ニッポンのインバウンド“参与観察”日誌

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2017年 12月 23日

ハルビン、氷点下30 度の絶景

毎年1月5日から2月下旬まで黒龍江省ハルビンで開催される氷雪祭は、札幌の雪まつり、ケベック(カナダ)のウィンターカーニバルと並び称される世界3大雪祭りのひとつ。この時期、街の至るところで氷や雪の彫刻が並び、国内外の観光客が押し寄せる。日本からわずか3 時間弱のフライトで出合える氷点下の絶景をレポートする。(写真/佐藤憲一)
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↑氷雪大世界のモニュメントは日が暮れるトワイライトの瞬間がいちばん美しい

人生一度は行ってみたい
ハルビン氷雪祭の夜


2月初旬、夕闇が訪れる直前のハルビン氷雪大世界の入口は人ごみでごったがえしていた。

ようやく入場口を抜けると、目の前に現れたのは巨大な氷の建造群だった。色とりどりのLED電飾を埋め込まれた氷のモニュメントが薄暮の空に光彩を放ち、きらめいている。夢うつつに見る桃源郷のようだが、氷の壁に手で触れると指先がちくりと痛い。
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↑氷塊に埋め込まれた電飾の色が刻々と変わり、幻想的な効果を生み出している

札幌の雪まつり、ケベック(カナダ)のウィンターカーニバルと並び称される世界3大雪祭りのひとつとして知られるハルビン氷雪祭が開催されたのは1985年から。年々イベント色が強まり、2008年から松花江の中州である太陽島に特設会場を設置。氷雪祭のメイン施設であるハルビン氷雪大世界が誕生した。毎年1月5日から国内外の、特に雪を見たことのない中国南方からの旅行客が「一生一度は行ってみたい」とハルビンに押し寄せる。
 
氷のモニュメントのうち代表的なのは、摩天楼のような氷雪世紀塔やハルビンらしくタマネギ屋根のロシア風宮殿、北京の天壇など。これらの建築素材となるのが、松花江で切り出される氷塊だ。松花江は例年11月下旬には氷結するので、12月に入るとすぐに1000人以上の労働者が氷塊の切り出しと運搬に従事する。地元紙によると、16万立方メートル分の氷を切り出すという。
 
1時間もあれば会場内は歩いて回れる。子供も楽しめる巨大な氷の滑り台や暖を取れるコーヒーショップ、食堂もある。凍てつく外気は零下30度に限りなく近くても、最初はこの感じなら案外大丈夫だと思った。出発前に買い込んだヒートテックの上下2枚重ねで身を包み、耳あて付き防寒帽をかぶり、ネックウォーマーで顔を覆っていたからだ。
 
だが、日暮れ後は何時間も外にいられるものではないことがだんだんわかってくる。身体の芯がこちこちに硬くこわばってくるような変化を感じてくるのだ。氷雪大世界では視覚的な絶景に魅了されるが、さらに面白いのは、非日常ともいうべき氷点下の低温環境に身を置くことで生じる身体的、心理的な異体験にあるのではないかと思えてくる。これは中国南方の人たちにも共通するだろう。
 
会場を出て市内に戻ると、まず駆け込んだのは火鍋屋である。寒さで縮こまった身と心を温めるにはこれしかない。香辛料の利いた東北風の羊鍋だ。ぐつぐつ煮えた鍋をつついていると、全身の毛穴から汗が吹き出してきた。それがうれしくてたまらない。

店を出ると、熱を取り戻した身体にわざと冷気を当てたくなった。頬がひりひりして気持ちいい。こんな感覚は日本では味わえない。濡れたハンカチを広げると、一瞬で煎餅のようにパリパリに固まったのもおかしかった(……風邪を引く前にホテルに戻ろう)。
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↑ハルビン氷雪大世界の入場券売り場は大混雑。2018年の入場券は330 元 
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↑会場のシンボルのひとつ、ハルビン氷雪世紀塔 
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↑世界遺産の北京の天壇は実物大の迫力 
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↑赤い光に包まれた氷の宮殿の回廊を歩く 
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↑会場をバックに若者たちが記念撮影に興じている 
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↑中国の冬の風物詩、サンザシ(山査子)の水飴も凍りついている 
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↑会場の外に放置された松花江の氷板 
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↑昔ながらの石炭式鍋で煮えたぎる火鍋が食欲を刺激する

