若い世代のリピーターがとても多くなりました。


行動にも変化が見られます。彼らは買い物をするより、日本各地を訪ねる、いわゆる『コト消費』に重きを置くようになりました」


――面子にこだわらなくなったということですか?


中村:
「面子自体は変わらないと思います。しかし今はおみやげだけで面子をもらうのではありません。


SNSの『いいね』の数が面子につながるといってもいいかもしれません。


だから、最近の彼らは、まだ一般の中国人が知らないような風景やマニアックな観光スポットを熱心に探し歩くわけです。


この現象としては、中国人だけでなく、日本人もロシア人も、どこの国の人も同じようなところがありますが、今の中国人のSNSに賭ける思いの強さは尋常ではないものがあります。


やはり面子に関わる問題だからと思います」


――他の国の訪日外国人観光客の動向は?


中村:
「2番目に多いのは韓国人です。ただし韓国人観光客は消費額が少ない。だから観光業関係者もメディアもあまり重視しません」


――消費額が少ないのはなぜでしょう?


中村:
「韓国は、出国率(人口に対する海外渡航者の割合)がとても高い。つまり、海外旅行がたいへん好きなのです。


彼らにとって日本は、最も身近で手軽な海外旅行先なので、お金をかけなくても楽しめることを知っていて、中国人のような消費はしません。


もうひとつ知っておいてほしいのは、日本を訪れる欧米人の数は10人に1人にすぎないことです。見かけですぐにわかる彼らの10倍ほどアジアからの観光客が日本を訪れているのです」


インバウンド急増に貢献した近代日本の歩み


――インバウンドが急激に増えた理由を、もう少しくわしく教えてください。

中村:
「インバウンドが増えた理由は、国内と海外の両方にあります。


国内としては、先ほど述べた『VJC』です。これは20世紀後半の日本にはなかったことで、海外に向けて正式に「ウエルカム」と宣言したことの意味は大きいといえます。


まず政府が主導し、航空路線の自由化やビザの緩和を推進しました。そして2008年頃にようやく民間も重要性に気づき、流れを追いかけた。


しかし、それより大きいのは国外の要因といっていいでしょう。


海外、とくにアジア各国からの訪日外国人が増えた理由は、経済成長とそれに伴う所得の向上が、1990年代後半から続く日本の長期デフレ傾向と重なり、彼らからすると相対的に日本の物価を高く感じなくなったことです。


つまり、これはちっとも喜ばしい話ではないのですが、日本経済の弱体化が背景にあるのです。


一方、見落としがちなのは、リーマンショックと東日本大震災です。


『VJC』が奏功し、2003年には520万人だった訪日外国人観光客は、2007年に830万人まで伸びました。


しかしこの2つの大きな出来事で、2011年には600万人台まで落ちてしまいました。


ところが香港や台湾、タイといった日本に好意的な国々では、逆に日本を応援する機運が生まれたのです。


日本側もそれに応えるように、2013年にタイなどアセアンの国々の観光ビザ免除を開始しました。それらが呼応して同年、史上初めて1000万人台を突破しました」


――日本中に外国人観光客が目立ち始めたのは、まさにこの頃からです。その後はどのような推移だったのでしょう?


中村:
「2015年には1970万人、2016年には2400万人、そして2018年には3000万人を突破しました。


当初の目標は2020年が2000万人、2030年に3000万人だったので、政府の目標を上回るペースで伸びていきました。


これほどの勢いで伸びている国は、世界中どこを探してもありません。


その証拠に、2017年、世界経済フォーラム(WEF)が発表している『旅行・観光競争力ランキング』で、日本は過去最高の4位(1位からスペイン、フランス、ドイツ)となりました。


官民をあげて観光に力を入れているという点が高く評価されたのです。これを過小評価してはいけません。


上位3か国はもちろん、アジアで観光客の多い香港や中国、あるいはタイなどはみんな、大きなマーケットと陸続きです。


しかし日本は島国。飛行機か船で来るしかありません。しかも欧米から見ると、『Far East』(極東)と呼ばれる最果ての位置にある国です。


条件としては悪いはずなのです。それなのに、上記のような数字になったわけですから」


――外国人観光客の消費額も伸びているんですね?


中村:
「2015年に3兆円を突破し、2018年には4兆5000億円に達しました。


これは製品別輸出額と比較すると、自動車(11兆3000億円)、化学製品(7兆1000億円)に次いで、第3位です」


――もう主要産業じゃないですか!こんなにすばらしい成果を得ているのに、私たちには伝わっていない気がします。


中村:
「ただし、この消費額には単に観光産業だけでなく、製造業や通信業、金融業、不動産業など、訪日外国人が関わるあらゆる領域に裾野が広がっていることからすれば、まだ十分とはいえないと思います」


――もっと正確な情報が知りたいです。


中村:
「本当にそうです。先ほど経済的な側面から、国内外の条件が重なってインバウンドが急増したと述べました。


しかし通貨安や、周辺国の経済状況がよくなった国はいくらでもあります。別の要因があるのだと思います」


――それは何でしょうか?


中村:
「やはり、近代以降のアジアにおける日本の評判が影響していると見るのが妥当だと思います。


日本がこれまで生み出してきた価値が、アジアの人たちに憧れや親しみを抱かせているのはまちがいないのです。


東日本大震災時に香港と台湾がいち早く訪日旅行を再開したのはひとつの証しです。ありがたいことです」


外国人観光客の方々の消費額が、2018年になんと4.5兆円になってたとは、みなさんご存知でしたか?


これからラグビーW杯、オリンピックが控えている日本は、ますます右肩上がりになるのでしょうか?


これからのインバウンドについて迫っていきたいと思います。
(つづく)

取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)
https://found.media/n/n13f5723e00ec?creator_urlname=found



by sanyo-kansatu | 2019-07-30 16:18 | “参与観察”日誌
2019年 07月 30日

そろそろブログを再開します

これまで1年半くらい、ブログの執筆をお休みしていました。理由はいろいろありましたが、そろそろ再開しようと思います。

今年の4月頃でしょうか、あるネットメディアに以下のような取材をうけました。そのインタビュー記事が最近公開されたので、転載します。この間、インバウンドをめぐる問題について考えていたことをかなり率直に話すことができました。
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銀座や新宿、横浜や大阪、京都や札幌や福岡……。今日本中の主要な都市に行くと、外国人観光客でごった返しています。


先日京都に行った時は、日本人よりも圧倒的に多くの外国人が駅のホームに溢れていました。


「インバウンド」の恩恵を受け、観光業やサービス業、飲食業やお土産やさんが儲かっている、という話を聞きます。


ここでみなさんに質問です。


「インバウンド」って一体何でしょうか?


これからずっと続くのでしょうか?


今回はインバウンドについての著書も手がける、インバウンド評論家の中村正人さんにお話をうかがいました。


「インバウンド」が一般的になったのは21世紀


中村正人氏(以下、中村):
「唐突ですが、まず私のほうからご質問したいと思います『インバウンド』とは何だと思っていますか?」

――「外国人が来て、いっぱいモノが売れる」ということでしょうか。

数年前にやたら免税店が増えました。それをきっかけに中国や韓国の人が日本でたくさんモノを買うようになった。『爆買い』ですね。


それが私の中のインバウンドです。


中村:
「たぶんそれが、インバウンドに対する世間一般のイメージだと思います。まちがいではありません。しかし、それは『インバウンド』の中のほんの一部分にすぎません。


では次の質問に移ります。インバウンドはこれからどうなると思いますか?」


―― 一時ほどの勢いはないように思います。一巡して飽きたというか。とくに、中国人観光客の買い物熱が下火になってきたように感じているのですが。


中村:
「たしかに『爆買い』という話はあまり聞かれなくなりましたね。それでも、一般的な認識としては、2020年の東京オリンピックまでは訪日外国人は増えていくと考えられているようです。


しかし私は、オリンピックはインバウンドに、ほぼ関係がないと考えています」


――それはなぜですか?


