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ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2020年 09月 07日

ソ連時代を知らない世代はいまのロシア社会をどう見ているのか(ウラジオストクの写真家展 その47)

この写真展に出品している写真家19名のうち、半数を占めるのが、実は1980年代以降に生まれた、いわゆる「ソ連時代を知らない世代」でした。彼らは20代前半から30代半ばくらいの人たちで、「21世紀の新しい現実の中で作品を撮り始めた世代」といえます。

興味深いことに、1980年代生まれと90年代生まれでは、作風もそうですが、そもそも写真に取り組む姿勢がずいぶん違っています。これは今回に限った偶然なのか、キュレイターの選定でたまたまそうなったのかわかりませんが、ひとことでいえば、1980年代生まれがジャーナリズムや社会学的な視点を有している人たちであるのに対し、90年代生まれはスマホとSNSの時代を謳歌し、ストリートフォトやファッション、アートを志向する人たちであることです。


今回は
1980
年代生まれの写真家に絞ってみていきましょう。


まず1986年生まれの報道写真家、アレクサンドル・キトロフで、今回は3つの部屋で異なるテーマの作品を出品しています。


現代のウラジオストクのさまざまな労働者たちのポートレイト。これをゲオルギイ・フルシチョフが撮影した1970年代の労働者たち
と比べると面白いです。宗教指導者から造船工場工員、中国人労働者までいます。

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もうひとつが地元メディアのPrimaMediaの取材で、沿海地方最北端にあるアグズ村に1週間滞在した記録です。少数民族の村で、シャーマンの末裔たちに出会います。

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最後が中央広場に繰り出す現代の群集で、ロシア共産党の100周年記念パレード(2017年)やロシア正教の宗教指導者たち、伝統的な春の祭りであるマースレニツァを祝う人たちなど、同じくフルシチョフが撮影した社会主義時代のパレードの感触を引き継ぎながらも、時代の変化の中で群衆のあり方も変わっていることを明らかにしています。

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2回「はたらくおじさん」の肖像から見える都市の成り立ち
8回 報道写真家、沿海地方最北端のウデゲ村で1週間滞在する
27回 十月革命100周年とマースレニッアを祝う広場の光景


キトロフの魅力的な
アグズ村滞在レポートは以下にあります。

https://primamedia.ru/news/488248/


もうひとりが
1988
年生まれのセルゲイ・オルロフで、自分が生まれ育ったウラジオストク市街地の周辺に広がる団地群を撮っています。この光景は、我々がよく知る帝政ロシア時代の優美な町並みを残す市内中心部の色彩豊かな景観とは異なり、社会主義時代を強く感じさせる、均質で冷たく暗いイメージを想起させます。しかし、彼はそこに美学があると感じているようです。新興住宅地の団地育ちであるぼくも、ある種の共感をおぼえるものでした。

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22回 丘の上に並ぶ社会主義時代の団地に美学はあるか?


最後のひとりは
1987
年生まれの女性写真家のエヴゲニイヤ・コクリーナで、彼女は自らが罹った感染症のために病室に隔離されるという自らの身体的な痛みをともなう経験を撮影し、記録しています。

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44回 隔離病室で1週間過ごした写真家の心と身体に起きた変化の記録


彼女のユニークなドキュメンタリー作品については、本人のサイトをご覧ください。コンセプチュアルであり、社会性もともなう不思議な世界です。


エヴゲニイヤ・コクリーナ

https://ekokurina.ru/vetryanka


これら
3
人に共通するのは、「ソ連時代を知らない世代」でありながら、現在においても当然のようにロシア社会に存在するソ連的なモノ・ヒト・コトを自分とは縁のないものとして切り分けて見るのではなく、同じ地平にあるものとして平明なまなざしで捉えていることではないでしょうか。


それは次回触れる
1990
年代生まれの若い写真家たちのように、物心ついたときからすでに21世紀を迎えていた世代と比べ、時代の過渡期に生を受けて、今日まで過ごしてきたことからくる自然な態度なのだという気がします。



# by sanyo-kansatu | 2020-09-07 14:04 | 極東ロシアのいまをご存知ですか?