寒中水泳とアイスキャンディ
氷の都のおもしろ風物詩


早朝、松花江を訪ねると、遊覧船が氷に閉じ込められていた。昨夏訪ねたときの水辺の光景は様変わりし、川面は厚い氷と雪で覆われ、冬の間だけの臨時アミューズメントパークになっていた。寒風が肌を刺す氷上で、ヨットのように風を切って走るウィンドサーフィンや浮き輪乗りなど、子供たちが大喜びで真冬のレジャーを楽しんでいた。
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↑重量級のおばさんも果敢に氷のプールに飛び込む

元気なのは子供だけではない。氷結した松花江の一角の氷を切り開け、プールにして泳いでいる一群の人たちがいた。その多くはハルビンのご隠居世代である。おかしなことに、老人たちの寒中水泳は有料(30元)の見世物になっている。趣向はこうだ。寒空の下、音楽とともに水着姿のおじさんおばさんが登場。おじさんたちはプロレスラーに扮して殴り合うという爆笑寸劇を始め、次々とプールに落ちていく。一方、おばさんたちはプールを一周しながらダンスを始め、ついには勢いよくプールに飛び込み始めるのだ。泳ぎを見せるのはなぜか女性ばかりなのだが、彼女らは見事25mほどのプールを泳ぎきるのだった。
 
氷の都ハルビンの冬の風物詩はほかにもある。氷雪大世界の会場で、フルーツ串(外気に触れるだけで凍ってしまう)や氷飴と化したサンザシ(山査子)の水飴を中国の若者たちが口にしていたのには驚いた。彼らは冬空の下でアイスキャンディを食べるのも好きなようだ。中央大街にあるクラシックホテル「モデルン」のアイスキャンディは地元で有名で、夏と同様行列ができている。食べ歩きをしている人が大勢いたが、見ているだけで身震いしてしまった。夏はビヤホールとしてにぎわう屋台も、客がいるからだろう、営業を続けていた。尋常ではない寒さにあえて極冷をぶつけるかに見えるこの現象についてハルビンの友人に聞くと「寒いところで冷たいものを食べるなんてめったにできない。中国の南方から来た人たちは寒さという未知の体験を味わいにハルビンに来ている」という。
 
ところで、氷雪祭が開かれるハルビンは、19世紀末にロシア人によって造られた都市だ。この百十数年で松花江沿いの小さな漁村は人口600万人もの大都会へと変貌した。
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↑中央大街の並木にイルミネーションが施され、輝くばかりの美しさ

実をいうと、この氷のイベントは20世紀前半から行われていたことが記録に残っている。当時ハルビンに住んでいたロシア人や日本人も多く、今日と同様、この時期氷の彫刻が街を彩っていたのだ。それをハルビン市が1985年に復活させたのだった。さらにいうと、冬の街頭に氷灯を飾る文化はこの地の先住民族だった満洲族(女真族)の伝統だった。起源は遼金時代にさかのぼるという。ずいぶん現代化してしまったかに見える氷雪祭だが、川の氷を切り出し、彫刻とする文化風習は古来この地で見られたものなのである。
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↑夏は川に浮かんでいた遊覧船が氷の上にちょこんと乗っている 
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↑車に引かれて松花江の氷上を走る浮き輪乗りが大人気 
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↑街角で売られる毛で包まれた防寒帽の最近のトレンドは角付きデザイン? 
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↑太陽島には雪彫刻芸術博覧会もあり、会場内には雪の彫刻が多数並ぶ 
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↑氷上をすいすい走る自転車は決して倒れない構造 
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↑ウィーンにあるヨハン・シュトラウスの像を模したと思われる氷の像 
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↑中央大街の脇道につくられた氷の滑り台
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↑どんなに寒くても屋台は営業しているのがすごい
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# by sanyo-kansatu | 2017-12-23 08:34 | 日本人が知らない21世紀の満洲 | Comments(0)