中村:
「考えてみてください。オリンピックは、たしかに開催地にとっては一大イベントです。


しかし海外旅行を考えている人の意思決定に、数週間しか開催しないスポーツイベントがそれほど寄与するものでしょうか。関係があったとしても限定的でしょう」


――そういう視点はありませんでした。


中村:
「逆に言えば、東京オリンピックまではインバウンドが拡大するという思い込みも、あまり根拠のないことです。


それを鵜呑みにしているのだとしたら、相手(外国人観光客)の立場に立って、物事を考えていないといえる。この問題には後でもう一度触れましょう」


――そもそも「インバウンド」が言われるようになったのはいつ頃からになるのでしょうか?


中村:
「きっかけは中国人観光客の存在が大きいですね。2000年に中国人の日本への団体旅行が解禁になったんです。


日本政府もインバウンドを明確に奨励するようになりました。2003年の小泉政権時に国土交通省が音頭をとった『ビジット・ジャパン・キャンペーン』(Visit Japan Campaign:VJC)です。


私はVJC以前からインバウンドの動向を取材していましたが、少なくとも20世紀の終わりまでは、一般の日本人には外国人観光客を呼び込もうという発想はありませんでした。


外国旅行とは行くもので、来るものではなかったんです。


しかし一部の先見の明をもつ人たちが、今後、日本社会が向き合わざるを得ない人口減少など、さまざまな課題を乗り越えるためのひとつの手段として海外の人を呼び込むことを思いついたんです。


そして、それでもたらされる経済的な恩恵を、社会インフラの再構築や文化の保護育成などに活用するべく検討・準備していたんです。そのモデルはヨーロッパにありました。


それが表に出たのは、たまたま小泉政権時だったわけですが、発表後、ほとんど反響がありませんでした。民間は本気にしていなかったのです。


そして、ようやく一般の人々が気づき始めたのが2008年頃です。


『爆買い』という言葉もこの頃に生まれました。北京オリンピックの映像を通じて、それまで日本人より貧しいと考えられていた中国人が、実はたいへんな購買力をもつ存在となっていた――。


そのことに気づいたのが2008年だったというわけです」


「爆買い」の本当の理由は「面子」


――バブル期の日本人も、海外へ行ってはブランド品を買い漁っていました。当時の中国人もあの感覚だったのでしょうか?


中村:
「同じ点と違う点があると思います。同じなのは、やはり豊かになったから買い物に走ったという点。


違うのは、中国人の民族性にあると思っています。私の専門領域は中華圏を中心に東アジアの旅行市場なのですが、中国人には『運び屋』のDNAがあると常々感じています」


――「運び屋」のDNAですか!?なにやら怪しげです。


中村:
「いえいえ、あの運び屋ではありません。いい意味での運び屋です。私が先のように考える理由はふたつあります。


まずは経済活動としての『運び屋』です。中国人というのは『生きること、すなはち商いである』と無意識に思っているふしがあります。


どこかへ出向くと、かならず何かを手に入れ、それを自国へ持ち帰って転売する。それが当たり前と考える。『爆買い』=『転売』なんです。


だから、当時信じられないほど大量の買い物をしたのです。自分が使うためのものであるはずありません」


――爆買いしたものは、全部売り払っていたわけですね。


中村:
「しかし、すべてを売ってしまうわけでもありません。ここからがもうひとつの理由です。


日本人が友人知人におみやげを配るのと同じように、中国人も買ってきたものを人に配るのですが、理由が少し異なるのです。


おみやげをあげることによって、あげた人から『面子をもらった』と彼らは考えるんですね。日本人の義理みやげとは違い、具体的な利益があるのです」


――おみやげと「面子」は交換できるものなんですね?


中村:
「そうです。中国人の感覚では、面子は『あげたり、もらったり』できるものなんです。


だから、海外旅行から帰国し、友人知人におみやげを配れば配るほど、面子をたくさんもらえることになる」


――中国人は面子を重んじると聞いたことがあります。


中村:
「そうです。『面子』はお金には換算できないけれど、彼らの人生にとってとても重要なことです。


そのために『運び屋』をやっているという側面があり、『爆買い』という現象が生まれたのです。


転売をしてもうけることにも熱心ですが、面子の側面もよく見なければなりません。日本人にはない概念だからか、その点について、日本ではほとんど語られません。


マーケティング関係者は、ソーシャルバイヤーなどと呼んだりしますが、事実上運び屋にほかなりません。でも、中国人であれば誰でも普通にやることなので、彼らにとってネガティブなイメージはありません」


――「転売」までは知っていましたが……。


中村:
「ところがこの数年、中国人観光客は爆買いをしなくなりました。


これは彼らが日本に飽きたからというより、中国政府が自国に持ち込むみやげの関税を強化したからです。そうなるとまた、面子の事情も変わるんです」


――どう変わるのでしょう?


中村:
「関税がかかると、転売するにも利益が減ります。

たとえおみやげをもらっても、利益が減ったことが知れると、逆に『あいつは商売下手だ』という評価が下る。


面子には『賢さ』も含まれているのです。だから、中国人は突然『爆買い』をやめたのです。2016年春のことでした」


――なかなか面子の概念が理解できません。


中村:
「『信用』に近いですが、同じではありません。プライドや見栄などとも似て非なる、中国文化独特の概念です。


これは長く中国人の行動原理を見ていなければ、よくわからないかもしれません」


中国の方々が、激安ショップで大量に様々な物を購入している理由は、自分で消費するためでなくて「面子」のためだったとは驚きです。


まだまだインバウンドには知られていないお話がありそうです。次回に続きます。
(つづく)

取材・文/鈴木俊之、取材・編集/設楽幸生(FOUND編集部)

https://found.media/n/n3d12743cc11d?creator_urlname=found



by sanyo-kansatu | 2019-07-30 16:07 | “参与観察”日誌
2017年 12月 28日

瀬戸内国際芸術祭とLCC拡充で高松市内に海外の若者向けゲストハウスが急増中

ある仕事で2016年の香川県の県外からの観光客入込数を調べたところ、936万8000人(前年比1.8%増)で2年連続で増加しています。これは、香川県にとって過去最大だった瀬戸大橋が開通した昭和63年の1035万人に次ぐ2番目の入込数となっているとか。

一方、入込数ではなく、観光庁が香川県の延べ宿泊者数を調べた宿泊旅行統計調査(平成28年)をみると、興味深いデータがうかがえます。

香川県 2016年延べ宿泊者数 3,779,900人(前年比 -7.3%) 全国37位
    同外国人延べ宿泊者数 358,360人(前年比+70.3%) 全国23位
    (台湾27% 中国15% 香港12% 韓国11% アメリカ3%)

これをみると、2016年に香川県を訪れた観光客全体は増えているのに、延べ宿泊者数は若干減少している一方、外国人の延べ宿泊者数は前年比70.3%と大幅増を見せており、全国23位となっています。国内客を含めた延べ宿泊者数が全国37位と下位にある香川県は、外国人の宿泊者数では全国で中位にいることがわかります。つまり、香川県を訪れる観光客のうち、外国人の比率は全国的にみて高いといえます。

香川県や高松市の関係者によると、2016年の香川県への県外からの入込数増加、特に外国人宿泊者数が大幅に伸びた理由は「瀬戸内国際芸術祭2016」の開催年だったことにあると分析されています。

瀬戸内国際芸術祭
http://setouchi-artfest.jp/

興味深いことに、外国人観光客の伸びは、芸術祭の開催されていない2017年にも見られます。

以下、2017年の香川県の外国人延べ宿泊者数と国籍比率の6月~10月までの推移です。

2017年6月 38,640人(+69.4%) 全国20位
(台湾32% 香港16% 中国16% 韓国11% アメリカ2%)

2017年7月 39,250人(+19.3%) 全国 17位
(台湾30% 中国18% 香港12% 韓国11% アメリカ3%)

2017年8月 32,470人(-9.5%) 全国24位
(台湾27% 中国17% 香港14% 韓国7% 欧州4%)

2017年9月 39,250人(+19.3%) 全国21位
(台湾30% 中国18% 香港12% 韓国11% アメリカ3%)

2017年10月 51,120人(+2.1%) 全国20位
(台湾29% 中国15% 韓国15% 香港13% アメリカ2%)

ここでは8月こそ、昨年芸術祭が開かれた時期(3月2日~4月17日、7月18日~9月4日、10月8日~11月6日)とまるまる重なっていることから前年比マイナスになっていますが、それ以外の月は増加しています。

これは何を意味するのでしょうか。瀬戸内国際芸術祭が香川県のインバウンド市場に大きな影響を与えたことは明らかでしょう。

では、どんな影響を与えたのか。

香川県瀬戸内国際芸術祭推進課の関守侑希さんによると「瀬戸内国際芸術祭2016の総来場者数は約104万人でしたが、アンケート調査によると、外国からの来場者の割合は13.4%。前回開催の13年と比較して大きく伸びています(2013年は、総来場者約107万人の2.6%が外国人)。芸術祭が回を重ねるごとに海外での知名度を向上させたことが考えられます」とのこと。

※瀬戸内国際芸術祭2016における外国人来場者数は、多い順に台湾(37.2%)、香港(13.8%)、中国(11.4%)、フランス(6.2%)、アメリカ(4.6%)となっている。

この国籍別来場者数は、高松空港の国際路線とほぼ重なっています。2017年12月現在の高松空港への国際路線は以下のとおり。※( )内は就航年。

高松空港国際線(2017年12月)
ソウル線(1992年) エアソウル週5便
上海線(2011年7月) 春秋航空週5便
台北線(2013年3月) チャイナエアライン週6便
香港線(2016年7月) 香港エクスプレス週4便
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香川県交流推進部観光振興課国際観光推進室の池浦健太郎さんも「香川県の2016年の訪日外国人延べ宿泊者数をみると、国際定期路線の就航先である韓国、中国、台湾、香港からの割合が高くなっており、高松空港の国際定期路線の拡充が大きな要因となっていると考えられます」といいます。

高松空港の国際線の特徴として、台北線を除く3路線がLCCであること。また前回の瀬戸内国際芸術祭が開催された2013年のチャイナエアラインや16年の香港エクスプレスの就航と、台湾や香港の来場者数トップ2になっていることには大きな関係がありそうです。

瀬戸内国際芸術祭の開催は、地元の宿泊事業者にも影響を与えています。とりわけ海外の若い旅行者を香川県に呼び込むことに大きく貢献しており、高松市内に若者向けのリーズナブルな宿泊施設であるゲストハウスが急増しています。

現在、高松市内には10数軒のゲストハウスがあります。

国内のゲストハウス事情に詳しく、『日本てくてくゲストハウスめぐり』(ダイヤモンド社)の著書もある松鳥むうさんによると「私が定宿にしている『ゲストハウスちょっとこま』は2013年の瀬戸内国際芸術祭の年に開業しました。ここは高松で最初にできたゲストハウスです。ある都市に1軒ゲストハウスができると、一斉に同じエリアに開業ラッシュが起こることはよくありますが、高松市内も類にもれず、2014年以降、一気に増えました」と話します。

ゲストハウスちょっとこま
http://chottoco-ma.com/

2016年8月に高松市内にゲストハウス「瓦町ドミトリー」を開業した山本梨沙さんもそのひとり。わずか10室のユニークなカプセルホテル風宿泊施設ですが、「宿泊客の4割が国内客で、同じく4割がアジア客、残り2割が欧米客。圧倒的に若い世代が多い」そう。

瓦町ドミトリー
http://kawaramachi-domitory.kuku81.com/

山本さんによると「台湾人をはじめとする中華圏の若い世代が香川県を訪れるようになった背景に、ひとりの台湾人作家による瀬戸内国際芸術祭を紹介した本の影響があった」そうです。
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『小島旅行』(林凱洛著・啟動文化出版社 2013年10月刊)
http://www.books.com.tw/products/0010612250

同書は瀬戸内国際芸術祭の主な舞台である香川県の直島を中心とした体験旅行記です。「この本が2013年秋に出版され、台湾で大きな話題となり、香港でも同時発売され、その2年後中国でも簡体字版として発売されたことで、中華圏における香川県の知名度が一気に高まりました」(山本さん)。

こうして台湾や香港の若い世代が香川県を訪れるようになりましたが、彼らの旅行スタイルはとても気軽で自由です。

前述の松鳥むうさんも「この前私が『ゲストハウスちょっとこま』に泊ったときも、香港から仕事で神戸に来ている20代女子(日本語ペラペラ)がいて、自由時間が1日あったので泊りに来たと話していました。翌朝彼女はアートの島(直島)に行くと言って宿を出ていきました」とか。

こうした高松市における若い外国人旅行者の増加をふまえ、新しいトレンドも生まれています。今年3月30日、高松市駅前に自転車王国・台湾の大手自転車メーカーのジャイアントがレンタサイクルサービスを開始しました。

ジャイアントストア高松
http://giant-store.jp/takamatsu/

ジャイアントストアは現在、全国7都市(仙台、前橋、びわ湖守山、松江、尾道、今治、高松)でレンタルサイクルサービスを展開しています。なかでもしまなみ海道のゲートウェイとなる尾道と今治には、多数の自転車が待機していて、夏はすべて出払うほどの人気だそう。しまなみ大橋をサイクリングで渡るのがブームとなっているからです。

ジャイアントストアのレンタサイクルはスポーツ自転車がメインで、今年中国から進出してきたシェアサイクル大手の提供するシティサイクルとはターゲットが違います。今後も全国各地に展開する計画のようです。

今年夏、ジャイアントの関係者一行がPRを兼ねて自転車で四国を一周したそうです。なんでも四国一周は台湾一周とほぼ同じ約1000kmだそうで、「台湾を自転車で一周したら、次は四国を一周しよう」というのがPRのポイントだそうです。

by sanyo-kansatu | 2017-12-28 10:37 | “参与観察”日誌
2017年 12月 11日

寅さんが結ぶ日中民間人の縁をあらためて実感しました

週末は朝から柴又帝釈天に行きました。

中国でいつもお世話になっているハルビンの黒龍江省新世紀国際旅行社の呼海友さんを案内することになったのです。

彼は毎年この時期、東京に1週間ほど出張に来て、旅行会社回りをしています。彼はいまとなっては数少ない日本からの黒龍江省や内モンゴル自治区を中心としたツアーの企画と受け入れをやっています。もっとも、いまでは日本を訪れる中国人の数のほうが圧倒的に多いため、訪日旅行の企画のためのテーマ探しがもうひとつの重要なミッションです。

呼さんはクラシック音楽とコーヒーが好きという物静かな人で、東京に来ると、個人的に名曲喫茶やCDショップなどに足を運ぶのを楽しみにしているそうです。ぼくも何度か彼を案内したことがありますが、渋谷の老舗名曲喫茶の『ライオン』が気に入ったそうで、今回もひとりで訪ねたと話していました。

中国のクラシック音楽ファンも気に入ってくれた名曲喫茶ライオン (2014年12月02日)
http://inbound.exblog.jp/23821487/

そんな彼がなぜいま『男はつらいよ』の舞台、柴又に行きたいと言い出したのか?

そう尋ねると、彼は「格安弾丸ツアーに飽きた中国の中高年をぜひ連れて来たい」と言います。彼は中国のネットで事前に柴又についていろいろ下調べしていて、実際に歩いてみたかったのでした。

朝9時に京成金町線の柴又駅の前で待ち合わせました。そこには有名な寅さんの像があるのですが、今年3月、その向かいにさくらさんの像ができました。寅さんの目線の先にさくらさんが立っていて、心配そうに兄の姿を見つめているというものです。なんとも泣かせる構図じゃないですか。こんな銅像、あまりお目にかかったことがありません。
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帝釈天の参道は、少し早めに来たせいか、人通りも少なく、まるで映画のセットのようでした。参道の店はたいてい10時が開店だそうです。呼さんは熱心に写真を撮っています。
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この老舗団子屋の『とらや』は、初期の作品で実際に撮影に使われたそうです。
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帝釈天の門が見えてきました。
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実は、ぼくは初めて柴又に来たのですが、想像していたよりこじんまりとした境内だと感じました。まだそれほど参拝客もおらず(写真は10時過ぎのもの)、とても静謐な雰囲気だったのですが、しばらくすると、突然境内に『男はつらいよ』のテーマソングが流されたのには、ちょっと興ざめというか、苦笑せざるを得ませんでした。
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境内には自動おみくじ機があり、200円を入れると、獅子舞が動き出し、おみくじを取り出してくれます。こういうの、絶対中国人は好きだと思います。
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今回初めて知ったのですが、帝釈天の裏には『邃渓園』と呼ばれる日本庭園があります。入場料400円で、長い床を歩いて庭を四方から眺められます。お茶を飲むスペースもあり、和めました。池には錦鯉がいました。
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この入場料で、帝釈堂の精巧な木彫りはギャラリーを観ることができます。お堂の裏手がガラスで囲われていて、そこに法華経の説話を描いた10枚の木彫りが施されています。中国には石彫りは多いですが、木彫りは珍しいそうです。
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これだけの散策で約1時間ほど。帝釈天から歩いて5分ほどの場所に寅さん記念館があります(入場料500円)。

寅さん記念館
http://www.katsushika-kanko.com/tora/

この記念館は渥美清が亡くなった1996年の翌年にできています。つまり、今年は開業20周年でした。

これはさくらさんの旦那の博さんが勤めるタコ社長の印刷所です。活版印刷機がどーんと置かれています。このように、記念館の中は映画の象徴的なシーンのセットが再現されています。
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これは寅さんの実家である「くるまや」のミニチュア模型。2階のたたみ間にごろんと寝ころがっている寅さんが見えます。
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参道の商店街の再現された町並みです。昭和30年代の設定だそうです。
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笑ったのが、寅さんの全財産を詰めたカバンの展示でした。荷物の中に高島暦がちらっと見えたので、呼さんが言いました。「中国でも高島暦を持っている人がいますよ。あれはよく当たるからと」。「へえ、そうなんだ」。
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そして、歴代マドンナと寅さんの出会いシーンの映像集も楽しいです。たまたま最後の48作目のボタンを押すと、後藤久美子との再会のシーンが出てくるのですが、彼女が「なんで寅さん、こんなところにいるの?」と聞くと、「なんでだろうなあ。俺にもわからないんだ」ととぼけて答えるところで、吹き出してしまいました。そう、彼はいつも自分がなぜそこにいるのかわからないような生き方をしている。まさに“ふーてんの寅”です。
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「中国の人は、寅さん映画のどんなところが面白いと思っているんですか?」。そう呼さんに聞いたところ、彼はこう答えました。

「寅さんがいつもあちこちに旅をし、自由に生きているところです」。

いまの40代以上の中国人にとって寅さんは善良で平和的な日本人のイメージを象徴しています。この映画が中国で観られるようになったのは1980年代以降ですが、それまで中国政府が熱心に自国民に対して叩き込んできた「日本といえば日本兵」という悪のイメージを払拭し、相対化するうえで、この映画が果たした役割は大きかったのです。

呼さんと柴又を訪ね、寅さんが結ぶ日中民間人の縁というものを、あらためて実感しました。

実をいえば、ぼくはこれまで『男はつらいよ』シリーズをちゃんと観たことはほとんどありませんでした。若い頃は特にそうですが、ベタな昭和コメディというイメージが強く、まともに観る気がしなかったからです。渥美清も自分の親よりひとまわり近く年上でしたし、およそ自分とは関係のない時代の話だと感じていたからです。

今回記念館に行って知ったのですが、このシリーズの第一作は昭和44年(1969年)。それから最後の作となった平成7年(1995年)まで48作品が上映されるのですが、当時はまだ昭和を懐かしむには早すぎたのでしょう。その後、2000年代に入って『ALWAYS 三丁目の夕日』をはじめとした昭和レトロブームが起こり、そこで多くの日本人が過去の時間にまどろむことに淫してしまった(とぼくは思います)ことで、日本社会は国際社会の変化に追いつけなくなってしまったわけですが、平成の世がまもなく終わろうとするいま、あらためて中国の中高年以降の人たちが好ましく受けとめてくれたこの物語の価値に、ぼくも気づかされたといえます。

記念館の裏は江戸川の堤防になっていて、天気のいい日は富士山が見えます。残念ながら、ぼくらが行ったときは、雲で富士山が隠れていたのですが、この情報を教えてくれたのは、記念館のボランティアのおじさんでした。「朝方はきれいに見えたんだけどね。お客さんが来たとき、その話をしたろ。だから、確認しに行ったら、見えなくなっていた。残念だったねえ」。
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このボランティアのおじさんはとても人懐っこくて、まるで寅さん映画に出てくる人物のようです。彼はぼくらが記念館に入館する前に富士山の話をしたものだから、展示を観ている間に、わざわざ確認に行ってくれていたのでした。

帰り際、帝釈天のわき道を歩いていると、偶然玉垣に倍賞千恵子さんの名前が彫られているのを見つけてびっくり。
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お昼は参道の老舗の「川千家」で蒲焼のランチ。行き帰りに乗るわずか2駅しかない京成金町線もいい味です。
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「中国にはこんな静かでのどかな下町はない」と呼さんは話しました。「帰国したら、柴又を訪ねるツアーを企画します。中国にはファンの人が多いから」。彼のように、自分の足で歩いてツアをー企画する中国の旅行関係者ほどありがたい存在はありません。「これからも何でも知りたいことは聞いてくださいね」。そう彼に話しました。

いま彼が考えているのは、10名くらいのお客さんを案内するツアーだそうです。実際、柴又には団体バスを停めるような場所はなく(実際には、さくらさんと博さんの披露宴の場所として有名な蒲焼屋『川甚』は日本のバスツアーを受け入れており、駐車スペースがありますが、あくまでも食事のお客さん専用です)、銀座や浅草のように大挙して訪れられては困ります。

記念館の人に聞くと、柴又を訪れる外国人は日本通の台湾人くらいだそうです。呼さんには、いい感じのお客さんを連れて来てほしいと思います。



by sanyo-kansatu | 2017-12-11 09:31 | “参与観察”日誌
2017年 11月 26日

民泊(事業者)と自治体&マスコミとの関係がここまで悪いのはなぜか?

先週末、知人の紹介でシェアエコノミーをテーマにした小さな集まりに出席しました。(あとで述べる理由もあって)具体的な団体名などは記しませんが、民泊をはじめ不動産の運用を実践していたり、始めてみたいと考えているみなさんの情報交換のための集まりでした。

民泊(事業者)のみなさんの生の声を聞くことができて、とても参考になりました。実際には、住宅分野のシェアエコノミーの実践事例は民泊だけでなく、むしろその一部といった方がいいほど広がっているのですが、彼らの多くの発言から伝わる自治体とマスコミに対する不信感がこれほど強いのかと思ったことが印象に残りました。

あるスピーカーは開口一番「日本はシェアがしにくい国です。社会というのは、数多くの事例が生まれてこそ、法律を変えようという動きが起こるものですが、日本では規制が多すぎて、事例が生まれにくいため、現実に合わせて法律を変えるのも時間がかかりすぎる」と話し、60数年間も古い法律が野放しにされていた通訳案内士法の事例などを挙げます。まったくそのとおりです。

世界のシェアエコノミーには、共同社会のありようを目指すヨーロッパ型と、投資と連動したアメリカ、中国型のふたつに分かれるといい、日本は「日本らしい」シェアエコを目指すべきと語ります。

さらに、シェアエコには利用者の自己責任も問われることも忘れてはならないとそのスピーカーは言います。それ自体はもっともな発言だと思われますが、おそらく日本の自治体やマスコミは、日本的な“情緒”を背景に、自己責任から生じるさまざまな懸念や問題の発生の防止を重視するため、監視を強めたり、来年6月に施行される新しい民泊のルールについても、自治体レベルの個別の条例を加えることで、民泊解禁の流れに大きなブレーキをかけようとしている。そう彼らは感じているようです。

ここでいう「自治体&マスコミ」の姿勢がよくわかるのが、今朝の日本経済新聞の報道です。

増殖するヤミ民泊 京都の「観光裏事情」
政策 現場を歩く(日本経済新聞2017/11/26)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23791560S7A121C1000000

11月上旬、京都市の祇園に近い東山地区のワンルームマンション。5階建ての一角に、めざす宿泊施設があった。チェックインカウンターはない。カギはマンション入口の郵便ポストに入っていた。民泊の物件だが、本人確認はなにもない。後にかなり高い確率で、ヤミ民泊だと感じることになる。

訪日客の関連取材で京都を訪れた。口コミ旅行サイト「トリップアドバイザー」で部屋を探すと、大手ホテルは1泊約2万円する。そこで、初めて民泊の世界最大手・米エアビーアンドビーの仲介サイトを真剣にのぞいてみた。宿泊予定を入力すると、物件が続々と出てきた。祇園に近い東山地区を売りにしている物件があり、価格も1泊7400円と手ごろだ。民泊を初体験しようと思い、サイト内でクレジットカードによって支払いを終えた。

■管理人には話しかけるな

数分後、ふと、我にかえった。「あれ、待てよ。この物件はどこにあるんだろう?」。サイトには詳しい住所の記載がない。支払いを終えると、個人のメールあてに複数の物件情報が英語で届いていた。1つは住所。2つめはダイヤル式のカギの開け方。3つめは施設利用に関する注意事項だ。

住所がわかったため、現地に行くまでカギと注意事項の確認は後回しにした。マンションの前でメールをみると、カギはダイヤルを3回まわして、帰る際にも同じ場所に戻すようにと書いてある。セルフチェックイン・アウト形式だという。

面食らったのは、注意事項の書きぶりだ。例えば「入り口に管理人がいるが、話しかけないように。トラブルになります。もし部屋番号を聞かれたら、違う番号をいってください」と常識では考えにくい内容だ。

日本の法律についても言及がある。「日本の法律はとても厳しい。誰か来ても、ドアをあけないで。部屋のオーナーは友達で、無料で泊まっていることにして。そうすれば、トラブルを避けられます」。これは明らかにヤミ民泊の物件だとうすうす感じた。部屋に入ると、それは確信に変わる。

部屋は、普通のワンルームマンション。ただ、異なる点がある。室内のインターホンにガムテープが貼られ、「さわるな」という表示がやけにめだつ。外部から問い合わせがあっても、絶対に応対できないようにしているのだ。これはヤミ物件だろう。

宿泊して朝8時ごろに部屋を出ると、携帯電話にショートメールで「滞在はどうでしたか? 5つ星のレビューを下さい!」と何度も連絡が来た。うんざりさせられたが、物件のオーナーと会うことは一度もなかった。

京都市の調べでは、2016年の外国人旅行客は661万人となり、15年に比べ37%増えた。そのうち、16%が「京都に泊まりたいが泊まれない」と答えている。調査結果だけをみると、人気観光地の京都は深刻な宿泊施設不足に陥っている。ところが、調査は「無許可の民泊施設は含まない」としている。実態は判然としない。
日本では現時点で、民泊をするためには旅館業法の認可が必要だ。もしくは民泊特区では施設の要件を満たせば営業ができる。

■客室の稼働率が落ちた

京都・東山地区である旅館の経営者に話を聞いた。「今が京都の紅葉シーズンなのに、稼働率が落ちたのは今年が初めて。急増しているヤミ民泊の影響に違いない」との見解を示す。約10年前に民泊を始め、今は正式な旅館営業の認可を得た。だが、ここ1~2年でスマートフォンを片手にワンルームマンションのヤミ民泊に向かう訪日客の姿が急増しており、客足が鈍っているという。

東山地区のシャッター街だった商店街は、町家のゲストハウスや民泊が増え、にわかに訪日客で活気を取り戻している。日本の伝統文化の象徴ともいえる京都は、訪日客を引き付けてやまない。

日本では18年6月に民泊が新しいルールのもとで運用が始まり、仲介業者や家主は国や自治体の登録制となる。ただ、旅館業法の改正案が宙に浮いており、ヤミ民泊の違反業者を自治体や保健所が取り締まれるかどうかが問題になっている。施設への立ち入り権限が限られると、これからもヤミ民泊を排除できない可能性が残る。ある観光庁幹部は「特に中国系の物件は監視が難しい」と嘆く。

本人確認がルーズなヤミ民泊は薬物や性的暴行など犯罪に使われるケースも出ている。正式な認可を得ている事業者は税負担などの面でヤミ民泊と不公平感がある。観光庁の初調査では、今年7~9月期で訪日客全体の12%が民泊を利用した。政府は20年に4000万人の訪日客誘致をめざしている。民泊を健全な宿泊施設の受け皿にするためにも、ヤミ民泊の監視強化は欠かせない大きな課題だ。(馬場燃)


この種の論調は、いまとなっては日本のマスコミの主流となっていて、さして新しい発見のない記事ではありますが、これが主流となるのも、日本では全体の8割がヤミ民泊である以上、いたし方がない面もあると思います。この記事でもひかえめに指摘しているように、台頭する「中国民泊」の実態は、彼らが日本法人を立ち上げたところで、実態は情報公開されていないため、世間の懸念が深まるのは当然といえます。

一方、この集まりに出席していたみなさんのように、法や条例の動向に敏感で、「日本らしいシェアエコ」を目指す人たちというのも当然いて、彼らの声を届けるマスコミはまだ少ないようです。

実は、彼らの議論を聞いていて、ぼくは余計なひとことを発言してしまいました。「なぜみなさんは、もっとマスコミを活用しないのですか」。

ぼくからすると、これからの日本の社会の新しいあり方を模索し、正しい民泊を目指しているのに、ただ内輪で集まったり、個別の自治体関係者や議員との関係を深めることで、実際に自分の地域で民泊をする際、縛りとなる上乗せ条例による新たな規制をされないようにと努力していることはわかるのですが、やはりこの問題は「公論」としてマスコミにも取り上げてもらう必要があると感じたからです。

ただし、この発言に対しては沈黙しかないようでした。

いったいこの人たちのマスコミ不信の根深さは何なのだろう? と最初は思ったほどです。

しかし、その後ぼそぼそと交わされるコメントの中からその理由がわかってきました。民泊新法が施行される前のいまの段階で、また民泊に対する厳しい視線のなかで、表舞台に出ることは、かえって世間を刺激し、現状ではグレーゾーンとならざるを得ない民泊従事者である自分たちが摘発の対象になるのでは、というおそれがあるからのようでした。

実際、ある自治体で民泊の条例制定に向けたパブリックコメントを求められても、推進者たちからのコメントの数は少なく、反対意見ばかりが多いそうです。そうなるのも「いま下手なことを言って、保健所に目を付けられたら…」。そんな思いがあるからだというのです。

なんという残念なことでしょう。

日本のあるべき民泊を推進するためには、ヤミ民泊事業者の摘発強化は欠かせないとはいえ、正しいあり方を目指そうと考えている人たちが、ここまで萎縮せざるを得ない状況というのは、どういうものでしょう?

そろそろマスコミや自治体も、日経の記事にあるような負の実態だけでなく、日本の社会のありようを少しずつ変えていく可能性のあるシェアエコノミーの現場の声も取り上げないといけないのでは、と思います。

一方、シェアエコ推進の方たちも、ただ「いい子ちゃん」でいるだけではどうなのか。もっと「公論」に訴えかけていく気概も必要な印象を持ちました。なぜなら、法など気にしない外国人も含めて8割がヤミ民泊という非情な現実を前にして、あまりにきれいごとで装いすぎていて、これでは現実を変えられないのでは、と思わないでもないからです。

こんなことを書くと「現実の苦労も知らないで、勝手なことを言うな」と言われてしまいそうですが、日本のシェアエコを考えるうえで、とても勉強になったことは事実です。

by sanyo-kansatu | 2017-11-26 11:07 | “参与観察”日誌
2017年 10月 30日

日本のシェアサイクルはツーリスト向けにサービスを特化したほうがいいのでは

今夏、中国のシェアサイクル大手のMobike(摩拝单车)やofoが日本に進出するニュースが流れ、話題になりました。

自転車シェア中国「モバイク」、日本で10カ所展開へ
23日から札幌でサービス (日本経済新聞2017/8/22)
https://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ22HZZ_S7A820C1EA2000/

ソフトバンクとの協業で日本進出するケースもあります。

ソフトバンクC&S、Ofoと共同でシェアバイク事業を開始――まずは東京・大阪で9月から
http://jp.techcrunch.com/2017/08/09/20170809ofo-softbank-japan-dock-less-bikesncidmobilenavtrend/

中国語で「共享单车」と呼ばれるシェアサイクルは、確かに中国の都市部を中心に驚くほどのスピードで普及しました。去年の秋ごろから一気にです。

今年3月に上海に行ったときも、街中でシェアサイクルが走っている光景を見て、かなり驚きました。
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南京でも同様の光景を見かけました。
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外国人も利用していました。思うに、この種のサービスは外国人やよその土地から来た人にとって重宝するもので、出張中のぼくも利用したいと思ったのですが、中国に銀行口座をつくり、WeChatPayのような決済アプリと紐づける必要があり、時間がないので断念しました。
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これらのシェアサイクルには、QRコードが付いていて、利用者はスマホでスキャンして鍵を開けます。
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興味深いのは、中国では都市の一般住民が利用していることです。地下鉄駅から職場までの「最後の1km」が合言葉で、そのようにちょい乗りされることが多いそうです。いちばん驚くのは「好きな場所で借りて、どこでも乗り捨てできる」ことです。
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その仕組みは、中国の人たちの意識を変えるとも言われています。なぜなら、すべての自転車の位置と利用者の情報を配車アプリ企業は握っている以上「盗んでも意味がない」ため「悪いことはできないから」です。

中国を席巻するハイテク「シェア自転車」~仕組みで意識を変える試み(NECwisdom2017年02月02日)
https://wisdom.nec.com/ja/business/2017020201/index.html
中国で「シェアエコノミー」が大爆発中のワケ
「シェア自転車」人気の背後には何があるのか(東洋経済オンライン2017年06月14日)
http://toyokeizai.net/articles/-/175441

ほかにも中国でシェアサイクルが普及した理由はいろいろありそうですが、個人の自転車を路上に置くと、鍵をかけても悲惨な状況になりがちで、だったらシェアサイクルのほうがいいや、となるのかもしれません。
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このサービスを支えるために、夜になると、大型トラックが自転車の再配置のために市内を走りまわっているようです。より利用の多い地区に、夜のうちに自転車を運び去ってしまうとは。ここまでやるというのはすごいと思いました。
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こうしたことから、世界に自らの先進性を誇りたい中国政府も、ちょうど3月上旬に開かれていた全人代で「共享单车」ビジネスの支持を表明していました。
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上海で見かけたシェアサイクルは以下の5社でした。大手はMobikeとofoです。日本に進出したMobikeは日本語サイトもあります。
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Mobike(摩拝单车) https://mobike.com/cn/
Mobike Japan https://mobike.com/jp/
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ofo http://www.ofo.com/
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享骑电单车 http://www.xqchuxing.com
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小鸣单车 https://www.mingbikes.com/
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永安行单车 https://www.youonbike.com/

それぞれ保証金(利用の登録時に最初に払うデポジット)や料金が違います。また自転車のデザイン性ではofoが人気だとか、料金の安さでは小鸣单车(0.1~0.5元/30分)とか、電動自転車の享骑电单车だとか、微妙に差別化しながら個性を競い合っています。

それにしても、このようなサービスでどうやって企業は利益を得ているのでしょう。中国の友人によると「最初に利用者からもらう保証金(99元~299元)の金利ビジネスですよ」とのこと。これほど安価なサービスを提供するビジネスが超スピードで拡大したのも、どれだけ利用者を集められるかに事業の成敗がかかっていたからでもあるのです。低金利の日本ではちょっと考えられません。

さらにいえば、いまの中国の経営者の考え方も反映されていて、新しい市場が生まれると、いち早く参入し、そこそこの市場シェアを獲得しておけば、どこかの時点で大企業に買収してもらえる。そうすれば、事業自体に利益が出ていなくても、売り抜けてひと財産築ける。大企業側も最初は資金力を活かして利益度外視で市場拡大にひた走る。そのうち大半の中小企業はふるい落とされ、結局は大手の寡占状態となる。利益を取るのはそれからでいい…。このようにビジネスシーンが展開していく例は、配車アプリでいま「滴滴」が一強になったことからもわかるでしょう。

もっとも、市場の拡大は街への自転車の氾濫を引き起こします。今年7月までに、すでに1600万台の自転車が街に投入されたというのですから。

中国のシェア自転車、急増で「悲惨な運命」(WSJ2017 年 4 月 4 日)
http://jp.wsj.com/articles/SB10352219306287233570804583063854080347428

中国はかつて「自転車大国」で、通りも広く、自転車専用道路もそこそこあるため、大きな問題にはなっていないといえるのかもしれませんが、このサービスを日本に導入するのはかなり難しいだろうと言わざるを得ません。

その点について、中国事情に詳しいルポライターの安田峰俊さんも指摘しています。

シェア自転車の"上陸"を阻む日本特有の壁
福岡で"モバイク"が始まらない理由(プレジデントオンライン2017.10.24)
http://president.jp/articles/-/23406

同じことは台湾にもいえるようで、シンガポールのシェアサイクル企業が進出したところ、迷惑駐輪が多発しているそうです。

台湾各地に進出の「oBike」、迷惑駐輪多発 台北市が法整備へ/台湾(フォーカス台湾2017/07/11)
http://japan.cna.com.tw/news/atra/201707110001.aspx

そもそも日本の一般の人たちにとってシェアサイクルはどれほどのニーズがあるのでしょうか。たいてい自分の自転車は持っていて、生活圏ならそれを利用するでしょうし、職場の近くでは…そりゃあったら便利とはいえるでしょうけれど、いつ乗ればいいのでしょう。先日、都心のオフィス街でサラリーマン風の男性がレンタルサイクルに乗って横断歩道を渡っている光景を見ましたが、ちらほら見かけるというのがせいぜいです。
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むしろ、このサービスはツーリスト向けではないかと思います。外国人もそうですが、日本人だって旅行先で自転車に乗って観光地をめぐれたら楽しいものです。中国と日本の社会の違いを考慮せず、そのまま同じサービスを導入しようとしても、うまくはいかないものです。それはお互い様です。

ですから、これは進出してきた中国企業に限らず、日本のすでに始まっているシェアサイクル事業に関しても、いち早くツーリスト向けのサービスに特化していくような発想の転換をすることが利用者の支持を広げることにつながるのではないかと思えてなりません。そのためには、多言語化うんぬんもそうですが、外国人にも日本人にも徹底してわかりやすいレンタルシステムを提供する必要があります。

その意味で、中国の仕組みは(モバイル決済の普及が前提となっていますが)非常にわかりやすく、優れているといえるでしょう。日本の現状のレンタサイクルはポート式とならざるを得ないため、自転車を返却しようとしたらポートが埋まっていてできなかったり、ポートに行っても自転車がすべて使われていたりで、GPS連動で1台単位で管理し、決済もスマホのみで完結する中国式には利便性ではとても及びません。

日本の場合、GPS連動やモバイル決済はすぐには無理でも、せめて全国ネットで地方の観光地を同じプラットフォームで管理でできれば、利便性も上がると思います。つまり、東京で登録すれば、地方都市でも使える。そうなれば、プロモーション費用の効率化やシステムの共有化につながり、シェアサイクルの促進に貢献するのではないでしょうか。

by sanyo-kansatu | 2017-10-30 10:35 | “参与観察”日誌
2017年 10月 16日

「日本の紅葉はマッカッカ(真っ赤っ赤)だけじゃない」と海外のお客さんに伝えてほしい

9月下旬、中国語通訳案内士の水谷浩さんがガイドを務めるマレーシアからの華人グループは大雪山系にいました。日本でいちばん早い紅葉が見られるスポットとして知られる大雪山では、例年9月中旬から下旬が見ごろといいます。
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水谷さん率いる中国語通訳のプロ集団である彩里旅遊株式会社では、中国本土のみならず海外在住のVIP華人からの訪日旅行手配を扱っています。ここ数年、9月下旬から10月中旬にかけては北海道でのガイド業務の引き合いが多いといいます。紅葉を見たいという華人客が増えているからです。

口コミで同社の評判を聞いた海外の華人から「日本の極上の紅葉が見たい。水谷、案内してほしい」と直接指名がかかるそうです。同社は顧客それぞれの要望に合わせて一からコンテンツを組み立てる企画旅行が専門です。

彩里旅遊株式会社
http://www.ayasato.co.jp/

日本を訪れた外国人は日本の紅葉をどのように楽しみ、何を感じているのか。先週まで北海道にいた水谷さんに話を聞きました。

―今回いくつかのグループを案内したそうですが、主にどこを訪ねたのですか。

「札幌から入ってトマムや富良野、旭川をめぐる。紅葉の見どころは富良野や大雪山。日本でいちばん早く紅葉が見られるというのがポイントです」

―マレーシアのお客さんは日本の紅葉についてどんなイメージを持っているのですか。

「やはり非日常感でしょうか。彼らは熱帯に暮らしている人たちですから。冷たく新鮮な空気と艶やかな色彩に包まれた場所で写真を撮って、そこに自分が写り込みたいという願望が強い。ですから、いちばんいい状態の紅葉を見せたい。たいてい散り際が真っ赤に染まって美しい。いい写真を撮るには晴天がいい。太陽の光の向きも重要です。でも、これが難しい。紅葉のピークは同じ場所でも気候によって変わるからです。去年良くても今年いいとは限らない」
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―桜もそうですが、紅葉も年によって見ごろの時期が変わりますものね。

「ひとつメディアのみなさんにお願いがあります。日本の紅葉はマッカッカ(真っ赤っ赤)だけじゃないと伝えてほしいことです。なぜなら、一般に国内外の旅行会社やメディアが発信する日本の紅葉は真っ赤に染まった写真を使うことが多く、外国のお客さんはそれを期待して日本に来たところ、実際には黄色や緑も多く、必ずしも赤一色ではない。それでガッカリされる人がけっこういるのです。

もちろん、私はその方たちに日本の紅葉はマッカッカ(真っ赤っ赤)だけじゃない。黄色や緑や色とりどりの美しさがあると説明するのですが、先入観があるぶん、腑に落ちない気分になるようです。

実際には、中国語でいう“五彩缤纷”(たくさんの色が豪華絢爛で豊かに見える様)というべきで、最初からそのように伝えてあれば、そんなにガッカリされることもないと思うのです」

―なるほど、紅葉は「紅」と書きますから、赤一色と思いがちですね。でも、ガッカリされるのは期待値の高さから。桜とは違い、バリエーションも豊富なぶん、日本を代表する自然現象である紅葉について、もっと我々自身が深く理解し、説明することばを持たなければなりませんね。

※この点欧米のメディアは比較的バランスが取れていて、紅葉=赤一色という伝え方はしていないようです。たとえば、世界最大の現地発ツアーサイトであるviatorでは、東京の紅葉ツアーのトップページに以下のような写真を使っています。
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外国客はどうやって紅葉の時期やスポットを知るのだろう?
http://inbound.exblog.jp/27344010/

こうした説明の大切さは、相手が富裕層であれば、なおさらのことですね。

「海外のVIPほど、こうしたこだわりが強いのです。彼らはそれがいいか悪いかは常に自分で判断したがります。気に入らないと『不要(いらない)』とはっきり言う。食事も高級な料理店に連れて行けば満足するというのではなく、状況や気分によって地元の庶民的な場所で食事がしたいと言い出すかと思えば、逆のときもある。まったくうるさいことこのうえない客です。

でも、きちんと合理的な説明ができれば、彼らも納得します。そのためには、相当の知識と経験が必要です。そして、いったん満足してくれると、次回もまたお願いしたいという話になる。それが彼らのネットワークの中で口コミで伝わり、別のお客さんを呼んでくれる。それが富裕層旅行の世界です」

本州に紅葉前線が南下し始めるまでにはもうしばらくかかります。「日本の紅葉はマッカッカ(真っ赤っ赤)だけじゃない」。肝に銘じて、今後情報発信するように務めたいと思います。
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日本を訪れる外国人観光客は春より秋のほうが多いって知ってましたか?
http://inbound.exblog.jp/27325956/
どんな紅葉ツアーが外国人に人気なのか?
http://inbound.exblog.jp/27327434/
隠れたトレンドメーカー『香港ウォーカー』『Japan Walker』が伝える最新「紅葉」情報
http://inbound.exblog.jp/27354643/

by sanyo-kansatu | 2017-10-16 09:53 | “参与観察”日誌
2017年 10月 16日

隠れたトレンドメーカー『香港ウォーカー』『Japan Walker』が伝える最新「紅葉」情報

日本を訪れる外国人が事前にさまざまな紅葉情報を入手し、ツアーや目的先を選んでいることを前回までみてきました。

日本を訪れる外国人観光客は春より秋のほうが多いって知ってましたか?
http://inbound.exblog.jp/27325956/
外国客はどうやって紅葉の時期やスポットを知るのだろう?
http://inbound.exblog.jp/27344010/

なかでも香港と台湾の人たちの情報集力は他の国・地域に比べ群を抜いています。

香港では例年、8月下旬から9月上旬の頃、新聞やネット報道でその年の日本の紅葉の見ごろ時期の予想を取り上げるといいます(以下は去年の例です)。

日本公布賞楓期預測 部分地區紅葉料遲來(2016年9月07日)
http://hk.on.cc/int/bkn/cnt/news/20160907/bknint-20160907131910494-0907_17011_001.html
紅葉銀杏觀賞期延 旺秋季旅團(2016-08-23)
http://news.wenweipo.com/2016/08/23/IN1608230066.htm

こうした関心の高さは、日本政府観光局(JNTO)が継続的に他の国・地域に先駆けて香港人向けに紅葉の魅力を伝えてきたことも背景にあります。

JNTO香港 http://www.welcome2japan.hk/

しかし、それ以上に影響力があったと思われるのは、香港や台湾で株式会社KADOKAWAが発行してきた現地情報誌や日本旅行情報誌です。

たとえば、香港では2007年11月創刊の『香港ウォーカー』があります。「旅慣れた香港の人々をも満足させる日本情報が満載」の月刊誌です。
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↑2017年10月号

香港ウォーカー
https://www.facebook.com/HongkongWalker.hk/

台湾には1999年創刊の現地情報誌『台北ウォーカー』があり、早い時期から日本旅行情報を発信してきました。15年8月に創刊された『Japan Walker』は台湾で唯一の「日本旅行専門月刊情報誌」です。
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↑2016年10月号

Japan Walker
https://www.facebook.com/JapanWalker.KADOKAWA/
台北ウォーカー
http://www.taipeiwalker.com.tw/

海外には日本旅行情報を伝えるフリーペーパーはたくさんありますが、市販の雑誌があることは香港や台湾の特徴であり、なぜ彼らがこれほど日本のことをよく知っているかは、これら隠れたトレンドメーカーの地道な情報発信にあるといえます。

過去最高400万人超えの台湾客はいま日本で何を楽しみたいのか?
http://inbound.exblog.jp/26690327/

本ブログで何度も話を聞いたことのある友人の鈴木夕未さん(株式会社KADOKAWA)は、上記の2誌の現地での立ち上げに関わった編集者です。両誌が扱う日本の紅葉特集について彼女に話を聞くことができました。

―香港や台湾の人たちにとって日本の紅葉の魅力とは何なのでしょうか。

「日本のようなはっきりした四季がない台湾、自然が少なく高層ビルに囲まれた環境に暮らす香港の人たちにとって、季節感を感じられることがいちばんの魅力かと思います。これは、紅葉に限らず、桜も同様です。

なかでも彼らが強く魅力を感じるポイントは、紅葉の色の艶やかさと日本的な情緒の組み合わせにあると思います。具体的にいうと、紅葉と滝や寺社仏閣、お城など。なにしろみなさんその風景をバックに自分が写り込む写真を撮るのが好きで、“インスタ映え”を気にしています。フォトジェニックな1枚を撮ろうと必死です。最近では、湖面に映る紅葉とか、さまざまなバリエーションが生まれています。

※クラブツーリズムが催行する紅葉ツアーのイチ押しは、河口湖への日帰りバスツアーでしたが、このツアーを募集するサイトのトップの写真は、富士山と新倉山浅間神社の五重塔と紅葉の組み合わせでした。要するに、紅葉にもうひとつ日本的情緒が感じられるアイテムが加わることで、彼らの気持ちをグッとつかむことができるというわけです。
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どんな紅葉ツアーが外国人に人気なのか?
http://inbound.exblog.jp/27327434/

―『香港ウォーカー』や『Japan Walker』では日本の紅葉特集はあるのでしょうか。どんな内容ですか。

「毎年紅葉特集はやっています。ただし、香港と台湾では、それぞれ読者の求める嗜好やニーズが違います。

まず台湾の話でいうと、昨年の『Japan Walker』では「秋季賞楓微旅行(秋のもみじ狩りプチ旅行)」というタイトルの特集をやりました。内容は、紅葉旅行をいくつかのテーマ別に分けてコースを紹介しています。具体的には、以下の3つです。

・紅葉×鉄道…嵯峨野トロッコ列車(京都)、叡山電車展望列車(京都)など
・紅葉×温泉…ねぎや陸楓閣(兵庫)、吉池(神奈川)など
・紅葉×日本庭園…六義園(東京)、兼六園(石川)など

さらに“達人の旅”として、九重“夢”吊り橋(大分)や。香嵐渓(愛知)、長瀞渓谷(埼玉)、下栗の里(長野)などを紹介しています。

一方、香港は、最新号(10月号)で紅葉特集を組んでいます。タイトルは「秋の京都 紅葉単車遊(サイクリングでもみじ狩り)」です。

―台湾や香港の雑誌では、特集のタイトルやスポット名などにも日本語は普通に使われているんですね。彼らは日常的に日本語を見慣れているし、そのほうがかえって日本的なイメージが訴求できるのでしょうね。ところで、台湾と香港の違いはどこにありますか。

「香港人はアクティブです。いま台湾や香港はサイクリングブームです。特に香港では街で自由に自転車に乗れる環境ではないため、日本で体験したいという人が多いです。香港はストレス社会ですから、日本ではのんびりリラックスして過ごすことも大切にしているように感じます。だから“サイクリングでもみじ狩り”という自然の中でアクティブな体験をするような特集になるのだと思います。最近、香港では日本でグランピング(グラマラス×キャンピングの造語でラグジュラリーなアウトドア体験)を楽しみたいという人が増えています。

一方、台湾人の鉄道好きは有名です。日本全国の観光列車に乗りたい人は多く、できれば紅葉の時期に行ってみたい。温泉や日本庭園など、日本文化に対する憧れは、香港人より強いと思います。台湾の人たちは、日本人と同じことをしたいと思っているんです。

だからでしょうか。香港と台湾では同じ情報誌でも誌面づくりが違います。香港の場合は圧倒的にビジュアル優先で、情報は少なめでいいという考え方です。『香港ウォーカー』の写真は同誌のカメラマンでもある編集長が撮ったものも多く、かなり凝ったアートっぽいテイストです。『Japan Walker』が日本の情報誌同様、それぞれのスポットに関する細かい情報やアクセスなどをきちんと書き込んであるのとは対照的です。でも、台湾の読者はそれを求めています。香港の人に聞くと『情報はスマホで探せるから必要ない。行ってみたいと思わせる写真やイメージがあればいい』と答えます。両誌の編集方針がまったく異なっているのはそのためです」

双方の違いも含めて、香港や台湾の人たちが常に新しい訪日旅行のシーンを切り拓いてくれる理由がよくわかった気がします。

by sanyo-kansatu | 2017-10-16 08:11 | “参与観察”日誌